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イベリス

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第百二十四話 相手の好みその五

「嬢ちゃんがどうか」
「このことがですね」
「大事でな」
 それでというのだ。
「お礼はいいさ」
「そうですか」
「ああ、それでな」
「それで??」
「今度紅茶でな」
 この飲みものでというのだ。
「葉を変えるからな」
「だからですか」
「最近よくコーヒー飲んでるけれどな」
 咲はというのだ。
「紅茶もな」
「そうしてですか」
「努力してるからさ」
「そっちもですね」
「飲んでくれるかい?」
「じゃあ次来た時は紅茶にさせてもらいます」
 咲は微笑んで答えた。
「そうさせてもらいます」
「それじゃあな」
「はい、そういえばコーヒーと紅茶ってどっちがよく飲まれてます?」
「半々だな」
 マスターは少し考えてから答えた。
「大体な」
「そうですか」
「ああ、どっちが多いとかはな」
 コーヒーか紅茶かがというのだ。
「ないな」
「そうなんですね」
「大体この二つがよく飲まれてな」
 マスターは咲にさらに話した。
「それからミルクとかジュースとかな」
「そういうのになりますか」
「ああ、ただ飲み方はそれぞれだな」
「コーヒーも紅茶も」
「紅茶だとミルクティーやレモンティーでな」
「コーヒーだとウィンナーコーヒーとかですね」
「そうだよ、それでな」
 マスターは他の客のコーヒーを煎れつつ話した、その手裁きは実に手慣れていて職人の気質さえ見られた。
「砂糖たっぷり入れたりって人もな」
「おられますか」
「紅茶だってな」
 こちらもというのだ。
「それぞれだよ」
「人それぞれの飲み方があるんですね」
「ああ、それで嬢ちゃんもな」
「最近はコーヒーが多いですが」
「紅茶もな」
「飲ませてもらいます」
「それじゃあな」
 笑顔で言ってだった。
 マスターは咲に紅茶の話もしていった、そして咲もそれを聞いた。その間も咲の頭の中には近藤がいた。
 近藤のことは全て頭に入れた、メモもした。そのうえで。
 咲はじっくりと計画を練りだした、それは彼女だけのことだったが。
「ここ数日おかしくない?」
「おかしいって?」
「色々考えてない?」
 母は夕食の時に一緒に食べている娘に尋ねた。
「そうじゃない?」
「いや、別に」
「悩みがあったら言いなさいね」
 娘におかずの鶏の唐揚げを食べつつ言った。 
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