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冥王来訪

作者:雄渾
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第二部 1978年
迫る危機
  危険の予兆 その5

 
前書き
 西ドイツサミット編も大詰めになります。
あと数回で終える予定…… 

 
 その頃、ウラジオストック空軍基地では。
ソ連も、米国に後れを取ったものの、月面からの飛翔物の情報をとらえていた。

 並みいる閣僚たちを前にして、ソ連戦略ロケット軍司令官は、
「考えうるあらゆる角度からの分析の結果、例の飛翔物は着陸ユニットの一部。
アサバスカでの例からしますと、着陸ユニットには、大量のG元素が埋蔵されていると思われます」
 宇宙開発のための部署は、ソ連では軍の一部だった。
軍事組織から分離させ、NASAを作った米国と違い、資金も人員も軍に依存したものだった。
 その為、計画や運営は、ICBMを取り扱う戦略ロケット軍がほぼ管理したのだ。
 
 議長は、戦略ロケット軍司令官の言葉を聞いて、感嘆の声を上げる。
「入手できれば、すごい利用価値があるな」
「では、同志議長。早速、先制攻撃として飛翔物に……」
「そうだ。
米軍に察知されるよりも早く、迎撃準備に取り掛かり給え」

「例の不確定要素さえ、介入してこなければな……」
「不確定要素でありますか」
「天のゼオライマーだ……
我らの計画が成功するまで、木原を宇宙にあげさせるな。
何としてもだ」
 
 
 一方、シベリアにあるスヴォボードヌイ基地では。
駐留する戦略ロケット軍の部隊が、ロケットの発射準備に取り掛かっていた。
 
「最終点検急げ!」
 粉のような雪が降る中、ロケットの移動発射台に集まる作業員たち。
そこに向かって、メガホンで将校が呼びかける。
「作業員は速やかに退避せよ。繰り返す。作業員は速やかに退避せよ」
「ロケット発射準備!」

 発射基地に、滔々(とうとう)とサイレンが響き渡たる。
「射場の周辺異常なし」
まもなく、放送でカウントが開始された。
「ロケット発射まで、あと410,9、8、7、6……」
指令所より、オペレーターや操作員はロケットの様子を見守った。
「液体窒素準備完了」
カウントの合間に、ロケット点火の合図が響き渡る。
「ロケットモーター点火、メインシステム準備完了」
ロケットからうっすらっと白い煙が上がり始める。
「5、4、3、2、1……」
ロケットブースターが点火され、上段マストにあるケーブルが切断された。
「発射!」  
 4本の液体燃料補助ロケットを備えた大型ロケットは、上空に向けて、飛び上がっていく。
空に白い線を書くように煙を上げ、たちまちのうちに大気圏に消えていった。


 場所は変わって、ニューヨーク。
マンハッタン島にある、コロンビア大学ロシア研究所。
 ソ連のミサイル発射を探知した米軍は、情報分析に乗り出していた。


大統領補佐官の下に、その情報分析がゆだねられていた。
同教授は、米国におけるソ連研究の第一人者であり、コロンビア大学ロシア研究所の教授でもあった。 
 
 教授は研究室に入るなり、応接用の椅子に腰掛ける二人の青年に声をかけた。
「涼宮君、ベルンハルト君、待たせたな」
「いいえ……」
 大統領補佐官の助手として涼宮宗一郎とユルゲン・ベルンハルトが呼ばれていた。
この事は、日本にとって、マサキにとって幸運だった。
「大詰めに来て、余計なことに頭を使わされる」


「ソ連がロケットの準備態勢に入っていることはわかっているが……
まだ、どの程度の規模の攻撃を行うか、判ってはおらん」

「判明しているのは、大型ロケットを打ち上げ地点だけだ」
「場所は、スヴォボードヌイ」
 このとき、ユルゲンの眉に、一瞬の驚きがサッとかすめた。
涼宮の手から地図を奪い取ると、
「涼宮さん、もう一度名前を言ってくれ」
「スヴォボードヌイだが……」
 ユルゲンの想いは、確信に変わった。
「スヴォボードヌイ……やはりか。
俺は、前にこの基地に関して、聞いたことがある」

 スヴォボードヌイとは、中ソ国境を流れるアムール川支流、ゼヤ川中流の右岸にある都市。
アムール州州都のブラゴヴェシチェンスクからは北へ1670キロの場所にある。
 1930年代には第二シベリア鉄道の建設の為、大規模な収容所群がこの地に設けられた。
同市の50km北方には、閉鎖都市ウグレゴルスクがあった。
 この町は1961年にソ連軍のミサイル発射のために作られた町。
1969年以降、「スヴォボードヌイ18」という暗号名で呼ばれた。
 町の中心から5キロの場所にシベリア鉄道の支駅、レデャーナヤ駅があり、軍事物資の搬入も可能であった。

「俺がまだ駆け出しの軍人で、モスクワに留学中の話だ。
ソ連のロケット学者から、この場所の話を直に聞いた」
 涼宮は口元をゆがめ、驚愕の表情でユルゲンを見やった。
「ロケット学者!」

「クビンカ基地で、歓迎パーティーが開かれた時だ。
ソ連の人工衛星コスモス1号の打ち上げが話題になったのが、記憶に残っている」
そういって冷徹な一瞥を、教授と涼宮にくれる。
「その時は確か、シベリアの原野に、秘密都市が建設されていたという話を耳にした。
それも、日本とも関係の深い極東、シベリアにあるミサイル基地だった」

 教授の鋭い目が、ユルゲンの端正な顔立ちに、くぎ付けになった。
「男子、三日会わざれば刮目(かつもく)して見よ」との諺通り、しばらくぶり会うユルゲンは、以前に比べて頼もしく感ぜられた。
「秘密都市……」
感情を押し殺した声で告げると、脇にいる涼宮の方に向き直った。
「それが……今は宇宙ロケットの発射基地か」
涼宮は無表情で答えた。

 三名の顔は、同じものだった。
不安に塗りつぶされたのである。
いかに勇猛な者とはいえども、こうした非常時に立つと、日頃の顔色もない。
「とにかく、米国一国では止むおえん場所だ」
といううめきが、教授の唇から出たとき、二人はもう一度、胸を衝つかれた。
だが、教授は、その太い眉をもって、うろたえるな、と叱るように二人を睨んだ。
「涼宮君」
「はい」
「君は、日本政府筋にこのことを伝えたまえ」
 涼宮は、これ以上の情報収集が出来ないと考え、一足先に研究室を後にした。

 東ドイツ大使にあてた書状を、したためるしかあるまい。
そう考えた教授は、机に座ると、早や便覧に筆を走らせ始めた。
「ベルンハルト君、本当にいいんだな」
 教授の顔が途端に鋭くなる。
精悍な顔つきをしている為に、かなりの迫力が漂った。
「これは日米同盟という、安全保障上の問題だ。
だが、失敗したら、東ドイツも共倒れだ」
 
「はい。分かっております」
 そういって、恭しく大使へあてた手紙を受け取った。
内心の不安を覚えつつも、ユルゲンは笑みを浮かべながら答えた。
『唯一の勝算は……、味方が天のゼオライマーである事か……』
さしものユルゲンも、そう思わざるを得なかった。


 ブレジンスキー教授から、一報を聞いたユルゲンの行動は早かった。
即座に車を手配して、マンハッタンにある東ドイツ代表部に駆け込んだ。
 ユルゲンは、その手紙を携えて、大使公室を尋ねた。
詳しい内容を伝えると、公使は、
「ベルリンは何時だね」と尋ねてきた。
ユルゲンは腕時計を見て、
『ニューヨーク・ベルリン間の時差は6時間』
と時間を計算した後、
「いまは午前4時になります」

 その朝、木原マサキは、早暁から台所を借り、朝餉などを作っていた。
不意に、日本食が食べたくなり、飯を炊き、鮭を焼いている所だった。
 本心を言えば、緊張の為、まったく寝付けなかったのだ。
 マサキは、鉄人ではなかった。
普段の振る舞いと違って、非常に繊細な男であった。
 仮初(かりそめ)とはいえ、結婚式を挙げた興奮もあろう。
それよりも彼の心を悩ませたのは、着陸ユニットの接近であった。

 いくら素晴らしいマシンがあっても、地球上に再び着陸されたらやりようがない。
超マシンで巻き返そうにも、建造するための原材料や、兵站を維持できなければ、無意味なのだ。
 今ここでもたもたしていたら、取り返しのつかないことになる。

 鉄甲龍を倒した時も、躊躇なくやっていれば、日本本土への被害は防げたろう。
幽羅を、八卦ロボを誘い出すためとはいえ、米海軍第七艦隊の損失は割に合わなかった……
 前世の失敗を、今更ながら悔いていた。


 マサキの意識は、若い女の声で現実に戻される。
まもなく、寝間着姿のベアトリクスとアイリスディーナが来た。
「木原、木原はいる!」
 ベアトリクスとアイリスディーナは、とにかく過敏な眼いろだった。
だが、さすがにマサキは、何気ないふりを振舞いながら、
「どうした」
と、落着き払っていた。
「主人から電話が来てるの!」 
 ヴァントリッツに電話がつながった時、ベアトリクスは偶然起きていた。
ユルゲンの話を聞くなり、アイリスを起こして、急いで台所まで来たのだ。
 
 今にある電話機の傍まで行った後、受話器を取り、
「ユルゲン、どうした。俺だ、木原マサキだ」
 いつにない真剣な表情で、ユルゲンに尋ねた。
ユルゲンは一呼吸おいてから、
「未確認情報だが、ソ連がロケットを上げた。
発射場所はスヴォボードヌイ……シベリアのアムール川流域で中ソ国境地帯だ」
「スヴォボードヌイ」
 マサキにも、初めて聞く名前である。
それは無理からぬことであった。
 その場所は、前の世界でさえ、ソ連崩壊まで完全に隠蔽された閉鎖都市。
CIA発行の航空写真では判明していても、どのようなものがどれだけあるかは秘中の秘だったからだ。
「場所の事はどうでもいい。お前が話せる限りのことを話せ」
「プロトンロケットではない新型だ……今はこれしか言えない」
 そう言って、受話器をベアトリクスに渡した。
夫婦であれば、積もる話もあろう……
マサキなりの最大限の気づかいだった。


 国際電話はたちまちシュタージの知るところになった。
マサキ番のゾーネ少尉は仮眠から起きると、通信室に入った。
複数並ぶモニターの電源を、一斉に付ける。 

 椅子に座って、国際電話の内容を傍受していると、後ろから声がした。
「なるほどな。ずいぶんと金のかかった部屋だ」
ゾーネは後ろから入ってきて感悦(かんえつ)をくり返しす男に、驚愕の色を示す。
「誰だ、お前」
「マネージャーさ、木原先生のな」
白銀は、軽く笑っていなした。
「たまには、木原先生の特別講義を聴講させてもらわないとね。
あんただって、そのつもりなんだろう」
と、本音を吐いたときの、ゾーネの顔つきは、ひどく複雑だった。
美男(びなん)好きのどうにもならない諜報員でも、将校は将校だもんな」
 その瞬間、瞋恚をむき出しにしたゾーネは、白銀のネクタイをつかんだ。
「な、何だと」
白銀は、一瞬驚くも、ゾーネの腕を逆につかみ帰して、興奮するゾーネを抑えた。
「まあ、まあ、怒るなよ。本当のところ言われてさあ」

 そのうち、白銀ともみ合いになりながら、ゾーネは、
「出ていけ、警備兵をよぶぞ」と叫んで、電話機の方にかけていった。
白銀は背広の上から来ていたオーバーコートを直すと、
「連れないね」
と、ドアの方に下がっていった。
 慌てたゾーネが、受話器を持ち上げると、
「分かった。分かったよ」
白銀は、そういって背を向け、
「よくお勉強なさってください……」
ると、会心の笑みを漏らしながら、その場を後にした。




 マサキは、アイリスディーナと一言も交わさないで、庭まで来てた。
誰もいないのを確認した後、懐中よりホープの箱を取り出す。
悠々と紫煙を燻らせると、再び過去への追憶へ沈降した。
 
 この時代のソ連で核搭載可能な宇宙ロケットは限られてくる。
プロトンロケットでなければ、1980年代後半に完成した大型ロケットエネルギアぐらいか。
 エネルギアは記憶が確かならばペイロードが35トンまで耐えられるはず……
27トンの核爆弾「ツァーリボンバー」であるならば、搭載可能だ……
 低軌道か、静止軌道か、判らない。
だが、着陸ユニットを迎撃するとすれば、50メガトンクラスの核爆弾でなければ厳しかろう。
核での粉砕が成功すればよいが、破片が落下する事態になれば、地球上への被害は免れない。

 何よりも、マサキを怖れさせたのは、着陸ユニットそのものが無傷である可能性であった。
今までは新疆やアサバスカなど、はるか蕭疎(しょうそ)邑落(ゆうらく)だから良かったものの……
 大都市ならば、その影響は甚大だ……


 問題は、低軌道上にどうやって上がるかである。
次元連結システムを使えば、指定したあらゆる座標に移動可能ではある。
 だが、マサキ自身は宇宙空間での実験を一切してこなかった。
地上での戦闘のみを想定していた為である。
 まさか、異世界に来て宇宙怪獣のBETAと戦うとは夢にも思っていなかった。
全長50メートル強の機体を運ぶ宇宙ロケットがあるのか、どうかも不明だ。
 マサキの悩みは留まることを知らなかった。 
 

 
後書き
 読者の皆様へ。

 近いうち、グレートゼオライマー出そうと思っています。
ですが、OVA本編は未登場で、設定のみは公式資料集。
映像化の初出が『スーパーロボット大戦J』となっています。
その際は、スパロボのタグが必要なのでしょうか。
 ご意見いただけると幸いです。

 ユーザー登録している方は、下のアンケートに答えていただければ幸いです。
https://www.akatsuki-novels.com/surveies/view/793


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