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ソードアート・オンライン もう一人の主人公の物語

作者:マルバ
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SAO編 主人公:マルバ
壊れゆく世界◆ユイ――MHCP001
  第三十四話 スカルリーパー偵察戦

 
前書き
第五部の名前が決まらなくて困った。
『アンインクラッド』、『リインカーネイション』、『物語は終わりへ』、『終わりの始まり』などなどいろいろ考えたけど、結局『壊れゆく世界』に決定。
……あ、『アンインクラッド』っていうのは"the UNINCarnating RADius"の略ということで。 

 
「これが、第七十五層のボス部屋か」
「最後のクオーターポイントですからね、なんかすごく豪華な感じがします」
「いや、それもあるけど……なんかイヤな感じだな、これ」
「……マルバさんも感じます? これだけ人数がいますし、偵察で死ぬことはあり得ませんが、気をつけましょうね」
「そうだね。さて、一丁行きますか!」

 マルバは自分に喝を入れるべく両の手で自分の頬を叩いた。
 今回の作戦のリーダーはアスナではない。なんでも、彼女は先日行われたヒースクリフとのデュエルに敗れ血盟騎士団に入団したキリトの入団テストに付き添い、不在らしい。
 リーダーが次々とプレイヤーを振り分けていく。今回の偵察は二段構えだ。まず素早さに振ったプレイヤーがボスモンスターと対峙し、ボスの通常攻撃の傾向を探る。そして、一度簡単な作戦を立てた後、後日再び本格的な偵察を行うのだ。クオーターポイントのボスが強力なのはいままでの経験則から分かりきっている。ここまでするのは確実に死亡率を下げるための作戦だ。
 《リトルエネミーズ》から今回の偵察に参加するのはマルバとシリカのみだ。マルバたちは一回目の偵察に参加し、ミズキとアイリアは二回目の偵察に参加することになっている。

 扉が開かれた。マルバは腰の剣を抜き、突撃準備をする。
「気をつけて」
 後ろからシリカの声がかかった。わずかに不安そうな顔をしている。シリカは後ろで待機する役に振り分けられていたため、マルバと一緒にボスと戦うことはできない。
「そっちもね」
 マルバは短く返すと、扉の向こうの闇を見つめた。
「行くぞおッ!! 総員、突撃ィッ!!」
 鬨の声が響き渡り、プレイヤーたちは一斉にボス部屋に飛び込んで行った。

 その叫び声が聞こえなくなり、シリカたちはボス部屋付近に近づこうとする雑魚モンスターを狩るべく扉に背を向けた。
 そんな時だった。ピナが尋常ではない叫び声を上げ、シリカに注意を促した。
 慌てて扉に向き直るシリカは、信じられないものを見て凍りついた。

 シリカの目の前で、ボス部屋の扉が……閉まったのだ。



 ばあんッ!
 背後で不吉な音を聞いたマルバたちは、出口が消えたのを見て愕然とした。
「おい……どういうことだ……?」
「出口が、消えた……」
「ど、どうすんだ!?」
 プレイヤーたちが一斉に騒ぎ始める。リーダーがあわててそれをとどめた。
「きっとプレイヤーが中に入ったら一度扉が閉まる仕組みなんだろう。外にプレイヤーがいるんだから大丈夫さ。念のため鍵開けスキル(ピッキング)持ちは外で待機してもらってる。俺達はボスに注意しようぜ」
 リーダーはそう言うものの、皆の不安は晴れない。
「そうは言うけどよ、そのボスは一体どこにいるんだよ? 姿が見えねえじゃ……」

 カサッ。

 マルバの《聞き耳》スキルが微かな音を捉えた。思わず上を見上げたマルバはすぐに叫び声を上げる。
「上だ!! 来るぞ!!」

 プレイヤーたちは一斉に上空を見つめ、凍りついた。
 あれは……百足(ムカデ)だ。たくさんの脚が生えているところは現実世界の百足そのものである。しかし、現実の百足とは決定的に異なるところが二点。一つ目は、その身体が骨でできているところ。二つ目は、カマキリの鎌のようなものを持っているところだ。その鎌だが、まるで鋼鉄製であるかのように鋭く輝いている。
 百足が天井を蹴って落ちてきた。プレイヤーたちはすぐに散らばって攻撃を受け止めようとする。

「おい、扉はまだ開かないのか!」
「まだだ、しばらくはボスの攻撃を避け続けろ!!」
「んな無茶な!?」

 叫び合っていたプレイヤーたちが最初にターゲッティングされた。その二人に向かって鎌が凄まじい勢いで振り下ろされる。一人目は回避したが、二人目はそれを防御した。
 防御した、はずだった。
 防御のために構えた両手剣は最初に放たれた鎌によって真っ二つにへし折られ、彼もまた同様にもう一つの鎌によって真っ二つに引き裂かれた。
 一瞬でそのHPゲージが消滅し、驚愕の表情をその顔に貼りつけたまま……彼は、砕けて消えた。

 一瞬でその部屋全体が阿鼻叫喚の巷と化した。
 半乱狂になって消えた出口のあたりを拳で叩く男は横薙ぎの鎌でHPをゼロにして散った。
 回避の指示を出していたリーダーは振り払われた尾によって刈られた。
 茫然自失となっていた男は、ボスがそばを通り抜けた時にその脚で蹴り飛ばされて砕けた。

 そんな中、マルバは死を覚悟した。
 もしかしたらこのゲームの中で迎えるかもしれないと思っていた死だ。覚悟を決めるのは意外と早かった。指を振り、メッセージ画面を呼び出す。シリカに最期の一言を伝えようとしてホロキーボードに手をかざし、……途中でやめた。ここはダンジョンの中、メッセージを送ることはできない。
 代わりに、マルバは目を瞑った。脳裏にシリカの姿がよみがえる。シリカを『迷いの森』で見つけた時のこと、戦闘を教えてあげたこと、一緒に戦ったこと、ギルドの作戦を立てている時のこと、キッチンに並んで立ったこと……。
 思い出せばきりがなかった。いつまでも思い出していたかった。
 でも……マルバは目を開ける。ちょうど、ボスがもう一人刈り飛ばしたところが目に入った。

 僕はこの世界で死ぬのなら、最後の一瞬まで目を開けていようって決めていたんだ。命を最後の一瞬まで燃やし尽くせ、自分が生きた証をこの世界に刻み込め。僕はどうせここで死ぬのだ。それなら……最後の一瞬まで足掻いてやろうじゃないか。僕を殺そうとするこのモンスターに、この世界そのものに、茅場晶彦に。そう、これが最後の……抵抗だ。
 さあ、始めよう。

 マルバが武器を構えた時、誰かの声が聞こえた気がした。




 シリカは目にも留まらぬ早業で《解錠(ピッキング)》スキルを発動させた。
 ピッキング成功確率ゲージが表示され、シリカの操作と共にそれが変動する。しかし……シリカの目前のページは、何度操作をしてもゼロに戻ってしまう。つまり、この扉はピッキング不可なのだ。
 開け! 開け! 心の中で何度も唱えながら、彼女は高価なピッキング補助アイテムをいくつも使って解錠を試みる。しかし、ゼロには何を掛けてもゼロ。成功確率にボーナスを与える補助アイテムの効果は加算ではなく乗算なのだ。いくら使っても意味はない。
 ついにシリカはウィンドウを閉じた。落とした短剣を拾い上げ、中段に構える。左手は腰だめに。両手が光を放ち、扉に向かって繰り出す技は……『百花繚乱』。

「う……うあああああああアアアアアァァッ!!!」
 シリカの叫び声がこだまし、それに呼応するかのように色とりどりのスキルエフェクトがあたりを彩った。
 黄緑色の輝きの後に紫色の輝きが散り、鶯色の光の直後に紫の光が輝き、純白の煌めきに紫色の光が続く。
 ……言うまでもない、紫色の光は【IMMOTAL OBJECT】の表示である。
 シリカはそんなことは気にもとめないようにその剣を振るい続けた。攻撃し続ければ忌々しい紫の表示が消えるとでもいうかのように。狂ったように振り回される短剣はその勢いがとどまるところを知らない。その刃が欠けても、彼女は動きを止めなかった。

「マルバさんがここで死んだら、あたしも後を追います!! 先に逝くなんて、絶対に許さないッ!!」




 その叫びは、分厚い扉の向こうに届いたのだろうか。

 マルバは、ふっと頬を緩ませた。
「そうだね、シリカ。僕だってそうするもん。この生命(いのち)は、僕だけのものじゃない。君のものでもあるんだ。だったら、僕がやることは唯一つ。……どんな手を使ってでも、何を犠牲にしてでも、どんなに無様に逃げ惑っても、ここから生きて帰ってみせる」

 ボスがマルバの方を向いた。マルバはシステムメニューを開くと、決して押すことはないと思っていた三番目のクイックチェンジのボタンを押し込む。
 すると、マルバの装備が一新された。右手に持つのは、曲刀。左手に持つのは、苦無。纏うのは、漆黒の衣。両手の剣からは何故か黒い残像のようなものが見て取れる。
 身体を真っ黒の装備に切り替えたマルバは、ボスの視線を正面から受け止めた。

「僕は、独りじゃない。僕は……僕たちは、絶対に生き残ってみせる」

 ボスが凄まじい速さで這ってくるのに対し、マルバも全力で駆け出した。






 シリカがついに振り回していた剣の動きを止めた。クーリングタイムの消費が技の発動に追いつかず、技を繋げなくなったのだ。身体が一気に重くなり、シリカは一歩も動けなくなった。
 銅像のように立ち尽くすシリカの頬に一滴の涙がこぼれ落ちた。
 この扉の向こうで、おそらく自分自身ではなくシリカのために戦っているであろうマルバに対して、何もしてあげられない無力感が凝固したかのような涙だった。
 ピナが肩にとまり、シリカの涙を舐めとった。頭をシリカの頬に押し付け、懸命に主人を慰めようとしている。その優しさに耐えられなくなり、シリカの頬に更にたくさんの涙が流れでた。こらえようとしても、次々と流れる涙は止められない。
 シリカはしゃくりあげながら、ディレイに囚われた態勢のまま、地面に崩れ落ちた。
 今はただ、祈ることしかできない。
 でももし、祈ることで何かが変わるのなら……あたしはいくらでも祈るから。だから、神様……マルバさんを、助けてあげてください。一生のお願いです。


 神はシリカの願いを聞き入れたのだろうか。
 扉が開く。しかし、その奥には、ただ暗黒が広がるのみ。
 シリカは扉の中に思わず一歩踏み出した。マルバの姿は見えない。シリカは更に部屋の中に踏み込み、あたりを見回した。
 ……だれもいない。ボスもいなければ、プレイヤーの姿もない。
 シリカは愕然とし、呆然とし、次に無言で剣を抜いた。
 そう。マルバさんがこの世からいなくなったのなら、あたしもマルバさんと同じように、この世から消えるのみ。マルバさんを殺した敵に、一矢報いてから死のう。

 シリカの背後で、大扉が音を立てて閉まり始めた。扉から差し込む光の帯がどんどん細くなっていく。

 その時だった。光の帯の中で……何者かが空中から滲み出る(、、、、)と、シリカに体当たりをかました。
 シリカと闖入者はもつれ合いながら扉の外に飛び出る。闖入者が完全にシリカに覆いかぶさっている状態だ。
 シリカは驚いて彼を見つめた。彼は優しそうにその視線を受け止めた。
「シリカ……生きてる。生きてるよね。生きてるんだよね……」
「マルバさん……あたし、マルバさんが死んじゃったかと……っ」
「君を残して死ねるものか。僕の命は君のものだ。君を殺したりなんて、絶対にさせない」

 二人はいつの間にか涙を流していた。それは喜びの涙なのだろうか、それとも安堵の涙なのだろうか。涙を流しながら、二人は笑っていた。
 マルバはシリカの肩に手を回すと、彼女の耳元で囁いた。
「シリカ……もう、僕はこんな目に遭うのはいやだ。ずっと一緒にいよう。これから先、ずっと、一生」
「マルバさん、それは……」
「うん、プロポーズだよ。……シリカさん。僕と、結婚して下さい」
「マルバさんっ……! っ、喜んでっ!」 
 

 
後書き
はい、なんとか一人生き残ったマルバくんでした。危なかった。ここで死なれたら物語が終わってしまうところだった。
……まあ、私が死なせないけどねw

コラボ企画のバトル・ロワイアル、まだまだ参加者募集中です。二次創作をしていない方も参加お待ちしております。詳しくは第三十二話のあとがきを御覧ください。
対戦表は明後日かそれくらいに公開予定です。 
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