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スーパーロボット大戦パーフェクト 第三次篇

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第七十一話 三人の子供

                第七十一話 三人の子供
「ティス、デスピニス」
暗い玄室の中で。ラリアーは二人に声をかけていた。
「ちょっといいかい?」
「何よ」
「どうかしらの?ラリアー」
「この前の戦いのことだけれど」
先のバグダットでの戦いのことを二人に対して言うのだった。
「どう思うかな」
「どう思うって言われても」
「何のことなの?」
二人はまだラリアーの言いたいことはわからない。それで言葉に疑問符をつけることになった。
「あの赤いマシンのことなら」
「フォルカさんのことはわからないわ、御免なさい」
「確かにあの人のことも気になる」
ラリアーは二人の言葉に対して頷いた。
「どうなるのか。それよりも」
「それよりも!?」
「もっと重大なことがあるのね」
「うん。あの二機のマシン」
ラリアーは言う。
「気になるんだ」
「ひょっとしてそれって」
「あの兄妹のことなのね」
「うん、実はそうなんだ」
また二人に対して頷いてみせる。
「ラウル=グレーデンとフィオナ=グレーデンだったかな」
「そんな名前のパイロットだったの」
「やっぱり兄妹なのね、あの人達」
「そうだよ。そして」
ラリアーは言葉を続ける。
「あのマシン、エクサランスだったか」
「エクサランス!?」
「そのマシンに何か?」
「ひょっとしたら答えが隠されているのかも知れない」
ラリアーの顔が考えるものになった。
「ひょっとしたらだけれど」
「ひょっとしたらって」
「あのマシンに何が」
「それはまだ僕にもわからない」
ラリアーもまだそこまではわかっていなかった。あくまで勘だけである。
「けれどひょっとしたらデュミナス様の求めておられるものがあるのかも知れない」
「デュミナス様の」
「じゃあここは」
「うん、出来れば手に入れたいんだ」
ラリアーは言う。
「その機体の構造を知りたいから」
「そうしたマシンは多いけれどね」
「え、ええ」
デスピニスは少しおどっとした態度でティスの言葉に頷いた。
「それはね。確かに」
「実際結構色々なマシンを手に入れてきたわね」
「うん」
ラリアーはまたティスの言葉に頷いた。
「そうだったね。前の世界でも」
「それでも手に入れたものは皆何の役に立たなかったじゃない」
「いや、それは間違いだよ」
ラリアーは今のティスの言葉を否定した。
「どれも役に立たなかったってことはないよ」
「そうかしら」
「むしろどのマシンも役に立ってくれたじゃないか」
「あたしはそうは思わないわ」
「僕達の戦力増強には役立ったよ」
ラリアーが言うのは戦略的見地からだった。しかしティスのそれは違う。しかし戦いを楽しんでの言葉ではないこともわかる言葉であった。
「それは認めるけれどそれでも」
「まだ何かあるの?」
「エクサランスっていう証拠はないじゃない」
「まあそれはね。そうだよ」
「他のマシンなのかも。だとすると」
ティスはさらに言葉を続ける。
「ロンド=ベルの中で何かしら、それは」
「わからない。候補が多過ぎる」
ラリアーも半分お手上げな感じだった。
「エクサランスもその中の一機だし」
「じゃあ一機一機やっていく?」
「いや」
ラリアーはティスの今の言葉には首を横に振ったのだった。
「そんなことをしても何にもならないよ。それに」
「それに?」
「ロンド=ベルは強いよ」
このことは彼等もはっきりとわかっていた。
「一機捕虜にするのでも大変だよ。そんな状況で無差別に敵のマシンを奪おうとしたら」
「死ぬわ」
デスピニスは何か怖そうに二人に告げた・
「そうなったら私達は」
「落ち着いてデスピニス」
「そうよ、しっかりしてよ」
ラリアーとティスは震え出したデスピニスをまず慰めそのうえで話を再開させる。
「とにかく。これだという一機を狙うんだよ」
「そのうえで捕虜にするのね」
「これはどうかな」
「そうね」
ラリアーの言葉にまずは納得した顔になって述べた。
「結局はそれが一番ね」
「それじゃあ」
「ただしよ」
そのうえで言葉を付け加えてきた。
「ただし?」
「あいつ等の中からよね」
「うん」
ラリアーはティスの言葉に対して頷いてみせた。
「その通りだよ」
「それよ。あいつ等強いし」
「そう簡単には捕虜にはならないだろう」
ラリアーもまたそれはわかっているようだった。
「難しい仕事なのは事実だ」
「けれどそれしかないのね」
「僕はそう思う」
ラリアーは今度はデスピニスに対して答える。
「難しい。けれど今考えられる限りじゃ一番効果がある」
「あまり奇麗な方法じゃ」
「何言ってるのよ、デスピニス」
ティスがデスピニスに対して言う。
「戦うからには勝たなくちゃいけないのよ」
「けれどそれは」
「僕だって正直好きなやり方じゃない」
これはラリアーも認めるのだった。
「けれど。デュミナス様の為に」
「デュミナス様の為に」
「そう、やらなくちゃいけないんだ」
三人の顔が強張る。
「どんな手段を使ってもね」
「そうよね。だからやるからには躊躇しちゃ駄目よ」
ティスは少なくとも表面上は割り切っていた。
「絶対にね」
「じゃあもう」
「やろう、ティス」
またラリアーが言ったのだった。
「僕達でね」
「わかったわ」
デスピニスはラリアーのその言葉に対して仕方なくといったように頷くのだった。
「それじゃあ」
「行くわよ」
ティスが声をかけた。
「デュミナス様の為に」
「デュミナス様の為に」
デスピニスの声もまた強張る。緊張が見られる。
「わかったわ」
「デスピニス」
ラリアーの声が柔らかいものになっていた。それはデスピニスに対して向けられていた。
「行こう、デュミナス様の為に」
「ええ」
デスピニスは力なくだがそれでも頷いた。そうして三人で出撃するのだった。三人が出撃したその頃。ロンド=ベルはバグダットに留まっていた。
「アレクサンドリアには戻らないんだな」
「はい」
ルリが一矢の問いに対して答えていた。
「このバグダットで即応態勢を取っているべきです」
「即応体制か」
「修羅もデュミナスも間違いなく来ます」
ルリは断言していた。
「それもすぐに」
「確かな情報があるのか?」
「一矢さん、今までの彼等の行動を考えて下さい」
「彼等!?修羅やデュミナスか」
「そうです。彼等はその地域を一度攻めるだけではないのです」
ルリが指摘するのはそこであった。
「何度も攻めて来ます。これは今まで私達と戦ってきた殆どの勢力がそうですが」
「ああ、そうだな」
ルリの今の言葉に京四郎が頷いてみせた。
「シャドウミラーにしろそうだな。奴等はどいつもこいつも一度じゃ諦めたりはしない」
「だからです」
ルリは彼に対しても答えてみせる。
「このバグダットに留まるべきなのです」
「わかった。それじゃあ」
「ねえお兄ちゃん」
ナナが一矢に声をかけてきた。
「どうしたんだ?ナナ」
「あの修羅の赤いマシンの人だけれど」
「確か」
「フォルカさんですね」
ルリが述べてきた。
「あの人がどうしましたか?」
「何か気になるのよ」
ナナの顔が曇っていた。
「今までかなりの闘志を見せていたのにあの時は」
「そうだな。あれはな」
一矢もまたナナのその言葉に頷いていた。
「おかしい。迷いがある」
「迷いですか」
「あんたはどう考えているんだ?」
今度は京四郎がルリに尋ねてきた。
「迷いじゃなかったら何だと思っているんだ?」
「私も同じだと思います」
ルリもまた一矢や京四郎と同じ考えであった。
「あの方は迷っておられます」
「そうだな、あれはな」
「ああ」
京四郎は一矢の言葉に対して頷いたのだった。
「間違いないな」
「迷いか」
一矢はその迷いについて考えを及ばせた。
「迷いがどうなるか。そこだな」
「正直こればかりはどうなるか俺にもわからん」
京四郎は腕を組んで述べていた。
「どうなるかな」
「それにしても気になります」
ハーリーがふとした感じで言ってきた。
「どうしたました?ハーリー君」
「迷ってるんですよね、あの人」
「はい」
ルリはハーリーに対しても答えた。
「その通りです」
「どうして迷ってるんでしょう、迷うからには絶対に理由がありますけれど」
「あいつの迷いか」
「はい、一矢さんはどう思われますか?」
ハーリーは一矢に対しても尋ねてきた。
「このことについて。どう」
「そうだな」
一矢は少し間を置いてからハーリーに答えた。
「あくまで俺の考えなんだが」
「ええ」
まずはこう前置きする一矢だった。
「戦いについて迷っているんじゃないかな」
「戦いに?」
「コウタ達との戦いを見ていて思ったんだ」
彼はさらに言う。
「拳に迷いがある」
「拳に」
「そうなんだ」
彼はさらに言葉を続けていく。
「今までのあいつはそれこそ闘志を剥き出しにしていた」
「ええ」
「そうですね、それは」
皆も一矢のその言葉に対して賛成して頷く。
「あの激しい闘志がなくて」
「どうもやる気がないように」
「確信はまだ持てないんだがな」
一矢もまだ確信は持っていないのだった。
「それでもな。どうにも」
「そうなんですか」
「おそらくまたすぐに出て来る」
一矢はこうも言った。
「その時にまた確かめよう。いいな」
「はい、わかりました」
「それじゃあその時に」
「コウタ達にも言っておくか」
一矢は彼等に対しても気配りを及ばせるのだった。
「そうですね。それでいいです」
「わかった。それじゃあ」
ルリの賛成を受けて安心した顔になる一矢だった。
「そうしよう。戦いがはじまる前に」
「といきたいところだったんだけれどねえ」
だがここで不意にハルカから如何にも残念そうな声が出て来た。
「残念だけれどこれがね」
「残念っていうとまさか」
メグミが今のハルカの言葉に顔を曇らせる。
「敵ですか?」
「その通り。出て来たのよ」
「やっぱり。相変わらず早いですね、出て来るのが」
「敵には敵の事情がある」
京四郎はここでもクールだった。
「俺達に合わせてはくれないものだ」
「というかあれじゃないんですか?」
またハーリーが突っ込みを入れてきた。
「僕達が困っている時にこそ出て来るものじゃないんですか?向こうにしてみれば」
「はい、その通りです」
ルリの返答は至って冷静なものであった。
「敵には敵の考えがありますから」
「そうだな。それについて文句を言っても仕方がない」
京四郎はルリの言葉に対して頷いてみせた。
「まずは出撃だ、いいな」
「ああ。じゃあ俺も出よう」
一矢が最初に動いた。
「ダイモスでな」
「一矢さん」
「んっ!?」
ここでまたルリが一矢に声をかけてきた。
「戦いとは関係ない質問ですけれどいいでしょうか」
「あっ!?ああ」
何が何かあまりわからないまま応える一矢だった。
「俺に答えられることなら何でも」
「はい。それではですね」
一呼吸置いてから述べるルリだった。
「エリカさんとはこの戦いが終わったら」
「ああ、そのつもりだ」
真剣な顔で頷く一矢だった。
「俺は何があってもこの長い戦いを終わらせる」
「その拳でですね」
「いや、心でだ」
その声までもが真剣なものになっていた。
「俺のこの心で。戦いを終わらせる」
「一矢さんの心で」
「何があっても諦めない」
いつもの一矢の言葉だった。ただひたすら未来を見据える一矢の。
「エリカと何時の日か一緒に。人類とバーム人の未来の為にな」
「一矢さんは何時までも変わらないのですね」
一矢のその心を感じたルリは微かに微笑んでいた。
「駄目かな、それは」
「いえ」
微笑んだまま一矢に答える。
「そうあるべきです。ですからバームの方々との戦いも終わらせることができましたし」
「俺は。やっぱり皆がいてくれたから」
「その皆の心を動かしたのは何だと思われますか?」
「皆の心を?」
「それこそが一矢さんの御心なのです」
「俺の。その心が」
「はい」
クールなルリにしては珍しく微笑んだ言葉であった。
「そうです。一矢さんだからこそ」
「そうなのか。俺の心が」
「私も。一矢さんに打たれました」
正直な告白だった。
「一途に想うその御気持ちに対して」
「俺はエリカを救い出したかった」
ただそれだけだったのだ。彼は。
「それだけなんだけれどな」
「そう、それだけです」
ここでルリはまた言うのだった。
「それだけです、本当に」
「それだけでいいのか」
「その心を持つことこそが大事なのですから」
「俺がその心を持つことが」
「エリカさんを。ずっと信じておられましたね」
「ああ」
それは否定しない。まさにその通りだったからだ。
「エリカがバーム星人だって知っても。俺は構わなかった」
「エリカさんを愛しておられたからこそ」
「その通りだ。そんなことはどうでもよかった」
本心の言葉であった。
「俺はただエリカを」
「その気持ちが大事なのです」
「そうなのか」
「はい。私も」
ここでルリ自身の言葉になった。
「一矢さんのその御心に打たれましたから」
「ルリちゃんもまた」
「ですから一矢さん」
一矢自身に声をかける。
「その御心を忘れないで下さいね」
「ああ、わかった」
ルリの今の言葉に対して毅然と頷いてみせた。
「俺は。この戦いが終わったらきっとエリカと」
「その時は必ず来ますから。ですから」
「今は戦う。それしかないか」
「一矢さんの拳で平和を掴みましょう」
「ああ、きっとな」
「それにしても」
ここでルリの言葉がまた変わった。
「!?どうしたんだルリちゃん」
「私がアキトさんを知らずに一矢さんがエリカさんを知らなければ」
不意にこう言うのだった。
「どうなっていたか」
「どういうことなんだい、今の言葉は」
「あっ、何でもないです」
しかしこれ以上は言わないルリだった。
「忘れて下さい。それよりは」
「戦いか」
「もう皆格納庫に向かっておられます」
既にそうなのだった。戦いがはじまろうとしていたのだ。
「ですからもう」
「わかった。それじゃあ」
「私もナデシコの艦橋にあがります」
参謀である彼女がいなくてはやはりはじまらないのだった。
「ですから戦いに」
「ああ」
二人は話を終えて戦場に向かうのだった。出撃するともうそこには。やはり修羅とデュミナスの軍勢が既に戦場に展開しているのであった。
「数は。ええと」
「今回は多いわね」
レトラーデに対してミスティが答えた。
「一五〇〇ってところかしら」
「それはまたかなりですね」
「援軍もやっぱり出て来るでしょうね」
「そうですね。それもやっぱり」
「既に後方に千来ているわ」
クローディアがここで二人に告げる。
「つまり合計二千五百ね」
「そうか。ここで一度決着をつけるつもりか?」
フォッカーは敵の数を聞いてまずはこう考えた。
「数で押して」
「へっ、数でどうなるわけじゃねえぜ」
ここで言ったのはディアッカだった。
「俺達がよ。数でどうにかなると思うかよ」
「いや、待て」
しかしアスランがそのディアッカに言ってきた。
「おかしいのは数だけじゃないようだ」
「数だけじゃない?」
「敵を見るんだ」
アスランはディアッカだけでなく全員に告げるのだった。
「修羅もデュミナスも主立ったメンバーがいないようだ」
「!?そういえば」
ニコルもそれを聞いて気付いた。
「あの三人の子供達がいないですね」
「やはりおかしいな」
イザークも言う。
「デュミナスといえばあいつ等だが。それがいないとなると」
「修羅もだ」
レイも気付いた。
「数だけだ。あのフォルカという奴もいないな」
「伏兵・・・・・・でしょうか」
フィリスはそう予想を立ててきた。
「レーダーに映らないようにして潜んでいる?」
「若しそうだとすると何処に」
エルフィもまたそれについて考えだした。
「いるの?彼等は」
「総員警戒!」
すぐにタリアが指示を出す。
「敵は何時何処から出て来るかわからないわ。だから」
「けれど艦長」
アーサーがここでタリアに言う。
「敵はもうとんでもない数が前から」
「それと一緒によ」
タリアの言葉は続く。
「敵はいつも前から来るとは限らないわね」
「はい、それはもう」
「だからよ。前から出て来るから」
タリアはまた言う。
「周囲に警戒を払いつつ前の敵にあたって。いいわね」
「了解!」
「前方の敵、動きだしました!」
メイリンがここで報告する。
「援軍の到着が二分後!全て前からです!」
「よし!」
それを聞いてジャックが叫んだ。
「相手にとっては不足はない!」
「ジャックさん」
シホはもう戦闘態勢に入っていた。
「敵を引き付けて一気に行きましょう」
「いい、皆」
タリアがここでまた全軍に声をかける。
「伏兵についてはこちらで探し出すわ」
「艦長がですか」
「だから任せて」
こう全軍に告げるのだった。
「何があってもね。いいわね」
「わかりました。それじゃあ」
「迂闊に全面に出ないこと」
このことも全軍に告げるのだった。
「迂闊に出れば。それこそ相手の思う壺だからね」
「わかった?シン」
ルナマリアは不意にシンに声をかけた。
「あんたが一番危ないんだからね」
「俺かよ!」
シンはこれにはかなり不服そうだった。
「何で俺がなんだ!」
「って自覚ねえのかよ」
「どう見たって御前が一番危ないだろ」
スティングとアウルも呆れた顔でシンに突っ込みを入れる。
「いつも考えなくに真っ先に突っ込むからだろ」
「デスティニーガンダムが近接戦闘タイプだからってよ」
「俺だって命令位は聞く!」
「そうだったかしら」
他ならぬタリアからの言葉だ。
「あまり記憶にないのだけれど、それは」
「艦長まで」
「だからシン」
さりげなくキラが助け舟を出してきた。
「ここは来た敵だけを倒せばいいからね」
「来た敵だけをか」
「敵は絶対来るから」
こうも行って彼を安心させるのだった。
「いいね。それはね」
「ああ、わかった」
何故かキラの言葉には妙に大人しいところがあった。
「それじゃあ待って倒していくとするか」
「何を仕掛けてくるかわからないからね」
「ああ、そうだな」
こうしてロンド=ベルは積極的に動くことはなく敵を待っていた。修羅とデュミナスの軍勢はそのまま前から来る。ロンド=ベルはそれに対して攻撃を開始した。
「行けっ!」
最初に動いたのはハマーンだった。キュベレイの周りにファンネル達が舞う。
「ファンネル!」
そのファンネル達が一斉に敵に襲い掛かる。そうして敵に向かうのだった。
まずはファンネルが敵を撃ち他の者達も続く。ロンド=ベルは敵を引き付けて攻撃に入ったのだった。その勢いはかなりのものであった。
そして二分後。また敵が出て来た。
「敵の援軍です!数は千!」
メイリンが報告する。
「前から来ます!」
「そう、予想通りね」
タリアはその報告を冷静に聞いていた。
「ここまでの動きはね」
「そうですね。ですが」
「問題は修羅にもデュミナスにも」
彼等の姿を見て言う。
「主だったメンバーがいないわね。相変わらず」
「おかしな場所はないです」
アーサーがここで報告する。
「まだ。見つかりません」
「そうね。あるとしたら」
「あるとしたら?」
「異空間ね」
彼女は言った。
「まずそこから出て来るわ」
「異空間ですか」
それを聞いたアーサーの顔が曇った。
「シャドウミラーの時と同じですね、それですと」
「気をつけて」
またタリアが言う。
「だとすると急に後ろから出て来る可能性もあるわ」
「後ろから」
「そう。急に出て来るから」
また言う。
「仕掛けて来るとしたらね」
「今のところ前方の敵は順調に倒しています」
またメイリンが報告する。
「ですがそれでも」
「まだ見つからないわね」
今度はタリアの顔が曇った。
「本当に仕掛けて来るのだとしたら何時」
「ここは少しやってみようかしら」
タリアは不意に言い出した。
「わかっている策ならやり方があるしね」
「やり方ですか」
「そうよ」
またアーサーに告げる。
「じゃあ早速、シン」
「俺ですか」
「あと甲児君とリュウセイ君ね」
「俺も!?」
「俺まで」
何故かこの三人に声をかけるタリアであった。
「何かあんのかよ」
「どういうことですか、タリア艦長」
「遠慮せずにどんどん前に出て敵を倒して」
タリアが告げるのはそれであった。
「それだけでいいから」
「それだけでいいって」
「何が何だか」
「後でわかるわ」
また随分とぞんざいな返答であった。
「それもすぐにね」
「すぐに?」
「話が余計にわからなくなってきたんだけれどよ」
「けれどまああれだよな」
三人はそれぞれ言い合う。
「やってみるか。作戦が成功するんならな」
「まあそうだな、そうするか」
「ああ」
「わかったらさあ」
また三人を急かすタリアであった。
「前に出て敵をどんどん倒して。いいわね」
「了解」
一応ミネルバ所属のシンが最初に応えた。
「じゃあとりあえず手当たり次第にな」
「ああ、どんどん倒していってやらあ!」
「よし、乗った!」
甲児とリュウセイもそれに続く。こうして三人はデュミナスの敵を次々と倒すのだった。
タリアはそれを冷静に見ていた。しかし横にいるアーサーの顔は浮かないものである。そしてその浮かない顔でタリアに対して問うのであった。
「あの、艦長」
「何、アーサー」
「これでいいんですよね」
怪訝な顔でタリアに問う。
「あの三人を思いきり前に出して」
「ええ、いいのよ」
怪訝なアーサーに対してタリアの顔はクールなものだった。
「それもかなりね」
「かなりですか」
「わかったら用意して」
「用意!?」
「絶対に動くから」
その三人を見つつ述べる。
「私の読みが正しければね」
「正しければ、ですか」
「作戦はオーソドックスばかりでは駄目なのよ」
ザフトきっての名艦長に相応しい言葉であると言えた。
「時としては。奇策もね、いいものよ」
「奇策ですか」
「ええ。あの三人なら間違いなく仕掛けて来るし」
相変わらずその三人を見ている。
「そして三人なら凌げるわ」
「あの三人にねえ」
「あの、艦長」
メイリンが怪訝な顔でタリアに声をかけてきた。
「何?」
「あの三人の共通点ってとんでもないですよ」
「とんでもない?」
「ですからアーサーさん」
困ったような顔でアーサーに対しても言う。
「馬鹿じゃないですか」
「まあそれはね」
これについては誰もが知っていることだった。だからアーサーもあえて言わないのだった。わかっていることは誰もあえて言わないものである。
「誰が一番なのかわからない程だけれどね」
「アーサーさん、その通りだけれど」
また随分と率直に言ってしまったアーサーであった。メイリンも呆れる。
「それを言ったら」
「おっと、これは失言」
「気をつけなさい、アーサー」
タリアも嗜める。
「言葉にはね」
「失礼しました、艦長」
「あの三人は馬鹿かどうかはともかく」
タリアはそれについてはとかく言わないのだった。
「じゃあ馬鹿じゃないんですか?」
「ノーコメントよ」
あえて答えないタリアであった。
「それに関してはね」
「ですか」
「とにかくよ」
タリアはさりげなく話を変えてきた。
「あの三人ならいけるわ」
「いけますか」
「だから選んだのだし」
冷静な言葉が続く。
「ここではね」
「そうですか。じゃあ」
「そろそろよ」
ここでタリアの目が光る。
「仕掛けて来るわよ、彼等」
「仕掛けて来ますか」
「見て御覧なさい」
見れば三人のマシンを見続けている。艦の指揮を行いながら。
「その時に面白いものがわかるから」
「ですか・・・・・・んっ!?」
その時だった。
「あれっ、今レーダーに変な反応なかった!?」
「あっ、そういえば」
レーダーを見ているアーサーとメイリンが同時に声をあげたのだった。
「そうですね。今ちょっと」
「デスティニーガンダムの動きのせいかな」
アーサーは最初こう考えた。デスティニーガンダムはシンの操縦のせいもあり時折レーダーに突拍子もない反応を残すのだ。それを考えたのだ。
「反応が一つ多かったよね」
「ええ、確かに」
「けれどそれは一瞬だったし」
アーサーはレーダーを見ながら言う。
「何なのかな、本当に」
「あっ、今度は」
レーダーを見ているアーサーはさらに言った。
「マジンカイザーやR-1の周りにも一瞬」
「あの三人確かに動き回るにしろ」
三機続けてなのはもう偶然とは思えないのだった。
「これはかなり」
「かなりじゃないよね」
「ええ」
また怪訝な顔になって言い合う二人だった。
「これはかなりね」
「おかしいですよね」
今度は顔を見合わせていた。
「何かありますよ、これ」
「うん、間違いなく」
アーサーもそれを察するだけの能力はあるのだった。
「あるね。何かな、それにしても」
「デュミナスが仕掛ける!?」
メイリンはこう考えた。
「まさか」
「そうよ、そのまさかよ」
タリアの冷静な声が返って来た。
「彼等、仕掛けて来るわ」
「仕掛ける!?」
「じゃああの三人を」
「そうよ」
相変わらず冷静なままのタリアの返答であった。
「狙うのがわかっていたから」
「狙うですか」
「あの三人の戦闘力はロンド=ベルの中でも傑出しているわ」
これについては折り紙付きだった。ミネルバでザフトにいた頃からシンの戦いを見てきている彼等もまたよくわかっていることであった。
「それを考えてのことだったのよ」
「囮ですか」
「そう、囮よ」
タリアは答える。
「しかもその囮はね」
「囮は!?」
「ただの囮じゃないわ」
断言だった。
「これはね」
「といいますと」
「シンよ」
言葉に信頼と不敵が宿った。
「そう簡単にやられると思うかしら」
「いえ、それは全然」
「そうですよね」
アーサーもメイリンもそれは否定するのだった。彼等はシンのことをよく知っていた。だからこそ今ここでタリアの問いを否定してみせたのである。
「あいつはそれこそ何があっても」
「じゃあここは」
「大丈夫よ」
また答えるタリアだった。
「シンならね」
「ですね、やっぱり」
「他の二人も」
甲児とリュウセイについてもであった。
「安心していいわ。そう簡単にはやられないから」
「ですね。それこそ核ミサイルが当たってもね」
死なない、甲児もリュウセイもそんな人間なのだった。
「安心できますね」
「仕掛けてもあの三人なら安全よ」
タリアの言葉は落ち着いていた。
「簡単な罠は通じないわよ」
「馬鹿ですけれどね」
メイリンの言葉は三人全員に向けられたものだった。
「そういうことは安心していいですからね」
「そういうことよ」
こうして三人を見るのだった。そうして今遂に。派手に戦う三人の後ろに突如として影が姿を現わしたのだった。その影が何かというと。
「誰だ!」
「させるかよ!」
「甘いんだよ!」
リュウセイ、シン、甲児が同時に叫んだ。そして後ろにいるそれぞれのマシンを倒すのだった。それはまさに一瞬の動きであった。
「なっ、今のを!?」
「防いだ!?」
それを見てティスとラリアーが驚きの色を隠せなかった。今の三人の動きを見て。
「奇襲仕掛けたのよ、それが!」
「見破られたというのか、僕達の策略が」
「策略!?馬鹿言ってんじゃねえ!」
甲児がすぐにそれを否定したのだった。
「俺達がこんなのに引っ掛かると思ったのかよ!」
「舐めてんじゃねえぞ!」
シンも叫ぶ。
「後ろから来るのならそのまま殺すんだな!俺を捕まえるのは不可能だ!」
「不可能・・・・・・」
「そうだ!」
デスピニスに対して言い切ってみせた。
「この程度じゃな!俺達を捕まえられはしないんだよ!」
「気配でわかったぜ」
リュウセイもまた見抜いていたのだった。だから倒せたのだ。
「後ろからな。だったら対処は簡単だ」
「わかっていたの」
「ああ、そうさ」
リュウセイはデスピニスに答えていた。
「御前等の策略になんかかかるかよ!」
「馬鹿の癖に!」
「うるせえ!」
ティスの馬鹿という言葉に反応したのは甲児だった。
「馬鹿って何だ馬鹿って!訂正しやがれ!」
「馬鹿でしょ!」
「まだ言うか、このガキ!」
「いや、甲児は馬鹿でしょ」
「そうよね、これは嘘じゃないわね」
マリアとさやかの容赦のない言葉だった。
「どう見てもね」
「シンもリュウセイ君もね」
「とにかくだ!俺達の直感の前にはそんなの無意味なんだよ!」
実にわかりやすい甲児の言葉であった。
「わかったらとっとと諦めやがれってんだ!」
「くっ、言ったわね!」
「何度でも言ってやる!」
歯噛みするティスに言い返したのはリュウセイだった。
「無駄なものは無駄だってな!」
「ふん!」
「ティス」
ここでラリアーがそのティスに声をかけてきた。
「何?」
「ここはもう退こう」
「退く!?まだ戦力は」
「戦力の問題じゃない」
彼は真剣な顔でまたティスに言葉を返した。
「作戦が失敗したんだ。これ以上の戦闘はもう」
「無意味だって言いたいのね」
「そう、その通りだ」
今度はこくりと頷いてそれを認めたのであった。
「だから今は」
「わかったわ」
「デスピニスもそれでいいよね」
デスピニスにも問うてきた。
「もうそれで」
「ええ。私は」
彼女は至って受身に言葉を返してきた。
「それでいいけれど」
「よし。じゃあこれで決まりだ」
「撤退ね」
「うん。修羅の人達も主だった人達はもういないし」
「そういえば」
ここでティスはあることに気付いた。
「あのフォルカだったっけ」
「あの人がどうかしたのかい?」
「姿見ないわね」
ティスの目がいぶかしむものになっていた。
「今回も参加するって聞いていたけれど」
「何かあったんだろうね」
ラリアーが彼女の言葉に応える。
「だからそれで」
「その何かが問題なんだけれどね」
「とにかくよ」
ティスはそれは置いておいて話を続けてきた。
「帰るのよね」
「うん」
「決めたらもう帰りましょう」
逆にティスの方が急かしてきていた。
「長居は無用よ」
「そういうことだよ。それじゃあ」
「私が後詰になるわ」
デスピニスはそっと出て来た。
「だから二人は」
「いや、それはいいよ」
しかしラリアーがそれを断った。
「僕がするから」
「あたしもね」
「二人が行くの?」
「そうね。何なら」
ティスはそっとデスピニスの心境を察して言ってきた。
「三人でやる?これならどうかしら」
「そうだね。それならね」
ラリアーもそれに賛成してきた。
「問題ないね。じゃあ」
「有り難う」
「御礼なんて言いいっこなしよ」
ティスはにこりと笑ってデスピニスに言葉を返すのだった。
「お互い様だからね」
「そうなの」
「だから」
ティスは明るい声をデスピニスにかける。
「三人で残るわよ。いいわね」
「わかったわ」
「じゃあ」
こうして三人が後詰になりデュミナスの軍は撤退を開始した。三人には甲児達三人が直線的に向かうがそれは技で返していた。
「このアマ!ぶん殴ってやる!」
「覚悟しろ!」
甲児とシンがティスとラリアーに向かい攻撃を仕掛ける。しかし三人は今は防戦に務め彼らの攻撃をかわし受け流すだけであった。
「ちっ、やる気あんのかよ!」
「俺達を捕まえるつもりだったんじゃねえのかよ!」
「そんなのとっくの昔に終わった話でしょ!」
ティスの今の言葉は彼等にとって実に都合のいい言葉であった。
「今更うだうだ言わないの!男らしくないわよ!」
「男らしくねえだと!」
「馬鹿でうじうじしていなんて最低ね!」
「何ィ!」
「わかったらさっさと忘れなさい!いいわね!」
「やっぱり死ね!このアマ!」
甲児はティスに、シンはラリアーに向かっている。そしてリュウセイはデスピニスに向かっていた。二人の戦いは他の二組とはかなり違っていた。
「どういうつもりだ」
「何が?」
デスピニスはリュウセイの問いにおどおどとした様子で言葉を返してきた。
「何がなの?どういうつもりって」
「御前等何を考えているんだ」
またデスピニスに対して問うた。
「何故この世界に来たんだ」
「それは」
「言えないか。そもそもデュミナスって何だ?」
かなり率直な問いであった。
「別の世界から来た存在なのはわかるが」
「悪いけれど言えないわ」
デスピニスは俯きつつ述べた。
「それは」
「まあそうだろうな。けれどよ」
「けれど?」
「御前等は誰かの為に戦ってるのか?」
デスピニスの顔をじっと見ていた。
「それで今は」
「あんた、五月蝿いわよ!」
しかしここでティスがリュウセイに言ってきた。
「黙ってなさいよ!いいわね!」
「何があるのかは知らねえがな」
リュウセイはここではあえて言葉を止めた。
「俺達に用事があるんなら何時でも来るんだな」
「こっちにも事情があるのよ」
ティスはまたかなり子供じみた返答を出した。
「少なくとも今あんたにどうこうするつもりはないから」
「けれど今後はあるんだな」
「その時になったらまた出てやるわよ」
リュウセイに対して言う。
「わかったわね。じゃあ」
「だから待てって言ってるだろ!」
甲児はどうしても三人を追おうとする。
「ギッタンギッタンにしてやるからよお!」
「今度会ったら思う存分相手してやるわよ!」
これは捨て台詞だった。
「だから今はさよならよ!またね!」
「手前!」
だが三人はもう戦線を離脱してしまった。後に残ったのはロンド=ベルだけだった。何はともあれ戦いは終わった。しかしそこに残ったのは疑問だけだった。
「戦いは終わりましたがね」
「はい」
ラージの言葉にミズホが応えている。
「これはどうにも。謎がまた一つ生まれたようです」
「デュミナスですよね」
ミズホは言う。
「私達のメンバーを捕まえようとして」
「私達をですか」
「はい、それは何故か」
ラージは考える。
「何かあるのは間違いないですね」
「それが何かですけれど」
「へっ、それが何かだよな」
ラウルが話に加わってきた。
「問題はな」
「はい。私達の誰かが必要なのです」
「そこよね」
フィオナも言う。
「どうして必要なのかしら。あたし達の誰かが」
「その誰かも問題ですが」
ラージはさらに考えを巡らせる。
「今回は何かあまり考えていませんね」
「考えていないのかよ」
「どうもです」
ラージはラウルに対して答える。
「向こうもまだあまり何もわかっていないようです」
「わかっていない?」
「おそらくは」
これは予測であった。
「そうです。お互いに手探りといったところです」
「お互いに」
「デュミナスという組織」
ラージは言う。
「それについてもまだよくわかっていませんしね」
「ですよね。他の組織もそうですけれど」
ミズホも考えを巡らせる。
「デュミナスもまた謎だらけですね」
「はい」
「けれどよ」
ラウルがここで言った。
「けれど?」
「下手に動いても何にもならないぜ」
彼は言うのだった。
「何もわかっていないんだな」
「そうです」
ラージは答える。
「その通りです。おそらくは」
「じゃあ余計に今は動かない方がいいんじゃねえのか?」
「動かない方がいいですか」
「下手に動いたらあれだぜ」
彼はまた言う。
「ドツボになっていくぜ、違うかい?」
「ではここは様子見ですか」
「俺はそれがいいと考えるんだがな」
彼の確かな考えだった。
「今のところはな」
「そうね」
フィオナも兄の考えに同調した。
「今のところはその方がいいわね」
「そうだろ?それじゃあ」
「ただしよ」
だがここでラウルは兄に対して述べた。
「こっちも隙を見せたらまずいわよ」
「そりゃどういう意味だよ」
「具体的に言うと捕まるなってことよ」
彼女が言うのはそれだった。
「ラウル、気をつけなさいよ」
「気をつける?」
「捕まったら許さないからね」
言葉がきつくなってきていた。
「いつもドジばっかりやるんだから」
「御前それが実の兄に言う言葉かよ」
口を尖らせて反論する。
「全然信用してねえんだな」
「信用?してるわよ」
素っ気無いが確かに言った言葉だった。
「それはね」
「じゃあ何でそんなこと言うんだよ」
「わかってるからこそ言うのよ」
見れば妹もまた口を尖らせていた。兄と同じ表情になっているのが滑稽である。
「あんたおっちょこちょいだから」
「御前だってそうじゃねえかよ」
ラウルも同じ顔で言い返してきた。
「おっちょこちょいなのはよ」
「ふん、言ってくれるわね」
「ともかくです」
二人の話のきりがいいところでラージがまた出て来た。
「今は様子見がいいかと」
「とりあえずですよね」
「はい、そうです」
ミズホの問いに頷いてみせる。
「迂闊に動けばかえって面倒なことになります」
「わかりました。それじゃあ」
今のところ方針は決まった。まずはデュミナスにとっては様子見ということになった。それが終わるとロンド=ベルは一旦バグダットに戻ったのだった。
「さて、と」
バグダットに戻るとバルトフェルドがまず声をあげた。
「まずは休息だね」
「はい。それではどうされますか?」
「食事にでも行こうかと」
こうラクスに答えたのだった。
「英気を養いに」
「そうですか。それでは私が」
「あっ、いや」
さりげなくラクスの料理は止めたのだった。
「実はいいお店を知っていまして」
「お店ですか」
「ケバブのですね」
「!?またか」
カガリはそれを聞いて突っ込みを入れた。
「またケバブなのか」
「駄目かな」
「ここは羊を食べたいんだがな」
「ふむ、羊ねえ」
「アラブだな」
カガリが言うのはそこだった。
「だったら羊だ。違うか」
「まあそうだね」
これについてはバルトフェルドも同意するのだった。
「アラブといえばやっぱり羊料理。確かにね」
「だからだ。何かないか」
「色々あるけれど」
今度はユウナが出て来た。
「羊料理だよね」
「そうだ」
「だったらバグダットには幾らでもあるよ」
「じゃあ適当に入ればいいのか?」
「まあねえ」
ユウナはまた余計なことを言った。
「カガリの味覚なんて酷いものだからねえ」
「おい、ちょっと待て」
すかさずユウナに反論する。
「私が味音痴だっていうのか?」
「違うのかい?」
「王族だぞ」
カガリが言うのはそこだった。
「味覚には自信があるんだが」
「じゃあさ、蜜柑とオレンジの区別つく?」
「同じじゃないのか?」
こうきた。
「蜜柑の英語読みがオレンジじゃないのか?」
「駄目だこりゃ」
ここまで聞いて匙を投げるユウナだった。
「昔の陸軍軍人並の味覚みたいだね」
「最近は軍のレーションでも美味しいのだけれど」
マリューもこれには呆れていた。
「それでも蜜柑とオレンジは違うものになってるわよ」
「レーションねえ」
ユウナはここで顔を暗いものにさせた。
「オーブ軍のレーションは実に酷いものだったよ」
「ユウナ様、それを言うと」
「またカガリ様に」
「何でここでカガリなんですか?」
キラがユウナ達に突っ込みを入れた。
「カガリとレーションにどんな関係が」
「だから。味覚のチェックが必要じゃないか」
「はい」
「そのチェックをするのはオーブでは王族だから」
「だからカガリが」
「そうなんだよ。何しろ何でも動物的に食べるから」
少なくともそれは国家元首の食べ方ではないのは言うまでもない。
「味覚はねえ。まあ僕も贅沢はよくないとは思うけれどね」
「そういえばユウナさんも」
「うん、自炊することも多いよ」
何気に質素なユウナであった。
「だってさ。カガリの料理なんて野戦食だからね。そんなのいつも食べていたら」
「どうして私はここまで言われるんだ?」
「まあ仕方ないですね」
そのカガリにアズラエルが突っ込みを入れる。
「実際カガリさんのお料理はレディーのものではありませんから」
「ふんっ」
「ディアッカさんは違いますけれどね」
「ああ、俺か」
「最近また腕をあげられたようで」
「まあ料理は好きだしな」
意外なディアッカの趣味である。
「いつも作っていりゃ上手くなれるぜ」
「けれどそれはね」
「ねえ」
「才能が」
アサギ、ジュリ、マユラが言う。
「ディアッカさんは才能あるけれど」
「カガリ様ってやっぱり」
「ガサツだから」
「いい加減言われ慣れてきたんだが」
「御前の場合すぐに忘れるから意味ねえよ」
今度はシンが言わなくていいことを言った。
「とりあえず御前の料理より俺の妹の料理の方がな」
「御前の場合はかなり主観が入ってるんじゃないのか?」
アスランが問う。
「やっぱりそれは」
「カガリの料理がまずいのは事実だぜ」
またしても言わなくていいことを言うシンだった。
「ありゃ馬の餌だ」
「馬だと!?」
「それか鹿だな」
さらに言わなくていいことを言う。
「馬鹿が作った料理だな、あれは」
「そうか、馬鹿が作った料理か」
「前世は親父が馬、お袋が鹿のナチュラルボーン馬鹿の作った料理だな」
「わかった。そこまで聞けば充分だ」
カガリが指をボキボキと鳴らしだした。
「死ね!その馬鹿に殴られてな!」
「何っ、こいつ!」
「地獄に落ちろ!」
「本当のことを言って何が悪いんだよ!」
「本当のことだからだ!」
真実程言われて腹が立つものはない。
「その真実を胸に冥土に旅立て!」
「何を!」
また二人の喧嘩がはじまった。やはり仲の悪い二人であった。
その二人をよそに。とりあえず料理の話は続く。
「とにかくだね」
「はい」
バルトフェルドの話にキラが応える。
「羊料理にしようか、今回は」
「そうですね。それはいいとして」
「問題はメニューだね」
ユウナが言う。
「さて、何を食べようか」
「ああ、羊の肉ならちゃんとここにもあるぜ」
ディアッカが言ってきた。
「それもたっぷりとな」
「ああ、じゃあこっちでも食べられるんだな」
「そうなるな」
イザークに対しても答える。
「問題は何をするかだけれどな」
「ジンギスカンでしょうか」
ニコルはそれが頭に浮かんだのだった。
「やはりここは」
「ジンギスカンか。悪くないな」
「そうね。ビールも出して」
アスランとフレイはそれでいいようである。
「それでいけるわね」
「じゃあそれでいいか」
「決まりかな」
話はこれで決まるようだった。
「早速鍋を出して」
「ビールも」
「いや、待ってくれ」
ここでバルトフェルドが言うのだった。
「バルトフェルドさん」
「ジンギスカンだよね」
「はい」
これはもう決まっていた。
「そうですけれどそれが何か」
「あるんですか?」
「うん、それがあるんだ」
深刻な顔で語るのだった。
「問題はタレだよ」
「タレですか」
「そう、まずはそれなんだよ」
ユウナのこだわりであった。
「それが駄目だとどうしようもないからね」
「そんなこともあろうかと用意しておいた」
レイが出て来た。
「もうそれはな。用意しておいた」
「うむ、早いね」
「それだけじゃない」
レイはさらに言う。
「そのタレは百年寝かしてある絶品だ。これでどうだ」
「どうやら君はわかっているようだね」
「俺の料理は最初から最後までクライマックスだからな」
また妙なことを言い出すレイだった。
「抜かりはない」
「それは何より。それじゃあ」
バルトフェルドが音頭を取る。
「皆で食べるとするか」
「ビールビール」
「チューハイも出そうぜ」
周りでは酒の用意にもかかっていた。
「やっぱりジンギスカンにはビールだよな」
「全くだ」
「ビールもね」
またバルトフェルドのこだわりが出る。
「じっくりと冷やして。それが一番だよ」
「それでしたら」
出て来たのはボルフォッグだった。
「既に私が冷蔵庫に入れておきました」
「うん、流石だね」
「全て見事なまでに冷えております」
「じゃあそれを出してだね」
「ああ、後はだ」
ディアッカはここでまた別のことに気付いたのだった。
「あの二人止めようぜ」
「あの二人?」
「ほら、あそこだよ」
シンとカガリの方を指差しての言葉だった。
「あいつ等。どうするんだよ」
「止めるしかないよね」
キラの言葉は常識の範囲内だった。
「やっぱり」
「そうだよな。けれどな」
「難しい?」
「っていうかよ」
いやいやといった顔でキラに答えるディアッカだった。
「あの二人の中に入るとな」
「自分達も巻き込まれますよ」
ニコルは冷静に述べた。
「そうしたらそれこそ」
「だよな、やっぱり」
「じゃあそれこそ入ったら」
「台風の中に飛び込むようなものだぞ」
アスランもかなりきついことを言う。
「いや、カメレオンの舌に巻かれるようなものか」
「アスラン、最近カメレオンにこだわりますね」
「少しな」
「とにかくだ」
イザークが話を戻しにかかってきた。
「あの連中をどうするかだが」
「とりあえずステラでも呼ぶか?」
「ステラをか?」
アスランはディアッカの今の言葉に突っ込みを入れた。
「それはどうかな」
「駄目か、それだと」
「いや、もうステラは」
「どうなったんだ?」
「酔い潰れているんだ」
「何ィ!?」
これを聞いて顎が外れんばかりに驚くディアッカだった。
「こんな時にかよ!」
「もうはじめている奴ははじめているからな」
「くっ、それにしても早過ぎるぞ!」
「ウォッカボトル一本一気飲みすりゃそれこそね」
「潰れるわよ」
ルナマリアとメイリンが状況を説明する。
「だから今ステラちゃんは無理よ」
「そっちは諦めて」
「まずいな、こりゃな」
「いや、ちょっと待ってくれないか」
今度はサイが出て来た。
「サイ、策があるんだな」
「うん。まずは二人の側に肉を置いておこう」
「肉をかよ」
「そうすれば二人は食べ物につられて喧嘩を止める筈だよ」
「何かそれって」
トールはそれを聞いて呆れた顔になっていた。
「動物みたいだね。そのままっていうか」
「というか人間じゃないみたいだよ」
カズイの突っ込みも容赦がない。
「それだと」
「まあそれでも喧嘩が止められるんならね」
「いいんだね」
「そういうこと」
ミリアリアがキラに答えた。
「じゃあ早速羊の生肉でも」
「生肉ってなあ」
ディアッカは本当に生肉を置くミリアリアを見て呆れた声を出していた。
「そんなの食ったら本当にまともな人間じゃねえぞ」
「まともじゃないっていうか」
それどころではない、キラも言う。
「シンもカガリも。もう何が何だか」
「手前、今度こそ!」
「むっころす!」
周りの呆れた顔と喧騒をよそに二人の喧嘩は続く。何はともあれ二人は相変わらず喧嘩を続けては周囲を困らせていたのであった。

第七十一話完

2008・8・8
 
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