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カヴァレリア=ルスティカーナ

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第一幕その二


第一幕その二

「今日は本当にいい日だよ」
「ああ」
 その中心の背が高く、立派な体格の男がいた。髭が顔中を覆い、それが如何にも彼を大物に見せていた。
 彼の名はアルフィオ、この村の馬車屋であり村一番の金持ちだ。裕福で幸せな家庭も持っている。サントゥッツァとは全く違う立場の人間だ。
「馬車屋にとってもかい?」
「ああ」
 彼は村人達の問いに頷いた。
「馬は蹄の音を立て鈴は鳴り響き鞭を鳴らして進む」
 彼は高らかに言う。
「凍てついた風も雨も雪もものとはしないぞ。馬車屋にそんなものが効くものか」
「男だねえ」
 村人達はその言葉を聞いて感心したように頷く。
「馬車屋は。男の仕事だな」
「ああ」
 彼はその言葉に機嫌をよくして応じた。
「家に帰れば美人の女房も待っている。だから俺はここまで急いで帰って来たんだ」
 どうやら彼は仕事が終わった直後らしい。その為かやけに機嫌がいい。
「さあ皆一杯やろう」
 人々に酒を勧める。
「ルチーアさんのところに行くかい?」
「ああ、あそこの酒は美味いしな」
「そこで乾杯だ」
「赤ワインだ。記憶が失うまで飲むぞ」
「それはいいことだね」
 ルチーアはそれを聞いて顔をほくほくとさせていた。
「あっ、ルチーアさん」
「そこにいたんですか」
「さっきからいたよ」
 彼女は笑顔でアルフィオと村人達に対して言う。
「上機嫌だね、皆」
「ああ」
「祭だからね」
「祭だからうちのお酒もよく売れる」
「いや、あんたの店は何時でもさ」
 アルフィオはそれに返す。もう既に酒が少し入っているようだ。
「美味い酒に料理」
「うちの自慢だよ」
「特に赤ワインがいいな。あの古酒はあるかい?」
「トゥリッドゥが仕入れに言ったよ」
「ああ、彼がか」
「そろそろ着く頃だと思うけれど」
 ここではサントゥッツァの言葉は隠した。今彼女はルチーアの隣にいて小さくなっていた。
「もうここにいるしな」
「あれっ、もう?」
 言いながら頭の中でサントゥッツァの言葉と繋がった。
「ああ、今朝見かけたよ」
 アルフィオが言った。
「何処でだい?」
「仕事から帰ってすぐに。俺の家の近くでな」
「やっぱり」
 サントゥッツァはそれを聞いて呟いた。
「間違いなかったわ」
「じゃあもうすぐ酒が着くよな」
「そうね」
「後でそっちに行くよ。皆の分も用意しておいてくれよ」
 彼等は教会に入った。そしてまた賛美歌が聴こえてきた。だがルチーアとサントゥッツァはその前で暗い顔をして立っていた。
「ねえサンタ」
「はい」
 彼女はルチーアの言葉に頷く。
「まさかとは思ったけれど」
「はい」
「トゥリッドゥはここにいるみたいね」
「はい、間違いないです」
 暗い顔で頷き続ける。
「讃えて歌おう、主は亡くなられてはいない」114
 教会からキリストを讃える歌がする。その中にはアルフィオの声もあった。
「主は光り輝いて墓を開かれた」
「そう、主はそうして天に昇られたわ」
 サントゥッツァはその歌を聴いて呟く。
「けれど私には」
「サンタ」
 泣きそうな顔になった彼女をルチーアがまた気遣う。
「落ち着いてね」
「落ち着いているわ」
 それでも彼女の顔は悲しいままであった。
「けれど」
「けれど。何?」
「私は今は教会には入られない。この日も祝うことが出来ない」
「けれどそれは」
「それをどうにかしてくれるのは彼だったのに。トゥリッドゥだったのに」
 声も泣きそうになっていた。
「ルチーアさん」
「サンタ」
 ルチーアは優しい声でサントゥッツァの仇名を呼んだ。
「はい」
「貴女は私の息子と婚約しているからお母さんって呼んでいいのよ」
「えっ」
 見ればルチーアは優しく微笑んでいた。まるで母親の様に。
「けれど」
「いいのよ。貴女、身寄りもないのでしょう?」
「はい」
 こくりと頷く。その通りだからだ。
 サントゥッツァは他に兄弟もなく親戚もいない。天涯孤独なのだ。両親は彼女が破門される前に相次いで病気で亡くなっている。その寂しさに負けて不倫をして破門されたのだ。若し彼女に家族がいればこんなことにはならなかったであろう。思えば悲しいことだ。
 
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