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冥王来訪

作者:雄渾
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第二部 1978年
ミンスクへ
  原拠 その2

 
前書き
読者様の意見反映回 その2

昔の理想郷だったら叱られるほどのガバガバ話作りで、済みません 

 
 翌日、西ドイツ、ニーダーザクセン州オスターホルツ郡、オスターホルツ=シャルムベック
ガルルシュテットの米軍第2機甲師団の敷地の一部を間借りする形で建てられた仮設の事務所
その建屋にある隊長室へ出頭要請の出ているマサキは向かう

遊び半分で、入隊した斯衛軍(このえぐん)……
まさか合同部隊で、ドイツくんだりまで来るとは夢にも思っていなかった
前の世界では、富士山麓の秘密基地から自由に出撃して、野放図に振舞う
沖達は、文句を言いながらも渋々我儘を認めてくれていたし、実力で認めさせていた

些か読みが甘かったのだろうか……
この際、隊長と引率役の斯衛軍将校二名に洗い浚い打ち明けてやろうか……
そう考えている内に隊長室に着いた
 
 ドアをノックした後、入室を促す声がする
室内に入ると、机に備え付けられた椅子に腰かけた彩峰(あやみね)の姿
何時もの勤務服ではなく、深緑色の野戦服で、タバコを吹かしている
部屋の中を一瞥すると応接用の椅子に座る同じ姿の巌谷と(たかむら)
立礼をすると、その場で『休め』の指示が出る
少しすると、美久が来た

「どうやら揃った様だな」
彩峰が、此方に振り向く
開口一番、マサキを問うた
「木原曹長、貴様の目的はなんだ。
国防省経由で調べさせてもらったが、貴様は去年の秋口まで戸籍が無かった。
一体何者なんだ……」
巌谷が黙ったまま睨む
脇に居る篁が、訊ねる
「城内省の基礎情報を探ったが、君に関する物は一番古くても去年の9月までの物だった。
中共以前の記録が無い。説明してほしい」

彼等の問いにマサキは冷笑する
「長い話になる。まず座らせろ」
彩峰は、彼の言動に顔を(しか)めたが、一先ず着席を許可した
「俺は貴様等の言う通り、この世の人間ではない」
彼等は、俄かに信じられないのか、顔を顰めて驚いた表情を見せる
「信じるか信じないかは自由だ。
続けさせてもらう」
彼は、膝の上で手を組み、淡々と語り始めた
「俺と美久は、この世界に少しばかり似た世界に居た……。
そこで貴様等が言う大型機、詰りゼオライマーで戦闘中に自爆したはずだった……。
俺の肉体は、秋津マサトという男の物を借りて居り、その男の人格に全て書き換えられた状態でその世界から文字通り消えたはずだった。
だが、目が覚めると丁度(ちょうど)蘭州市から150キロほど西方にずれた場所の上空に居たのだ……
そこで化け物共、貴様等が言う光線(レーザー)級の攻撃を受けた」

 押し黙っている巌谷が、身を乗り出す
「光線級の攻撃を受けて、良く無事だった物だ……」
彼は巌谷の方を振り向き、答える
「詳しい話は後でする。
話を元に戻すが、そこで人民解放軍に《拾われた》。
奴等の謂うカシュガルハイヴと言う物を焼き払って、一か月ばかり、支那に居た……」

彩峰と篁が勢いよく立ち上がる
「ひと月でハイヴ攻略を成し遂げただと!」
彼は薄ら笑いを浮かべて、男たちを見る
「ひと月ではない、一日だ。
正確に言えば12時間ほどで、最深部ごと吹き飛ばしたのさ」
彼等は顔を見合わせる
目前の青年が語る事が、夢のような話に思えたのだ
未だハイヴの中は人跡未踏の地
湧き出て来る無数の亡者が、あの新彊(しんきょう)の地を赤く染めたのは記憶に新しい
どれ程の惨劇(さんげき)であったのであろうか……
中共政権の徹底した情報統制の結果、彼等には知る由もなかった

「その後は大使館員を名乗る連中に北京で会って、日本に来た。
それだけの事だ」
彩峰は、座るなり、懐中よりタバコの箱を出す
封を開け、茶色いフィルターが顔を覘かせる
3本取り出すと、机に並べ、横にある使い捨てライターを握る
咥えながら、火を点け、吹かす
気分を落ち着かせようとして、深く吸い込む
目を瞑り、ゆっくり紫煙を吐き出すと彼に尋ねた
「貴様の真の目的はなんだ。
冥府の住人であるならば、なぜ日本を選んだ。
なぜ、この世界に留まり続ける……」

乾いた笑いが室内に木霊する
一頻り、笑った後、マサキは彩峰の疑問に答えた
「俺がこの世界を選んできた訳ではない。
気が付いたら居たのだ。
差し詰め、『ハンク・モーガン』の如く、異界に居たのだ。
しかも過去の世界と来たものだ……。
笑わずには居られまい」
眼光鋭く、彼等を見る
「俺が圧倒的な力を持ってして、この世界の百鬼夜行(ひゃっきやこう)に参加するのは、訳がある。
何れ、BETA共が居なくなった後、対人戦が起きる。
規模の大小は問わん。
その際、圧倒的な戦力差で、人類を屈服させ、世界を征服する。
それが俺の望みの一つよ。
陳腐(ちんぷ)な表現かもしれぬがな!」

「俺は、前の世界で、秘密結社・鐵甲龍(てっこうりゅう)に在って人類を抹殺する『冥王計画』を立てた。
だが、些か急ぎ過ぎたのと、俺の人格を乗っ取った秋津マサトの妨害で失敗した。
故に、この世界で、再び慎重さを持って、各国の政財界や軍などの動向を探り、機を見て行動すると決めた。
まずその足掛かりとしてBETA狩りを進んで行う。
そうすれば、俺の名は売れ、無闇に手を出す阿呆共は少なくなるであろう事。
この様に計算して、俺はお前達の策謀に載った迄よ。
マサトも、鐵甲龍の愚か者共も居ぬ。
今こそ、その野望も夢ではない様に思えてきたのだ」
再び彼は笑う
不気味な声で、笑う様は狂人を思わせる様であった

篁は、座りながら、彼の面を見る
笑顔ではあるが、目は据わっている
笑い終えた瞬間、もの悲しそうな瞳で、淵に沈んだような蒼褪(あおざ)めた表情になった
彼の本心はどの様な物なのか……
篁は、真意を図りかねる様な気がした

「初めの頃は、この世界を消し去る事を考えたが、途中で考えが変わった。
俺の為に奴隷として馬車馬の如く働かせて、その様を眺める。
新しい遊び場として、この世界を選んだ。
本心を言えば、そう言う事さ」
右隣に居る美久の肩に手を伸ばす
右手で肩ごと抱き寄せる
彼女は、満面朱を注いだ様になった
「最も、貴様等との茶番に飽きれば、此処に居る美久と共に、この世界事消し去ってしまうのも容易い。
その際には、手始めとして、間近にある月や火星でも焼いてやろう。
地球に居ながら、月や火星が消える。
愉しかろうよ」
彼は冷笑する
「或いは、世界各国の主要都市を衛星軌道より各個撃破する。
原水爆などを用いて、ロンドン、パリ、ニューヨーク等を焼くのも一興の内であろう。
最高の宇宙ショウと思うだろう」
巌谷が蔑む様な目で見ていたのを彼は気付いたが、無視する

「貴様、言わせて置けば……」
彩峰の発言を聞きながら、彼は右手で美久の上着の中に手を入れる
首の間から胸元に向かい、指を這わせる
嬌声(きょうせい)を上げる彼女を後目(しりめ)に、左手で後ろ手にした両手を締め上げながら、弄んだ
「俺の話が本当か、どうか。
今から8時間ほど暇をくれ。
そうすれば、ソ連のウラリスクハイヴでも焼いて来てやる。
吉報を待つのだな」

「なぜ、ミンスクにしないのだ」
篁は、問うた
「ソ連の欧州戦力を削るためだ」
美久の反応に飽きた彼は、突き放すと篁の方に振り返る
「質問はそれだけか。俺は早速ウラリスクを焼いて来る」
立ち上がると、不敵な笑みを浮かべ、周囲を窺う
「話を聞け、木原!」
彩峰は、立ち上がって待つように声を掛ける
彼は呼び掛けを平然と無視し、美久の右手を掴む
「今日の所は勘弁してやるよ。
貴様等の戯言で、興が醒めた」
彼は、そう言い放つ

 《世界を睥睨(へいげい)するソ連を焼き消す》
楽しいではなかろうか
彼の脳裏に、その様が浮かぶ
美久を右手で勢いよく引っ張り上げると、引きずりながらドアを開ける
「邪魔したな」
一言告げた後、部屋を後にする
室外から彼の冷笑が響くばかりであった
 
 

 
後書き
『ハンク・モーガン』は19世紀の小説、『アーサー王宮廷のコネチカット・ヤンキー』の主人公です
昨今流行の異世界転生小説の先駆けに当たります


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