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スーパーロボット大戦パーフェクト 第三次篇

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第七十二話 修羅の決意

                第七十二話 修羅の決意

バグダットに戻り暫くは何もなかった。だがその平穏はすぐに終わったのだった。
「今度は攻めて来たのね」
「ええ」
ミサトにリツコが答えていた。
「来ているわ、南からね」
「このバグダットに」
「数は少ないわ」
リツコはまた答えた。
「千もいないわ」
「何だ、それだけなの」
「そう、それだけよ」
またミサトに述べる。
「数のうえでは大したことはないけれど」
「問題は何があるかだけれど」
「策があると思う?」
今度はこうミサトに尋ねてきた。
「今回もまた」
「相手は何処の勢力かしら」
ミサトはまずそれを問うてきた。
「問題はそこだけれどよ」
「修羅よ」
そしてリツコはこう答えた。
「修羅が来ているわ」
「そう。それじゃあ策はないわね」
ミサトは修羅と聞いてこう述べたのだった。
「彼等だとね。ただし」
「ただし?」
「質は凄いでしょうね」
彼女はまた述べた。
「数が数だし」
「そうでしょうね。そういえば」
「何?」
「修羅にしろ色々いてもおかしくはないわね」
リツコが言うのはそこだった。
「あれだけの数がいればね」
「色々な人間ね」
「ええ。例えば」
ここでリツコは言う。
「策略家とか。普通に考えられないかしら」
「どうかしら、それは」
リツコの問いにはかなり懐疑的なようだった。
「修羅にはそんなイメージはないけれど」
「今のところはね」
リツコはまた言い加えた。
「そうなるわね」
「今のところはね」
「そうよ」
そこをあえて強調したのだった。
「そこよ。まだ修羅の全貌もわかっていないし」
「そういえば」
「だから。修羅についてもよく調べていきましょう」
「今後もね」
「例えばあの戦い方よ」
リツコは修羅の戦い方について言及した。
「あの戦い方は命を削っているわね」
「命をなのね。そうね」
これはミサトも思い当たるふしがあった。
「あの何があっても全力で向かって来る戦法はそうね」
「そうよね。本当に命を賭けて戦ってるわね」
「というかよ」
リツコは言葉を加えてきた。
「彼等は命をそのままエネルギーにしていないかしら」
「命を!?」
「どうもそんな気がするのよ」
そのことをまたミサトに告げるのだった。
「どうにもね」
「だからこそ手強いのかしら」
「おそらく。それに」
「それに?」
話がさらに動いた。
「彼等は強力な規律に縛られているわ」
「今度は規律なのね」
「軍に軍律があるみたいに」
こうも表現された。
「そうしたものがあるわね。間違いなく」
「だとしたら修羅はかなり手強い組織になるわ」
「組織かしら」
リツコはこれに関しても疑問を呈してみせた。
「修羅は。果たして」
「違うというのね」
「むしろあれは」
そのうえで己の脳裏を煌かせるのだった。
「世界じゃないかしら」
「世界」
「そう、世界よ」
彼女は言う。
「そうした趣を感じるわ。どうしてもね」
「そうなの」
「貴女は何も感じなかったのかしら」
「ちょっちね」
少し苦笑いになっていた。
「国じゃないかって思っていたけれど」
「そうだったの」
「けれど。世界なの」
それについて考えるミサトだった。
「彼等は」
「修羅が何なのか。まだわからないけれど」
リツコは言葉を加えてきた。
「とにかく彼等についてもより調べていきましょう」
「わかったわ」
「特に」
リツコはさらに言ってきた。
「特に?」
「あの赤いマシンの修羅」
リツコがあらたに述べたのは彼のことだった。
「ヤルダバオトだったわね」
「名前はそうだったかしら」
「フォルカ=アルバーク」
「ええ」
応えるミサトの顔が真剣なものになった。彼女もこの名ははっきりと把握していたのである。押さえるところは押さえているのが彼女らしかった。
「彼ね。彼は何を考えているのかしら」
「それも不明ね。これまでは剥き出しの闘志を見せていたけれど」
「そうだったわね」
「最近。それがおかしいわよね」
「闘志がないわね」
「そうよ、それ」
ミサトはそこを指摘したのだった。
「全くないわね。あれはどうしたのかしら」
「これまでは他の修羅と比べても比較にならない闘志だったわ」
だからこそ印象に残っていたのだ。印象に残るにはそれだけのものが必要だということである。これは相手が敵でも同じことなのであった。
「それがね。本当に」
「また出て来るかしら」
ミサトは腕を組んで述べた。
「私達の前に」
「そうね。誓いかもね」
「それは勘から出た答えかしら」
「そうよ」
そのことははっきり認めたのだった。
「数値からじゃないわ」
「あんたにしては珍しいわね」
「女の勘を甘く見ては駄目よ」
静かに微笑んでミサトに答えるのだった。
「時として最高の答えを導き出すのだから」
「女の勘、ね」
「あんたもそれは持ってると思うけれど」
「そうね」
微笑んでからリツコに述べてみせた。
「そうかもね。それはね」
「否定しないのね」
「肯定もしないわ」
ここでもあえてこう言葉を返したのだった。
「そこのところはね」
「そうなの。よくわかったわ」
そしてリツコもそれを認めるのだった。
「それじゃあ」
「まずは出撃ね」
話はすぐにそこまで至った。
「それでいいわよね」
「もう敵が来てるわよ」
リツコはくすりと笑ってミサトのその言葉に答えた。
「私が答える前にね」
「それもそうね。それじゃあ」
「ブライト艦長達にお伝えしてね」
「総員もうスタンバってできてるわよね」
「皆艦内にいるわ」
これは彼女達にとって丁度いいことであった。
「だからね。それじゃあ」
「行くわよ」
「ええ」
こうして二人はまずはブライトにこのことを伝えに行くのだった。話はすぐに伝わりロンド=ベルはバグダット南に出撃した。出撃するともうそこに修羅がいた。
「久し振りだなロンド=ベルよ」
「ああ、あのタラコ唇」
「こいつかよ」
マグナスの姿を見てオルガとクロトがまず声をあげた。
「二回目だけれどよく覚えられる顔だよな」
「目立つからね」
「御前、殺す」
シャニはまだ彼に激しい敵意を見せていた。
「今度こそな」
「何か知らないが御前等俺が嫌いか」
「ああ、嫌いだぜ」
「そんなの見ればわかるじゃない」
「御前、馬鹿」
「ふん、言ってくれるな」
三人の対応を聞いても平然としたマグナスだった。
「だがいい。今度こそ御前等を倒す」
「その程度の数でかよ」
「そりゃ甘いんじゃないの?」
今度はジャーダとガーネットが反論してきた。
「幾ら何でも俺達相手には無理だぜ」
「容赦しないから。いつも通り」
「言っておく。俺は強い」
かなり自信に満ちたマグナスの言葉だった。
「倒してやる。いいな」
「全軍迎撃用意」
ブライトの指示であった。
「攻撃目標は前方の敵だ。いいな」
「了解」
「それじゃあ」
こうして全軍は修羅達に対して攻撃を開始した。攻撃を開始した修羅も修羅で敵に果敢に向かう。ミサトとリツコはその動きを見てまた話をはじめた。
「どう思うかしら」
「そうね」
リツコがミサトのその問いに応えた。
「まず今回は数は見ないわ」
「ええ」
「問題はその動きね」
「その通りよ。さっき言ったわよね」
「さっきの話よね」
「そう、さっきのよ」
またそれへの話だった。
「修羅達の動き、見えるわよね」
「ええ、はっきりとね」
答えるリツコの顔が真剣なものになっていた。
「見えるわ。あの動きは」
「ただの軍のそれじゃないわ」
先程の見方と同じだったのだ。
「やっぱりあれは」
「一つの世界の動き」
ミサトは言い切った。
「ということね」
「私もそう思うわ」
リツコもまた言う。
「あの動きはね。その動きよ」
「じゃあリツコ」
ミサトはさらにリツコに対して問う。
「次の問題に入るわ」
「ええ」
こうして話はさらに深い場所に入る。
「彼等の目的は何かしら」
「今度の質問はそれね」
「ええ。あんたはそれはわかる?」
「そこまではちょっと」
ミサトのその問いには首を傾げるリツコであった。
「わからないわ。まだそこまではね」
「そう。やっぱりそこまではね」
「この世界に介入したいのは確かでしょうけれど」
「その目的までは、ということね」
「私も残念だけれどね」
ここで言葉に歯噛みが宿る。
「わからないわ」
「それはわかったわ」
いささか遊んだミサトの言葉であった。
「そこまではわからないってことがね」
「何かその言い方楽しそうね」
「そうかしら」
今のリツコの問いにはとぼけるミサトであった。
「さて、後はね」
「後は?」
「出て来るかしら」
少し考えてから述べた言葉だった。
「あの赤い修羅は。どうかしら」
「さて、それはどうかしら」
リツコはこれにはいささか懐疑的なようだった。
「出て来るかも知れないし出て来ないかも知れない」
「要するにわからないってことね」
「その通り。ただね」
「勘が働いたのね」
「その通り。ひょっとしたら」
リツコはまた答えた。
「出て来たら動くわよ」
「話が動くのね」
「その通り。さて」
戦いは今も行われていた。今のところロンド=ベル優勢である。
「どうなるかしら。これからは」
「見物ね」
二人は戦局を見守っていた。そして暫くして戦場にあのヤルダバオトが姿を現わしたのだった。あの赤いマシンがだ。
「来たわね」
「ええ」
ミサトはリツコの言葉に頷いた。
「さて、ここで役者が出て来たけれど」
「問題はどう動くかね」
二人はそれぞれ言う。そのヤルダバオトを見ながら。
「おい!」
コウタがまずフォルカに対して声をかけた。
「また出て来やがったか!覚悟しやがれ!」
「御前か」
フォルカは静かな様子で彼に応えた。やはり闘志はない。
「御前はまだ戦っているのか」
「まだだって!?」
「お兄ちゃん」
ショウコは今の彼の言葉に異様なものを感じて彼に声をかけた。
「やっぱりおかしいわね」
「おかしいなんてものじゃねえ」
彼は今度は妹に対して言葉を返した。彼もまたフォルカに対して異様なものを感じていた。こうした意味で妹と同じであると言えた。
「あれだけとんでもねえ闘志を見せていたのによ。それが」
「どうしたのかしら」
「俺は何故戦っている」
彼は言った。
「何故俺は戦場にいるのだ」
「!?何だこいつ」
「戦うことに迷っているの!?」
二人は今のフォルカの言葉を聞いて眉を顰めさせた。
「俺は。修羅だ」
「それはわかってるさ」
「言うまでもないことじゃないの?」
「何故俺は戦う」
二人に答えずに一人言うだけだった。
「何故だ。俺は何故戦う」
「戦う意味かよ」
「そうだ」
今度はコウタに対して答えた。
「では聞こう。御前は何故戦っている」
「俺か!?」
「そうだ」
フォルカはすぐにコウタに言葉を返してみせた。
「御前はどうして戦っているのだ」
「そんなの決まってるだろ!」
コウタはすぐにそのフォルカに言葉を返してみせた。
「俺は皆を守る為に戦ってるんだよ!」
「皆をか」
「当たり前だ!」
また随分とムキになった調子であった。
「戦えない皆を守る為だ!それ以外に何がある!」
「そうか」
「そうだ!じゃあ手前は何なんだよ!」
「俺は」
「ねえのか!」
フォルカに対する問いがさらに激しいものになっていく。
「ないだと」
「そうだよ!手前は戦う理由がねえのかよ!」
「それは・・・・・・」
答えられなかった。何故なら今まで考えたことがなかったからだ。彼にとって戦うということは今まで理由ですらないことだったからだ。
「俺は。戦う理由は」
「ねえのならよ!」
コウタがまた叫んだ。
「見つけろ!」
「何っ!?」
「見つけろつってんだよ!」
コウタはまた叫んでみせた。
「自分でな!これからな!」
「これから・・・・・・自分で見つけろというのか」
「そうだ!」
声がこれまでになく激しいものになった。
「自分で見つけろ!今からな!」
「・・・・・・・・・」
「わかったらそこをどけ!俺はやる!」
「お兄ちゃん、敵が!」
「わかってる!」
コウタは今度は妹の問いに応えた。
「行くぞショウコ!」
「ええ!」
「フォルカよ」
「その声は」
マグナスの声だった。言うまでもなく彼の同胞だ。その同胞が彼に声をかけてきたのだ。
「マグナスか」
「今まで何処に行っていた」
「それは」
「答えられんか。ならそれでいい」
マグナスはそれはいいとしたのだった。
「だが。貴様は修羅だな」
「・・・・・・ああ」
「ならば戦え」
彼の言葉はこうだった。
「戦え。いいな」
「戦えというのか」
「我等修羅は戦う為に生きている」
彼はさらに言った。
「ならば戦うしかあるまい」
「俺は」
だがここで。フォルカは明らかな戸惑いを見せたのだった。
「俺は」
「どうした?」
「俺は・・・・・・戦う」
フォルカは言った。
「戦う。俺は」
「ならば来い」
マグナスはそれを当然のこととして受け取って述べた。
「我等のもとへ。今すぐな」
「いや」
「いや!?」
「戦いはする」
これはまた言った。
「しかし。今はまだだ」10
「わからん。何を考えている」
マグナスの言葉は修羅としてのものだった。
「修羅ならば戦う。それだけではないのか」
「確かに俺は修羅だ。だが」
彼は迷いを見せつつもマグナスに対してまた述べた。
「何の理由もなく戦うことはできなくなった」
「我等修羅は戦う為に生きている」
マグナスの言葉はあくまで修羅のものだった。
「それで何故迷う。貴様気が狂ったか」
「いや、俺は正気だ」
「ならば何故」
「コウタ」
マグナスには答えずにコウタに声をかけてきた。
「見せてみろ。貴様が戦う理由を」
「俺が戦う理由・・・・・・」
「若しかするとそれが答えなのかも知れない」
コウタを見据えつつ言うのだった。
「貴様のそのコンパチブルカイザーとロアに。それがあるのかも知れない」
「何言ってやがるんだ?」
コウタは彼の言っている意味がわかりかねた。
「戦う理由なんてな」
「待って、お兄ちゃん」
『コウタ』
『戦局を見て』
だがここでショウコだけでなくロア、エミィが彼に声をかけてきた。
「むっ!?」
「敵が民間人の居住区に迫っているわ」
『このままだと民間人に犠牲が出る』
『それだけは断じて』
「ああ、わかった」
彼も三人の言葉を受けてすぐに動いた。まずは民間人の居住区の所まで向かいそこに陣取った。そうして敵を待ち受けるのだった。
「さあ来やがれ!」
「来なさい!」
コウタだけでなくショウコも叫ぶ。
「ここから先は行かせねえからな!」
「例え何があっても!」
「やれ!」
だがその彼等に対してもマグナスの指示が飛び修羅達が迫る。
「絨毯攻撃だ!広範囲攻撃を浴びせろ!」
つまりこれは民間人の居住区まで狙った攻撃だった。修羅にとってみればこうした攻撃もごく普通の攻撃であった。それが修羅なのだ。
「お兄ちゃん!」
「やらせるか!」
ショウコの言葉が出るまでもなかった。
「ここで防いでやる!何があってもな!」
「ええ、ここは!」
「受ける!」
何とコンパチブルカイザーを前面に出して攻撃を受けたのだった。居住区に迫るその攻撃を。
「何があってもな!」
「ああっ!」
コンパチブルカイザーを衝撃が襲う。ショウコも思わず声をあげる。だがそれでもだった。彼等はただ修羅達の攻撃を受け続けるのだった。
「よけないのか?」
その彼等に対してフォルカが問うた。
「御前達は。よけないのか」
「よけるかよ!」
すぐにコウタは言い返してきた。
「ここでよけたらなあ!」
「武器を持たない人達にまで!」
ショウコも言う。
「だからよけてたまるか!」
「ここで防ぐわ!何があっても!」
「そうか、それなのか」
フォルカはコウタだけでなくショウコの言葉も受けたうえで言った。
「それが御前の戦い理由か」
「さっきから言ってるだろ!」
「そうでなくてどうして戦うのよ!」
「わかった」
何故か彼はここで頷いた。
「それが御前の戦う理由なのだな」
「!?何が言いたいんだよ」
「何が何だか」
「ならば俺もまた」
「俺も!?」
「戦う」
彼は言った。
「俺は戦う。何があってもな」
「戦う・・・・・・何の為にだ」
「御前と同じだ」
これが今のフォルカの言葉だった。
「俺の戦う理由は見つかった。それならば」
「!?フォルカ、貴様一体」
「マグナス!」
自分を見たマグナスに対して言った言葉だった。
「俺はこれから御前達とも戦う。武器を持たない者を守る為にだ!」
「何だと!?何を訳のわからないことを言っている」
「貴様にはわからなくとも俺は戦う!」
彼の決意はさらに高まっていた。
「その為に!だからこそ!」
「裏切るというのだな」
「裏切るのではない」
これはフォルカの考えだ。
「俺は俺の戦う理由によって戦う。それだけだ」
「わからんな」
だがマグナスにとってはやはり理解不能なことであったのだった。
「裏切ったようにしか思えないがな」
「貴様がどう思おうがそれは関係ない」
もうそんなことは構わなかったのだった。
「だが俺は戦う。行くぞ!」
「くっ、ならば!」
「来い!」
修羅が修羅に立ち向かった。
「これよりこのフォルカ=アルバーク、新たな理由の為に戦う!」
「ふん、ふざけるな!」
二人の修羅の拳が撃ち合い激しい衝撃が辺りに飛び散った。
「武器を持たない者の為にこの拳を!」
「裏切り者が!覚悟しろ!」
「何がどうなってるんだ!?」
ロンド=ベルの面々はフォルカとマグナスの戦いを見て呆然としていた。
「どうしてあいつ等が仲間割れなんて」
「しかも。あの赤い奴」
タスクとジャーダが言う。
「俺達と一緒に戦う!?」
「しかも武器を持たない者の為だって。何なんだ?」
「知ったのだと思います」
二人にラトゥーニが答えてきた。
「知った!?何をだよ」
「わからねえよ、やっぱりよ」
「私達と同じです」
またラトゥーニは言う。
「私達は皆の為に戦っていますね」
「ああ、まあな」
「それはな」
これは二人にもわかった。
「だから俺もロンド=ベルにいるんだしな」
「だからな。ここでずっと戦っているんだからな」
「そういうことです。彼も同じになったのです」
ラトゥーニにはそれがわかったのだ。
「私達と同じ理由で。戦えることに」
「修羅もかよ」
「おそらく修羅もまた」
ラトゥーニはさらに言う。
「私達と同じ人間です。ただ」
「ただ?」
「住んでいる世界が違うだけです」
「住んでいる世界がか。そうか」
ユウキはそれを聞いて全てを理解した。
「住んでいる世界が違うだけで。同じ人間なんだな」
「そうです。ですから理由を知れば」
「わかった。ならいい」
ユウキはそれで納得した。
「俺はあのフォルカという男を信じてみる。不安はあるがな」
「そうしましょう」
「よし、じゃあよ!」
「行くぜ!」
タスクとジャーダはすぐに乗って来た。
「総攻撃だ!派手に仕掛けるぜ!」
「おらおらっ!」
ジャーダは早速スラッシュリッパーを放っていた。タスクよりも速かった。
「御前等!今日の俺はさらに気合が入ってるぜ!」
「覚悟しやがれ!」
タスクもそれに続く。彼等の攻撃は彼等だけでなくロンド=ベル全体に拡がっていた。そしてその攻撃により修羅達を退けていった。フォルカとマグナスはその中で尚も激しい攻防を繰り広げていた。マグナスはその中でフォルカに対して言った。
「見事な拳だ」
「褒め言葉か?」
「いや、違う」
彼はそれは否定した。
「これは正当な評価だ」
「正当だと?」
「そうだ、貴様へのな」
フォルカを見て言う。
「貴様のその強さは本物だ」
「それがわかったというのか」
「だが」
だがここで彼は言葉を変えてきた。
「裏切り者は許しはしない」
「俺は裏切ったつもりはない」
「いや。貴様は裏切り者だ」
この考えはお互い変わることがなかった。
「我等修羅に対するな。これより我々は全力で貴様を倒しにかかる」
「好きにしろ」
そしてフォルカはそれを正面から受けた。
「貴様等がそう来るのなら俺は」
「俺は」
「戦う・・・・・・」
強い決意の言葉だった。
「この拳で。貴様等とな!」
「武器を持たない者の為にか」
「それが正しいのかどうか。それはまだわからない」
確信があるわけではなかったのだった。
「それでもだ。俺は」
「理由はいい」
理解できないことをさらに聞く気はないマグナスだった。
「貴様の理由なぞ知ったことではない」
「貴様にとってはそうか」
「修羅にとってはな」
あくまで修羅であるマグナスだった。それは目にも現われていた。激しい闘志に燃えるその目に。
「それは貴様もわかっている筈だがな」
「わかっていたが今は違う」
言いながら今度はその全身に闘志を込めてきていた。
「今の俺は。そしてこれからの俺も」
「むっ!?」
「受けろ!」
その闘志が最高潮になったところで。彼はまた叫んだ。
「このフォルカ=アルバークの拳の一つ!」
「むっ!」
「機神!猛撃拳!」
今技の名が告げられた。そして拳もまた放たれた。
拳がマグナスのアンドラスを激しく撃ち据える。それは彼とても受けきれるものではなかった。
「ぐわっ!」
「流石だな」
拳を放ち終えてからの言葉であった。
「今の拳を。それでも急所は防いだか」
「フォルカ・・・・・・」
「今は去れ」
こうマグナスに対して言った。
「そして俺のことを他の修羅達に対して伝えるのだ」
「貴様、死ぬぞ」
呻きながらフォルカに対して言う。
「貴様に対して全ての修羅が襲いかかることになる。修羅は裏切り者を決して許さないのだからな」
「それはわかっている」
彼もその覚悟はあるようだった。
「だが俺は。それでも戦う」
「ふん、力を持たない者の為にだな」
「そうだ」
返答もまた変わらない。
「戦う。それを伝えろ」
「では伝えておこう」
マグナスは呻きながらまたフォルカに対して言った。
「貴様のこと。同胞達にな」
「では。行くがいい」
彼はまた言った。
「俺のことを伝えにな」
「地獄が貴様を待っているぞ」
最後にこう言い残してマグナスは姿を消した。この戦いは戦闘自体は速やかに終わった。しかし残されたものは非常に大きかったのだった。
「まさかとは思いましたが」
「ああ」
イーグルとジェオがオートザムの艦橋で話をしていた。まだ警戒態勢を解いていないのだ。
「あいつが入るなんてな」
「意外どころではないです」
イーグルはまた言った。
「流石に。修羅の参戦は」
「それだけじゃないよ、イーグル」
今度はザズが話に入って来た。
「あのヤルダバオトだけれどね」
「何かありましたか?」
「予想通りだったよ。あれは人のエネルギーを使うマシンなんだよ」
「人のエネルギーを」
「簡単に言うと寿命をね」
ザズはこう説明する。
「使って動くんだ。だからあんなに闘志が激しかったんだよ」
「そうだったのですか、パイロットの命をですか」
「そういうこと。とんでもないマシンだよ」
「セフィーロの三機のマシンも人の力をエネルギーに使うがな」
「オーラバトラーもそうだけれどね」
ジェオとザズは自分達の仲間のマシンについて話をはじめた。
「けれどよ。それでもよ」
「そんな。命を削るマシンなんて」
「それが修羅なのでしょうね」
イーグルは二人の話を聞きながら述べた。
「修羅の生き方、そして戦い方なのでしょう」
「生き方、戦い方か」
「修羅の戦い方は命を顧みない戦い方です」
それはこれまでの彼等との戦いでわかっていたのだ。
「その様な彼等との戦いを見ていますと」
「わかるな、確かにな」
「けれどどうして」
ザズはそのうえで不思議に思うところがあった。
「あの修羅が。どうして俺達の仲間になんて」
「考えが変わったらしいな」
そのザズにジェオが答えた。
「話は聞いたな」
「一応はね」
それはザズも同じであった。
「けれど。それでも」
「そうだな。その修羅が武器を持たない人間の為なんてな」
「有り得ないよ」
ザズは顔を曇らせていた。
「そんなことって。どうして」
「考えが変わったとは聞いていますがね」
イーグルはまたこのことを二人に話した。
「コウタ君達の戦いを見て」
「だったな。もっともそれが余計に信じられないんだがな」
「そうだね。全然」
またジェオとザズは言った。
「信じられないね。本当にね」
「信じられないも何もな」
ジェオはさらに言葉を続ける。
「スパイか?あいつは」
「スパイ?」
「ああ、可能性はあるだろ」
怪訝な顔をザズに向けての言葉だった。
「修羅は策略は使わないみたいだがな」
「そうだね。ひょっとしたらね」
「では密かに調べておきますか」
「はい、それがいいと思います」
ここでモニターが開いた。出て来たのはシャンアンだった。
「シャンアンさん」
「あの御仁については私共も話をしておりました」
「それでじゃな」
モニターにはアスカもいた。当然サンユンも。
「あのフォルカという男、やはりおかしいのじゃ」
「僕も何か不安なものを感じます」
そのサンユンも言った。
「あの人は。何か」
「だからです」
シャンアンはオートザムの三人に告げた。
「我々としては今のところあのフォルカ殿には警戒が必要かと存じます」
「ファーレンはその考えですね」
「オートザムはどうですかな」
「そちらと同じです」
これがイーグルの返事だった。
「我々も。彼に関しては」
「信用できないって言えばきついがな」
「それでも何かおかしいとは思うよ」
オートザムの三人の言葉はファーレンと全く同じということだった。
「どうしてもね。何か」
「では決まりじゃな」
アスカが言った。
「わらわ達はあの男を警戒する」
「それで行きましょう」
「いや、待つんや」
ここでまた誰かが出て来た。
「ちょっと考えへんか?」
「!?その声は」
「御主達か」
出て来たのはチゼータの二人だった。その二人がモニターに出て来たのだった。
「うち等も考えたんや」
「そうなんですよ」
タータとタトラは二国の者達とはまた違った顔で話に入って来た。
「怪しいんちゃうかってな」
「それでもですね」
タトラが話す。
「あの人は修羅全てを敵に回されましたね」
「はい」
「それはその通りじゃ」
タトラにイーグルとアスカが応えた。
「ですがそれもまた」
「芝居かも知れぬぞ」
「当然それも考えた」
今度はタータが答えた。
「けれどあの兄ちゃんそんな男かって思ってな」
「そんなことって?」
「そや」
今度はサンユンに答えたのだった。
「どうもちゃうやろ。あいつはそんな器用な男やない」
「むしろかなり一途な方です」
タトラも言う。
「ですからそれはありません」
「ないで」
また二国の者達に告げた。
「絶対にな。あらホンマに修羅を出た」
「警戒すべきは今後の修羅の襲撃かと」
「修羅の」
「あの者達のか」
イーグルとアスカの顔がまた別の方向への考えに向かった顔になった。
「警戒すべきはそちらですか」
「修羅の襲撃か」
「それこそしつこい位に来るで」
「問題はそちらです」
また二人の姉妹はこのことを話した。
「それに対してどうするかや」
「フォルカさんは一人でも戦われるでしょうが」
「そんなことはさせねえ!」
出て来たのはコウタだった。ショウコもいる。
「あれっ、コウタ君どうして」
「ここにいるんだ?」
二人がいたのはオートザムの艦橋だった。皆ここで二人の姿を見て少し驚いていたのだ。
「何でって入ったのがたまたまオートザムだったからよ」
「それでです」
「そうだったんですか」
「何とまあ」
二人の話を聞いてイーグルとアスカが意外な顔になった。
「俺にはわかるんだ!」
「拳を交えましたし」
コウタとショウコはさらに言う。
「あいつは真剣に皆を、力を持たない者の為に戦うって決めた」
「そうです。だからあの時動いたんですよ」
「あの時?」
「ふむ、あの時じゃな」
イーグルとアスカはすぐにそのことを思い出した。
「あの時確かに彼は貴方達を助けました」
「それはその通りじゃ」
「だから。ここはあいつを信じてくれ」
「御願いします」
「どうする?イーグル」
ザズがイーグルに対して問うてきた。
「やっぱり。警戒する?」
「それとも信じるか」
ジェオはこう言ってきた。
「どうするんだ?そこは」
「そうですね。それは」
イーグルは首を少し捻ってから二人に答えた。
「オートザムとしては警戒は解きます」
「解くんだ」
「様子見ですね」
そして出した結論はこうだった。
「様子を見ましょう。今は」
「そうか、様子見か」
「じゃあそれで行くんだね」
「そうしましょう」
「ふむ」
オートザムの話を聞いて次に声をあげたのはアスカだった。
「ではファーレンも方針を決定するか」
「はい、それでは」
「どうされますかな、アスカ様」
「我がファーレンも様子見としようぞ」
彼女が出した結論もこうだった。
「ここはな。それでいいな」
「はい、わかりましたアスカ様」
「それではそれで」
シャンアンとサンユンもアスカの考えに頷くのだった。
「とりあえずはその方針で行きましょう」
「警戒はしませんね」
「それでよい。今は見ておくのじゃ」
少女とは思えない決断であると言えた。
「あの者をな。それではな」
「では三国の方針は決まりやな」
「そういうことですね」
またタータとタトラが述べた。
「様子見やな」
「そういうことです」
「頼むぜ。あいつにはな」
「見ていて下さい」
コウタとショウコは今目の前にいる三国に対して言うのだった。
「そのうち。もっと凄いものを見ていくだろうからな」
「あの人は」
「それではです」
最後にイーグルが言った。
「今回の勝利のお祝いの場を設けましょう」
「はい」
タトラが彼に答えた。
「お菓子は用意しておるぞ」
アスカはもうそちらに関心を向けていた。
「バグダットで」
「バグダットに戻るんだな」
「そういえばお兄ちゃん」
ショウコがコウタに声をかけてきた。
「何だ?」
「あの、いいお店見つけたんだけれど」
このことを兄に対して言ってきたのだ。
「羊料理のね」
「ああ、それか」
「行く?」
「ああ。じゃあ行くか」
「かなり美味しいらしいわよ」
「そうか。それは楽しみだぜ」
妹の言葉にかなり乗り気になっていた。だがここでコウタは三国の面々にも声をかけるのだった。
「御前等もどうだ?」
「僕達もですか」
「ああ、人数は多い方が楽しいからな」
「だからどうですか?」
「そうやな」
その呼び掛けにまずはタータが応じた。
「うちも羊は好きやしな」
「逆に嫌いな方の方が珍しいですな」
シャンアンも言う。
「では決まりですね」
「皆で行こうぜ」
こうして皆で羊を食べに行くことになった。フォルカも仲間に加えたロンド=ベルの面々はまずは御馳走を楽しみそれから新たな戦いに向かうのであった。だが今は休息の時であった。バグダットでのささやかな一時であった。

第七十二話完

2008・8・12



 
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