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冥王来訪

作者:雄渾
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ミンスクへ
ソ連の長い手
  ミンスクハイヴ攻略 その1

「ミンスクハイヴ攻略の為……、特別攻撃隊を組織したい」
ソ連赤軍参謀本部の一室に、男の声が響く
その一言に、周囲は騒然となる
声の主は、ソ連赤軍300万の全てを(つかさど)る赤軍参謀総長であった
「嘗て対米戦において、日本帝国主義者(ヤポーシキ)がとった方法を取ると言うのですか」
 一人の赤軍中佐が立ち上がり反論する
彼は、その中佐の方を向き、こう答えた
「オルタネイティヴ3計画が水泡に帰した今、手段は限定すべきではない」
 ソ連赤軍の持てる英知をを結集した一大作品、ESP発現体……
ノボシビルスクにあった同研究所は、核開発設備やICBM発射車両と共に消し飛んだ
数百名のスタッフと研究データー、被験体……
彼等は知らなかったが、ゼオライマーの『メイオウ攻撃』で、全て灰燼に帰した

「既に、シベリア、極東、ザバイカルの各軍管区、蒙古駐留軍より招集を掛けている……。
だが、新兵の大部分は18歳未満……、とても役に立つとは思えない。
このまま続けば、大祖国戦争の二の舞だ。
産業構造ばかりではなく、人口増加率に悪影響を与えかねない」

 1973年4月19日に支那・新疆にカシュガルハイヴが出来て以降、世界状況は一変した
ソ連では、5年に及ぶ長く苦しい戦いの末、人口の3割が失われた
1970年に行われた国勢調査の統計結果では2億4170万人
それを基に推定すると、7251万人の人口が失われたことに成る
2000万人近い人口が失われた大祖国戦争を上回る勢いに、ソ連指導部は焦っていた
戦闘が長期化するに従い、膨大な予備兵力で徐々に攻勢を強める方針を取る
しかし、BETAの勢いは留まる所を知らず、兵力が恐ろしい勢いで失われた 
 絶望的な状況に追い込まれていた矢先、一条の光明が差し込む
異界より現れた超大型機動兵器(スーパーロボット)、天のゼオライマー
一瞬にして、ハイヴを灰燼に帰す『メイオウ攻撃』
無限のエネルギーを供給し続ける『次元連結システム』
座標を確認できる範囲であれば、随意の攻撃が可能な『次元連結砲』
湧き出て来るBETAに対して、鬼神の如く戦い、一人勝ち誇る姿を見せつける
その様にソ連指導部が、心を奪われるのも無理からぬ話ではあった

日本野郎(ヤポーシキ)に頭を下げ、ゼオライマーを借りる。
危険な賭けかもしれないが、これしかない」
 皮肉なことに、彼等はオルタネイティヴ3計画中断の道筋を付けた木原マサキに頭を下げ、助力を仰ごうとしていた
「既に、手段を選んでいる時ではないのだ」
まるで物に憑かれたように、ゼオライマーへの渇望を吐露する参謀総長
熱い思いを語る、その男の姿を周囲の者たちは引き気味で見ていた
「東ドイツの連中に光線級吶喊(レーザーヤークト)をやらせて、ハイヴに核を抱いた戦術機部隊を突入させる……
この様な最悪の事態を避けるために、帝国主義者の力を持って対応する。
何もやらぬよりはマシであろう」
 今日までに実施した赤軍主導の軍事作戦は(ことごと)く失敗に終わった
この状況下で、ソ連単独によるハイヴ攻略などが実現したならば、どうであろうか……
ソ連の権威回復は確実であり、国際情勢に与える影響は絶大
 そうなれば北大西洋条約機構に新規加盟する国家は居なくなる
その先に待つのは、統制による人類の結束……
其の事は、男にとって明らかな事実であるように感じていた


 ほぼ同時刻、市内にあるKGB臨時本部の一室で会合が持たれていた
十数人の男達が、ある老人の一挙手一投足を注視する
「今回、GRUに先んじて日本の工作員と接触した」
NKVD時代よりの伝統を受け継いだ青みがかった緑色の制服を着て、青色の肩章を付る
制服姿の老人が、男達の前に躍り出る
「その際、写真投影装置を仕組んだ部屋に当該人物を招き、閾下(いきか)知覚を通じて洗脳工作を実施した」
 サブリミナル効果を施したことを暗示させる
衆目が、その男に集まった
「木原を爆殺させるよう、手投げ弾の写真を当該画像に紛れ込ませ、視聴させた。
成否はどうでも良い……、これにより日本は混乱するのは必須」
室内を(せわ)しなく歩きながら言う
「其の隙をついて、最新型の戦術機部隊を差し向けた……。
読みが正しければ、ゼオライマーは出てこよう」
最新鋭戦術機搭載のタンカーを、密かに放った事を明かした

「よく手配出来ましたな」
眼光鋭く、その男を()すくめる
「鶴の一声よ……。小童(こわっぱ)共なぞ、如何(どう)とでも(あしら)える」
男の委縮する様を見ると、ふと冷笑を顔に浮かべる
「話を元に戻すが、仮に木原が出てこなくても、出ざるを得ない様仕向ける……。
洋上決戦で、KGB戦術機部隊が敗北した場合は、ロケットを撃ち込む手筈になっている。
如何に大型戦術機とはいえ、核弾頭ロケットの前では消し飛ぶはず……」
 ソ連国内に秘匿配備されたR-16 ミサイルを用いる事を説明した
二段式の液体燃料ロケットで、全長30メートル
 ゼオライマー諸共、木原マサキを消す……
その様な情念の炎を燃やす男の様を、チェキストたちは遠巻きに見ていた
「同志諸君、これはソビエト存続の為の聖戦なのだよ」
男の声を合図に、室内に鯨波(げいは)が響き渡った

 ハバロフスク市中を移動する米国製リムジン
KGB長官の公用車として使われる車両の一つ
米国からの特別ルートを通じ、KGBで入手した物であった
「同志長官、お聞かせ願えますかな」
移動する車中で、特殊部隊『アルファ』司令官は、KGB長官に木原マサキ抹殺の理由を問い質した
「あの男は生かしておいては危険だ……、何れは我らが覇道の阻害(そがい)になる。
危険な芽は早めに摘むのが一番……、奴にはパレオロゴス作戦開始前に死んでもらう」
対坐する長官は、革張りのアタッシェケースより一枚の紙を取り出す
「もし、今回の件が失敗した場合は、この密書に書いた通りに事を運べ」
男の表情が曇る
「米国のド()(なか)で……、中々厳しい注文ですな」
 その資料には、以下のようなことが書かれていた
国連職員の制服を着て、公用車でニューヨークにあるアイドルワイルド空港(現:JFK国際空港)に乗り付ける
其処を経由して、東京行の便に乗り換える際に襲撃すると言う指令
パレオロゴス作戦終了後、帰国途上のマサキを暗殺する計画であった
「工作員は、ルムンバ大学より選抜した外人留学生チームで行く。
そうすれば、KGBだと足もつくまい」
 ルムンバ大学
正式名称をパトリス・ルムンバ名称民族友好大学といい、東亜、中近東、アフリカ、南米における共産主義伝播の為、設置された工作機関の一つである
 戦前は、東方勤労者共産大学と称し、頭文字を取ってクートヴェ(КУТВ)
ここの卒業生は、支那、北ベトナム、インドネシアなどの共産主義運動を主導
 日本も例外ではなく、少なからず影響を与えた
戦前の日共ではクートヴェ帰りに対し、羨望の眼差しを向けるほどであった

 アルファ部隊司令官は、KGB長官の発言を取り持つ
「その暁には、木原の首であったものを用いて、蹴鞠(けまり)遊びでもしようではありませんか」
車中に、男達の哄笑が響き渡った
 
 

 
後書き
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