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星河の覇皇

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第一部第四章 若き獅子その三


「教育システムや後方任務、部隊編成、通信設備、そして装備・・・・・・。何から何まで違いますからね。それを一つに統一するのだけでも大変ですよ」
「これどこれが達成されたら連合にとって大きな力になるわね」
「はい。今までのまとまりの悪い国家連合ではなく中央の程良い統制の下まとまったものになるでしょう。中央軍はその柱となります」
「そうね。やっぱり統一された軍というものの存在は大きいわ」
 これは何時の時代も変わらない。それが無かった今までの連合は中央政府の権限はあまりに弱く各国の利害調整により運営されていたのだ。
「けれどもうそんなのは止めたほうがいいわね」
「そうですね。エウロパみたいにとはいかなくとももう少しまとまりのあるものにならなければ」
 エウロパは中央、それも元首である総統の権限が強い。各国の政府は国王や大統領等象徴的な元首が存在する程度である。法はエウロパ中央政府の法しかなく議会も中央議会の権限が圧倒的に強い。
「じゃあ期待しているわよ。私の愛すべき弟がどうやって軍を作り上げていくか」
 彼女はよく彼を自分の弟子とか弟とか冗談で言う。実際に彼は大学時代彼女の講義を受けたこともある。彼女にしても彼は本当の意味での愛弟子であった。
 食事は終わった。そして伊藤は連合の財務相との会談に向かった。八条は仕事だ。
「さて、と。やることはこれからもどんどん増えていくぞ」
 彼は執務室に戻ると苦笑しながら席に着いた。
「長官、お電話です」
 早速電話が鳴った。インドネシア政府の高官からだ。
「はい、それは以前お話した通りです」
 彼の仕事は続く。連合軍は今その産声をあげたばかりである。彼はその父となるのであった。

「そうか、連合も遂に統一された軍隊を持つに至ったか」
 マウリアの首都ブラフマー。ヒンドゥー神話の創造神の名を冠するこの星はマウリアの心臓とも言える存在である。
 この国は中央政府の権限はそれ程強くはない。といっても連合のような国家連合ではないから連合程いちいちもめたりはしない。彼等は地方にその権限の多くを委譲させていおるのである。
 その中央政府大統領官邸で一人の壮年の男性が部下からの報告を受けていた。マウリア主席マガバーン=クリシュナータである。
 インド風の白い服とズボンを着ている。頭にはターバンが巻かれている。これは古より変わらないインドの服装である。
 マウリアで最大の人口を擁する北方のヴィシュヌ星系の家に生まれた。この時代カースト制度は法律的にはなくなっていたが生まれはそれほど悪くはなかった。順調に大学に進み普通の企業に入った。そして独立したところで頭角をあらわしたのである。
 彼の経営センスは傑出していた。忽ち巨万の富を築き大富豪となった。そして政治家に転身しそこでも秀でた才を発揮した。そして遂に国家主席に選ばれたのだ。浅黒い肌に彫りの深い顔立ち、黒い肌に瞳を持つ痩身の男性である。背はマウリアの男性では普通位である。
「はい。その数九十億、艦艇にして三千万に達するこれまでにない規模の軍です」
 部下である若い男は姿勢を正し報告した。
「ふむ。それはまた凄い数だな」
 クリシュナータはそれを聞いて言った。
 彼は今主席の官邸にいる。見ればこの官邸もインドのものである。彼等は昔ながらの文化を固辞しているところがある。この官邸にも多くのそういった装飾品が置かれている。寺院に行けば多くの神々の色彩豊かな像がある。
「それ程までの規模の軍なぞ今まで見たとこも聞いたこともない」
 彼は他人事のように言った。
「閣下、お言葉ですが」
 部下はそんな彼の様子を見て心配そうな顔になった。
「あまり他人事ではありませんぞ」
 それだけの軍が誕生したとなるとその影響力は連合内にだけ留まるものではない。この人類社会全体に及ぶ問題である。
「今我々は彼等とは長年に渡る友好関係を保っておりますが」
「それでも彼等の存在を忘れてはならない、と言いたいのだな」
「はい、若しも彼等がその関係を放棄し我が国に雪崩れ込んで来たならば・・・・・・」
「その時は瞬く間に蹂躙されるな。数が違い過ぎる」
 クリシュナータは落ち着いた声で言った。その通りであった。
 連合の人口は三兆、それに対するマウリアの人口は二千億と言われる。だが彼等は連合各国やエウロパのように厳密な人口統計をとっているわけではないので実際はそれよりもずっと多いと言われている。だがそれでも大きな隔たりがあるのは事実である。
 それは軍の規模に直結する。マウリアの兵力は四億程度である。彼等は連合と友好関係にあり隣接するサハラは多くの小勢力に分裂しておりさ程軍備を必要としなかったのである。国境警備と治安維持さえ出来ればそれでよかったのである。
「そうです、今のうちに手を打たないと大変なことになります」
 部下は深刻な表情でクリシュナータに対して言った。
「そうだな。では軍の拡張と国境線の防衛の強化をするように」
「ハッ、他には!?」
「とりあえずはそれだけでいい」
 彼は落ち着いた声で言った。
「あの、連合は九十億の軍を持ったのですよ」
 部下は彼のその声に今度は呆然となった。
「だからといってすぐに動けるというものではあるまい」
 彼は部下に対して言った。
「今彼等はその膨大な軍を本当に統一された軍にする為に必死だ。今は積極的な行動に出ることは出来ない」
「そうでしょうか」
「そうだ。制服の生地から艦艇まで何もかもが全く異なるのだぞ。それを一つにするまでには時間がかかる。それまでは気にする必要はない。そして我々はその間に備えをしておけばよい」
「それでよろしいでしょうか」
「うむ。それに彼等はまず領内の海賊を一掃させるだろう。それからまずはエウロパだろうな。それに開拓をさらに進めたいだろうし」
 連合にはまだまだ開拓するべき星系が無限に広がっているのである。
「我々も南方に開拓すべき星系を多くもっておりますがな。しかし彼等のそれには遥かに及ばないでしょう」
「だろうな。それだけでも彼等は恵まれている」
 その通りであった。連合やマウリアはまだ進むべき場所がある。だからこそ戦争に入らなかったのだ。
 しかしエウロパにはそれがない。これ以上の人口を養うにはサハラへ進むしか道はなかったのである。
「連合に頭を下げるわけにはいきませんからな」
「それにお互いの交流を絶っている。だからサハラ東方が栄えるのだ」
 サハラ東方にはサハラでは最大の国がある。彼等は連合、エウロパ、そしてマウリアと国境を接しているという利点を活かし中継貿易で大きな富を得ていた。
「もし彼等がサハラ東方に進出したら大変なことになりますね」
「うむ。そうならない為に色々と手を打っておく必要があるかもな」
 二人は話が終わるとその場を後にした。そして別の仕事に取り掛かった。
 
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