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チェネレントラ

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第一幕その五


第一幕その五

「やあ、これはどうも」
 恭しく従者に頭を垂れる。従者はそれに挨拶を返す。
「して殿下は」
「もうすぐお着きになられます」
 従者はそう答えた。
「左様ですか。それでは」
 マニフィコはそれを受けて娘達に顔を向けた。
「その間に準備を整えておくように」
「畏まりましたわ、御父様」
 彼女達はそれを受けて恭しく挨拶をする。
「それでは」
 そしてその場を後にする。マニフィコはそれを見送ってから従者に顔を戻した。
「困った奴等でして。何しろ鏡の前に行くとそこから戻って来なくなるのです」
「はあ」
「しかしすぐに戻りますのでご安心下さいませ。宜しいですかな」
「勿論です」
 従者はそう答えた。顔では大人しく頷いているだけであったが実際は色々と考えていた。
(何か変わった男だな。威厳あるつもりだが滑稽にしか見えない)
 マニフィコを見ながらそう考えていた。
(娘達もだ。貴族というよりは喜劇役者のようだが。だがあの娘は違う)
 ここで彼の後ろにいるチェネレントラに顔を向けた。
(我が師アリドーロが教えてくれた心優しき娘。あの娘に違いない)
 彼にはわかっていた。そしてまたマニフィコに何か言おうとする。だがここで扉の方から大勢の人々が入って来た。
「殿下が来られました!」
「えっ」
「早くしろ、早く!」
 マニフィコは娘達を急がせる。彼女達はそれに従い部屋から飛び出て来た。そして下に降りて来る。チェネレントラは台所の方に身を隠した。そこからそっと見ている。
 先頭にいるのは先程の大男であた。彼は一行の先頭に立ち屋敷の中に入って来た。そしてその中で一際見事な服に身を包んだ青年が出て来た。大柄で人なつっこい顔をしている。髪と目は黒く、とりわけ目は大きい。まるで皿のようである。
「殿下であらせられます」
 従者はその大柄な青年の前に来てそう言った。
「これは」 
 マニフィコト娘達は頭を垂れる。
「御会いできて光栄であります」
「うむ」
 王子はそれを受けて満足そうに頷いた。
「顔をあげて」
「はい」
 マニフィコ達はそれを受けて顔を上げる。そして王子の顔を見た。王子は三人が顔を上げたのを受けて言った。
「今日私がここに来た理由はわかっているね」
「勿論でございます」
 三人はそれに応える。
「じゃあ話は早い。私のお妃だが」
「はい」
「美しく、そして聡明でなければならない。それでいて心優しく気品があり高貴で。その様な女性を探しているんだよ」
「それでしたら」
 ティズベとクロリンデが前に出ようとする。だがマニフィコがそれを止めた。
「待て」
 そして娘達に小声で囁く。
「どうしてですの」
「慌てるな。焦っては駄目だ」
 彼は娘達に対して囁く。
「慎み深そうに見せるのだ。よいな」
「ええ、わかったわ」
 二人は父の言葉を理解して頷いた。それから三人は何やら相談をしている。それは王子も同じであった。
「殿下」
 何故か王子が従者の耳元で囁いていた。
「これで宜しいですね」
「ああ」
 従者はそれを聞きながら頷く。
「ダンディーニ、中々いいぞ」
「有難うございます」
 彼はそれを受けて微笑んだ。
「どうやら彼等はラミーロ様のお顔を知ってはいないようですね」
「まあ普通はそうだろうな」
 彼はそれを受けて頷いた。
「普通は儀式やら応接やらで宮殿から出られないからな。ここに来るのもはじめてだしな」
「そういえばそうでしたね」
「うむ。しかし市井というのもいいものだな」
「そうでしょう」
 王子、いや仮の王子であるダンディーニはそれを受けて微笑んだ。
「庶民の暮らしをお知りになるのもいいことですよ。アリドーロ様もそう申し上げておられましたが」
「どうやらそうみたいだな。ではな」
「はい」
 従者、いや実は本当の王子であるラミーロはダンディーニから離れた。そして丁度相談を終えたマニフィコ達に顔を向けた。どうやら彼等はあえて王子の替え玉を立てて何かと見ているらしい。
「ドン=マニフィコ男爵だったか」
「はい」
 マニフィコは名を呼ばれてそれに応えた。
「そこにいるのが卿の娘達だな」
「左様でございます」
「ふむ」
 ダンディーニはそれを受けて頷いた。そしてティズベとクロリンデを見る。
「見た?」
「ええ」
 見られた二人はそれぞれ囁き合った。
「殿下は私達の方を御覧になってるわよ」
「わかってるわ」
「いい調子よ」
「そうね」 
 彼女達はもう王妃になった気分であった。マニフィコもそれを見て満足そうである。
「これでよし」
 満面に笑みを浮かべて笑っている。頭の中ではもうこれからのことについて考えている。
 
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