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SAO--鼠と鴉と撫子と

作者:紅茶派
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22,そして事件の幕は上がる。

「おぉ、クロウにアルゴ。キリトまでいるじゃねーの。おめぇら、最近ちっとも見ないからどうしたのかと思ったぜ」

「元気そうだな、クライン。生きてて何よりだ」
「クースケ、生きてるとは驚いたナ。オイラを忘れてるゾ」
「よぉ。クライン、まだ生きてたか」

四者四様のあいさつはこの様に。
アインクラッド攻略会議はまず、激戦を超えた戦友たちとの再開からスタートした。

開始早々、憎まれ口を叩くキリトの喉元にチョークスリーパーが炸裂した。
腕を引き絞り、喉仏を見事にクリーンヒットさせた一撃は見事なもので、キリトも一瞬苦しげに呻く。
が、そこでキリトは落ち着いてクラインの二の腕を掴み、筋力値の補正に任せるがまま引きはがした。

ここまでが、キリトとクラインの一連のあいさつの流れと言ってもいい。

ジメジメとした迷宮区の安全地帯でも、良品を求めてプレイヤー達がごった返す主街区の市場でも、今みたいな辛気臭い攻略会議の会場でもだ。
とにかく逢えばキリトとクラインは兄弟の様なスキンシップを交わしている。

それにしてもキリトの奴、どれだけの筋力値をもってやがるんだよ。
俺なんてドロップした両手剣をオブジェクト化しても、持ち上げられないってのに。

キリトに払いのけられた腕を痛そうに振っていたクラインがすっと真顔に変わった。
顔を息遣いを感じるまで近づけて、無配慮な声を響かせた。

「そういやぁ、クロウ。おまえヤヨイさんとは喧嘩かよぉ。さっきから睨まれてんぞ」

クラインの指差す方向に目を向けていく。
銀甲冑の《ドラゴンナイツ》・和装中心の《風林火山》など、ギルド側が陣取るエリアのさらに向こうに、彼女はいた。
アイフォーカスに頼る必要もない。朽ちかけた木の下で一人静かに仁王立ちする白を基調とした女性剣士はみるからに只ならぬ気配をまとっていた。

視覚化できそうな暗惨とした空気。
いかにあり得なくても、エクストラスキル《バトルオーラ》とか、レアアイテムによるバフ・新種のボスMobと言われてもすら想像してしまうほどだ。

こちらの視線に気付いたようで、ヤヨイと目があった。いつもと同じ力強い眼差し。だけど、今日はどこか濁った印象だ。
俺の言ったことの何がそんなに気に入らないんだよ。
視線を逸らしたらオレが悪いみたいだから、思いっきり睨み返した。

無言の決闘は三十秒ほど続き、俺たちの間に主要ギルドの連中が集まり始めたことでどちらともなく視線を外した。

「……別に大したことないさ。ちょっと俺が無理したってだけだ」

視線をクラインの方に戻すと、クラインは両手を組んで首を縦に一文字。有りたいに言えば、大袈裟に頷いていた。

「おめぇの戦い方、《旋風》っつぅよりなんつーか……そぅだなぁ、《神風》って感じだろ。いっつも隣にいるヤヨイさんはきっと不安に違いねえんだ」
「おいおい、俺だって勝算があって……」

と言っているところで次の言葉を飲み込む。
クラインのすぐ横で、傍観に徹していた約二名の唇が奇妙なことに吊り上ったからだ。
キリトは小憎たらしい顔を浮かべわざとらしく人差し指で眉間に触れ、アルゴは通常比2倍ほどのふてぶてしい顔で次の瞬間には思い出した顔を作りだした。

「キー坊、オイラの情報網も古いみたいダ。クロちゃんはしっかりと「勝算」をもっているらしいゾ」
「そりゃそうだろう。なんせボス戦でたった一人、囮になるプレイイングが「ちょっと」なんだからさ」

随分と古い話を持ち出したもんだ、と思いながらも返す言葉も見つからない。
確かに俺は第5層での攻略戦で動きの速い黒豹型のフロアボスを討ち取るため、自身を囮として隙を作り出すという荒業を披露した筈だ。
あの後でキリトとヤヨイとアルゴに散々、怒られたような無かったような……

こりゃどうにも旗色悪い。
ネチネチと昔のことを言われる前に、この前見つけたレアドロップの話でもしようか。
息を吸い込んだところで、「そーじゃん」とクラインがいきなり叫びだした。

「クロウもキリの字もよぅ、オレのギルドに来いよ。おめぇらなら大歓迎だぜ!」

と今度は早口で自身のギルド、《風林火山》のアピールポイントを列挙し始めた。
ギルドの構成員からオフは皆でバーベキューまで種々様々な話が最速の連撃ソードスキルが如く勢いで打ち出されていく。

バーベキューの肉の為に第二層の牛たちを狩っていった話のところでキリトの方を窺ったら、キリトはクラインの方を向きながら生唾をゴクリと飲み込んでいた。
アルゴはというと、ウィンドウからメモ用のページを作成し、クラインが得意げに語ったギルドの内部情報を一文字も漏らさず記録していく。

相変わらず、分かりやすい奴らだ。

「……で、どうだ?はいっちまぇよ。クロウ!!」
「うーーん、団体行動は苦手なんだよな。俺はソロで気ままにやるよ」

なんでぇ、そりゃ。クラインがぶつくさと言うが、引き際は心得ている様だ。
すぐに気を取り直しキリトの方に向き直った。

「き、キリトよう。おめぇは来るよな。BBQだぞ?食べホだぞ。食べホ」
「悪いな、クライン。名前がダサいから嫌だ」

俺の頭の中に重鎚系のスキルサウンドが響き渡った。それも、単発型で一撃がとてつもなく重いやつ。

精神的ライフポイントがみるみるうちにマックスからレッドゲージへと変わり、風林火山のリーダーががっくりと肩を落とす。
断っておいて何だが、なんだか居た堪れない。
今度バーベキューに同伴して、秘蔵のコニャック風の古酒でも振る舞ってやろうかなどと考えたところで、重苦しい足音が表通りの方から響いてきた。

<聞き耳>スキルを持っていない俺でもしっかりと聞こえるほど、断続した靴底の叫び。
チリ、と何かが頭の中で小さく音をたてた……おと、そうか。

音だ。彼らの足音がおかしいんだ。

解放隊は規律を最重視したギルドだからどんな所であっても行進での行動を是としていたはず。
普段なら20人名ほどの足音が重なり、巨大な人型モンスターが襲来するような印象となるが、今日の音はどこかおかしい。
例えるなら、芋虫型のボスの様な這いずる様だ。

何人かのプレイヤーが音を捉え、怪訝な顔で空き地の入り口を凝視している。
音源が姿を見せたとき、俺は自分の胃がきゅっと引き締まるのを感じた。

先頭をキバオウに入場してくる解放隊の面々は一様にボロボロだった。
HPこそ圏内に入ったことで回復しているが、鎧は砕け、兜は傷付き、携えるハルバードは刃こぼれが目立っていた。
どれもが装備耐久度の限界寸前、もしくは半壊状態であることは間違いない。

解放隊の平均レベルは決して低くはない。
おそらくリーダーのキバオウは俺とほぼレベルが変わらないし、その他の連中も攻略組の平均レベルには届いているだろう。

そんなレベルも人数も最大規模の解放隊がワイプ寸前まで追い込まれるとは、いよいよ尋常なことではない。

キバオウはゆっくりと会場全体を睨み回した。刺し殺す様な視線が、会場全体の空気を氷点下へと凍らせる。

「キバオウさん、何があった?」

状況に耐えかねたように、ドラゴンナイツのリーダー・リンドが声をかけた。
キバオウは一瞬だけリンドを見た後、もう一度辺りを見回しながら、ぐっと両手を握りしめた。

「ワイは……これでも、全プレイヤーの解放のために戦ってきたんや。それはアンタラも同じや、そう思っとった」
吐き出される言葉は淡々として切るように。

言葉には込めきれないほどの怒りがその息から逃れないように、キバオウは奥歯をしっかりと噛み締めた。

「ギルドの違い、考えの違いはそりゃ、しゃあない。そやけど、攻略の妨害だけはワイは……絶対に許さへん」
ギロリ、と深い憎悪で塗り固められた視線が延びてきた。深い憎悪に満ちた瞳が俺の眉間を捉えゾクリと背筋に悪寒が走る。

頭の中で、急速に何かが組みあがっていく。
妨害、キバオウ、俺。
点と点が頭の中で線を描き、最後の線を探し求める。

「作戦成功やで、ジブン。ワイは、ワイは大切な仲間を三人も死なせてしもうた……」
「キバオウさん!!?どういうことだい?わかりやすく……」
「なんでや、なんでマップデータの偽情報なんて流して、ワイらをトラップに嵌めたんや……!!!」

まるで、この世の全ての悪を断じるように、キバオウは一人のプレイヤーの二つ名を告げた。

旋風、と。
 
 

 
後書き
週一のペースすら保てなくなる今日この頃。

こっから展開が上がってく(あの人とか、アイツとか、コイツとかそろそろ表舞台に登場する予定)なのに、次の投稿はいつになることやら…早くテスト終わって欲しい。
 
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