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第二章

「そうしていたよ」
「そうだよな」
「楽しかったよ」
 朝も夜も一緒だった、大学を卒業しても。
 仕事は別の場所だった、だがそれでもだった。
 家に帰れば一緒だった、休日も。
 俺達は本当にいつも一緒だった、そして気を遣い合っていた。
 その俺にツレは言ってきた。
「御前な、俺に対しても他の奴にもそうだけれどな」
「ああ」
「気を遣い過ぎなんだよ」
 こう言ってきた。
「誰にもな」
「あいつもか」
「それが駄目なんだよ。気を遣い過ぎるとな」
「辛いんだな」
「優しさってのは過ぎると重しになるんだよ」
 枷、それになるというのだ。
「だからな」
「駄目だったんだな」
「ああ、少しな」
 ほんの少し、それでもだと言ってきた。
「御前もあの娘もな」
「気を遣わなかっらたな」
「やっぱり違ったと思うぜ」
「そうか」
「そうなんだよ、まあ今言っても仕方ないけれどな」
 ツレも少し達観した目になっていた。
「今度からな」
「そうだよな、次の恋愛の時な」
「そうしろよ。けれどな」
「どうもな」
 次の恋愛、その話になるとどうしてもだった。
 俺は寂しい苦笑いになってそうして言った。
「まだまだかな」
「失恋の痛手か」
「それだよ、こんなのあっさりなくなるって思ってたけれどな」
「いや、そうはならないさ」
「無理か」
「心の傷ってのはそう簡単に癒されないんだよ、俺だってな」
 今度はツレの話だ、俺とこいつは長い付き合いだ。 
 過去にあったことも知っている、その話はというと。
「振られてな」
「ああ、高校の時な」
「その時俺随分言われてただろ」
「振られた理由も酷かったな」
「俺がデブだからってな」
 今も太っている、しかも丸眼鏡で髪の毛も伸ばしている。所謂ヲタク風の外見だがそれ故にだったのだ。
「告白してもな」
「相手に大泣きされてデブは嫌って言われてな」
「高校三年の間ずっと言われたろ」
「覚えてるさ、その時のことは」
 俺も見ていた、だから知っていた。
「学校中の奴が言ってたな」
「言わなかったのは御前だけだったな」
「そんなこと言って何になるんだよ」
 その時からそう思っていた、こいつが傷付いていたのはわかっていた。
 それであれこれからかうと余計にダメージを受ける、だから俺は言わなかった。
「言う奴の方がおかしいだろ」
「それも気遣いでな、御前の」
「それもか」
「そうだよ、そしてな」
 しかもだった。
「俺もダメージ受けて今もな」
「恋愛出来ないんだったな」
「そうだよ、失恋ってのは痛いんだよ」
「それがよくわかったさ」
 喫茶店でこんな話もした、そして。
 部屋に帰ると一人だった、寒い部屋にベッドがあって他の家具や電化製品があって。
 いるのは俺だけだ、今帰って来た俺だけだ。
 ベッドの中にも誰もいない、それでだった。
 俺はプレイステーションの電源を入れて帰り道のコンビニで買った弁当を食いながらゲームをした、そうしてだった。
 一人でゲームをした、今日もそうした。
 部屋に帰っても一人、普段でも一人。
 ツレはいても彼女はいない、車に乗る時も。
 いつも一人だった、その一人でいる俺に。
 周りは時々笑顔でこんなことを言ってきた。
「合コン行くか?」
「それとも誰か紹介しようか?」
「あっ、いいよ別に」 
 俺はいつもこう答えた。 
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