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私の 辛かった気持ちもわかってよー

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5-9

 ダブルスの試合が始まって、2回戦で織部部長のペァと西田先輩とみく美のペァがぶつかっていた。試合は、タイブーレークのすえ織部部長と多田先輩のペァが勝ち進んだのだけど、順々決勝であの学館の衣笠ペァに負けてしまったのだ。学館の衣笠ペァはその後も、洛中国際のペァを退けて、決勝に進んできていた。

 私達のペァは順調に勝ち進んで、準々決勝で学館の第2ペァを打ち破って、準決勝も難なくストレート勝で決勝に臨んでいた。

「いい? 山葵 この時の為に練習やってきたんだからね 響はあなたを研究してきてるわ だけど、山葵のサーブ 1本目も2本目も [参の型]よ 多分 衣笠は山葵の得意のサーブが頭に入っているから、戸惑うはずよ だけど、3本目から [壱の型] それで、相手のリターンは浮いてくるはず 私はボレーをクロスで前衛の逆サイドに返すわ」

「えぇーぇ 大丈夫かなー 入るカナー」

「何言ってんの! 入れるのよ! 頂点に立つんでしょ!」

 そして、私達はラッキーにも、私が最初にサーブを打つことになった。向こうは、璃々香先輩の予想通り、衣笠響が後衛で、そして、最初のサーブを言われていたように、[参の型]で・・・入った・・・そして、レシーブはネットまでも届いてこなかった。そして、2本目も。確かに、衣笠響は戸惑っていたようだ。そして、次のサーブの時はもっとラインから離れて待ち受けていたのだ。だけど、私の得意のサーブは、その後、立て続けにポイントを奪って、ストレートでゲームポイントを取っていた。

 1ゲーム目が終わった後、向こうのペァは何かを言い合っていたが、混乱している様だった、だけど試合は3-3になって、7ゲーム目、璃々香先輩が

「ころあいを見て [秘技 滝壺]ネ 衣笠響にぶつけてやりなさい」と、

 そして、璃々香先輩は深い所のコーナーをめがけてショットを打ち込んでいて、私はミドルの位置から・・・ジャンプして、斜め上から思いっ切り打ち下ろしてドライブのかかったショットを衣笠響の腰辺りをめがけて、打ち込んでいった。案の定、ネットを超えて返って来ることは無かったのだ。

 そのゲームは私を好きなように飛ばしてくれて、先輩のコーナーを突いたショットの合間に、先輩の言う[滝壺]とか[参の型]のショットを自由に連発していて、そのゲームもストレートで取っていた。そのままの勢いで第8ゲームも取っていた。5-3になっていた。あと1ゲーム。

「山葵 今まで、何のために練習してきたの?」と、次のゲームの前に聞いてきた。

「頂点に立つためです」

「そうよ 楽だった?」

「ううん 辛かった」

「そうでしょ それを乗り越えてきたのよ 自信持って行きましょうネ 思いっ切り女王 衣笠響に打ち込むのよ シングル戦の時のリベンジよ 自分に自信持って!」

 そして、1本目はジャンプして思いっきり身体を反らして打ち込んだ。バウンドした後、大きくそれて行くように・・・衣笠響は追いきれなかったのだ。そして、次は[参の型]。浮いて返ってきたボールを璃々香先輩が叩きつけるようなボレーで。その後も、璃々香先輩は相手の前衛にボールを触らせるようなことはしなかった。そのまま私達の勢いは止まらなかったのだ。そして、マッチポイントを迎えて、中途半端なレシーブが返って来て「先輩 私」と、後ろから大きく飛び込んで、力の限り[滝壺]を女王の腰の辺りを目指して打ち込んでいった。衣笠響のレシーブのボールがネットの手前で落ちて力無く転がっていたのだ。

「やったー」と、私は璃々香先輩に飛びついていった。衣笠響のペァは呆然していた。そして、表彰式の後、衣笠響が私のもとに来て

「優勝おめでとうネ 完敗! あなたには、驚かされてばっかりだわ でも、次は頑張るからネ」と、立ち去ろうとしたけど、振り向いて

「聞かせてー どうして、個人戦のときは仕掛けてこなかったの?」

「・・・ウチ・・あの時、衣笠さんに圧倒されてしまって・・出来なかった。璃々香先輩と一緒でないと駄目なんです」

 その時、衣笠響は璃々香先輩のほうを向いて

「今度は手を抜かないでネ 最後のインターハイよ」と、個人戦の決勝でのことを言っているのだろう。

「手なんか抜いてないよ あなたは女王なんだから・・でも、シングルって孤独よね 喜びも・・」

 衣笠響はぷいっと振り返って立ち去って行ったのだ。そして、次の日、学校で恒例のように校長室の呼ばれて、体育館の壇上では労いの言葉を受けて居たのだ。 
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