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展覧会の絵

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第十話 思春期その十四

 だがよく見れば引き締まり贅肉はない。ルネサンス期の彫刻の様だ。その身体から血を落とし元の姿に戻る。そしてそれからであった。
 普通の私服、やはり白い、トランクスまでそうであるその服を着てだ。食堂で神父と共に遅い夕食を摂り。言っていた画廊に入ったのである。
 そこでだ。一人のベッドの上に座る裸の少女の絵の前に来た。その絵は。
「ムンクですね」
「うん、この絵もね」
 それだとだ。十字は神父に答えた。見ればムンク独特の不安さを醸し出さずにはいられない色彩でだ。まだ成熟していない肢体の少女が描かれている。
 少女の表情もはっきりしない。髪もただおろしているだけだ。しかしだ。
 その全てがはっきりせず不安なものだ。その絵を見てだ。神父はまた言った。
「思春期ですね」
「そう。この絵も僕が模写したものだけれど」
「何時観てもこの絵は不安になりますね」
「ムンクの絵は全体的にそうだけれど」
「そうですね。特にこの絵は」
 不安なものにさせるというのだ。
「思春期そのものですね」
「思春期。僕達の年齢になるけれど」
「どうしても。様々なことで心が揺れてしまいますね」
「神父もそうだったんだね」
「はい」 
 その通りだとだ。神父も十字に答える。
「私もかつてはそうでした」
「この頃は誰でもそうなるよ」
 絵の中の少女の年齢、そして十字の年齢ならばだというのだ。
「僕は違うにしてもね」
「枢機卿はですか」
「僕は既に過ぎたからね」
 そのだ。思春期をだというのだ。
「何年も前にね」
「既に揺らぐ頃はですか」
「神への絶対の信仰に至ったからね」
 それでだ。思春期を終えたいうのだ。
「だからね」
「そうですね。思春期もやがてはです」
「終わるものだよ。けれど」
 だが、だというのだ。
「その間はね」
「何かと思い、悩むものですね」
「人として様々なものが形成されていく時なんだ」
「だからこそ思春期は重要ですね」
「人にとってね。特にね」
 ここで十字はこうも言った。 
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