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チェネレントラ

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第一幕その四


第一幕その四

「そなた達はその頭を使わなければならない」
「はい」
「わかるな。服装や話し方に心を配れ、そして王子の心をその手の中に収めるのだ」
「わかっております」
 二人の娘はにこりと微笑んでみせた。
「この笑顔で」
「よしよし」
 マニフィコはその笑顔を見て安心したように笑った。
「頼むぞ、ははは。チェネレントラ」
「はい」
「これをなおしておいてくれ。ではな」
 三人は話を終えるとそれぞれの部屋に戻った。後にはコーヒーを片付けるチェネレントラだけが残った。彼女は台所にそのカップと皿を持って行こうとした。その時であった。
「御免下さい」
 扉を叩く音がした。彼女は台所に駆け込みカップと皿を置くとすぐに戻った。そして扉を開けた。するとそこには先程の一行の制服を着た若い男がいた。
 見れば従者の服を着ているがとても只の従者とは思えなかった。黒い髪は見事に整えられ黒い瞳を持つその顔は優雅に微笑んでいた。口も赤く顔立ちも軽やかなものであった。そしてその立ち姿も優雅でありまるで貴族、いや王族の貴公子のようであった。
「貴方は」
「私ですか」
 その若い従者はチェネレントラに問うた。
「はい」
「私は従者です。実はこの屋敷に用がありまして」
「用件・・・・・・何でしょうか」
「この家にマニフィコ男爵のご令嬢がおられますね」
「はい、そうですけれど」
「どなたでしょうか」
「三人おりますが・・・・・・」
「おや」
 従者はそれを聞いて不思議そうな顔をした。
「二人ではなかったのですか」
「それは建前のことで。男爵家ながら貧しく」
「娘は二人までしか育てられないと」
「そうなのです。上の二人の姉はいいのですが末っ子の私が」
 チェネレントラはそう言って悲しい顔をした。
「この通りの姿なのです」
「何と」
 従者はそれを聞いて思わず嘆息した。
「事情があるにしろそれはあまりではないですか」
「仕方ないのです」
 彼女は悲しい顔のままそう答えた。
「私は男爵の本当の娘ではないのですから」
「本当の娘ではないとは」
「はい」
 彼女は従者に対して話をはじめた。
「私の母は寡婦でした。そして男爵と再婚したのです」
「ほう」
「上の二人の姉は男爵の連れ子でした。つまり私は継子なのです」
「だからですか。そんな服を着せられているのは」
「服だけではありません。私は家事の一切をやっております」
「それはまた」
「うちは貧しいから。仕方がないのです」
 彼女はここで微笑んでみせた。
「こんな話をしても仕方ないですけれどね」
「いえ」
 従者はそれを否定した。
「そんなことはありませんよ」 
 彼は優しい声でチェネレントラに対してそう言って慰めた。
「貴女がお優しい方であるというのはわかります」
「どうしてですか?」
「その瞳です」
 従者はチェネレントラの瞳を見て語った。
「瞳が」
「そうです。私は師に言われました。人を見るにはその瞳を見よ、と」
「はい」
「貴女のその瞳はとても綺麗で澄んでいる。心根の汚い者はそんな瞳は持ってはいない」
「そうでしょうか」
「私はそうだと思います。ですから私は」
「私は」
 続きを語ろうとした。だがここでそれぞれの部屋から二人の姉達が出て来た。
「ねえチェネレントラ」
「ん!?」
 従者はそれを見て顔を上げた。そして二つの部屋をそれぞれ見た。
「ちょっと来て」
「こっちも」
「はい」
 チェネレントラはそれに従い部屋に向かった。一つが終わればもう一つに。まるで小間使いのようであった。
「ふむ」
 従者はそれを見ながら考えていた。その目はチェネレントラから離れることはない。
「あの瞳からは唯ならないものを感じる。何という美しい瞳か。そしてその姿も」
 粗末な服を着て汚れてはいるが彼にはしかと見えていた。彼女の美しさが。だからこそ彼女から目を離さないのであった。
「素晴らしい、何と素晴らしい娘なのだ。是非私の妻にしたい。しかし」
 彼はここで屋敷の中を見回した。
「マニフィコ男爵は何処だ。確かいる筈だが」
「従者殿が来られたようだな」
「はい」
 ここでマニフィコの部屋の奥から声がした。そしてチェネレントラに案内され彼が姿を現わした。二人の姉達はその後ろについた。
 
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