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戦国異伝

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第二十二話 策には策でその十


「どちらもじゃがな」
「水と馬ですか」
「その二つですか」
「人間逃げる時は身一つよ」
 信長は撤退の時のことを考えて言うのであった。
「さすれば。幾ら剣を極めようともじゃ」
「逃げられはしない」
「だからですか」
「一人で百人を相手にできるものではない」
 信長はこうも言った。
「さすれば逃げる時は逃げるしかあるまい」
「ううむ、わしならいけますが」
「わしもです」
 ここで言ったのは慶次と可児であった。二人も連れて行くというのである。
「槍さえあればでござる」
「それこそ千人でも」
「その意気はよいが剣でできるものか」
 信長は二人がそれぞれ槍の使い手であることから話した。
「槍を振り回すのとは訳が違うであろう」
「確かに。剣では限りがありもうす」
「それでは限度がありますな」
 二人も剣ならばであった。槍ならばともかくというのだ。
「槍は振り回せばそれで斬らずとも叩くことができますが」
「それでもかなりの威力がありますが」
「剣はそうはいかぬ」
 また言う信長だった。
「公方様も思うところがあられるのだろうがな」
「それでも解せぬものがある」
「そういうことでござるか」
「それも確かめておきたいものよ」
 信長が考えているのはこのこともだった。考えていることは一つではなかった。
「じっくりとな」
「では都で見るものは多いでござるな」
「それもかなり」
「そうじゃ。しかも都だけではないぞ」
 これも言う信長だった。
「よいな、それも申し伝えておくぞ」
「わかりました。では」
「いざ」
「それはそうとしてじゃ」
 ここまで話してだ。信長はその顔を笑みに戻してこんなことを言うのだった。
「甘いものも食いたいのう」
「甘いものですか」
「それをでござるか」
「うむ、都は荒れ果てていると聞くが」
 それは天下に知られていた。応仁の乱から都はそうなっているのだ。
「だが茶や菓子はあるというしのう」
「またですか」
「それでござるか」
 林兄弟が呆れながら苦笑いで言葉を返してきた。
「全く。殿は昔から」
「その二つに目がないですから」
「酒は飲めぬがそれはですか」
「それは変わりませぬか」
「うむ、甘いものと茶はな」
 信長もだ。それを笑いながら話すのだった。
「いいものだ」
「しかしですぞ」
 平手の代わりにだ。柴田が言うのであった。
「殿、甘いものもいいですが」
「何じゃ権六」
「歯を磨くのは忘れてはなりませんぞ」
 柴田がここで言うのはこのことであった。
「甘いものは歯に悪いですからな」
「むっ、では虫歯か」
「左様でござる。そうなってしまえばことですぞ」
「ううむ、わしも歯を抜くのはな」
 信長もそれにはいい顔をしなかった。 
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