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冥王来訪

作者:雄渾
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ミンスクへ
  青天の霹靂 その3

 
前書き
パイロットの拳銃はリボルバーでもいいんじゃないかと思い、敢てM29の8インチにしました
どうせ、拳銃使う事無いから好みの拳銃にしました 

 
マサキは夕刻、一人、ゼオライマーの中に居た
次元連結システムの簡単な動作確認と出撃可能な様に整備を進める
数日前、ウクライナのセバストポリを化け物共が襲った
少なくとも自身がカシュガルハイヴと呼ばれる構造物を地中深くから崩壊させて以降、目立った動きはなかったはずだ
思い当たる節があるとすれば、その攻略の際、地中奥深くで遭った異形の化け物
その際に受けた攻撃を解析して、その事例に前後するように、戦地で一時的に生け捕ったBETAに解析した周波数を照射したことであろうか
確かに、暴れはしたが、即座に次元連結砲で灰燼に帰した

或いは、宇宙其の物から異次元のエネルギーを変換させる次元連結システムの作用が、この異世界に与えたのか……
この禍々しい化け物自身を構成する物質に、何かしらの時空間への影響を及ぼす作用が有るのか……

 消滅したはずの自身とゼオライマーを呼び寄せる存在……
有るのであろうか
確かめてみたいし、知りたくもない
その様な相反する気持ちに悩む
気分転換にと、機外に降り立ち、駐機場の端に向かう 
灰皿用に赤く染めたペール缶の前に立つと、胸ポケットからレギュラーサイズのタバコを出し火を点ける
頭を冷やして考える
今までは遊びを優先で事を進めてきたが、次元連結システムと怪物に何かしらの影響が出る様では怪物どもを素早く片付けねばなるまい
そして、この世界の人間どもを様々な策を弄すのも良かろう……
水の張った灰皿にタバコを投げ捨てると、機体に向かう 

 操縦席に乗り込むと操作卓(コンソール)に触れ、電源を入れる
美久が駆け寄ってきた
普段着て居る保護具(プロテクター)付きの操縦服ではなく、件の衛士強化装備
幾度(いくど)見ても、あの肉体その物をそのまま曝け出してしまう姿格好には慣れない
一旦降りて機体の足元で、腕組みをして待つ
すると声が聞こえる
「お待たせしました」
腰を曲げ、両腕を膝に付き、肩で静かに息をつく彼女が居た
垂れ下がる長い髪の隙間から見える首筋は、(なまめ)かしく、劣情(れつじょう)を引き起こさせる
我ながら、形状記憶シリコンと推論型AIの完成度に満足した
「お前自身が機械なのだから、あんな木偶人形(せんじゅつき)操縦士(パイロット)遊びをする必要もあるまい」
彼は後ろを向くと再び乗り込む準備をし始める


《ペルシャへ、冷やかしに行く》
無論、連中には話は通してある。
すっと潜って、巣穴を焼いて帰ってくるだけ
簡単な作戦……
 そう思っていると、奥より見慣れぬ人影が表れる
《ドブネズミ色》の背広姿に、茶色の膝下丈のトレンチコート
中折帽(フェドラ)を被る男が、薄ら笑みを浮かべて近づく
オーバーのマフポケットに両手を突っ込み、此方へ歩み寄る
およそ軍事基地には不相応の姿格好
まるで決まりきったサラリーマンのような支度に不信感を憶える

 彼は上着を押し上げ、ズボンのベルト右側に挟んであるインサイドホルスターに手を掛ける
私物の8インチの銃身を持つ拳銃をゆっくり取り出す
(1インチ=2.54センチメートル)
脇に居る美久にも目配せする
彼女の手には、米軍貸与の大型自動拳銃がすでに握られている
「動くな。ここをどこだと思っているんだ」
ゆっくり右手で構え、丁度ズボンのベルトのあたりに向けて照準を合わせる
左手を右ひじに添える形で保持し、撃鉄を上げる
男は、両腕をだらりと下げた侭、笑いながら足を止める
再び、彼女に目配せをする
銃を構えた右手を勢いよく天井に向けると、一発撃つ
倉庫内に雷鳴の様な爆音が反響する
強烈な音と吐き気を(もよお)すような耳鳴り
思わず顔を(しか)める
 男は、猶も笑ってはいるが、若干顔色が悪くなった程度だった
「次は貴様を撃つ。両手を上げて、官姓名を名乗れ。
さもなくば、伏せて身動きするな。
俺の気は短いぞ……、忠告は一度だけだ」
男は敵意を無いのを示すように、両腕を腰のあたりまで上げる
掌をこちらに向け、止まる
「もっと上げろ、《万歳》の姿勢まで上げろ」
右掌を包むように左手を添え、拳銃を相手の顔面の位置まで上げる
拳銃の銃把(じゅうは)を握りなおし、照門を(のぞ)
.44レミントン・マグナム弾であれば、確実に殺せる
どけていた食指を用心金から引き金に移動させ、左目を(つぶ)り、右目に照星を合わせる

「ほう、スミスアンドウェッソンのM29ですか。良い回転拳銃(リボルバー)ですな」
男は日本語で、話しかけてきた
「減らず口を叩ける立場か、貴様。
俺は警告したぞ。手順通りやったから、後は()ね!
美久、同時に仕掛けるぞ」
僅かに、顔を彼女の方にずらす
「貴方方が噂のアベックですか。
色々、先々で話は伺って居ますよ。
しかし素晴らしい戦術機ですな。
これほど大きなものを御一人で組み上げたとは、いやはや関心致しますよ」
彼は顔を(しか)める
「貴様、何処の間者(かんじゃ)だ」
男は、なおも笑みを浮かべた侭だ
 再度彼女の方を見る
「火災報知器のベルを鳴らせ。
曲者だ」
彼女は、その場から素早く二発撃つ
爆音が響き、薬莢(やっきょう)が勢いよく排出口よりコンクリート敷きの床に転がる
放たれた弾丸は、防火用の非常ベルの保護カバーを破壊し、警報が作動する
けたたましい騒音が鳴り、火災発生を知らせる無線が場内に響く
 彼は冷笑する
「これで貴様は袋の鼠だ」
銃を構える彼女に檄を飛ばす
「おい!紐を持てい」
彼女は、其の侭、防災用品の入った棚へ向かう
彼の指示通り、捕縛するために紐を取りに走った
「恐らく、10分もしないうちに警備が来て、お前は捕まる。
詳しい話は、後で聞かせてもらうぞ」

 5人乗りのジープが2台止まる
白地のヘルメットにMPの文字が掛かれた腕章、黒革地のサムブラウンベルトを締めた兵達が降りて来る
「おい!木原、氷室、大丈夫か」
別な方角から、野戦服に鉄帽(ヘルメット)姿の巖谷が声を掛けて来る
小銃を抱えた数名の兵を連れ、やってきたのだ
彼は、警報音により複数の足音が近づいて来るのに気付かなかった
 遠くには、白い五芒星(ごぼうせい)が描かれたジープが見える
巖谷が来た前後、米軍のMP(憲兵)が敷地外まで来た模様だ


「いや、失礼しましたな。木原マサキ曹長。
もう少し歓談を楽しみたかったのですが、どうやらMPが来た様で……」
軍刀を手にして駆けてきた篁達が近づく
彼等を押しのける様に彩峰が、前に出る
軍帽に、オーバーコートを着ていたが、下は白いフランネルのシャツ一枚であった
押っ取り刀で来たのであろう
「貴様等は、毎度毎度騒ぎばかり起こして、我々を侮辱しているのか」
右手に握った刀を、左手に移す
彩峰は刀に手を掛けると、叫ぶ
乱波(らっぱ)風情が、何をしている」
男は観念したかのように目を瞑ると、()頓狂(とんきょう)な声を上げる彩峰に返す
高らかに笑い彼の方を向く
「君も……、無粋な男だな……。
《翁》が知られたら、さぞ嘆かれるであろうよ」
暗に五摂家の関係者と近いことを匂わす
 
 男の態度を不快に感じたマサキは弁明する
「俺は悪くないぞ。この帽子男が名乗らずに蔭から出てきたので、誰何(すいか)した迄の事よ」
消防車のサイレンが聞こえる
如何やら、大騒ぎになってしまった様だ
彼は、天を(あお)ぐと観念することにした

 騒ぎは基地内で済む話で終わらなかった
不審に感じた彩峰は、駐在武官経由で国防省に問い合わせたのだ
返答があったのは城内省
逆に篁、巖谷の両名に当てた《叱責》する電話が来た
城内省を仕切るナンバー3の軍監直々の《苦情電話》
慌てぶりからは上層部、特に五摂家の関与を感じさせた
一番怪しまれた情報省からの連絡はなかった
彼等は沈黙を通した


「おい、殿中出入り御免のワカサギ売りの商人(あきんど)風情(ふぜい)が、こんな欧州くんだりまで来るのか」
机に腰かけ、腕を組む彩峰は、目の前で平謝りを繰り返す大使館職員達を一括する
彼は、京の将軍御所に出入りするワカサギ売りの商人という前提で話を進めた
「そもそも何で霞ケ浦のワカサギ売りが、都まで売りに来るのだ……」
巖谷が、逆に彼に問うた
末席とはいえ斯衛軍(このえぐん)に身を置く彼にとって、その話は腑に落ちなかった……
「私が、当人から以前聞いた話だと『光菱重工北米事務所の販売員(セールスマン)』という事でした……」
篁が、そう呟く
ミラとの逢瀬の件が、殿中はおろか、禁裏(きんり)に迄、露見していたのも件の人物と接触していたのが有るのかもしれない
己が、脇の甘さを恥じた
「北米担当が何で西ドイツに居る。おかしいではないか」
大柄な職員が、篁に問うた
仕立ての良い両前合わせの背広を着て、立つ男はまるで壁の様に見えた

 侃々諤々(かんかんがくがく)の議論が起きている様を横目で見ていたマサキは呆れた
彼は、弁明する巖谷等の話を聞き流して、懐中に手を入れる
『ホープ』の箱からタバコを取り出すと、火を点ける
そして近くにあった椅子に座ると、独り言を言った
「随分と雑な素破(すっぱ)だな。
五摂家の何某(なにがし)が関わってると暗に認めているようなものではないか」
周囲の気を引く発言をわざとして、秘密を聞き出す算段であった

「何がしたい」
誰かが、そう言った
彼は、その男の声を聴きながら返す
「俺を道具のように扱う将軍とやらもそうだが、その《翁》とかいう人間が気に入らん。
かき回すだけ、かき回して、意味不明な言動をする。
貴様等に問いたい。その爺はどれ程の人物で、なぜお前らは恐れるのだ。
そんな耄碌(もうろく)なぞ、座敷牢にでも押し込めれば良かろう。
違うのか」
周囲を一瞥する
一様に押し黙っている所を見ると、かなり深刻な話題の様だ
これ以上、関わるのは得策では無かろう
彼は、この件に関しては諦めた
「大方、その素破とやらも、例の爺が用意した物であろう。
一つ言っておく。
大がかりな仕掛けを用意して、俺を弄繰(いじく)り回している様だが、どの様な結末になるか。
ペルシアにある化け物の巣穴を焼く様を見るが良い」
右手の食指で、声のする方を指差す
「そしてその事を一言一句、(たが)えず、その耄碌爺に伝えて置け」
彼は勢いよく、立ち上がる
「一寸ばかりペルシアへ飛んでくる。
何、気分転換のドライブだ」
そして、冷笑をしながら後ろを振り向く
「無駄な被害を出したくなければ、CIAのテヘラン支局にでも電話して置け。
ホラサン州から兵力を極力下げる様にとな……」
彼は、出口の方に踵を返すと、ドアを開ける
呆然とする職員達を目の前にして、其の侭部屋を後にした 
 

 
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