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展覧会の絵

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第十七話 死の島その六

「そのままだな」
「殺し方は違っててもな」
「残忍さ、それに手際のよさ」
「殺しをまるで作業の様に行いやがる」
 そうとしか思えない速さと残虐さからだ。十字は十九世紀、黄金時代の大英帝国の首都を恐怖のどん底に落とした連続殺人鬼に例えられていたのだ。
「そんな奴だな」
「冗談抜きで一体どんな奴なんだ」
「どんな怪物なんだ」
 十字は怪物とさえみなされていた。
「そしてそんな奴が神戸をうろうろしてるのかよ」
「ぞっとする話だな」
「下種や悪党ばかりばらしてるからいいってことはないんだ」
 警察、治安を守る組織としてのプライドだけではなかった。連続殺人鬼が街を徘徊しているという恐ろしさを防ぐ為にもだ。彼等は誓い会っていた。
「絶対にホシを見つけないとな」
「それで捕まえないとな」
「いいか、このホシは確実に化け物だ」
 警視庁から出向してきている捜査本部長、所謂キャリア組の彼も深刻に強張った顔で言った。
「私が許可する。必要とあらばだ」
「射殺ですか」
「そうしていいんですね」
「ここまでできる奴ははじめて見た」
 実際にだ。その目ではだというのだ。
「サイコ殺人鬼はたまにいてもな」
「ですね。まさに現代の切り裂きジャックですから」
「今ネットで世界中で話題になってますしね」
「神戸の切り裂きジャックと」
 しかもだ。殺していると思われる数は切り裂きジャックを遥かに凌駕していた。ジャックは数人の娼婦だ。だが十字、誰も彼とはわかっていないが彼はだ。
 百人、いや優にそれ以上は殺していた。二百人を越えるだろうか。
 それだけの数の人間を惨殺してきているからだ。本部長も言うのだった。
「そいつを見つけて間違いないと確認できた時はだ」
「はい、そうさせてもらいます」
「相手が相手ですからね」
「本当に何だ、こいつは」
 本部長もだ。真剣に何者かと考えていた。十字とはわかっていなくとも。
「まさかと思うが怪物か?本当に」
「あの、その話は」
 ここでだ。本部長の隣にいる彼の補佐役として同じく警視庁から出向してきている年配のノンキャリアのやり手が囁いてきた。
「彼の話になりますので」
「ああ、高橋警部のか」
「ですからその話は」
「そうだな。出さないでおくか」
 ある人物の名前を出してだ。本部長も話を止めた。
「彼の話は極秘だからな」
「そうです。ですから」
「わかった。同じ神戸にいることだしな」
 本部長は納得した顔で頷いて述べた。
「怪物という単語は出さないでおこう」
「そうした方がよいかと。しかし」
「そうだな。こいつは本当に人間じゃない」
 オカルト、科学捜査を信条とする警察官としてはあまり褒められた表現ではないがそれでもだった。本部長はあえてこの表現を使ったのである。
「何か得体の知れないな」
「そんな奴ですね」
「ああ、見つけても捕まえられるか射殺できるか」
 そうできるかどうかさえだ。本部長は自信がなかった。
「見つけること自体が無理かもな」
「これだけ証拠がないとなると」
「だが。それでもだ」
 警官としてだ。そのプライド故だった。本部長は言った。
「こいつは絶対に捕まえないとな」
「何とか証拠を見つけましょう」
「確実に言えることは絶対にまともな奴じゃない」 
 本当にだ。わかることはこれだけだった。
「有り得ないレベルのキチガイということだけだな」
「狂人、ですか」
「ああ、それだな」
 こうした話をしてだった。本部長は囁きからあらためて顔を捜査本部に集っている警官達に向けてだ。そのうえでこう言ったのだった。 
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