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冥王来訪

作者:雄渾
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ミンスクへ
  青天の霹靂 その2

 
前書き
カッツェはユルゲンの数少ない男友達です 

 
 セバストポリの急襲は、東側諸国に再び緊張感を与えた
48時間以内に出撃可能なように準備がなされたが、結論から言えば杞憂(きゆう)であった
米軍も一時的にデフコン3の指示をトルコ駐留軍に出したが、BETA群の侵攻は無かった
(むし)ろ恐ろしいほどの沈黙と停滞が起きたのだ
 
 深夜、再招集を掛けた時、ヴィークマンの様子がおかしいのが判った
彼等を(まと)めるベルンハルト中尉は、ハンニバル大尉に相談する
(はた)から見ても本調子ではなく、軍医の所にヤウクと共に無理やり連れて行く
 カッツェが、青い顔をしていたのに気が付く
何か、あったのであろうか……
「貴様も、顔が青いぞ」
ベルンハルト中尉は、幼馴染に問うた
「大したことではない……」
青い顔をする同輩を(うかが)
「ヴィタミン不足か何かだろうな……」
BETA戦争以降、ソ連経由の石油資源に飽き足らず、生鮮食料品不足が深刻だ
ボルツ老人が嘗て話してくれたように、ベルリン市中に壁ができる前であれば、西ベルリン側に買い出しに出かけられた
其れも出来ぬ今、柑橘(かんきつ)類など、まさに宝石のような価値ある存在になりつつある
バナナなど南洋の産物はしばらく目にかけていない
ジャワ産のコーヒーや果実など、日本人が来た時、数年ぶりに食べた
何とも言えぬ味でもあった

「生野菜でも(かじ)れば違うだろうが……、俺もこればかりはどうすることも出来ん」
「なあ、カッツェ。彼女の様子はどうだ。
俺は構ってられんからな……。貴様ならわかるだろう」
「アイツはここの所、食欲がないんだ……。左党で何でも飲む女なのにみんな吐き出しちまう……」
後ろから来たヤウクが、驚いた顔をしている
「まさか、君達の関係がそこまで進展したとは思いもよらなかったよ。
僕の管理責任不足だ」
彼は、ヤウクのその発言を聞き逃さなかった
「貴様、どういうことだ。隊長はハンニバル大尉、主席幕僚は俺だ。
寝ぼけてるのか」
掌を上にして、お道化(どけ)た表情を見せる
「本当に君は何も知らないんだね。ユルゲン。
彼等は、暇さえあれば逢瀬(おうせ)を重ねていたのさ。
そうであろう、同志・カッツェ・少尉」
(いささ)か、(あお)るような口調でカッツェに告げる
「お前らさあ、何が言いたいんだよ。
こんな時に喧嘩してる暇なぞ無いだろう」

その様なやり取りをしていると先任曹長と軍医が表れる
疲れ切った表情の軍医は、彼等に尋ねてきた
「君たち、医務室に来なさい。
此処で話は(はばか)られる」
腕を組んで立つ曹長に、彼は問うた
「同志曹長、どういう事でありましょうか」
勃然(ぼつぜん)とした態度で、彼に応じる
「貴方方の胸に、聞くべきではありませんかな。
同志ベルンハルト中尉」
「彼は違いますよ、同志曹長」
脇からヤウクが口を挟む
軍医の表情が変わり始めたのが判ったのか、ヤウクは進んで医務室に向かった
その後を、彼等も追う


医務室で待っていたのは、顔色赤く怫然(ふつぜん)した政治将校と司令官であった
30分に及ぶ聴取の結果、カッツェが白状したのだ
ヴィークマンとは、既に男女の間柄に成っていた
帰国直後に、その様な関係へ発展したとの事
結果的に言えば、大騒動になった
未婚の男女が(ちぎ)りを結び、その上妊娠させた
今回ばかりは、司令官も庇いきれなかったのか、きつい叱責になった
経歴に傷がつかぬとの配慮から、一週間の《精神的療法》と言う事で謹慎処分
後日、ヴィークマンと共に双方の両親に挨拶に行き、式を挙げるという形に落ち着いた

第一戦車軍団司令部は、悩ましい結末に頭を痛めた
ベテラン衛士の脱落
しかも作戦開始までに、復帰は絶望的
ベルンハルト中尉とヤウク少尉は、方々へ足を運び、陳情しに回った
人探しをする様、各連隊や部署に懇願(こんがん)した
偶々、下士官から選抜された、ヴァルター・クリューガー曹長という青年を見繕(みつくろ)ってくることで決着を得た
カッツェは、クリューガー曹長に頭が上がらないであろう
自分勝手な行動の結果、その青年を転属させたのだから


《一からの衛士育成》
ベルンハルト中尉は、中隊の執務室でタイプライターを打ちながら悩んだ
何れ、わが身の在り様も考えねばなるまい
ベアトリクスとの祝言(しゅうげん)も戦時と言う事で先延ばしにしていたが、同輩の過失を横で見ていると自制できるであろうか、不安になった
案外、ヤウクなどは5年でも10年でも待てるが、自分には自信がない
あの豊満で美しい肉体を思うと、正直夜も眠れぬ日があるのだ
アルミ製のマグカップに入った、冷めた代用コーヒーに手を伸ばす
不味いコーヒーではあるが、これしかない
薄い茶も質の悪い牛乳も飽き飽きするが、其れしかない
タバコなどを吸う司令やヤウクは経済的負担は大きかろう

ふと物思いに(ふけ)っているとき、ドアがノックされる
第一ボタンを閉め、居住まいを直す
「どうぞ、入って下さい」
ドアを開け、筋肉質で角刈りの青年が入ってくる
「失礼いたします」
曹長を示す階級章、襟にトレッセの付いた勤務服姿で逞しい肉体の男は彼に挙手の礼をする
彼も返礼をし、立ち上がる
「先日着任いたしましたヴァルター・クリューガー曹長であります。
同志中尉、よろしくお願いします」
彼等は、右手で固い握手を交わす
「同志曹長、私はユルゲン・ベルンハルト中尉だ。
今後、よろしくお願いする」
壁時計を一瞥する
「失礼ではあるが、執務中故、後日詳しい話は伺おう」

「了解しました。同志中尉、失礼いたしました」
再び、敬礼をするとドアを静かに閉め、去っていく
彼は着席する
年の頃は近いとはいえ、落ち着いた人物で信頼できそうだ
しばし背凭れに身を任せると課業時間終了を知らせる音が聞こえる
急いで、身支度をして、部屋を後にした




 
 

 
後書き
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