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戦国異伝

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第二十二話 策には策でその九


「そなたが残れ」
「それがしがでございますか」
「そなたならば斉藤や今川が今何かしてきてもだ」
 対することができる。それでだというのだ。
「だからじゃ。よいな」
「わかりました。それでは」
「残すのはこの二人じゃ」
 ここにいる家臣達ではというのであった。
「他の者はわしと共に上洛せよ」
「都ですか」
「我等が」
「都だけではない」
 信長はだ。こうも言って笑ってみせてきたのだった。
「そこだけではないぞ」
「といいますと」
「他には」
「その時にわかる」
 今ではない。だが確実にだというのである。
「道はもう決めてあるからのう」
「やれやれ、またでござるか」
「殿の悪い癖でございますな」 
 ここで苦笑いと共に言ったのは丹羽と滝川だった。
「そうしてここぞという時まで隠されて」
「我等を驚かせるのですな」
「そうでなくては何が面白いか」
 それを堂々と認めて笑ってみせる信長であった。彼もわかっていた。
「違うか?それは」
「敵を欺くにはまずはですか」
「味方からだと仰るのですね」
「そういうことよ。まあ連れて行くからにはじゃ」
 どうかというのであった。信長も家臣達はしかと見ていた。
「決して悪い場所には連れて行かぬ。むしろ」
「むしろ?」
「むしろでございますか」
「よい場所じゃ。これからのことも考えておる」
 既に信長は尾張一国だけで終わるつもりはなかった。さらに先を見ているからこそだ。こう家臣達に対して述べるのであった。
「よくな」
「だからこそ我等をですか」
「共に」
「そういうことじゃ。わかったな」
 池田と堀にも述べた。
「さすれば。用意ができ次第じゃ」
「都にでござるな」
「そこに」
「公方様も中々面白い方と聞く」
 信長は将軍のことも話すのだった。足利義輝のことだ。
「剣の腕はかなりのものらしいな」
「はい、そうです」
「それはかなりのものとか」
 今答えたのは佐久間重盛と蜂屋だった。
「免許皆伝にまで至っています」
「剣では天下に並ぶ者は五人といないとか」
「しかし」
 ここでだった。山内が袖の中で腕を組んでこう言った。
「果たして公方様がそこまで剣を極められる理由があるのか」
「そうよのう、それは」
「確かにその通りじゃ」
 山内の今の言葉に堀尾と中川が応えた。
「公方様ともなれば護る者がおるぞ」
「それも結構な数がな」
「しかしそれで剣をじゃと」
「幾ら乱世とはいえ」
 村井と坂井も同じ考えだった。
「公方様ともなればそれよりも兵法の方がよいのではないか」
「そう思うが」
「わしもそう思うがな」
 それは信長も同じ考えだというのであった。そしてこう言うのであった。
「身に着けるのならばだ」
「それならばですか」
「何がよいと言われますか、殿は」
「水練と馬術じゃな」
 彼が言うのはこの二つであった。 
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