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あの頃に戻れるのなら 

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第一章

                   あの頃に戻れるのなら
 俺は喫茶店でツレに苦笑いで言った。
「やっぱりな」
「一年経ってもな」
「ああ、辛いな」 
 コーヒーを飲みながら苦笑いだった。
「本当にな」
「けれどあれだろ、御前の方から言ったんだろ」
「そうさ」
 俺はその問いにはっきりと答えた。
「俺の方からな、別れようって言ったさ」
「それで別れたのにか」
「あの時実は別れたくなかったんだよ」
 本音だった、この本音は今も変わらない。
「絶対にな。けれどな」
「じゃあどうして別れようって御前と一緒にいたんだよ」
「辛かったんだよ」
 自然と俯いて寂しい笑みになった、それがわかっている言葉だった。
「二人でいてもな」
「浮気とかじゃないよな」
「違うさ、喧嘩もしてなかったさ」
「仲よかったよな」
「本当にな。けれどな」 
 それでもだった、俺はさらに言う。
「もう何か、お互いに気を遣い過ぎててさ」
「それが辛かったんだ」
「だからだよ」
 それでだったのだ。
「俺はあいつに別れ話を出してな」
「あの娘も受けたんだな」
「泣いてたけれどな」
 泣いていた、けれどそれでもだった。
「頷いたさ」
「それでだったんだな」
「それが一年前でな」
 一年は長い、その一年の間に。
 俺は色々やった、ファッションも変えたし車の内装もそれまではシンプルだったのを華やかにしてみせた、けれどだった。
 俺はあいつを忘れられなかった、それでだった。
 今こうしてツレに言ったのだ。
「変わらねえな、俺は」
「みたいだな。未練か」
「女々しいよな」
 自分で自分がわかっている、嫌になる位。
 それでもわかっていても、俺は今言った。
「未練たらたらでさ」
「ああ、聞いていてもそう思うさ」
 ツレも俺にこう言ってくる。
「どうもな」
「そうだよな」
「けれどな、誰だってそうなるからな」
 別れればというのだ。
「仕方ないさ、だからな」
「聞いてくれるんだな」
「気にするな、俺だってそうなるだろうからな」
「そうか、悪いな」
「礼はいいさ。まあ言うだけ言えよ」
「じゃあ言わせてもらうな」 
 俺は目の前のこいつの好意が本当に有り難かった、それでだった。
 俺はとことんまで言った、馴れ初めのことも。
 その頃は俺も何も知らなかった、その俺に。
「あいつな」
「優しかったんだな」
「本当にな。あんないい娘いるってな」
 思わなかった。
「それで惚れてな」
「付き合ったんだったな」
「学校のこともな」
 この町に来たてだった、それで町のことも教えてもらった。
「本当に何でも教えてもらったよ」
「一緒に暮してたよな」
「ああ」
 俺はまた答えた。
「ずっとな」
「朝まで一緒にいたりしたよな」
「そうさ」
 このことも答えた。 
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