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戦国異伝

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第十五話 異装その十一


 猿の面を斜めに被って顔を出している男だ。毛皮を着てそのまま猿になりきっている。仕草も猿そのままにしているその男を見ていたのだ。
 そのうえでだ。彼は言った。
「あの猿面冠者ですが」
「あの猿そっくりの者か」
「あの者、身体は小さいですが」
「腕は立つか」
「いえ、おそらく刀も槍も不得手です」
 そのことはすぐに見抜いていたことだった。
「弓も鉄砲も間違いなく」
「下手だな」
「武芸そのものは不得手でしょう」
「そうですね」
 竹中も明智のその言葉に頷く。
「実際馬に乗っていますがそれも」
「不自然だな」
 不破は一言だった。
「どう見ても慣れてはおらんな」
「はい、間違いなく」
「武芸はできませぬ」
 また言う明智であった。
「しかし。武芸だけではありませぬから」
「他のことがだな」
「かなりのものかと」
 道三にも話す。
「あの者、これからかなりの者になるでしょう」
「その様な男も婿殿のところにはいるか」
「あくまで。家臣の一人として」
「ふふふ、面白いのう」
 ここで楽しげに笑った道三だった。
「それではだ」
「はい」
「それでは」
「いよいよその婿殿だ」
 他ならぬ信長について言う。
「来るぞ」
「そうですね。その織田殿ですが」
 竹中が考える顔になって主に話す。
「どうした格好で来られるかは」
「わからぬか」
「どうも。読めませぬ」
 こう言うのである。
「それについてはです」
「御主でもそうなのか」
「何か突拍子もないことは考えておられるでしょう」
 それはわかるというのだ。
「ですが。具体的に何をしてこられるかといいますと」
「そうであろうな」
 道三は竹中の言葉にまたしても楽しげな笑みを浮かべるのだった。
「それは」
「不思議ではありませんか」
「そうだ、不思議ではない」
「それはまた何故」
「これは知恵や知識でわかるものではない」
 竹中のその深い智に満ちた目を見て話す。
「そうしたものではないのだ」
「といいますと」
「感じるものだ」
「感じるものですか」
「そうだ、それでわかるものだ」
 その織田の家臣達の後ろを見ながらの言葉だった。
「それでな」
「感じる、ですか」
「知識や知恵も必要だがそれに加えてだ」
「感じることなのですか」
「それでわかる。我が婿殿がどういった格好で来るかはな。そして」
 さらに言った。
「何を考えているのかもだ」
「それもですか」
「感じてわかるものなのだ」
「ううむ、それは」
「それも生きていればわかる」
 まだ若い竹中を見て。道三は彼に告げたのだった。 
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