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八条学園怪異譚

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プレリュードその十二


「いいな。絶対にな」
「それで妬んだら」
「人は一番醜くなるんだ」
「お友達を妬んだら」
「一番駄目だからな」
「私そんなことしないよ」
 まだ幼い愛実は自分がそんなことをする筈がないと思っていた。ただ無邪気にだ。
 そのうえでこうお父さんに答えたのである。
「聖花ちゃん大好きなんだよ。それで妬むなんて」
「絶対にしないな」
「うん、しないから」
 こう言ったのである。
「何があってもね」
「だといいがな。とにかく忘れるな」
「そうするからね」
「心は顔にも出るんだ」
 次はこのこともだ。お父さんは愛実に告げた。
「いいことを思えばいい顔になる」
「悪いことを思えば悪い顔になるのね」
「そうだ。目にも出るからな」
「目にもなの」
「いい目になるんだ」
 そう言うのだった。
「濁った悪い目にはなるなよ」
「うん。よくわからないけれど」
「今はわからなくていいからな」
「いいの?」
「覚えていればいいんだ。心の何処かにな」
「じゃあ覚えておくね」
 愛実はまた頷いた。とはいってもこのことも理解はしていなかった。ただ頭の片隅に入れておいただけだ。無意識の中にそうしただけである。
 そうした話をしてだ。お父さんは愛実の手を握って最後に告げた。
「戻るか」
「お家に?」
「またトンカツを揚げないといけないからな」
「トンカツ?」
「海老フライかも知れないけれどな」
 愛実の家の食堂では海老フライも人気があるのだ。トンカツだけではないのだ。
「とにかくお客さんにいいものを食べてもらわないとな」
「そうよね。お客さん達によね」
「だからお家に戻るぞ」
「うん」
 愛実はここでは笑顔で頷けた。このことについては。
「それじゃあね」
「愛実も大きくなったらトンカツ揚げるんだぞ」
「お店のトンカツよね」
「美味しいトンカツを揚げるんだぞ。その為にはな」
「お父さんやお母さんみたいに料理上手になるのね」
「料理も心だからな」
 ここでもだ。お父さんは心のことを話した。
「いいな。奇麗な心になるんだぞ」
「心はお料理にも出るのね」
「そうだ。出るんだ」
 まさにそうだというのだ。
「だからいい心になるんだぞ」
「うん、そうするね」
 こうした話をだ。愛実もしたのだった。聖花も愛実もお互いに話した。
「人を妬んだら駄目なのね」
「人は信じないといけないのね」
 お互いにこのことを言い合うことになった。
 二人は給食の後に先生に言われた用事をしながら話していた。教室にものを運んでいる。その最中に二人で話をしているのだ。
「いいことはいいって認めて」
「許した人は最後まで信じないと」
「そうしないと悪い娘になるのね」
「そうしないと駄目なのね」
 教室への廊下を歩きながら話していく。
「愛実ちゃんお父さんに言われたのね」
「聖花ちゃんもお母さんに」
「そうなの。人は間違えるからって」
 それからもだ。言われたというのだ。
「それでね。謝ったことを受け入れたら」
「もう二度となのね」
「疑ったらいけないって」
 そう言われたことをだ。愛実に話すのだった。学校の廊下を二人で歩きながら。 
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