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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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EpilogueⅦ-A星々煌めく夜天にてお別れをしよう~Wiedersehen, BELKA~

 
前書き
なんてこったい。想定外の前後編になっちまったorz
Wiedersehen/ヴィーダーゼーン/さようなら
※Wiedersehenの前にAuf/アウフを付けることもあります。
 

 
†††Sideオーディン†††

「「マイスター、おはよう」」

ベッドの上でもそもそ動き出したアギトとアイリが、椅子に腰掛けていた私にそう挨拶した。おはよう? ああ、そうか。もう朝か。窓から部屋の中に降り注いでいるのは月明かりじゃなく陽の明かり。いつの間にか朝を迎えていたようだ。脚が1本の丸テーブル脇の肘掛け椅子に座っている私は窓へと目をやって確認した。
私が呆けて返事をしなかったせいか「マイスター?」ベッドから降りて私の元へと来た2人。頭を振って、「ごめんな。おはよう2人とも」心配そうに私を見る2人の頭を撫でる。それからまず着替えさせた2人の髪を櫛で梳き、リボンで結うという毎朝の習慣をし、

「あれ? マイスターは髪結わないの?」

「ん? 朝ご飯を食べてからでいいよ」

自分の髪は軽く櫛で梳いただけで結わずに放置。怪訝そうにしている2人の背中を「さ、行こう」押して部屋を出る。階下へと降りる階段は屋敷の両端に設けられている。その内の1つに向かおうとしたところで、

「あら。オーディンさん、アギトちゃん、アイリちゃん。おはようございます」

「おはようございます、オーディン。それにアギト、アイリ」

目の前の一室の扉が開き、そこからシャマルとシュリエルが出て来た。そんな2人に挨拶をしていると、今度は背後から扉が開く音がした。私とアギトとアイリの部屋の右隣にはシャマルとシュリエルの部屋が在り、

「お? おはようっすオーディン。あと他の奴ら」

「おはようございますオーディン。皆も」

今開いた左隣の部屋の住人であるヴィータとシグナムが扉から出て来て挨拶してくれた。ちなみにザフィーラは、ターニャ邸のエントランスに置かれているソファでいつも狼形態で眠っている。一種の守衛のようなものらしい。何かあれば、すぐに玄関から出て急行できるように。私たちグラオベン・オルデンの居るアムルに侵入にする命知らずは居ないと思うが。まぁ、ザフィーラの好意を無碍にするつもりはないため、好きにさせる。

「ところでオーディンさん。今日は髪を結ってないんですね」

「そういやそうだな。余計に女っぽく見えるぞオーディン」

「ほっとけ。・・・髪を結ってないことには特に理由は無いけど、変か?」

「いいえ。髪を結わないオーディンも新鮮で、私は好きです」

「あ、シュリエルがマイスターに告白した」

「んなっ! ち、違う! そういう意味で言ったわけでは・・・!」

「判っているから落ち着け、シュリエル」

顔を赤らめて慌てふためくシュリエルを落ち着かせる。そんな他愛無い談笑をしながら階段を下りて行くんだが、その間にも脳裏に過ぎるのは昨夜の事。だからか上手く会話が出来ない。時折、「マイスター、話聴いてる?」アギトや「ご気分が優れないんですか?」シャマルに心配されてしまう。その都度、「大丈夫だよ」と上手く出来ているか判らない笑みを浮かべることに。

「おはようザフィーラ。いつもお疲れ様だ」

「おはようございます、我が主。いいえ。我に出来るのはこれくらいなので」

ザフィーラと合流。昨夜の事について何も言及してこなかったため、バンヘルドと私の邂逅には気付いてないようだ。私としてもバンヘルドの接近には気付かなかった。何かしらの結界が張られていたようだ。

(その事に気付かなかったとは、随分と気が緩んでいたようだ)

反省しながらみんなと共に着いた食堂にはすでにアンナが居て、朝食を作っていた。私が教えたスクランブルエッグや焼きベーコンに焼いたパン、焼きチーズなどなどだ。アンナとも朝の挨拶を交わして食卓について少し経った頃。

「おはようございます!」「おはよー」

エリーゼと眠そうなターニャがやって来た。そしてアンナの美味しい朝食を食べ始める。いつもの食事中の会話は、今日の予定や昨夜見た夢の話などだが、今日だけは・・・。

「シャマル。今日の医院担当は私とシャマルとなっているが、すまないけど今日は休ませてくれないか?」

「はい。それは構いませんけど・・・。あ、やっぱりお体の調子が・・・?」

「えっ? そうなんですか? だとしたら休んでいないとダメですよっ」

「お薬・・は、オーディンさん達の方が詳しいですよね」

シャマルとエリーゼとアンナに心配されるが、体調が悪いのではなく「王都ヴィレハイムに用事があるんだ」と答える。当然、「王都へですか? 何か問題などでもありましたか?」とエリーゼに訊かれることになった。だが今は多くは語れない・・というか、まだ言いたくない。クラウスに別れの挨拶をしているところを見られたくないため、

「いや、しばらく顔を見ていないから、少し挨拶をと思うんだ。それと供はいい。アギト、アイリ、そしてシグナム達はそれぞれの仕事に励んでくれ」

先制してそう言うと、少しばかり不満そうなアギトとアイリを含めた全員が「ヤヴォール」と承諾してくれた。私に許された残り僅かな時間の予定を一気に組み立てていく。まず最初にクラウスとの別れだ。
そしていつも通りに朝食を終え、私はすぐに王都ヴィレハイムへ向かうことにした。剣翼アンピエルを発動し「いってきます」と小さくだが手を振ると、エリーゼ達が「いってらっしゃい」と手を振り返してくれる。

(本当にもう別れの時が来たんだな・・・)

この何でもないやり取りがもう出来ないと思うと、本当に寂しくなってしまう。弱気になる心に「忘れろ」喝を入れ、一路ヴィレハイムへ進路を採り、一気に速度を上げる。アンピエルでの最大速度の飛行で30分弱。ようやく見えてきたシュトゥラの王城。王都民を不安にさせるわけにはいかないため、王都を囲む城壁の傍に降り立つ。王都を護る城壁に8つある門。その内の1つの門の両側に立つ騎士2人が私の顔を見るや否や、

「ようこそいらっしゃいましたッ、騎士オーディン!」

武装を胸の前で掲げるという礼の姿勢を取って、私を大声で迎えた。しかも目をカッと見開くものだから怖いの驚いたの。素でビクッとしてしまった。若干引きながらも「あ、ああ。通ってもいいだろうか・・・?」そう尋ねる。

「「もちろんですッ!」」

「ありがとう。門番、お疲れ様」

「「はいッ、ありがとうございますッ!」

元気の良すぎる感謝の声を背中で聴きつつ、王城へと歩を進める。さて。王都民に私の面が割れているとは言え、騎士たちのように盛大な姿勢を取る事は無いだろうと思っていたのが間違い。通りを歩くだけで群がって来て、戦争を勝利に導いた英雄として私に感謝したり称えたり、商品の果物や野菜を贈ったりともう大変だった。この騒ぎを聞きつけた警邏中の騎士が来なかったら、おそらく午前中に王城に辿り着くことは出来なかった。

「助かったよ。善意だから邪険にも出来なくてね」

「いえいえ。自分たちも英雄殿とお話が出来て光栄でした」

王城まで案内してくれた騎士たちと別れ、王城の門衛にも盛大な歓迎をされつつ城の入口の扉へと続く中庭の一本道を歩いている中、「騎士オーディン!」私を呼ぶ声。声の主へと目をやれば、クラウスの側近で子爵である青年騎士――ライナー・フレイジャー卿がこちらへ駆けて来ていた。
彼とも簡単な挨拶を済ませ、王城へ来た理由であるクラウスに逢いに来たと彼に言うと、

「申し訳ありませんが、殿下は今、重大な会議に参加なさっているのです。ですから、いつお暇が出来るかも判りません」

タイミングが悪かったな。直接逢って、別れを言いたかった。

「そうか。最後だから直接別れを言いたかったが、仕方ないな。では言伝を――」

「別れを言いに? どういうことですかっ!? ベルカを離れると言うのですかっ!?」

あまりの剣幕にたじろぎながら頷くと、彼は「くっ。自分にはお止めするだけの力が無い・・。少しお待ちを!」と悔しげに顔を歪ませ、王城へと走り去って行った。フレイジャー卿は私を止めたいようだが、すまないが出来ない相談だった。しばらく中庭の一角にある広場で待っていると、

「オーディン先生!」「オーディンさん!」

「オリヴィエ王女殿下、リサも・・・?」

フレイジャー卿とクラウスが来るとばかり思っていたが、来たのは正式にシュトゥラと同盟を結んだアウストラシアの王女オリヴィエと、彼女の側近であるリサの2人。先ほどのフレイジャー卿と同じような剣幕。おそらくクラウスに会いに行く途中で彼は2人と会い、そして私の事を話したんだろう。案の定、再会しての第一声は挨拶ではなく、やはり・・・・。

「ベルカを離れるとは本当の事なんですかっ!?」

「嘘ですよね!? そうですよね!? ああ、やっぱりそうなんだぁ、ってどっち!?」

「とりあえずリサは落ち着け。オリヴィエ王女殿下も目が怖いですし顔が近いです」

オリヴィエは興奮状態から私に詰め寄り過ぎた事への羞恥で一気に顔を赤くして「すみません」後退してくれた。そしてリサも何度か深呼吸して落ち着きを取り戻してくれたようだ。さぁ、話をしようと言うところで、

「オーディンさんっ!」

今度はクラウスが駆け寄って来た。彼の表情もまたえらい剣幕で、オリヴィエとリサが、自分たちもあのような剣幕だったのかと恥ずかしがっていた。息も絶え絶えなクラウスにも落ち着くよう言い、息を整えたクラウスもまた「ベルカを離れるとは嘘ですよね?」と訊いてきた。私は首を横に振り、昨夜の“堕天使エグリゴリ”から宣戦布告されたことを話した。

◦―◦―◦―◦回想だ◦―◦―◦―◦

「神器王。約束の時は来た」

そう短く宣戦布告をした。意識をすぐに戦闘モードへと切り替える。だが、すぐにハッとして眼下に在るアムルの街を、ターニャの屋敷を見下ろす。ここで戦闘をすれば、間違いなくアムルという街が丸ごと消し飛んでしまう。それだけは何としても避けなければ。場所を移すと提案してみるか? いや、ダメだ。そんな提案を呑むわけがない。ならば・・・・

(創生結界を展開するか・・・)

“エグリゴリ”を相手に出し惜しみするのは自殺行為。ならば!

「第二級粛清執行け――」

「待て。今すぐ戦うわけではない。お前にも別れを言いたい者どもが居るだろう? 明日一日、最期の日常を楽しむといい。そして別れに悲しめ、生への終局に哀しめ」

「っ・・・!」

バンヘルドにそう言われ、滾っていた戦闘意識が妙に治まり、かえって頭が冴えてしまった。みんなとの別れをすぐ目の前に突き付けられたことでだ。つい先ほどまで覚悟していたじゃないか。

「明後日。時は0300。場所は・・・クテシフォン砂漠。そこで我らの運命に決着をつけよう」

一方的に決めつけられたが、別にどこで戦おうと問題が無いため文句はない。時間も午前3時。人が寝静まっている時間帯だ。クテシフォン砂漠というのもベルカ最大のものだ。人の居る国に被害を出すことはない。炎熱系のバンヘルドが相手になると言うのなら、本音を言えば海や川の近くが良かったが、まあいい。

「いいだろう。明後日、お前たち全機、救ってやる」

「救う? 笑わせる。完全破壊の間違いだろう?」

バンヘルドはそう言い放って、漆黒の闇へと飛び去って行った。

◦―◦―◦―◦回想終わりだ◦―◦―◦―◦

「エグリゴリの宣戦布告、ですか・・・!」

「ええ。私がベルカを訪れ、留まる理由だったエグリゴリからの宣戦布告。これが最後の機会でしょう。この機会を無駄にすることなく、確実に全機を救います」

「オーディンさん。僕は前にも言ったと思いますが、エグリゴリを救う――撃破したとして、わざわざベルカを離れなくてもいいではないですか」

「そうですよっ! 別にこのままベルカで生きて行けばいいじゃないですか!」

クラウスとリサの必死の説得だが、「ダメなんだ。私はベルカを去る」と頑なに首を横に振る。オリヴィエ達は目に見えて落ち込んでいて、私は「申し訳ありません」と頭を下げて謝る。ベルカに残るのが嫌じゃないんだ。正直まだエリーゼ達と一緒に居たいとも思う。しかしそれは叶わない願い。叶わないからこそ、私はきっぱりと諦める。だから別れを確実なものとするために挨拶しに来た。振り返りたいと言う思いを切り捨てるために。

「クラウス。頼みがある。エグリゴリとの戦いの後、私は間違いなく無事じゃない。そもそも無事に生き残れるような相手じゃないんだ。高確率で相討ちだろう」

真実は語れない。信頼していないわけじゃないが、どうしてもその気になれない。そう言うと、クラウスは「だ、だったら! だったら僕たちも一緒に!」私個人の戦争に首を突っ込もうとし始めた。もちろん「この前は断られましたけど、私も戦います!」オリヴィエもそう。リサも口を開きそうだったため、「ダメだ!・・・頼む、聴いてくれ」と遮る。

「エグリゴリ戦後、私は勝っても負けてもこれまで通りの生活は出来ない。だからクラウスには、私たちグラオベン・オルデンが居ずともこれまでと変わらず、アムルを気に掛けてあげてほしい」

「当たり前です! たとえあなた方グラオベン・オルデンが居なくなったとしても、シュトゥラの国民を守るのは当然のことですから!・・・え?・・・グラオベン・オルデン?」

クラウスは意味が理解できないと言った風に興奮状態から冷め、「どういうことですか?」代わりにオリヴィエが私に尋ねた。私は必要なことだと思い、“夜天の書”――いや、“闇の書”の事を話すべく口を開く。

「シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ、シュリエルリート。彼女たちの存在と私の存在は同調しているのです。私が死ねば、彼女たちも一緒に。その理由として、彼女たちは闇の書の守護騎士ヴォルケンリッターだからです」

「「「闇の書!?」」」

やはり知っていたようだ。オリヴィエが「まさかオーディン先生が闇の書の主で、シグナムさん達が守護騎士だったなんて・・!」と驚愕した。クラウスはもちろんだが、リサは特に驚きを見せていた。好敵手と見ていたシグナムが人間ではなく、ベルカで恐れられる“闇の書”の守護騎士だったのだから。

「そういうことか。闇の書の主であるオーディンさんが亡くなれば、主と運命を共にする闇の書、その一部である騎士シグナム達もまた・・・」

「だからこそクラウスに頼みたい。アギトとアイリの今後について。2人はエリーゼ達に託すつもりだ。そして今後、シュトゥラを巻き込む戦争が起きた場合、出来れば2人を戦場に召喚しないでほしい」

可能な限りアギトとアイリが死なないようにしたいがための願いだ。クラウスは何も迷うことなく「判りました」と即答、約束をしてくれた。あとは、あの2人が自ら戦場に立つという意思を持った場合だが、そこはエリーゼ達が止めてくれるだろう。

「ありがとう。・・・じゃあ・・・クラウス、オリヴィエ王女殿下、リサ。今までお世話になりました。どうかお元気で・・・」

握手を求めるために右手を差し出した。だが3人は押し黙ったまま私の顔と右手を交互に見るだけだ。そして「・・・ヤ・・です・・」リサの口からポロッと漏れた。オリヴィエが「リサ・・・?」と小首を傾げる。

「そんなの嫌です。私、その手を取りたくありません・・・!」

キッと上目遣いで睨んできたリサ。すると「僕も取れません」クラウスにまで拒絶されてしまった。オリヴィエはそんな2人の考えが解っているようで「申し訳ありません」と同じように握手を拒絶した。差し出していた右手を戻したところで、クラウスが口を開いた。

「あなたの握手に応じれば、あなたとの永遠の別れを受け入れることになる。オーディンさん。だから僕は――僕たちは、あなたの握手には応じられないのです」

そんな考えは私になかった。口を噤んでいると、オリヴィエが私の目をジッと見て「必ず再会しましょう。その時にまたもう一度握手を」と微笑んだ。

「オリヴィエの言う通りです。必ず生きて帰って来てください。たとえどれだけ傷を負っても必ず治します。そして再会した時、改めて握手を。僕たちはずっと待っています。何日でも、何ヵ月でも、何年でも・・・ずっと」

「私も、オリヴィエ様やクラウス殿下と同じ思いです。このままお別れなんて嫌ですよ、オーディンさん・・・!」

目の端に涙を浮かべ、縋るような目を向けてきたリサの頭を撫でる。ここまで慕ってくれていることが嬉しくて。ここで私が言うべきことは何だ? 考えに考え、悩みに悩んで出した答え。私は最初に「ありがとう」と改めて礼を言い、

「判った。また逢おう。再会の証として、その時にまた握手を。クラウス、オリヴィエ王女殿下、リサ。それでいいだろうか・・・?」

「「「はいっ」」」

ようやく笑顔になってくれた3人に、今も心の内に広がっている自分への嫌悪感をひたすら覆い隠して笑みを向ける。3人への別れの挨拶はこれで終わりだ。絶対に叶うことのない再会の約束を交わし、

「では私はこれで」

「はい。オーディン先生、御武運を」

「オーディンさん。祝勝会を開きますので楽しみにしていてください」

「お気をつけて。また逢いましょうっ♪」

3人に見送られながら再びアムルへ向け飛ぶ。次は、自分の周りの整理だな。アムルへと戻り、まず最初にターニャ邸へ。「ただいま、エリーゼ、アンナ」中庭で執務を行っていたエリーゼとアンナに挨拶。

「あ、お帰りなさいオーディンさん」

「お帰りなさいませ。お茶はいかがですか?」

ゆっくりと話をしたいが、「すまない。結構だ」時間が限られているためすぐに自室へ向かおう。と思ったが、あるアイディアが突然浮かんだため屋敷の玄関に向いていた歩を止める。それをエリーゼ達に提案すべく振り返ってみれば、「そうですか・・・」若干落ち込んでいるアンナと、「よしよし」彼女を慰めるエリーゼが居た。まずった。少しぶっきらぼう過ぎたか。とりあえず「ごめん」謝ろう。

「エリーゼ、アンナ。今日の夕飯だが、中央広場でバーベキューをやろうと思う。アムルの住民全員が参加しての大宴会だ。って、勝手な提案だが、いいだろうか?」

「それは構いませんけど。と言うより大賛成ですっ!」

「私も賛成です。が、1つお尋ねしたいことが・・・」

「あ、わたしもです」

突然宴会を開く理由を訊かれるのだと思ったため「宴会をしようと言うのは、アムルのみんなに今までの感謝をしたいと思ったからだ」と先に答えた。察しの良い者なら、今までの=別れ、というイメージに行き着くだろうが、エリーゼとアンナはそこまで行き着くことはなく。

「まぁそれも聞きたかったことですけど。えっと・・・」

「それとは別に・・・」

「「バーベキューってなんですか?」」

「・・・あ・・・それか」

2人にバーベキューの簡単な説明をする。肉や野菜や魚介類などを網焼きする代表的な野外料理で、大人数での食事を主としていると。食材と調理に関しては私が引き受けることを告げ、しかし竈造りだけは暇な者たちに任せたいと頼む。子供のように満面の笑みを浮かべるエリーゼは「良いですよ。というかやりたいです♪」許可を
出してくれた。

「ありがとう、エリーゼ。アンナ。街のみんなに、この事を知らせてもらってもいいか?」

改めてバーベキューの許可をくれたエリーゼに感謝する。

「はいっ。お任せを!」

元気よく返事をしてくれたアンナは「では早速」と、アムル連絡網――回覧板(女性だけに回る裏・回覧板もあるらしい)を用意しするため、私の横を通り過ぎて屋敷内へと入って行った。さて。私もターニャに渡すべき物を取りに行くため「エリーゼ。仕事、頑張ってくれ」とエリーゼに一声かける。

「ありがとうですっ♪」

エリーゼの声を背中に受けながら自室へ向かう。自室の机の引き出しの中には、書き溜めておいた服のデザインノート(紙束の端を紐で纏めたものだ)が在る。それを渡しておこう。再びターニャ邸を出て、向かうはターニャが営んでいる服飾店シュテルネンリヒト。客の入店を知らせる鈴付きの扉を開け、陳列棚に並べられている衣服の整理をしていたターニャに声をかける。

「繁盛しているか? ターニャ」

「お、ディレクトア。戦後直後に比べればね。それにしても早いねぇ、アムルと王都の往復で3時間も掛かってないって」

私の移動速度に改めて感嘆しているターニャ。それに対して「空戦機動には自信があるからな」と微笑む。ターニャは「さっすが英雄!」と笑い、そして商売人の顔となって「それで、どうしたんですか? 何かお求めかな?」そう訊いてきた。

「いや。そうではなく、コレを渡しに来たんだ」

ターニャへと歩み寄って手にしているデザインノートを渡すと、彼女は何も言わずにパラパラ捲り始める。ノートを眺めるターニャの目は次第に爛々と輝きだし、興奮しているのか徐々に頬を朱に染め始めた。しかも「ふふ。良い、良いですよ、ディレクトアぁ~❤」不敵に笑い始めた。ちょっと怖い。見終えたターニャは満面の笑みを浮かべ、「早速作らせてもらいます!」店の奥へ引っ込もうとした。

「おいっ、店はっ!?」

「今日は店仕舞い!」

「ええーー・・・・」

本当に店の奥に引っ込み戻ってこない上に「あははははははは!」笑い声が止まらないため、もう諦めて店を出る。ついでに扉に掛けられている開閉店を示す札を、開店中から閉店と書かれている側にしてからシュテルネンリヒトを後にする。
デザインノートの中には、アギトとアイリ、エリーゼにアンナ、モニカとルファにターニャの為だけの服も用意しておいた。今まで仲良くしてもらった、せめてもの礼だ。気に入ってもらえるといいんだけどな。

「あれ? オーディン先生? 今日はお休みじゃなかったんですか?」

「シャマル先生から、クラウス殿下にお会いに王都へ行くって聞いてましたけど・・・?」

「モニカ、ルファ」

エプロンドレスに白衣(ターニャ製の袖や裾にフリル付)を着た2人が、そう声を掛けてきた。私は2人に「つい先ほど帰って来たんだ」と返し、すぐに仕事を急に休んだことに対しての謝罪をした。モニカは「気にしないで良いですよぉ♪」普段通りふわふわな笑顔を見せ、ルファも「そうですよ。大切な用事だったんですよね」笑って許してくれた。こんな2人の笑顔を見るのも今日で最後、か。私は知らず2人の頭に手を乗せて、髪型が崩れないように撫でていた。

「ふえ?・・おお、気持ちいい♪」

「ど、どうしたんですかオーディンさん・・・!?」

モニカは気持ち良さに目を細め、ルファは目に驚きを湛えた。そう言えば、この2人の頭を撫でるなんていつ以来だろう。私の助手として医学を学んでいた頃、教えたことをマスターした時のあの喜びようが気持ち良くてその時に何度か撫でていたが、最近はもう一人前だと思って撫でていなかったな。

「2人はすっかり医者として立派になった。2人の頑張りの賜物だな」

モニカとルファは私の手を取って、

「ううん。オーディン先生とシャマル先生のおかげだよ」

「先生たちの教えが良かったからこそ、私とモニカは医者になれました」

「「せぇ~の、ありがとうございましたっ!」」

眩しい満面の笑みを向けられ、私は2人にも出逢えたことに「こちらこそありがとう」感謝した。2人との別れ際に今晩の宴会のことを伝えておく。バーベキューの事はやはり知らなかった。説明すると、2人は興奮気味に「楽しみにしてますっ」喜んでくれた。大手を振って去って行くモニカとルファを見送り、私はターニャ邸へと引き返す。さぁ次は、明日の戦闘の準備だ。万全な状態で挑まなければ、ただの負け戦になる。

「あれ? オーディンさん? お帰りなさい」

「ただいま、エリーゼ。少し部屋に籠るから、昼食は呼ばなくていい」

「あ、はい。判りました」

一直線に自室へと向かい、部屋の扉を後ろ手で閉め「我が手に携えしは確かなる幻想」と詠唱。アクセスするのは、複製品が貯蔵されている創生結界・“神々の宝庫ブレイザブリク”。具現するのは空のカートリッジ。“エヴェストルム”を神器化させるための鍵を作る。
“エヴェストルム”の穂に刻んだルーン文字。カートリッジをロードすることで生み出される魔力でルーン効果を発揮させれば、“エヴェストルム”は神器化する。カートリッジを両手で包み込めるだけ包み込んで、魔力をただひたすら充填させていく。

「静かだな・・・」

気が付けば100発以上のカートリッジを完成させていた。だがまだ足りない。この程度、すぐに消費するだろう。“エヴェストルム”のシリンダーは6連装式の2つだ。カートリッジの消費量はとんでもない。だからもっとだ。もっと・・・。と、そこに「オーディンさん、今いいですか?」扉をノックする音と、エリーゼの尋ねる声。

「エリーゼ? ああ、どうぞ」

ほぼ無意識に机の上に置いてあるカートリッジを収めた箱に布を被せて隠した。すぐにハッと気づいたが、別段外す理由もないためにそのままにした。

「お邪魔します。あの、お昼ごはん・・・簡単なものですけど、よろしければ・・・」

エリーゼの手には1枚の皿とマグカップ。皿の上にはサンドイッチが4つ。それを視認した途端に腹が鳴った。私とエリーゼはきょとんとし、そしてすぐに「プッ」吹き出して笑った。空腹で腹を鳴らすなんて呆れる。「いただきます」と、エリーゼが差し出してきた皿の上からサンドイッチ1つとマグカップを受け取る。手に取った卵サンドをパクッと一口。

「わたしが作ったものですから、アンナほど美味しくはないと思いますけど」

「いやいや。お世辞抜きで美味しいぞ」

「え、そうですか? よかったぁ。そう言ってもらえると本当に嬉しいです」

ベッドの縁に腰掛けさせたエリーゼがホッと安堵している。アンナの料理教室は、エリーゼはもちろんシャマルの料理スキルをも向上させた。シャマルたち“夜天の書”がはやての元に転生した時、シャマルの料理下手は改善されているから、はやての負担も多少は和らぐだろう。最後のサンドイッチを食べ、マグカップのホットミルクを飲み干す。

「・・・ふぅ。ごちそうさま。エリーゼ」

「はい。お口に合ってよかったです。それじゃあわたしはこれで」

部屋を後にしようとするエリーゼの背中を見送る。エリーゼ、と呼び止めそうになったがグッと抑える。また1人になってしまった。そんなことを思いながらまた魔力充填作業に戻る。結局、300発まで作ったところで、

「そろそろバーベキューの用意をしないと」

時間切れになった。アムルの中央広場へと向かう中、街のみんなとも合流することになる。もちろん色々と声を掛けられる。宴会に誘ってくれたことへの感謝ばかりだ。中央広場に着くと、まず最初にキャンプファイアのような井桁(いげた)型の木組みが目に入る。おそらく夜遅くまで馬鹿騒ぎになるだろうと判断したアンナの指示のようだ。

「オーディンさん。竈はすでに準備完了です」

「マイスターっ、竈造り頑張ったよ!」

「アイリも頑張ったんだよ!」

「ああ。ありがとう、アギト、アイリ」

コの字状に煉瓦を積み上げて造られた巨大な竈。その竈を囲うように長テーブルが何十と置かれている。すでに街のみんなは皿を手に持ち臨戦態勢――いや、食事体勢に入っていた。これは早々に始めないと暴動が起こりそうだ。「我が手に携えしは確かなる幻想」と詠唱。
“ブレイザブリク”の別区画に在る食材用の保管庫にアクセスし、保管しておいた食材をドサッと取り出すと、「おおおお!」歓声が上がった。すでに切り終えている牛肉・豚肉・鶏肉・様々な野菜(各種900kg)を、手伝いを申し出てくれたアギトとアイリ、シャマルやシュリエル、そしてアンナの手を借りて何千本という串に刺す。

「っと、そうだ。シグナム! 竈に火を入れてくれ!」

「え゛っ? あ、はい。判りました」

「プクク。シグナムの奴、炎熱の魔導使いだから着火係にされてやん――の゛っ!?」

「うるさい」

シグナムの拳骨を頭に受けたヴィータは「くぉぉ・・・」と頭を押さえてしゃがみ込んだ。何と言うか、シグナムとヴィータには「すまん」とりあえず謝っておこう。シグナムの魔導によって薪に火が入るとパチパチと燃え始めたのを見、6m四方の網の上に串を置いて行く。
肉や野菜が焼ける匂いが広場に広がり、みんながソワソワしだす。完成すれば、子供から与えていく。次は大人。先にアギト達にも食べさせ、私はひたすら串に肉と野菜を交互に刺して網に乗せて行く。

「オーディンさん! 酒って用意してないのか? 自前だってんなら家に取りに行かねぇと」

ご近所さんから酒のリクエスト。そうだった。忘れていた。「少し待っていてくれ!」と言い、すぐに“ブレイザブリク”の蔵にアクセスし、3mほどの高さを持つ色違いの大樽7()を具現させる。
それぞれの樽には4つの蛇口を備え付けてあり、中身が切れないように、増殖上等、という消費された分だけ増える効果を持つ魔力文字を記してある。

「赤樽は葡萄酒、青樽は林檎酒、黄樽は麦酒、白樽は竜舌蘭酒(テキーラ)、黒樽は砂糖黍酒(ラム)。茶樽と紫樽は子供たちのための飲み物だ。林檎と葡萄味の果実飲料だ。美味しいから飲んでみてくれ」

説明し終わる前に酒飲みの大人たち(ご老人含め)男女が樽の前に群がり始める。子供たちもまた「おいしい!」と葡萄と林檎のジュースを交互に飲み始めた。さて、突然だが宴会に付き物とはなんだろう? 答えは簡単だ。酔っ払いだ。シャルの悪酔いに比べれば圧倒的にマシだが、しかしやはり酔っ払いは面倒だ。
何度か絡まれたがその都度、恋人や友人、伴侶の人に助けてもらった。そしてさんざん歌って踊って、魔力砲による花火打ち上げと騒々しかった中央広場も寂しくなり始め、私が宴会を閉める音頭を取って、解散となった。


 
 

 
後書き
ブオン・ジョルノ、ブオナ・セラ。
まずいです。エレミアの事をすっかり失念していました。
というか先月号のVivid・・・エレミアがかなりオリヴィエに関わっているじゃないですか!
ちくしょう。早まってしまったか・・・。あと、Force・・・休み過ぎ。 
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