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仮面ライダーAP

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第13話 女性の敵

「はぁあぁあッ!」
「とぁあッ!」
「……ちぃッ!」

 女性ならではのしなやかで柔軟な挙動と、緩急自在の斬撃。それはゴールドフィロキセラにとっても不慣れなケースだったのか、その煌びやかな生体装甲には、すでに幾つもの傷を付けられている。

「同じ女性として君の卑劣な行為は見過ごせないな、明智天峯! 言っておくが僕は、女性の敵には特に厳しいぞ!」
「……全く、次から次へと。私を裁く権利が、あなた方にあるとでも仰るのですか。我々を生きるための闘争に駆り立てた、あなた達のような人類に」

 その攻勢を捌き切れず、苛立ちを露わにしているゴールドフィロキセラの触手をかわしながら。EXの肘に備わる刃が閃く度に、金色の鎧から火花が上がっていた。
 それでもゴールドフィロキセラは倒れることなく、EXの細い首に触手を巻き付けようとする。だが、その前にヴェノーラの蛇腹剣によって弾かれてしまうのだった。

「そうやって独りで勝手に人間を辞めた気になって、癇癪を起こしてばかりいるから、シェードの真似事に走ろうなんて思ってしまうのよ! 今からでも、落ち着いて周りを見渡してみたらどうなの!?」
「ご覧の通り、私はすでに落ち着いていますよ。だからこそ、戦うしかないと悟ったのです。私が今もまだ人間なのだと仰るのであればなおのこと、人類が積み重ねてきたその闘争の歴史に学ばねばなりますまい。……安住の地は、自ら戦わねば勝ち取れないのだと」

 通常の剣ではあり得ない軌道を描き、不規則な角度から斬撃を放って来るヴェノーラの蛇腹剣。その刃を両腕で凌ぎながら、ゴールドフィロキセラは触手を伸ばし、彼女の妖艶な肢体を絡め取ろうとする。
 そうはさせじと放たれたEXの斬撃がなければ、ヴェノーラの豊満な肉体はすぐに囚われ、触手に締め上げられていたのだろう。何度斬り付けても全く動きが鈍らないゴールドフィロキセラのタフネスに業を煮やしたEXは、ヴェノーラと共に「必殺技」を仕掛けるべく地を蹴り、怪人の頭上へと跳び上がる。

「やはり、対話で解決しようなどという考えは甘かったようだね。……沙耶、行くよ!」
「了解! 遥花を虐めてくれた分だけ、私達でお礼(・・)してあげましょうか!」
「何を……ぐぬッ!?」

 その挙動に気を取られたゴールドフィロキセラが、EXを打ち落とそうと触手を伸ばすよりも速く。ヴェノーラが放った蛇腹剣による刺突が、怪人の生傷に沈み込んでいた。
 相手を体内から破壊するバイオナノマシンを投与し、内側から崩壊させていく「ドラッグハック」。その必殺技が、ついにゴールドフィロキセラの体内に届いたのだ。

「こ、このナノマシンは……!」
「改造人間のあなたなら、それすらも克服出来てしまうのでしょうね。……でも、それで十分!」
「僕の一撃を決めるための、決定的な『隙』さえ作れればなッ!」

 これまで彼女達が付けて来た傷は、生体装甲の先にある明智天峯の体内に、バイオナノマシンを注ぎ込むための布石だったのである。その効果によって身動きが取れなくなったゴールドフィロキセラ手がけて、EXは高速で縦に回転しながら、踵落としの体勢に入ろうとしていた。

「はぁあぁあーッ!」
「うぐぅ、あッ……!」

 踵にも備わっている鋭利な刃で、上段から袈裟斬りにする「ヘルスラッシュ」。その一閃は金色の生体装甲を、まるでバターのように斬り裂いてしまうのだった。
 2人の女刑事による、警察官としての誇りを賭けた必殺技。それらを同時に浴びたゴールドフィロキセラは、あまりのダメージについに膝を付いていた。

「……明智天峯、君の癇癪に付き合う時間もこれで終わりだ。さぁ、大人しく署までご同行願おうか」
「これ以上痛い目に遭いたくなければ、あなたもそろそろ大人になることね」

 これほどのダメージを負ったとなれば、さしものゴールドフィロキセラも戦闘の続行は不可能だろう。そう判断したEXとヴェノーラは、膝を付いている彼を冷ややかに見下ろしながら、降伏を促している。

「……ふっ、『大人』ですか。あなた達のような詰めの甘い人種を『大人』と定義されるのであれば……この国が7年間も旧シェードに翻弄されていたのも、当然のことだったのでしょう」

 だが、金色の怪人はそんな彼女達を嘲笑いながら。自分を見下している女刑事達に、侮蔑の視線を送るのだった。

「なんだと……ぐぁッ!?」
「きゃあッ!?」

 その視線と嘲笑に、2人の女刑事が仮面の下で眉を吊り上げた瞬間。
 突如足元から地面を突き破り、飛び出して来た触手によって、彼女達はその首を締め上げられてしまうのだった。ゴールドフィロキセラは膝を付いた姿勢のまま両腕の触手を地中に潜らせ、彼女達の足元に忍ばせていたのである。

「あっ、うぁあッ!」
「くぅっ、あぁうッ!」

 首に続き、手足も触手に絡め取られてしまった女刑事達は、抵抗する術を失ったまま宙吊りにされてしまう。彼女達の敗北を示すかのように、ヴェノーラの蛇腹剣が持ち主の手を離れ、地面に突き刺さっていた。
 触手による締め上げに悶絶しながらも、仮面の下で驚愕の表情を浮かべているEXとヴェノーラ。そんな彼女達を仰ぐゴールドフィロキセラは、所詮生身の人間などこんなものだ、と言わんばかりに冷たい笑みを溢している。

「形勢逆転ですね。……気分は如何です? 自分達が見下していた相手に、良いように囚われた気分は」
「ぐぅ、うッ……も、もう動けるのか……!?」
「私のナノマシンが、こんなに早く克服されるなんてッ……!」
「……確かに、この私の動きを一瞬でも止めたあなたのナノマシンは、かなり厄介な代物でしたよ。禍継や蛮児のボディでは、恐らく耐えられなかったことでしょう。もっとも、ノバシェード最強の改造人間である私なら……ナノマシンの活動を抑え込める抗体の自己精製には、1分も掛かりませんがね」

 ゴールドフィロキセラが語る通り、ヴェノーラのバイオナノマシンはかなりの脅威であった。自己再生能力に秀でた彼が相手でなければ、彼女1人で勝負を決めることも出来ただろう。ブロンズフィロキセラやシルバーフィロキセラでは、彼女には到底敵わなかった。
 しかし、外部から受けるダメージのみならず、内部から侵食して来る毒物にも適応出来てしまうゴールドフィロキセラにだけは、通用しなかったのである。EXが付けたヘルスラッシュによる傷も、すでにほとんど塞がっていた。

「とはいえ、あなた達には随分と痛め付けられました。……これほど追い詰められるとは、正直予想外でしたよ」
「あぅ、ぐぅうッ……!」
「ぁあっ、あぁあッ……!」
「その健闘を讃え、命だけは助けて差し上げましょう。……2度と刃向かう気が起きなくなるまで、念入りに嬲った上でね」
「さ、沙耶さん、美里さんッ……!」

 2人の女刑事が見せた「新世代」の底力を危険視したゴールドフィロキセラは、彼女達の「心」をへし折ろうと、触手の締め上げを徐々に強めていく。まだ体力が回復しきっていないライダーマンGは、苦しむ2人に手を伸ばすことしか出来なかった。
 
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