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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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EpilogueⅢどっちが勝っても文句なしっby恋する乙女達


†††Sideエリーゼ†††

ふと、わたしは思う。最近のアンナの様子はどこか変だって。
天気が良くて風が強くない日には、屋敷でやっていたようにターニャ邸の庭で執務を行うようにしてた。オーディンさんをシュトゥラに迎えた功績から数日前に子爵に陞爵し、なおかつ新領地アムルの領主になってしまった。本格的なアムル領の統治開始はもう少し先――少なくても2年くらいは、アムル領開拓に時間を掛かってしまうため、しばらくは今まで通りになるみたい。
まぁ領主としての心構えなどの勉強はもう始まってるけど・・・っと、話が逸れちゃった。

「オーディンさん。お茶のお代わり、如何ですか?」

「あ、ああ。貰うよアンナ。ありがとう」

「いいえ、どういたしまして❤」

「「「・・・・・」」」

すっごい満面の笑みを浮かべるアンナ。中庭に設けられた円い食卓を囲って椅子に腰掛けて休憩してるわたしとオーディンさんとターニャは、使用人として立ち仕事してるアンナの、オーディンさんに対する態度の変わりようにちょっと変な汗が。
終戦後、オーディンさん達がヴレデンへと帰って来た時から、アンナは明らかに態度を変えていた。終戦の夜明け、オーディンさん達が帰って来た時、わたしはオーディンさんに抱きついて、おかえりを言おうとしていた。だからオーディンさん達の姿が見えた時、わたしやアンナ、モニカにルファにターニャは駆け寄った。わたしが目指すはオーディンさんの胸。両腕を広げて跳び込もうとした時、

――おかえりなさいませ、オーディンさん❤――

わたしより先にアンナがオーディンさんの胸に飛び込んだ。これにはみんなが呆けた。わたしだって理解できずにポカーンとそれを眺めて、アンナが頬を赤く染めて謝りながらオーディンさんから離れてようやく、

――ええええええええええええッ!?――

オーディンさん、そしてシグナムさんとザフィーラさんとシュリエルさん以外のみんなが叫んだ。そう、あの時からアンナは明らかにオーディンさんを意識し始めている。理由は判ってる。わたしと同じで、オーディンさんに命を救ってもらったから。アンナは洗脳されて、イリュリア戦力としてオーディンさんと戦った話は聞いてる。きっとアンナもそれが理由で、オーディンさんの事が好きになっちゃったんだ。

「アンナ。チーズケーキ(ケーゼクーヘン)、美味しかったよ。ごちそうさま」

「ありがとうございます♪ これからお仕事ですよね。頑張ってくださいね」

「ああ、ありがとう。それじゃあエリーゼ、ターニャ。また後で」

「あ、はい・・」「いってら~」

「いってらっしゃいませ」

困惑一択のわたしとターニャ、使用人として一礼するターニャに見送られながら、医者としてのオーディンさんは、医師見習いのルファとモニカを連れて他の街へと出張に行った。

「エリー、ターニャ。2人はどうだった?」

オーディンさんの食器を片付けるアンナにそう訊ねられてから、「美味しかったよ」ってターニャと一緒に答える。アンナは本当に嬉しそうに「ありがとう♪」ってお礼を言って、鼻歌を歌いながらターニャ邸に戻って行った。わたしはそれを横目で見送ってから、アンナの背中を最後まで見送っていたターニャに目をやる。

「ターニャ。アンナってやっぱりさ・・・」

「あまり考えたくなかったけど、間違いなくディレクトアに惚れてるよね。どうする?」

「どうするって・・・」

ケーゼクーヘンの一片を口に運びながら考える。オーディンさんの想いを独り占めにしたいわたしにとって、アンナの想いは・・・。でも、アンナは小さい頃からわたしの親友で、姉で、とっても大切な家族。そんなアンナの想いを、わたしは否定も邪険にもしたくない。

「私としてはエリーゼを応援したい。でもアンナとも長い付き合いだし、むぅ~」

「オーディンさんは1人。と言うことは、恋人として隣に立てるのはただ1人・・・」

想像してみる。オーディンさんと、その隣に居るわたしかアンナを。正直、第三者的に見ればわたしよりアンナの方がオーディンさんの隣に相応しいと思う。身長もわたしより高い164cmだし、出るトコは出てるし、料理は出来るし、強いし、カッコいいし。
最悪。どう考えても勝てる要素が無い。自分の貧相な体格を見る。そんなに膨らみのない胸、低い身長。有るのは子爵・アムル領領主と言う肩書。食卓に突っ伏して「わたしの魅力ってなに?」ってゴロンと頭を横にしてターニャを見る。

「子供っぽさ?」

「それだけ?」

「子爵、未来の領主」

「他に」

「う~~~~~ん・・・・・・・ごめん」

「うわ~~~~~~ん(泣)」

わたしにはそれ以上何も無かった。泣きたくなるのは当然だ。だけど「あっ、あったあった!」ターニャがわたしの頭を撫でながらそう言う。ずびっと鼻をすすりながら「なに?」って訊き返すと、

「ディレクトアへの想い!」

「ぶふっ?」

まさか真顔でそんな事を言われるなんて思いもしなかったから、思わず吹いちゃった。でも「うん。そうだよね。オーディンさんへの想いなら負けない!」そう言ってわたしは勢いよく立ち上がる。っと、その前に「ごちそうさまでしたっ」残りの紅茶とクーヘンをお腹の中に入れる。

「どこ行くの?」

「ん? ちょこっとアンナのところまで」

アンナと本音で話し合うために。だからそう言うと、ターニャは「喧嘩だけはやめてよ?」なんて言ってきたけど、喧嘩になんてならない。きっとわたしは、アンナの想いを・・・・

†††Sideエリーゼ⇒アンナ†††

「ル~ルル~♪」

台所でオーディンさんが使った食器を洗い、「ふふ。美味しいって褒めてくれたわ♪」自信作のクーヘンが褒められた事に頬の緩みが抑えられない。それにしても。私は恋なんてしないなんて思っていたのに、してしまっている。しかも相手はエリーの想い人。
応援するとか言っておいてこのザマ。口遊んでいた鼻歌は嘆息へと変わってしまう。けど問題はそれだけじゃない。私とエリーの想い人、オーディンさんがずっと隠してきた真実かもしれないもの。

(孤人戦争ルシリオン・セインテスト・アースガルド。テスタメント。世界の奴隷。数千年・数万年。原初王オーディンの末裔)

人間としての血と一緒にこの身に流れる“魔族”と言う怪物の血が見せたらしい記憶を思い出す。もしあれがオーディンさんの真実だとしても、私の想いは揺らがないと思うのだけど。でもエリーはどう思うだろう。オーディンさんへ抱いている想いは私より強いはず。だからこそ辛いわ。もしこの想いが叶わなかった時の事を考えると・・・いいえ、どちらかと言えば叶わない可能性の方がずっと高い。

「・・・・あっ」

両手の力をふと緩めてしまって、皿を落としてしまう。ガシャァンと皿が割れた甲高い音が耳を貫く。

「やってしまったわ・・・」

割れた皿の破片を眺める。とそこに「アンナ!?」エリーゼが勢いよく台所の入り口から入って来た。

「ど、どうしたのよエリー・・・?」

「どうしたじゃないよ! お皿が割れた音がしたから、アンナが倒れたのかって・・・!」

「ちょっと待って。不注意で皿を落として割れたって普通思わない?」

「え? アンナって完璧主義女だから、お皿を落とすなんてドジは踏まないでしょ? だから落としたとなれば、そんな完全カチコチ女のアンナの体に何か不調が――あいたっ!?」

ゴチッ☆と、エリーの頭頂部に拳骨一発を振り落とす。するとエリーは頭を押さえて「痛い!」と睨んで来た。

「完璧主義。まぁそれはいいとするわ。でもね。最後に、女、とか付けない。せめて、者。それに、完全カチコチ女? それじゃあまるで私は融通の利かない駄目女みたいじゃない」

「ほ、褒め言葉のつもりで言ったんだよっ?」

「どこがっ!?」

エリー。あなたの褒め言葉の語録の少なさとセンスの無さに、お姉ちゃん、ちょっと心配よ。それから文句を垂れるエリーと一緒に破片を片付けたあと、エリーに「話があるの」と真剣な表情で誘われた。
断る理由もなく、「判ったわ。お茶、用意するから少し待って」その誘いを受けた。食卓について、お茶で一服。向かいの椅子に腰かけるエリーは「ふぅ」と一息吐いて、深刻そうな表情を浮かべて「あのさ」と前置きした。

「アンナ。わたしの気の所為じゃないと思うんだけど、アンナってオーディンさんの事・・・」

「ええ。好きよ。家族としてではなく、1人の男性として」

なんとなくそんな質問をされると予想できていた。だから戸惑う事なく、そう簡潔に答える事が出来た。エリーは目を見開き、「っ・・・!」ティーカップを包み込むように持っていた両手が強張ったのが見て取れた。

「ごめんね。応援するとか言っておいて、私、オーディンさんのこと・・・」

「ううん。仕方ないって思うもん。嫌だっていうより嬉しいの方が大きいかな」

エリーのその真っ直ぐな瞳を見る事で私は解った。建前じゃなくて本音でそう言っているという事が。ああ、恋する乙女は強い、なんて何かの書物で読んだけど、あながち間違いじゃないかもしれないわね。エリー。私の想いを否定するのではなく、邪険にするわけでなく、受け入れてくれるのね。

「強く、なったわね・・・」

「ううん、弱いままだよ。強がってるだけ。本当はオーディンさんを独占したいって気持ちはまだあるから。でも相手がアンナだから。アンナだからわたしは受け入れられる。もし見ず知らずの女がオーディンさんを好きになったら――」

「なったら?」

「真っ向から斬り捨てる!」

ふふ。聞き分けの良いエリーなんてらしくないわ。お互いにお茶のお代わりをしてのんびりしていると、「それじゃ最後に」エリーが右手を差し伸べてきた。

「どっちがオーディンさんの心を射止めても文句なし。いい?」

「・・・・いいわ」

握手に応じる。満面の笑みを浮かべるエリー。キュッと胸が痛む。どうしようかしら。言うべきなのかしら。オーディンさんの事。けど本人じゃない私に言う資格がない。でも、ただそういう可能性もあるというのは、言っておいた方が良いかもしれないわ。だから「待って、エリー」台所を出ようとしていたエリーを呼び止めると、「どうしたの?」と振り向いてくれた。

「もし、もしよ? もしオーディンさんが私とエリー、両方を選ばないって事にな――」

「諦めないよ。わたしの一方的な想いでも、受け止めてもらえるまで諦めない」

「・・・選ばないじゃなくて選べないなら、どうする・・・?」

血の記憶で、オーディンさんの正体らしき人ルシリオンは言っていた。何千・何万年掛かろうとやり遂げる、と。明らかに人間の寿命を超えている数字。そんなデタラメな数字を出せると言う事は、オーディンさんは人間じゃない事になる。
おそらくオーディンさんは――世界の奴隷テスタメントというのは、一種の生体兵器なんだと思う。元イリュリア騎士団総長グレゴール(彼が率いていた騎士団と一緒に行方不明って噂だけど)のような不死性に改造された・・・・生体兵器。なら、たとえオーディンさんが目的を果たしたとしても、たとえ選んでもらっても、同じ時間を生きる事は叶わないかも知れない。

(気付きたく・・・知りたくなかった・・・!)

初めから報われない恋かも知れない、と知る。けど、私だって諦めたくなんてないわ。所詮は私の憶測。それが真実にして事実だとしても、何か報われる方法が在るかもしれない。だったらエリーのように自分の想いを、どうしようもないほど完全にフラれるまで貫き押し通すまでよ。

「その選べない原因を取り除いて、改めて選んでもらう」

「っ!・・・そう。そうね」

エリーはもう、私なんかが護るまでもなく強くなってしまったのかもしれないわね。話はそれでお終いにして、私はターニャ邸の掃除、エリーは執務に戻る。そして今日もまた大きな事件・事故も起きる事なく夜が更け、オーディンさん達グラオベン・オルデンの皆が帰って来た。

「腹減ったぁ~。アンナぁ、今日の飯なに~?」

「アイリもお腹空いた~」

「あたしも~」

ヴィータとアイリとアギトがお腹を鳴らしながら真っ先に食卓に突っ伏した。それを見たシグナムさんが「手伝え、お前たち」と注意をするのだけど、

「いいえ。構いませんよ。家事は私の仕事なので。シグナムさんも食卓に就いていてください」

「しかし――」

「なら私が手伝おう。ほら、シグナムやシャマル達も席に就け」

オーディンさんが立ちっ放しだったシグナムさんにシュリエルさん、シャマルさんとザフィーラさんの肩を叩いて行き、席に座らせた。台所の卓に置いた料理を盛った皿を、オーディンさんが皆の座る食卓へ持っていく。

「「「私も手伝います」」」「我もお手伝いいたします」

「あ、あたしもやっぱり!」「アイリもやっぱり手伝うね♪」

「おいおい。そんなに人手は要らないぞ?」

2回目の往復の時に全員が一斉に食卓を立って、台所になだれ込んで来てしまった。オーディンさん。あなたが私たちの元へ現れて、世界がガラリと変わった。この日常をこれからも続ける事の出来る術が在るのなら、私は精一杯、見つけようと思うわ。

「遅れてゴメ~ン。って、みんなして台所に集合して狭くない?」

「立ち止まっていないで早く入ってよターニャ。・・・何やってるのみんな・・・?」

仕事で遅れていたエリーとターニャも合流。そしてターニャは何を思ったのか「エリーゼも交ざってくれば!」とエリーの背中を強く押した。

「うわっ?」

「ちょっ、のわっ!?」

「ふえっ?」「ええっ?」

「きゃあっ?」「なっ・・・?」

「痛゛っ?」

半ば突き飛ばされた形でエリーはヴィータに倒れ込み、ヴィータはエリーに突き飛ばされて前に居たアギトとアイリを突き飛ばし、2人は前傾姿勢でシャマル先生とシュリエルさんの膝裏に突っ込み、ガクッと膝を他力で折られた事でシャマル先生とシュリエルさんがオーディンさんにしがみ付くように倒れ込み、

「えっ、ちょっ――ひゃぁああっ!?」

最後に私が巻き込まれ、倒れ込んできたオーディンさんに圧し掛かられて踏ん張る事が出来ず、後ろに倒れそうになった。

「「っ・・・!」」

背後に流し台が在ったおかげと、オーディンさんが踏ん張ってくれたおかげで倒れ込む事はなかったけれど、その代わりにオーディンさんと密着してしまっていた。思っていた以上に広い胸板に頬が当たり、「ぅ・・あ・・・えっと・・・」心臓がバクバクと激しく脈打つ。オーディンさんの背後からアギトの悲鳴らしきものや、アイリの「アイリもギュってして~」と言うお願いの声が聞こえてきた。

(エリーも勇気を出して言った事だし、私も言っておこうかしら)

「すまないアンナ。今退くから・・・ってアンナ?」


「オーディンさん。私は、あなたの事が好きです。知っておいてください」

離れようとしたオーディンさんの両腕を取って止め、そう告白した。さぁ、これで私もエリーと同じ、逃げ道を塞いだ舞台に立つ事になったわ。一歩後ろに引いたオーディンさんの表情は、なるほど。エリーの言う通り困惑一色ね。私にはその理由が解ってしまう。困らせてしまってごめんなさい。それでも私は、エリーもまた、あなたの事を好きになってしまったの。

「エリーゼだけじゃなくて、アンナまでマイスターに告白したぁぁぁあああああああっ!?」

ドタバタ暴れるアギトと、それに乗じてアイリもまた「チューでもいいよ~」オーディンさんに迫り、2人を止めようとする皆。そんな中、エリーが私とオーディンさんの元へ来た。表情は挑戦的で満足そうな笑み。私もエリーの笑みに応じるように笑みを浮かべ、エリーをまっすぐ見据える。

「えっと、エリーゼ? これは――」

「アンナ」

「エリー」

「え? なんだ? 何で解り合ってるみたいな・・・すまないけど状況を教えてくれ」

困惑しているオーディンさんの顔に向かって、私とエリーはビシッと人差し指を差し、

「「好きです! この想い、ちゃんと考えてくださいっ!」」

2人一緒にもう一度告白する。少しの間黙っていたけれど、お手上げと言った風にオーディンさんは両手を上げ、

「了解。曖昧な返事をしないよう、全力で考えさせてもらいます」

本当に真剣な顔で、そう約束をしてくれた。言質は確かに取りました。エリーと笑みを浮かべ合う。この想いの結末は、誰も報われない恋で終わるかも知れない。だけど、それでも・・・・この想いは止める事が出来ない。だから・・・!

「オーディンさん。私の想いの詰まった料理です。じっくり味わってくださいね」

積極的に攻めさせていただくわ。オーディンさん、あなたがベルカから去りたくなくなるようになるまで、エリーと一緒に。



 
 

 
後書き
おはようございます、こんにちは、こんばんは。
もう何なんだこれ?と私自身が思ってしまうような今話です。
とりあえずアンナがオーディンの真実を知りながらも恋する乙女になって、奴に想いをぶつけたぞ、みたいな。
少し前に、アンナが恋を自覚した描写を入れたので、それを確固としたかったという感じですか。

さて。立てた予定で言うと、このエピソード・ゼロも残りあと5話になるかと。
場合によっては1話追加or1話削減、となるかもしれません。どちらにしろ終わりは近いです。

 
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