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仮面ライダーAP

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第20話 人間の自由と、平和のために

 ZEGUN、タキオン、そしてN/G-1。
 彼らとマティーニの激闘は熾烈を極めたが、その軍配はノバシェードの側に上がろうとしていた。片膝を着き、満身創痍といった様子で息を荒げている3人の前では、マティーニがふらつきながらも両の脚で地を踏み締めている。

「ぐぅ、おぉッ……!」
「はぁッ、はぁ、はぁッ……!」

 だが双方とも、一瞬でも気を抜けば倒れてしまいそうなほどに消耗し切っているのも事実であった。一見すれば優位を保っているようにも見えるマティーニだが、その装甲はすでに傷だらけであり、露出している内部機構からは火花が飛び散っている。

「く、ふふっ……ようやくご理解頂けましたか? これが、現実なのですよ。例えどれほど優れたスーツであろうと、『生身の人間』の着用を前提とした仕様である以上、その脆弱な肉体でも運用に耐えられる程度の出力に抑えねばならない。難儀なものですね」
「ぐッ……!」
「しかし、我々改造人間にはそのような『枷』など存在しない。駿とグロンギを駆り出して来た点は評価しますが……些か、スーツを着用しての実戦は不慣れだったようですね」

 マティーニが語る通り、警察側がこれまで開発してきた試作機はそのほとんどが、生身の人間による運用を前提とした仕様になっていた。中には装着者の負担を考慮し切れていないものもあったが、それでもある意味では「常識的な範疇」だったのだ。
 だが、改造人間の装着を想定しているマティーニのスーツには、そんな最低限の「遠慮」すら存在していない。その根本的な設計思想の違いが、この実戦における明暗を分けていたのである。

 現行の技術力では改造人間しか耐えられないとされる「クロックアップ」を導入しているタキオンと、グロンギであるガルバの限界を試すために設計されたN/G-1だけは、その領域に近付けていたのだが。スーツを着用しての実戦経験が足りていなかった2人では、マティーニの技巧には追い付かなかったのだ。

(……焦っていたとはいえ、番場遥花如きにライダーキックを使ってしまったのは失敗でした。あれでかなりのエネルギーを消耗してしまいましたし、駿達の戦闘力も想定を遥かに上回っている)

 だが、それでも多勢に無勢であることには違いなく。マティーニは懸命に、その傷付いた仮面の下に憔悴し切った貌を隠していた。

 マティーニの全出力を脚1本に集中させて放つ「スワリング電光ライダーキック」。その絶対な威力と引き換えに、彼は精魂尽き果てる寸前にまで疲弊しているのだ。
 加えて、決して侮れないZEGUN達との連戦。マティーニはもはや、いつ力尽きてもおかしくない状態に陥っている。

(こうなれば多少出力を落としてでも、ライダーキックの再使用を優先するしか……!?)

 この状況を打破するには、ライダーキックをもう一度発動出来る状態にスーツを調整するしかない。遥花に向けて放った1発ほどの威力はもう出せないが、ZEGUN達を倒すだけならその程度でも事足りる。
 その可能性に賭けたマティーニは、傷だらけのベルトに手を伸ばし、キックの威力を調整しようとする。

「ならば……試してみるかい!? 僕達の底力が、この程度のものかどうかッ!」
「……ッ!」

 たったそれだけの僅かな「隙」が、決死の反撃を許すことになるのだった。調整に気を取られていたマティーニがハッと顔を上げた時には、すでにZEGUN達が最後の総攻撃に向けて動き出していたのである。

「ぬぅううッ……! とぉッ!」

 右足に全ての力を込めたN/G-1は、眩い輝きを纏うその足で助走を付けながら、マティーニ目掛けて疾走していく。地を蹴り跳び上がった彼の右足から、渾身の「G-1キック」が放たれたのはその直後だった。

「おりゃあぁああッ!」
「ぐぉお、ぁあッ!」

 咄嗟に両腕を×字に組んで受け止めたマティーニは、衝撃のあまり後方に吹き飛んでしまう。そんな彼に追撃を仕掛けるべく、タキオンが動き出していた。

「クロックアップ……!」
CLOCK(クロック) UP(アップ)!』

 N/G-1に続くように、タキオンもベルトの起動スイッチに触れて「クロックアップ」を発動させていく。
 タキオン粒子を利用したその高速移動は、20カウントしか持たない。彼は残されたその僅かな時間を全て、必殺の一撃を放つための「チャージ」に費やしていた。

「俺達の覚悟……この凍てついた時の中で、思い知れ! 天峯ッ!」

 時が止まったかのような疾さで、G-1キックの威力に吹き飛ばされたマティーニに追いついたタキオンは、彼の背後に回りこみ回し蹴りの体勢に入る。

RIDER(ライダー) KICK(キック)!』
「ライダー……キック! はぁぁあッ!」

 そして、クロックアップが終了した瞬間。タキオン粒子を集中させた右足を振るい、最大火力のライダーキックを放つのだった。
 背後から思わぬ不意打ちを受けたマティーニは、回避も防御も叶わぬまま前方に蹴り飛ばされてしまう。

「うぐぁあッ!? バカな、いつの間に後ろへ……ハッ!?」
「さすがは我が研究チームの一員だ! 主任(ぼく)のニーズというものを、よく分かっているッ!」

 さらに。彼が吹き飛ばされた先ではすでに、「必殺技」の発動体勢を整えたZEGUNが待ち構えていた。
 地を蹴って跳び上がったZEGUNが、ベルト横の後ろ側にあるカード挿入口に発動キーとなる「アビリティカード」を差し込んだ瞬間。彼の右足に、青い稲妻を放つエネルギーが凝縮されていく。

「おぉおおーッ!」
「ぐわぁぁあーッ!」

 やがて、雄叫びと共にその足で放たれた飛び蹴り――「ゼガンインパクト」が、マティーニの胸板に炸裂するのだった。
 ZEGUN達の魂を賭けた、3連発のライダーキック。その全てを叩き込まれたマティーニのボディから、より激しく火花が飛び散り、黒煙が上がる。

「ぐぁあ、あァッ……! お、おのれぇッ……!」
「もう終わりだ、天峯! そのスーツもそろそろ限界だろう。諦めて投降しろッ!」
「限界……? 舐めた口を叩くなッ! マティーニの性能は、まだ……こんなものではないッ!」

 激しく地を転がった彼に、タキオンが降伏を勧告する。だが、総攻撃を受けながらも調整を完了させていたマティーニも、まだ諦めてはいない。

「とおォッ!」

 彼は最後の力を振り絞るように地を蹴って高く跳び上がり、滞空しながら飛び蹴りの体勢に入っていく。足りない出力を補うために、回し蹴りではなく飛び蹴りの姿勢から、ライダーキックを放つつもりなのだ。

「なにッ!? バカな、まだあんな力が残っているのか……!?」
「あのスーツ、どこまで装着者の負担を無視すれば……!」
「くッ……! 森里君、ガルバ君! 防御体勢を取るんだッ!」
「防御など無駄ですよ! この高度と角度から放つ私のライダーキックならば、今の出力でもあなた達など骨も残さず吹き飛ばせるのですから……!」

 回避は間に合わないと判断したZEGUN達は咄嗟に防御体勢に入ったが、彼らの傷付いたボディではマティーニのライダーキックには到底耐えられない。
 最後に自分1人が立っている未来を夢想し、仮面の下で口角を上げるマティーニは、全身全霊を込めた渾身の蹴撃を放とうとする。

「さぁ、あなた達全員……迅速なる死罰を以て、大罪を贖いなさいッ! スワリングッ! 電光ライダァァ、アッ……!?」

 そして、人間達の誇りもろとも全てが消し飛ぶ――かに見えた、その時。突如飛び蹴りの体勢が何らかの力によって乱され、マティーニのキックが中断されてしまった。
 何事かと目を見張るマティーニは、違和感を覚えた腰の辺りに視線を落とすと。そこに引っ掛かっていた、「鉤爪」の存在に気付くのだった。

「させ、ないッ……!」
「ば、番場遥花……!? 私のライダーキックを受けていながら、もう目醒めたとッ……!?」

 その鉤爪を、右腕の「ロープアーム」から伸ばしていた番場遥花が。無防備になっていたマティーニのベルトを捉え、キックを阻止していたのである。

「あなた、そのベルトでキックの威力を弄れるんでしょ? ……危ないから、切ってあげるわ」
「……! ま、まさかそのために……おのれぇえッ!」

 マティーニに気付かれないまま意識を取り戻していた遥花は、彼がベルトでキックの威力を調整する瞬間を目撃していた。その意図と機能に気付いた彼女は、マティーニが最も無防備になる瞬間を狙い、ロープアームから鉤爪を飛ばしていたのである。
 その鉤爪でベルトを操作することで、キックの出力をゼロにするために。

「遥花お嬢様……!」
「番場、遥花……!」
「……確かに、改造人間は今でも差別の対象よ。それでも、私達に(・・・)手を差し伸べてくれる人達はいる! 助けようとしてくれる人達がいる!」

 その大胆な賭けにZEGUN達が瞠目する中で。遥花は同じ差別を味わってきた改造人間の1人として、明智天峯という1人の人間を救うべく。鉤爪に繋がれたロープを緊張させ、勢いよく振り回し始めていた。
 それはさながら、ソムリエがグラスを回転させる「スワリング」のように。

「だから……そんな人達の思いを踏み躙るようなことだけはッ! 絶対に許すわけにはいかないッ!」
「な、なにを……うぉぉぉあぁあぁッ!?」

 体勢を乱された上に激しく振り回されては、鉤爪を解く暇もなく。マティーニは為す術もないまま、高速で空中を回転し続けていた。

「スワリングッ……ライダァアァッ!」

 やがて、遥花の絶叫と共に回転速度が最高潮に達した瞬間。損耗と圧力に耐え切れずにベルトが破壊され、マティーニの身体が宙に投げ出されてしまう。

 平衡感覚を狂わされた今の彼では、まともに受け身を取ることも出来ない。そのまま落下していく彼を、完膚なきまで懲らしめる(・・・・・)べく――遥花は鉤爪をマティーニの仮面に引っ掛けると。

「きりもみ……シュウゥートォッ!」
「ぐぁあ……あぁあーッ!」

 地面目掛けて、鉤爪と繋がっている右腕を勢いよく振り下ろすのだった。抵抗する暇もないまま、脳天から大地に激突したマティーニの仮面が崩壊し、再び明智天峯の素顔が露わにされる。
 その「変身」が完全に解除され、元の姿に戻された彼が力無く倒れ伏したのは、それから間も無くのことであった。

 遥花がこの土壇場で編み出した、「スワリングライダーきりもみシュート」。その一撃を以て、ついに仮面ライダーマティーニという最強の牙城が、崩れ去ったのである。
 
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