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展覧会の絵

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第十八話 我が子を喰らうサトゥルヌスその十一

「地獄に行ったよ。後はあの世界で裁かれるだけだよ」
「三人の裁判官達に」
 アイアコス、ラダマンティス、ミーノスの三人だ。ダンテの神曲の世界である。
「後は彼等が行いますね」
「そう。僕の務めは終わったよ」
 そうだと言う十字だった。
「ではまずはシャワーを浴びるよ」
「はい」
「日本の。この国の水はいいね」
 十字は赤く染まったその詰襟の服を着たままで述べた。
「硬くない。いい水だよ」
「水についてはどうしても欧州は」
「いや、水だけじゃなくてね」
「他のこともですか」
「そう。それは神父も知ってると思うけれど」
「確かに。日本と比べますと」
「生きるには厳しい場所だよ」
 例えイタリアでもそうだというのだ。欧州という場所は。
「冬はあまりにも寒くそのうえ確かに水も悪く」
「作物も育ちにくいですね」
「それが欧州だからね」
「思えばこの国は恵まれていますか」
「実にね。そう思うよ」
「シャワーを浴びるその水でさえも」
 欧州と日本は違っていた。硬水は水を浴びるに際しても問題があるのだ。
「欧州は厳しいですか」
「イギリスでは泡はそのまま拭くだけだしね」
 水で流さないのだ。硬水で。
 それは食器洗いもだった。皿も泡を拭いて終わりなのだ。
「それを考えるとイタリア。僕の生まれ育った国は恵まれてるけれどね」
「それでもですね」
「そう。日本に比べれば厳しいよ」
 そうだというのだ。生きるには。
「この国は本当にいい国だよ」
「私もそう思います」
「ではね」
 それではだと言って。そうしてだった。
 十字はシャワーを浴びに向かった。そこで血や肉片も落とした。
 それから私服、やはり白いそれに着替えてだった。彼はそのうえであった。
 神父と共に食事を採った。白いパンと共に鴨の燻製にポテトサラダ、そしてフルーツとワインを食べた。そしてそのうえでこう言うのだった。
「美味しいね」
「それは何よりです」
「うん。ではこれを食べてからだね」
「骸を晒しに行きますか」
「そうしよう。ではね」
「私はワインを飲んでいませんので」
 だからだと。神父はここで言った。 
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