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魔法戦史リリカルなのはSAGA(サーガ)

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【プロローグ】新暦65年から94年までの出来事。
 【第1章】無印とA'sの補完、および、後日譚。
  【第1節】ユーノ・スクライアの物語。(前編)

 
前書き
 第1章の内容は、第一に「無印の物語とA’sの物語を連続させるための補完」です。
 個人的な感想で恐縮ですが、この二つの物語にまたがる「最大の謎」は、『これほどの大事件が何故こうも連続して起きたのか?』ということであり、言い換えれば、『闇の書の騎士たちは何故「ジュエルシード事件が終結した直後」という、あの絶好のタイミングで覚醒したのか?』ということだと思います。
 そこで、第1章では、この件に関して、少しだけ独自の物語を付け加えさせていただきました。
 第1章の、それ以外の内容は、まず「ユーノの出生譚」と、次に「オリジナルのキャラクターであるリゼルやラウの紹介」と、あとは「A’sからStrikerSに至る(原作ではごく軽く流された9年あまりの期間の)一連の流れの説明」になります。
 なお、カリム・グラシアの持つ希少技能(レアスキル)「プロフェーティン・シュリフテン」に関しては、物語の都合上、いささか独自の設定を付加しました。これについては、また第二部などでも追い追い説明して行きますので、よろしく御了承ください。
 また、執務官制度に関しても、物語の都合上、試験を年一回にするなど、若干の設定変更を行ないました。合わせて御了承ください。
 

 
 さて、スクライア一族は古来、六つの「支族」に分かれていました。
 各支族はめいめい自分たちの次元航行船を保有しており、普段はそれぞれの「支族長」に(ひき)いられ、支族単位で(次元航行船単位で)別々に行動しています。
(また、それらの船に乗り込める人数には限度があるため、各支族の人数は多くても百数十人程度となっており、それぞれ支族長とは別個に「船長」がいます。)
 また、「長老」というのは、そうした支族長同士の互選によって選ばれた「一族全体の代表」のことで、必ずしも最年長者ではありません。今の長老ハドロも、新暦53年に初めて長老に推挙された時には、まだ64歳だったと言います。

 そんなハドロの許に、管理局から『第128無人世界にひとつ集落の遺跡を見つけたので、詳しく調べてみてほしい』という依頼が来たのは、新暦62年の6月のことでした。
 しかし、よくよく聞けば、特に「急ぐ話」という訳でもないようです。
 そこで、ハドロは管理局の担当者に対して『我々はまだ、この春から〈第93無人世界スパルトヴァール〉での遺跡調査を始めたばかりなので、こちらの作業を一段落させてから、自分の支族が責任をもってその件を担当する』と答えておいたのですが、その遺跡群の調査が(その後、新たな関連遺跡が発掘されたせいで)予想以上に長引いたため、結果としては、二年半もその依頼を放置する形となってしまいました。
 そうして、新暦65年の1月になってから、ハドロたちはようやく自前の次元航行船で〈無128ドルバザウム〉の遺跡へと赴いたのです。

 その世界(可住惑星)は、軌道上から見ただけでも『さぞや大昔からずっと無人の世界だったのだろう』と容易に見当がついてしまうような世界でした。
 土地そのものはそれなりに肥沃なのに、「人間が農地の開墾や居住地の建設などによって自然界に手を加えた形跡」が、その小さな集落の遺跡の周辺を除けば、何処(どこ)にも全く見当たりません。おそらくは、この遺跡も「失敗した移民団」が一時的に生活をしていただけだったのでしょう。

 まず、「東西に長く伸びた遺跡」の南側には、その遺跡に並行して、今も東から西へと小川が流れていました。昔は相当な水量があり、川幅も随分と広かったようですが、今では気候の乾燥化により、()き出しになった「かつての川底」の中央部に『膝までは濡らすこと無く』歩いて渡れる程度の水量が残っているだけです。
 一方、その遺跡の北側には、その遺跡や川筋と並行して、小高い丘陵(おか)が東西に長く(つら)なっていました。こちらも草に覆われてはいますが、樹木は(草よりも多くの水を必要とするため)もう全く()えていません。
 また、人工的な建築物は、「そうした川筋と丘陵に挟まれた一連の遺跡」の中央付近に集中しており、そこがこの集落の居住区だったようです。
 その居住区の東側には広大な農地の跡が、西側にはそれなりに広い墓地の跡がありました。そこには、風化した墓標らしき石板が(ゆう)に百枚以上も林立しています。
 ハドロの率いる支族は、自前の次元航行船を軌道上に残したまま、当の遺跡からは少しだけ距離を取った場所にキャンプ地を(もう)けました。

 まずは年代を測定した結果、その小さな集落が築かれたのは、今からざっと750年ほど前のことだと解りました。次に、その750年の間に降り積もった土砂を取り除き、可能な範囲内で「当時の集落の状況」を再現します。
 建材には、基本的に現地の石材が使われており、元の世界から何かが大量に持ち込まれたような形跡は、特に見当たりませんでした。最初から、一時的な「居留」のつもりだったのでしょうか。
 しかし、それにしては、墓標の数が多すぎます。
 試しに、墓をひとつ掘り起こして調べてみると、どうやら遺体は(ひつぎ)も何も使わず、ほぼ普段着のまま無造作に土の中に埋められていたようです。周囲の土壌が酸性だったことも手伝って、もう骨までもが相当に腐食していました。
 この分だと、完全な骨格など一つも残ってはいないでしょうし、また、おそらくは遺伝子などの採取も不可能でしょう。
 もし骨格や遺伝子などに顕著な特徴があれば、彼等がどの世界から来たのかを特定する材料にもなるのですが、どうやら、現状では、遺体そのものからそうした判断材料を得ることは難しいようです。

 一方、墓標として使われていた石板は、どれもこれも相当に風化しており、そこに刻まれていた文字も、もう大半が摩滅してしまっていましたが、それらの文字を何とか解読してみると、それは意外にも古代ベルカ文字でした。
 しかし、彼等の知る限り、古代ベルカ人がこんな辺境の世界にまで「直接に」足を()ばしていたという記録はありません。
「ただベルカ文字を習い覚えただけの、他の世界の人々」だったのではないか、という意見もありましたが、墓標の解読を進めてみると、そこに刻まれていた人名は、みな当時のベルカ世界で実際によく使われていた名前ばかりでした。
 墓標はいずれも簡素な造りで、名前以外の情報は何も書き込まれていません。
 あるいは、同じベルカ人でも、ベルカ世界から直接にやって来た人々ではなく、どこか別の植民地から「さらなる植民」を試みた人々だったのでしょうか。

 調べてみると、住居の方もみな簡素な造りのものばかりでした。最低限の生活はできていたようですが、これでは、本当に「最低限」のことしかできません。
 一言で言って、最初から「永住」をするつもりで来たにしては、移民団の「初期装備」があまりにも貧弱でした。
「移民」ではなく、「棄民」や「流刑」の(たぐい)だったのではないか、という意見も出ましたが、当時のベルカ社会の常識からすれば、不要になった人間はただその場で殺してしまうだけで、わざわざ他の世界に捨てたりはしていなかったはずです。
 すぐに移民団の「第二陣」が来て、合流できる予定だったのでしょうか。あるいは、次元航行船の事故による偶発的な「漂着」だったのでしょうか。
 疑問は尽きませんでしたが、文字資料が出土しない限り、当時の具体的な事情など特定できるはずもありませんでした。

 また、それはそれとして、ベルカ系の人々が築いた集落ならば、一般の民家以外にも、必ずひとつは聖堂か集会場のような「特別な建物」があったはずです。
 それは、3月も半ばを過ぎてから、ようやく見つかりました。
 その施設は、居住区から少し北に離れた丘陵(おか)(すそ)に「半地下式」で築かれていた上に、ちょっとした土砂崩れで、その入り口も土砂とその上に伸びた蔓草(つるくさ)で覆われてしまっていたため、発見が遅れたのです。
 土砂崩れの方は当時のものではなく、崩れてからまだ百年とは経っていない様子でしたが、正確な年代までは解りませんでした。突発的な豪雨か、あるいは地震でもあったのかも知れません。

 スクライア一族の人々は、その蔓草と土砂を取り払い、ほとんど「隠し扉」のようなその入り口を慎重に「アンロックの魔法」で()けました。
 どうやら天然の洞窟をそのままに利用した施設のようです。床には下り階段が刻まれていましたが、壁や天井は自然の岩肌のままでした。どこかに通風孔でもあるのか、空気も特に(よど)んではいません。
 階段を下った先は意外と広い地下室で、東側には質素ながらも祭壇があり、北東の隅には司祭用の演壇のようなものまで置いてありました。その演壇の引き出しの中を調べてみると、一冊の書物が出て来ます。
 初めての「まとまった文字資料」の出現に、一同の期待は膨らみました。

 しかし、その本は、およそ750年も前の「お世辞にも良質とは言えない紙質」の本で、その上、保存魔法のひとつすらかけられてはいませんでした。今では「ただ風が吹いただけでもボロボロと崩れてしまいそうなほど」のヒドい状態です。
 一同はその書物を外へ持ち出すことを諦め、透視スキャン用の装置の方を、その地下室の中にまで運び込むことにしました。
『大型の装置を一旦(いったん)分解し、人の手で(かつ)いで狭い階段を()り、そこでまた装置を組み立てる』というのは、相当に手間のかかる作業だったのですが、しかし、その結果は「全くの期待外れ」でした。その書物の内容は、本職の司祭ならば誰もが丸暗記しているような、ごく当たり前の「古代ベルカ式の祈りの言葉」ばかりだったのです。
 おそらく、移民団の中には、本職の司祭がいなかったので、その役を割り振られた人物が、必要に応じてこの本を読み上げていたのでしょう。
 この一件のせいで、4月になった頃には、一同の「発掘調査への意欲」はもうかなりの程度まで減退してしまっていました。

 そんな中で、ユーノ(9歳)は、ふと祭壇の奥にかすかな気配を感じました。機械的な計測では魔力反応は認められませんでしたが、それでも、何かしら「(こころ)()かれるモノ」がそこに隠れているような気がしたのです。
 そして、ユーノは同4月の中旬、その祭壇の奥に巧妙に隠されていた「小さな引き出し」の中から、魔力の流出を遮断する「特殊な箱」に収められた、21個で一組の何やら特徴的なエネルギー結晶体を発見したのでした。
【原作では、〈ジュエルシード〉に関して、『ユーノが地下に封印されていたモノを掘り出した』かのような描写もありましたが、この作品では、もう少し解りやすく、こうした設定で行きます。】

 さて、スクライア一族には古来、管理局から特別に「既知のロストロギアの一覧リスト」が貸し与えられています。
 そこで、ユーノはそのリストを調べ、「24個で一組」の〈ジュエルシード〉というロストロギアの記載を見つけました。統合戦争の時代に、とある管理外世界で確保され、今も〈本局〉の「重要保管物管理庫」に秘蔵されているという、相当に危険な代物です。
 ユーノの発見したエネルギー結晶体が、(まぎ)れもなく「もう一組の」ジュエルシードであることが確認されると、ハドロは「管理局との約定(やくじょう)」に従って、即座に〈本局〉へと連絡を入れました。
 管理局も、大急ぎで()()りの次元航行船を〈ドルバザウム〉へ向かわせることにします。
 一族の側では、『この遺跡を築いた人々は、このロストロギアが悪用されることを怖れて、これを「(もと)いた世界」から持ち出して逃げて来た人々だったのではないか』という意見も出ましたが、しかし、ただそれだけの理由ならば、これほどの人数は必要なかったはずです。
 詰まるところ、これは『詳しいことはまだ何も解っていない』という状況でした。

 一方、長老ハドロ(76歳)は、よほど疲れが溜まっていたのか、〈本局〉へ連絡を入れると、すぐに倒れてしまいました。
 彼は40年前(新暦25年)にスクライア一族に加わった「外来者」でしたが、誰からも慕われる人格者だったため、新暦47年には58歳で支族長に推挙されました。
 普段は元気にしているのですが、40年前の事故のせいで今も全身に(胴体ばかりではなく、顔面の右半分にまで)醜い火傷(やけど)(あと)が残っており、その頃からずっと持病を(かか)えているという身の上です。
 今回は、どうやら単なる過労のようですが、行きつけの病院での「定期健診」の予定も近づいていたので、「忠実な従者」のガウルゥは大事を取って、定期健診の日程を前倒しにしました。
 ガウルゥは取り急ぎ病院側の了解を取り付けると、軌道上で待機している次元航行船の格納庫から旧式の小型艇を、随分と手慣れた様子で引っ張り出します。
 彼はみずから操縦して、一旦その小型艇をキャンプ地の近くに降ろしたのですが……この状況では、もう一人だけ、艇内で「長老の世話をする役」の人物が乗り込む必要がありました。
 ユーノは『例のロストロギアを管理局の船に引き渡すに際して、発見者がその場に立ち会う必要は特に無い』と知ると、迷わずその役を買って出ます。

 こうして、三人は、〈外97地球〉と〈外72ファルメロウ〉を経由し、四日ほどかけて〈管46クレモナ〉の首都ティエラマウル郊外にある「第四大陸中央次元港」に到着しました。
(幸いにも、ドルバザウムの遺跡との間に「時差」はほとんどありません。)
 管理局の船は、こちらの小型艇よりも巡航速度はだいぶ速いはずですが、『ちょうど四日前に、この次元港を()って、ドルバザウムに向かった』という話なので、きれいに「入れ違い」になった形です。

 しかし、二人で長老を車椅子に乗せ、同じ首都郊外にある「行きつけの病院」にまで車で連れて来たちょうどその時、ユーノたち三人の許に凶報が届きました。
『管理局の船が〈ドルバザウム〉から〈本局〉へ戻る途中、最初の経由地である〈地球〉の上空で「原因不明の事故」に遭って機関部が大破し、21個の〈ジュエルシード〉もすべて、その世界に落下した。しかし、管理局は艦船の不足により、まだしばらくは現地に「回収のための部隊」を送り込むことができない』と言うのです。
 それを聞いて、ユーノは『アレが本当にリストに書かれていたとおりの代物だったとしたら……そんな危険な〈ロストロギア〉を、魔法文化の無い管理外世界になど何十日も放置しておく訳にはいかない』と思い、本来は管理局がするべき「回収作業」を手伝うことを決意しました。

【私は当時、無印を観ていて、『まさか「取り扱い説明書」が同封されていた訳でもなかろうに、ユーノは何故、最初から〈ジュエルシード〉の特性を正しく把握できていたのか?』という点が個人的によく解らなかったので、この作品では思い切って『ジュエルシードの発見は、あれが最初では無かった』という展開にしてみました。】

 しかし、ガウルゥには案の定、猛反対されてしまいました。
「はあ? ナニ言ってんだ。お前、正気か? お前はその事故について、『責任』があるどころか、『関与』すらしていないんだぞ。なんで、お前がわざわざ『管理局の尻ぬぐい』なんぞをしてやらにゃあならんのだ?」
 当年、36歳。人相も言葉づかいも相当な悪さですが、新暦50年に21歳でハドロに命を助けられて以来、もう15年も彼の「従者」を務め続けているという、実直で義理堅い男です。
 ユーノは幼い頃、この二人のことを普通に「優しく物知りな祖父」と「口うるさいが、頼りになる叔父」だと思っていました。
 当時は、本当に「血のつながった祖父と叔父」だと思っていたのです。




 
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