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八条学園怪異譚

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第一話 湧き出てきたものその四


「聖花ちゃんはね」
「だといいけれど」
「だって。聖花ちゃん奇麗だから」
 だから男の子達は見ることは愛実は知っていた。それと共に。
 その中で今確かに感じた。その感情を。
「私なんかと違って」
「そんなことないわよ」
「あるから。奇麗なだけじゃなくて」
 それに留まらないというのだ。
「頭もいいしかるたもできるし」
 こう言っていくのだった。
「何でもできるじゃない。私なんかと違って」
「だからそれは」
「聖花ちゃんは幸せになれるから。将来あれよね」
 聖花が以前自分に言ったこともだ。愛実は俯きながら言った。
 顔は前を向いている。身体も。だが顔は夕刻の中で俯いていた。聖花は見ていない。
 そのうえでだ。こう言ったのである。
「弁護士さんになりたいのよね」
「うん、将来はね」
 聖花はすぐに答えてきた。
「そう考えてるけれど」
「そう。弁護士さんになの」
「困ってる人を助けたいの」
 聖花は前を向いて話す。
「だからね」
「そうよね。聖花ちゃん頭がいいから」
「けれど愛実ちゃんも」
「私はもう決まってるから」
 諦めている口調でだ。愛実は返す。
「将来はね」
「あれ?食堂?」
「お姉ちゃんが跡を継ぐかも知れないけれど」
 だがそれでもだ。可能性は零ではないというのだ。
「それでもね」
「食堂を継ぐのね」
「お父さんにもお母さんにも言われてるの」
「愛子さんか愛実ちゃんが」
「そんな。弁護士なんてね」
 輝かしい仕事に見えた。愛実には。
「とても。頭もよくないし」
「けれど愛実ちゃんも」
「聖花ちゃんまたクラスで一番だったよね」
 聖花が言う前にだ。愛実はこう返した。
「そうだったわよね」
「それはまあ」
「私十二番だったのよ」
 愛実のクラスでそうだったというのだ。四十人いるクラスで十二番だ。それは決して悪くはない。だがそれでもだとだ。愛実は言うのである。
「そんな。一番なんて」
「成績は。それは」
「一番は一番よ」
 聖花にだ。有無を言わせないかの様な言葉だった。
「凄いじゃない。それに」
「それにって?」
「私より背も高いし奇麗で」
 その話にもなった。外見の。
「いい人と結婚できるわよね」
「私はそんな」
「いいわよね、聖花ちゃんは」
 愛実は俯いたままだった。そのうえでの言葉だった。
「本当に」
「だから私は」
「言わなくていいから。どうせ私なんて」
 聖花は言えなかった。前を向いたまま俯いている愛実に。
 愛実はそのまま俯いて言う。今度の言葉は。
「このままずっとトンカツを焼くから」
「あっ、トンカツだけれど」
「トンカツがどうかしたの?」
「今度。愛実ちゃんの焼いたトンカツ食べさせて」
 とにかく今の重苦しい空気を変えたかった。それでだ。
 聖花はこう愛実に言った。愛実はいつも自分の店で一番美味しいメニューとしてトンカツ定食やカツ丼を挙げる。だからその話題にしたのだ。
「そうさせてくれるかな」
「私のトンカツ?」
「うん、焼いてくれる?」
 何とか笑顔になってだ。愛実に言うのだ。 
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