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魔法戦史リリカルなのはSAGA(サーガ)

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【第一部】新世界ローゼン。アインハルト救出作戦。
【第2章】第一次調査隊の帰還と水面下の駆け引き。
   【第3節】メグミの不安とゲンヤの懸念。



 さて、ナカジマ家の「戦闘機人六人姉妹」の中でも、四女のスバルは仕事の関係で早くから独立し、職場の近くに一人で随分と広い部屋を借りていました。
 六女のウェンディも、執務官補佐になってからはあちこち飛び回ってばかりで、たまにミッドに帰って来ても、ティアナと一緒にスバルの部屋へ転がり込むのが当たり前になっていました。ナカジマ家の方には「お土産」を持って顔を出すだけで、もう長らくそちらで寝泊りはしていません。
 そして、長女のギンガと二女のチンクも、トーマとメグミの結婚が決まってから独立しました。広域捜査官の仕事がいよいよ忙しくなってきたので、共同でミッド地上本部の近くに部屋を借りたのです。
(あるいは、「新婚夫婦」に対して何か遠慮をしてくれたのかも知れません。)

 結局、ナカジマ家に居残ったのは、三女のディエチと五女のノーヴェだけでした。この二人は、今も「嘱託魔導師」という身分のまま、定職にもつかず、もっぱら臨時の仕事で収入を得ながら、趣味でさまざまな資格を取り続けています。
 当人たちの将来を考えると、それはやや不安な生き(ざま)ではありましたが、メグミにとっては、何かと多芸なこの二人が家に残ってくれたことは本当に幸いでした。
 メグミが高等科に通っていた85年度と86年度の二年間、ノーヴェの方は入院したり旅に出たりで、ほとんど家にいなかったのですが、86年の11月下旬に家に帰って来てからは、ずっとディエチと二人で「良いお姉ちゃん」をしてくれています。
 メグミは、最初の妊娠・出産・育児の際にも、ディエチとノーヴェには大いに助けられました。ディエチは通常の家事労働全般をすべて軽々とこなしてくれましたし、ノーヴェに至っては、事前に「保育士」などの資格まで取って育児の手伝いと指導をしてくれました。
 二人目の時には、メグミもさすがに慣れて来ていましたが、それでも、一人で全部を背負い込んでいたら過労で倒れていたかも知れません。何しろ、ナカジマ家の男たちと来たら、二人そろって家事や赤子の世話などロクにできないのですから。

 そんな訳で、メグミは六人の姉たちの中でも、ディエチとノーヴェには特に深く感謝をしていたのですが、その二人も先月(3月)の末に「非常招集」をかけられ、どこか別の世界へと出かけてしまいました。
 同じ頃、スバルも「長期の出向」とやらで、どこかへ出かけてしまっています。
 ギンガもチンクもウェンディも、それ以前からミッドを離れたままになっており、全く連絡がつきません。
 今までも「全員と連絡がつかない状況」が全く無かったという訳ではないのですが、そうした状況が一か月も続くなど、メグミにとっては本当に今回が初めての経験です。
『管理局の仕事は大変なものなのだ』ということも、『姉さんたちは六人とも、それぞれに何かしら特殊な能力を持っているのだ』ということも、頭では理解しているつもりなのですが、それでもやはり、この状況はメグミにとって随分と心配なものでした。
(彼女自身は、『すぐ隣にいる「魔力のある相手」となら、かろうじて念話が使える』という程度の、ごく微弱な魔力しか持ち合わせていません。)


 そして、新暦95年4月27日の朝。
 今日は「三曜日」ですが、ゲンヤもトーマも揃って振替休日です。
 メグミ(25歳)はキッチンで食後の家事をひととおり終えると、生まれてまだ10か月あまりの赤子を()(かご)から抱き上げ、リビングへと向かいました。少し話がしたくて、ソファーに深々と座っているゲンヤの隣にそっと腰を下ろしたのですが……見ると、ゲンヤは堂々と腕を組んだまま静かに寝息を立てています。
(これは……起こしちゃ悪いかしら?)
 メグミはそう思ったのですが、抱き(かか)えていたマユミが不意に手を伸ばし、赤子なりに懸命に声をかけながら祖父ゲンヤの肩を叩きました。
「じーじ。じーじ」
 可愛い孫娘の声を聞くと、ゲンヤもすぐに目を開けます。
「おお? どうした、マユミ」
「だーこ、だーこ」
「お~。よしよし」

 ゲンヤは喜々として、メグミの手からマユミを受け取り、抱き(かか)えました。ちらりと時計を見てから、ふと苦笑いを浮かべて独り(ごと)をこぼします。
「なんだ、もうこんな時間か。いつの間にか、少し寝ちまってたみてぇだなあ」
「お疲れのところ、起こしてしまって、すみません」
「いや。それは別にいいんだがよ。……ん? トーマとサトルはどうした?」
「天気がいいからと、二人で散歩に出かけました。トーマは『小川に沿って歩いて、できれば川向こうの初等科学校まで足を伸ばしてみる』みたいなことを言ってましたけど」
「何だって、また……。ああ、そうか。来年の今頃は、サトルももう学校か。……早いもんだなあ。まだ、この間、生まれたばかりのような気がしてたんだが」
「それ、もう6年も前のことですよ。お父さん」

 ゲンヤは軽く笑い声を上げてから、ふと真顔に戻って続けました。
「そうだなあ……。お前がこの家に来てからだと……もう12年になるのか」
 メグミは何やら少し恥ずかしげな口調で『はい』とだけ応えます。
 ゲンヤはふと昔のことを思い起こしました。
(そのまた12年前には、例の空港火災事件があって……。さらに12年前っていうと、俺が30歳。クイントと初めて出逢う前の年か。……あの頃には、自分がまさかこんな人生を送れるとは夢にも思ってはいなかったなあ……。)
 クイントの不妊は最初から聞かされていました。だから、ゲンヤは当初、ずっと二人きりで生きてゆく覚悟を決めて、彼女と結婚したのです。
『どうしても子供がほしくなったら、その時はどこかから養子を取ればいいさ。俺は、君さえいてくれれば他には何も()らないから』
 クイントは自分の体の不具合を気に()んで結婚に踏み切れずにいたのですが、ゲンヤは、そんな彼女にそう言って求婚(プロポーズ)したのでした。
【新暦75年に、はやてから訊かれた時には、さすがにそんな恥ずかしい話まではできなかったのですが。(笑)】

 ふと気がつくと、ゲンヤの腕の中で、マユミはまたいつの間にか眠ってしまっていました。ゲンヤの眠気(ねむけ)が移ったのでしょうか。
 可愛い孫娘の寝顔を見ていると、ただそれだけで、ゲンヤは不思議なほど幸せな気分になれました。
「メグミ、ありがとうな。この家に来てくれて」
 ゲンヤが真顔で言うと、メグミは照れくさそうな笑顔でこう返します。
「いきなり、何ですか? それは、私のセリフですよ。もし、あの時、この家に引き取ってもらえていなかったら、自分は今頃、どうなっていただろうかと考えると、正直、ぞっとします。本当に、ありがとうございました」

「いや、なに。実を言うと、俺もあの時は、姉貴に泣き付かれちまって、何も考えずにただ動いただけだったんだがよ」
「でも、損得勘定を一切せずに『ただ動く』ことができるのって、実はスゴいことなんだと思いますよ」
 メグミが真顔で言うと、今度はゲンヤが少し照れくさそうな笑顔を浮かべました。
「そうかい? まあ……何と言うか、子供を引き取ること自体には、もう慣れちまってたからなあ。最初にクイントがギンガとスバルを引き取って来た時には、俺も初めてのコトで随分と戸惑ったが……一度慣れてしまえば、あとはもう二人が六人に増えようが、七人に増えようが、八人に増えようが、大した違いはねえよ」
「いや~。二人と六人の間には、随分と違いがあるように思うんですけど」
 そう言ってメグミが笑うと、ゲンヤも釣られて、また笑ってしまいます。
 しかし、一拍おいて、ふとメグミの表情が曇ったのを、ゲンヤは見逃しませんでした。
「どうした? 何か心配事か?」
 と言いつつ、ゲンヤにもすでに大方の見当はついています。

 そして、メグミはおおよそゲンヤの予想どおりのことを答えました。
「ええ。姉さんたち、六人ともみんな無事なんでしょうか? こんなにも長い間、連絡が無いのは初めてのことですから、私、ちょっと不安なんです。……そう言えば、昨日の局の公式発表でも、『次の調査隊では戦闘行為もあり得る』みたいな、何だか物騒なこと言ってましたけど、まさか、姉さんたちはあの一件には関わってませんよね?」
「ああ。それなら安心しろ、メグミ。あの件は、〈本局〉の次元航行部隊の管轄だ。捜査官や陸士なんぞは最初(はな)からお呼びじゃねえよ。……そもそも、ギンガとチンクが出かけたのは、あの一件が始まる前の話だし、ウェンディは今もティアナと一緒に動いてるはずだろ?」
「ですよね。……でも、スバル姉さんとディエチ姉さんとノーヴェ姉さんは?」
「どうやら、何か特秘事項が絡んでるらしくてなあ。俺も、具体的な話は何も聞いちゃいないんだが……。しかし、スバルの『あの』口ぶりからすると、大方、ティアナに手を貸しに行っただけなんじゃねえのか? そう言えば、ティアナも年が明けた頃だったか、『今回の案件は、また随分と面倒な代物になりそうだ』とか、ぼやいてたからなあ。存外、ディエチとノーヴェも一緒なのかも知れねえぞ」
「まあ……ティアナさんが一緒なら安心できるんですけど」
 どうやら、一般の大衆と同様、メグミも「執務官」という存在に対しては絶大な信頼を寄せているようです。

 メグミはゲンヤの言葉で一応は納得してくれたようですが……。
 しかし、実を言うと、管理局の内部事情に明るいゲンヤ・ナカジマ二佐には、また別の懸念がありました。
(だがよ。スバルも今では二等陸尉、立派な士官様だ。普段は閑職に追いやられてるような身の上でもねえ。……(ひら)の陸士ならばまだしも、いっぱしの士官を部隊から引っこ抜いて自分の補佐官に()えるなんてことは、通常の「執務官権限」でできるはずがねえんだ。
 つまり、もし本当に、スバルたちが今、ティアナの許へ行ってるのだとしたら、それはティアナよりも「上」の力が働いたってことになる。……まさかとは思うが、あの「チビだぬき」が、また何か面倒なコトを始めてるんじゃねえだろうなあ……。)
【さすがは、ゲンヤ師匠。大当たりです!(笑)】

 ゲンヤがひとつ大きく息をついたところで、ふとテーブルの上に置かれていた通信用の端末が着信音を鳴らしました。
 この着信音からして、私用の通話ではありません。
「この音は……お仕事ですか? 振替休日なのに」
 メグミも思わず、少し驚いた声を上げます。
 しかし、発信者の名前を見たゲンヤの驚きは彼女の驚きを遥かに超えるものでした。もちろん、その名前は知っていましたが、直接に話をするのは初めての相手です。
「ああ。済まねえな。ちょっと席を(はず)させてもらうぜ」
 ゲンヤは内心の動揺を巧みに隠しつつ、マユミの体をメグミの手に渡しました。メグミはうなずき、見もしないテレビをつけて、わざと音量を上げます。

 ゲンヤは端末を手に急いで部屋を出ると、ドアを閉め、廊下を歩きながら音声のみの回線を開きました。
「おう。こちら、ゲンヤ・ナカジマ本人だ」
「いきなり申し訳ありません。実は、これは私用の通話なのですが、そちらの私用の番号が解らなかったので、部隊の方に問い合わせて公用の番号にかけさせていただきました。突然の不作法を、どうぞお許しください」
 相手が随分と下手(したて)に出て来たので、ゲンヤもようやく緊張を解きます。
「ああ、構わねえよ。と言うか、お互い、堅苦しい挨拶(あいさつ)はこれぐらいにしようや」
「そう言っていただければ、幸いです」
「で? この俺に一体何の用だい?」
「実は今、不躾(ぶしつけ)ながら、知っていそうな人に手当たり次第、尋ねて回っているところなのですが……ナカジマ二佐は、なのはさんの入院先について何か御存知ありませんか?」
「はあ? 何だよ? 高町の嬢ちゃん、今、入院してるのか?!」
 あまりにも予想外の話題に、ゲンヤは思わず声が(うわ)ずってしまいました。

 しかし、その声を聞くと、通話の相手はまた対照的に沈んだ声を上げます。
「それ自体を、御存知なかったのですか?」
「ああ、初耳だよ。……で、見舞いとかには行かなくていいのかい?」
「はい。私もそう思って、まずは入院先を確認しようとしたのですが……どうやら、特秘事項あつかいのようで、誰も知らないのです」
「誰も知らねえって……ちょっと待てよ。だったら、あんた、あの嬢ちゃんが入院してるってこと自体は、一体誰から聞いたんだ?」
「つい先日のことなのですが、カルナージで、マダム・メガーヌからお聞きしました。マダムは『小耳にはさんだ話』だと言っておられましたが……」
 ゲンヤは、クイントが生きていた頃には、彼女の同僚であるメガーヌとも当然に親しく「家族ぐるみの付き合い」をしていました。クイントが死んでからは、もう長らく会っていませんが、それでも「旧知の間柄」です。
(いや。しかし……あの世界に住んでて、一体どこからどう小耳にはさむんだ? 昔から妙にいろいろな事情に(つう)じてる人だと思ってはいたが……。)

 ゲンヤは、内心では首をひねりながらも、こう答えました。
「そうかい。彼女の言葉なら、まず間違いはねえだろうと思うが……何だか済まねえな。せっかく頼ってくれたっていうのに、何の役にも立てなくってよぉ」
「いえ。とんでもない! こちらこそ、随分と不作法な御連絡をしてしまって……お詫びいたします」
「まあ、そんなコトは別にいいって。……それより、嬢ちゃんの入院先が解ったら、俺にも教えてくれや」
「はい。それはもう、必ず」

 相手の用件が終わったところで、ゲンヤも一旦はそのまま通話を終えようとしたのですが、ふと思い直して、また会話を続けました。
「ああ。それと、話は変わるんだけどよ」
「はい?」
「俺の方からも、ひとつ訊いていいかい?」
「はい。私に解るようなことでしたら、どうぞ何なりと」
 そこで、ゲンヤは試しにティアナの所在について何か知らないかと尋ねてみたのですが、やはり特秘事項あつかいなのか、何も解らないようです。
「御期待に添えず、申し訳ありません」
「いや、なに。それは、まあ、お互い様さ」
 そんな会話の後、またお互いに作法どおりの挨拶を交わしてから、ゲンヤはその通話を終えたのでした。

【さて、この通話の相手は一体誰だったのでしょうか?
 まあ、消去法ですぐに解ります……よね?(笑)】


 
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