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ソードアート・オンライン もう一人の主人公の物語

作者:マルバ
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SAO編 主人公:マルバ
壊れゆく世界◆ユイ――MHCP001
  第三十五話 ユイ

 
前書き
更新遅くなりました!
その分ちょっとボリューム多めですので許してください。 

 
三十五 ユイ

「で、君たちは私にわざわざ結婚の報告をしに来てくれたわけだ。わざわざご苦労」
「いや、違うから!」
「そうですよ、報告はそっちじゃありません!」

 ヒースクリフを前に、マルバとシリカは偵察の報告をしに来ていた。
 ヒースクリフはいつもと変わらない悠然とした様子でマルバたちを見下ろしている。

「とにかく何が合ったのか話し給え。偵察に参加してた君以外の全員が死んだことは確認済みだ。何があったのか、聞こうじゃないか」
「最初からそのつもりだったんだけどね……」
 あのデュエル以来ヒースクリフと少しだけ仲が良くなったマルバは、ヒースクリフに対して敬語を使うのを完全にやめていた。この男は何か隠していてどうも信用できないが、マルバもその強さは認めている。マルバは近くでその戦いを見ながら、彼が隠していることを探ろうと思っていた。

 マルバは話し始めた。何故他のプレイヤーが全員死ぬことになったのか。なぜ自分が生き残れたのか。
 ヒースクリフはどちらかと言うとマルバが生還した理由に興味を引かれたようだった。

 マルバが生き残れた理由、それはマルバが念のために『クイックチェンジ』に登録しておいた装備の効果によるものだった。
 曲刀『ブラインド』、短剣『苦無』、そしてマント『アンインカーネイション』。耐久値が低いため常に使うわけにはいかないが、とても軽く移動速度が上昇する。どれもレアドロップの貴重なアイテムである。
 『ブラインド』と『苦無』は刀身が妙に黒く、何かを纏っているように見えるが、それは『視覚毒』というこれまたそれなりにレアな毒を有することを示している。

 視覚毒――それは、敵の視覚器を攻撃した際に起こる特殊状態異常の『盲目』の発生確率を引き上げる効果のある毒。簡単に言えば敵の視覚器の部位破壊を起こしやすくするのだ。
 マルバは全力で鎌の攻撃を避け、ボスが態勢を崩した瞬間、『百花繚乱』でボスの目のあたりを連続攻撃して『盲目』を与えることに成功した。彼はそのまま突進技でボスの攻撃範囲から離脱すると、『隠蔽(ハイディング)』を発動。『アンインカーネイション』のハイディングボーナスの力を借り、そのまま壁に張り付いたという。ボスはマルバが途中で消えたことに気づかず、他のプレイヤーを全員殺すと、天井に戻っていったそうだ。


「……とまあ、そんなわけだ。ボスの名前は《The Skull Leaper》。攻撃力がべらぼうに高いから、攻略組全体のレベルが5づつ上がるくらい待ってから攻略した方がいい……っていうか、そうしないと全滅すると思う」
「うむ、君のいうことはよく分かった。ならば、攻略は一ヶ月後にしよう。その間、個人でレベル上げをしっかり行うようにする。これでどうかね?」
「一ヶ月もあれば十分だと思うよ。それじゃ、そういうことでよろしく」
「了解した。情報屋と新聞屋には私から伝えておこう。君たちは下がって構わない」
「へいへい。なんでそう偉そうなの」
「トッププレイヤーを自負しているものでね」
「関係あるの、それ」
「関係ないですよね、それ」



 ヒースクリフへの報告が終わった後、武器の手入れも兼ねて結婚の報告をしにリズベット武具店に顔を出した。

「いらっしゃーい! あ、マルバとシリカね。相変わらず仲いいわね」
「まあね、夫婦だしね」
「へえそう、夫婦だからね。……って、はぁ!? 夫婦!?」
「はい。わたしたち、結婚したんです。それで報告に来ました」
「……シリカちゃん、あんた何歳?」
「十四ですけど」
「このロリコンが!」
「えぇ~、なんでそんなこと言われなきゃいけないの……歳の差なんていいじゃない」
「……まあ、考えてみればそうよね。何はともあれ、二人とも、おめでとう。あーあ、なんかみんななんだかんだ言っていい相手見つけてるんじゃない」
「みんな? 他にも結婚した人っているの?」
「え、知らないの? キリトとアスナ、結婚したのよ」
「あー、あの二人、良い感じでしたからね」
「そっか、あいつら結婚したのか……からかいにいかなくちゃ」
「いいわね。あたしも混ぜなさい」
「リズさん、乗らないでくださいよ」
 二人はおめでとうサービスとやらで25%オフでメンテをしてもらった。マルバはリズと一緒にキリトとアスナをからかいに行く計画をたて、シリカはそれを呆れたように見つめた。



 ミズキとアイリアもマルバの“キリト夫妻をからかおう計画”に乗ったので、結局《リトルエネミーズ》全員とリズベットの五人がキリトとアスナの住まいを訪れることになった。
 マルバはテラス付きの綺麗な家を見て、自分もこんな家を買おうと決心した。
 マルバがドアをノックすると出てきたのはキリトだった。マルバをひと目見るなり扉を閉めようとする。マルバはすかさず脚を突っ込んでそれを阻止した。
「おーい、キリト君。いくらなんでも失礼なんじゃないかい?」
「お前絶対からかいに来ただけだろ! いい加減にしろ! っていうかなんでここを知ってるんだよ!?」
「あたしが教えたのよ」
 マルバの後ろからリズがひょいと顔を出す。
「げ、リズ……」
「ほら、入れなさいよ。マルバたちだって結婚の報告に来たんだから」
「結婚? 誰と誰が?」
「僕とシリカ」
「えぇ!? シリカ何歳!?」
「十四ですけど」
「ロリコン……?」
「違うわ! なんでみんなそういうこと言うかな!?」

 玄関口で騒いでいたら、中からアスナが出てきた。
「キリト君、何騒いで……あ!」
「どうも~」
「マルバくん! え、なんでリズまで一緒にいるの?」
「キリト夫妻をからかいにきました」
「からかいって……はぁ、悪いけどちょっと忙しいの、また今度にしてくれない?」
「一昨日店に来た時、休暇をとったからギルドの用事はないって言ってなかった?」
「う……確かにそうだけど……」
 なにかを言い渋っているアスナに助け舟をだすように、キリトが口を開いた。
「アスナ、無駄だよ。いつまでも隠しておけるわけじゃない。それにこいつらなら話しても大丈夫だろう」
「……それもそうね。みんな、入って。ちょっと話しておきたいことがあるの」

 家の中、食卓の前に座る幼い少女を見て、皆は凍りついた。
「キリト、この子は?」
 恐る恐る尋ねたマルバに対して、キリトは言いにくそうにこう言った。
「……娘だ、俺とアスナの」
 えええええええぇぇ!? と皆叫びそうになるが、目の前の不安そうな少女を怖がらせないようになんとか口に出さずに抑えこんだ。
 キリトとアスナの話を聞き、マルバたちは一体どうして二人が少女を連れているのか理解する。キリトたちの言うとおり、確かに目の前の少女にはカーソルが表示されていない。

 マルバとシリカはとりあえず少女――ユイという名らしい――に自己紹介した。
「ユイ、僕はマルバっていうんだ。よろしくね」
「わたしはシリカです。ユイちゃん、よろしく!」
「あうば……? しいか……?」
 ユイはたどたどしい言葉で聞き返した。
「あはは、難しいか。好きなように呼んでくれればいいよ」
「あうばは……にぃ。しいかは……ねぇ」
「ふふ、にぃ、かぁ。妹がもう一人できた気分だなぁ」


「これは妙だな……」
 ミズキは納得がいかない顔で呟いた。
「確かに変だね。カーソルが表示されないなんて……それに、この子、幼な過ぎない?」
「それだけじゃないです。十二歳くらいに見えますけど、話し方は五歳かそこらですよ?」
「まさか、精神にダメージを……?」
 アスナの疑問に、ミズキは分厚い書籍アイテムをストレージから一瞬で取り出した。検索窓を開くと、それを見ながら答える。マルバはその早業に少し驚き、すぐに以前見た時も同じように驚いたことを思い出した。恐らくクイックチェンジを使ったのだろう。
「あり得るな。しかし、精神的な言語障害っつーのはまずあり得ねぇんだ。言語障害っつーのは言語野に衝撃が加わって起こることだからな。心因性の言語障害っつーと多いのは吃音とか失語症とかだな。でもこいつ……ユイには吃音は見られないし、かといってぜんぜん喋れないわけでもねぇ。きっと言語だけじゃない、精神全体が退行してんだ」
「なんて……こと……」
 ミズキは書籍アイテムをストレージに放り込むと、アスナを励ますように言った。
「まあまあ、意識障害ってのは案外あっさり治ることもあるんだ。こいつの親を探そうぜ、見つかったらきっとすぐに良くなるさ」
 ミズキの明るい言葉に励まされたようにアスナは弱く微笑んだ。

 ミズキが一旦開いたストレージを閉じるのを見て、マルバはふと気になって尋ねた。
「ねえ、ミズキ。今更だけどさ、さっきの本って何なの? 計画立てたりすると必ず書き込んでるよね」
「ああ? あれか? あれは……うん、日記みたいなもんだ」
 ミズキは一瞬アイリアと顔を見合わせると、言いにくそうにそう答えた。
「みたいなものって……なんか曖昧だね」
「自分でもあの本をなんて呼びゃあいいのか良く分からねぇんだよ」
「ふうん……変なの」

「ねぇ、おぃちゃん」
 透んだ高い声で呼びかけられ、ミズキは一瞬戸惑った。見下ろすと、呼びかけたのは他でもないユイだった。
「おいちゃんって……俺のことか?」
「うん」
「俺、23だぜ? おじちゃんはねぇだろ」
「おぃちゃん……どうしたの?」
「どうしたのって、どうもしてねぇけど?」
「ううん、そんなことない。とってもいたそう。おぃちゃん、いたそう」
「痛そう……って、まさか、お前……!?」
 ミズキがいきなり椅子から身を起こすと、切羽詰まったようにユイに尋ねた。
「お前、分かるのか? 俺がどうなってるのか、分かるのか!?」
「わかる。ユイ、わかるよ。おぃちゃん、だいじょぶなの?」
「こいつ……ッ! 何者だ……?」
「おぃちゃん、おこってるの? それとも、こまってるの? ユイ、いやなこといった?」
「っ……! いや、なんでもねぇ。心配してくれて、ありがとな」
 ミズキがユイの頭をぽんぽんと叩くと、ユイは嬉しそうに目を細めた。

「よし! 始まりの街、行こうぜ」
「始まりの街? またなんで」
「始まりの街の教会でさ、ナーヴギアの年齢制限以下みたいな小さな子供の面倒を見てる人がいるらしいんだ。サーシャっていうらしい。もしかしたら、ユイの親について知ってるかもしれねぇだろ? な?」
「ああ、そうだね。始まりの街なら人も多いし、知ってる人もいるかもしれない。決まりだな」

 全員が出発の支度を始めた。圏外を通るため念のため武器を装備する。寒いといけないからアスナがユイに服を着せようとして、ユイのメインメニューが開かないことに気づいた。
 ユイは自分だけメニューを開けないことが不満だったらしい。ムキになって右手を何度も振り、そして今度は左手で同じ動きをした。その瞬間、メニュー画面が鈴の音と共に開いた。
「左手でメニューを開くなんて……ユイちゃん、ちょっとごめんね」
 開かれたメニューは見えないが、アスナが勘で視覚化のボタンを押して見えるようにした。その瞬間、その場の全員がそのメニューを見て愕然とした。
「バカな……HPゲージが、ない……?」
「それだけじゃないです、装備フィギュアに武器の欄が存在しません!」
「アイテムとオプションしかメニューにあらわれていない。一体これは……どういう……?」
「名前もおかしい。こんなプレイヤーネーム、普通じゃないわ」
 アスナの言葉に、全員が名前欄を見た。そこには【Yui-MHCP001】という記述が見える。
 ミズキは慌てて先ほどの分厚い本を取り出した。検索機能の窓を開くと、そこにMHCPと入力する。すぐに一件の検索結果が表示された。
「MHCP――メンタルヘルス・カウンセリングプログラム……?」
「どういうこと?」
「まぁ、直訳するなら『精神的健康管理援助計画』だが。ええと、なになに。ふぅむ」
「何か書いてある?」
「いや、これは俺のメモだから合ってるかどうかなんて分かんねぇけどよ、とりあえず書いてあることを要約すると、俺達がこの世界に来る前に研究中だった、精神医療に関する何かだな。詳しいことはさっぱり」
「精神医療? それじゃ、やっぱりユイちゃんは何か障害を抱えてるってこと……?」
「いや、そうだとしてもわざわざそれを名前に書くか?」
「それもそうね……メニューがおかしいのはそれとは無関係だし……。ねぇ、ミズキ君は何か予想がつく? この子が誰なのか」
「いや、分からねぇ。……っつうか、分かる気がしなくもねぇが、納得できる予想じゃねぇ」
「え!? 分かるの!?」
「いや……忘れてくれ。やっぱり分からん。単なる予測だし、そんなもんが当たるとは思えねぇ。突拍子もないからな。……メニューに関する謎は解けるが、それだけだ」
「メニューの謎って一番変なところじゃない!? 分かったんなら教えてよ、私だってこの子のことできるだけ知りたいんだから」
「うー、あー、いいか、これはただの予測だぞ? ユイが、この子が運営側の人間だとしたらどうだ? あるいは、運営公認の人間だとしたら」
「この子が……運営側の……?」
「だけどな、この説明だとおかしい点も多い。そもそも運営がこんな幼い子を使う理由がない。ナーヴギアの年齢制限よりはるかに下だろ?」
「確かに。うーん、やっぱり分からないんじゃないか? とりあえずメニューは開けたんだし、暖かいセーター着せてあげようぜ」
「うん、そうね。……よし、これでオッケー」
「わあ、あったかい! ママ、ありがとう!」
「よしよし。それじゃ行きましょうか」

 一行ははじまりの街の教会に向かって出発した。 
 

 
後書き
遅れた分、裏設定も語りますよ!

マント『アンインカーネイション』の力は凄まじいです。防御力は並程度ですが、その真価はハイディングボーナスにあります。このアイテムのハイディングボーナスは特殊で、『視線によるハイディングレート低下を半減』という効果と『ハイディングレート+20%』の二つの効果を持ちます。ただし通常のマントに比べ耐久値が30%ほどしかないという、非常に使いづらい装備です。競売にかけても大した値はつかないでしょうね。

『視覚毒』に関しては、実はあれは毒アイテムではなく視覚器に対する部位破壊ボーナスが五倍に上昇する常時発動型の特殊効果です。もともとボスは状態異常や部位破壊に対する耐性が非常に高く、視覚毒をもってしても盲目を与えることはほとんど不可能に近いです。そこで出番になるのが、『百花繚乱』。あれはディレイキャンセル系オリジナルソードスキルの中でも最も速い技です。軽攻撃を大量に繰り出すため、手数で相手を圧倒できます。今回はその素早さで盲目の付与確率を最大に引き出しました。下手な鉄砲数撃ちゃ当たるってやつですね。


さて、コラボ企画、締めきりました。対戦表を同時公開します。このままお進みください。 
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