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展覧会の絵

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第十話 思春期その十三

「いつも通りね」
「紅だからですね」
「僕の色だからね」
 それ故にだというのだ。
「この服は置いておくよ」
「白から。そして紅になりましたね」
「枢機卿の色だね」
「はい、紅はですね」
 何故枢機卿が紅かは。十字が自分から言った。
「カーディナルレッドだからですね」
「そう。だからね」
 それ故にだった。つまり枢機卿の法衣の色なのだ。
「この色は大事にしたいよ」
「左様ですか」
「いつも通りね」
「枢機卿の色が血の色であるというのは」
 カーディナルレッドをだ。神父は十字の今の姿からこう考えて述べたのである。
「妙な縁を感じますね」
「僕についてだね」
「はい、それを感じます」
「そうかもね。ただね」
「ただ、ですね」
「僕は血を浴びることを厭わない」
 そうしたことに対してだ。自分で抵抗はないというのだ。
「それはいつも言っているね」
「その通りですね」
「これが務めだから」
「神に与えられた務めだからこそ」
「そして法皇様直々に与えられたね」
 至高の存在からもだ。そうされているというのだ。
「尚且つ主と聖霊に誓っても」
「疚しいものはない」
「神の裁きの代行者は必要だからね」
「そうですね。悪を裁くことの実際の執行は」
「雷はこの世にあるんだ」
 神の雷、かつてバベルの塔を崩したそれはだというのだ。
「僕はその雷なんだ」
「神が下される」
「そのことに誇りは感じれど罪の意識は全くないよ」
「むしろそれを持つ方がですね」
「あってはならないことだからね」
 十字の考えではそうだった。その朱に染まった顔と服での言葉である。
 見れば前からだけでなく横も後ろもだ。何もかもが朱に染まっている。まるで血の海に飛び込んだ様に。そしてその姿で言うのだった。
「だからそれはないよ」
「左様ですね。ところで」
「うん、着替えてシャワーを浴びて」
「お食事にしましょう」
「そうしよう。それでね」
 十字は食事の後のこともだ。神父に話した。
「かなり遅くなるけれど」
「それでもですね」
「画廊に行こう」
 そこにだ。行こうというのだ。
「そして絵を見よう」
「休まれるその前に」
「うん、そうしたいけれどいいかな」
「はい」
 静かにだ。神父は十字のその言葉に一礼して答えた。
「御付き合いさせてもらいます」
「悪いね。本当に遅いのね」
「いえ、構いません」
 神父は微笑んでこうも答えた。
「枢機卿は大切なお仕事を為されたのですから」
「だからだというんだね」
「そうです。私は待っているだけでしたから」
「いや、待って留守を預かるのもね」
「それもですか」
「大切な仕事だから」
 それ故にだ。十字は自分の仕事と神父の仕事を変わらないと述べた。
 それからだ。彼は言った。
「では。今からね」
「はい、着替えて血を落とされて下さい」
 こうしてだ。十字は服を脱ぎ浴室に入りだ。そこでシャワーを浴びた。それで鮮血が落ちて雪の様な白い身体が現れた。一見すると華奢である。 
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