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リュカ伝の外伝

作者:あちゃ
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やっぱり僕は歌が好き 第三楽章「心底性格の悪い奴ら」

(グランバニア城・中央地区・中央公園内)
アイリーンSIDE

「ちょっといいかしら兵士さん」
「小官は兵士では無い。中尉だ……グスタフ中尉だ!」
そんな違い知るか!

「貴方が仮に……仮にだけども、レストランを営んでいたとして、そうなれば勿論お客から料金を授受するわよね?」
「仮にだとしてレストランを経営してれば、代金は受け取る」

「じゃぁお客の中にグルメな人が居て、貴方のお店で食事をしたのにも関わらず、味が悪いと文句を言って代金を払わないで帰ろうとしたら如何(どう)するのかしら?」
「それは無銭飲食になるから、掴まえてしかるべき措置を……あ!」

「そうよ。お気づきの様だけど、商売をしているのであれば、形の有る無しに関わらず商品を受け取ったら代金を必ず支払わなければならないのよ」
「それは……その……」

「レストランの例に倣うならプーサン社長がしている事は、『無料ですので食事をどうぞ。代金の支払いはお任せします』って言ってる様なモノ! 所謂慈善活動よ。税金の無駄遣いをしている兵隊さん達には、慈善活動が如何なるモノなのか、理解する事すら出来ないでしょうけどね!」

「な、何だと小娘!」
調子に乗りすぎたのだろうか?
自分の事ながら、あまりにも滑らかに台詞が紡ぎ出されるので、目の前の兵士を煽りすぎたらしい。

顔を真っ赤にした兵士は、激怒して腰の剣に手をかける。
“切られる!”と感じた瞬間、少し後ろに居た陛下が、颯爽と私と兵士の間(ほぼ私の目の前)に割って入り、私を庇ってくれる。(すげ)ー格好いい!

「やめんか馬鹿者!!」
(つい)でにだが、兵士の後方で事の次第を傍観してたお三方から、兵士へ怒号が降り注ぐ。因みに怒鳴ったのは軍務大臣閣下だ。陛下の格好良さに比べたら格段に下がる。

「こ、これは軍務大臣閣下……そ、それに宰相閣下も!?」
あれ? 総参謀長閣下はいいの?
それとも私が知らないだけで、大して偉く無いの?

まぁ見た目、この中で一番下っ端感があるしね。
この兵士さん、先刻(さっき)自分の事を“中尉“だか”中火”だか言ってたけど、それより低い位なの?

「拙い……拙いなぁ。口論で負けたからって、腹いせに斬り殺そうとするのは、一般人としても拙いが、“国家”並びに“国民”を守る兵士としては頗る拙いなぁ」
かなり渋い顔で近付いてきて、状況の拙さを呟く宰相閣下。そう思ってるのなら、もっと早く出張って来いよ!

「あ、いえ、違うのであります!」
何が違うと言うのだ!?
「しょ、小官は、興奮すると咄嗟に腰に手を当ててしまうクセがあるのであります!」
馬鹿か? アンタのクセなんて知らないわよ。

「おい三下兵士。お前のクセなんかこっちは知った事じゃねーんだよ。重要なのは、お前の行動を見て僕等が如何(どう)感じたかが問題なんだよ。そして明言してやる……この場に居る全ての人……勿論、お前を除いてだが……全ての人が、お前は口論に負けて、こちらの美女を斬り殺そうとしたと思っている」

「だ、だから……それは……違うと……」
「グスタフ中尉。もう口を開くな。既にドツボにはまってるんだ……これ以上藻掻くと助ける事もままならなくなる」

ピエ(ピエッサ)の彼氏が兵士を諫めた。
その際に『はっ!』と言って敬礼をしてたから、総参謀長の方が偉い事が覗える。
ただどのくらい偉いのかは分からない。多分、そんなに偉くは無いんだと思う。

「そこの性格の悪い宰相閣下殿に物申す!」
「何だね性格の悪そうな一般市民君?」
性格悪っ! 相手の正体が誰だか解っててニヤニヤこんな台詞を吐いていやがる。

「勿論今回の件だ!」
「勿論今回の件か!」
当たり前だろ。

「もし僕のやってる事(ストリート・ミュージシャン)が商売と認定されるのなら、僕もこの場に居る人たちも……いやこの国の国民全てが税金の支払いを拒否するし、それを咎める事を許さないぞ!」
「おやおや……納税は国民の義務だろう」

「僕等一般市民は、性格の善し悪しに関わらず国家運営の為に納税している。だけどその税金で飯を食ってる兵士が、口喧嘩に負けたぐらいで一般市民に攻撃しそうに……もしくはそんな恐怖を味合わせる連中に金なんて払えるか! こちらの美女の例えを借りて言えば、食事をしに入ったレストランで突然包丁で襲いかかってくる店に金を払いたいと思うか?」

「スリリングな毎日を過ごせてイイじゃないか」
「なるほど~……スリリングねぇ」
性悪宰相の一言に心から感銘を受けてない声で頷く陛下……

次の瞬間!
(ドカッ!)「ぐはぁぁぁ!!!!」
一瞬で下っ端兵士に詰め寄り其奴の腹部に見るからに強烈な一撃をお見舞いする。

何故素人にも強烈である事が判るかというと……
兵士は頑丈そうな鎧を装備しているのだが、その鎧を信じられないくらいヘコませる一撃だったからである。

それを見た総参謀長と軍務大臣閣下は、慌てて兵士から鎧を外してあげていた。
へっこんでる鎧が腹部に食い込んでる状態が危険だと思ったのだろう。
因みに性悪宰相閣下は、苦しむ兵士と慌てる総参謀長と軍務大臣閣下を眺めてるだけだった。

「おい一般兵士……スリリングだったろ? 金払え!」
「はははっ……そうだね。おい中尉、支払って差し上げろ。この方は他者に突然殴りかかりスリリングな一時を提供する商売をしてらっしゃる方だ。お前が代金を支払えば、この方はストリート・ミュージシャンも商売と認め、お前に素直に取り締まられてくれるし、国民が今後も税金を支払ってくれる。丸く収まるぞ(ニヤニヤ)」
流石に理不尽だわね(笑)

「そ、そんな……閣下……こ、こんな理不尽が……」
「因みに一般人のオッサン。料金は幾らだね?」
「2000兆(ゴールド)
理不尽はまだ続いてた。

「そ、そんな額払えるわけない!」
「何だぁ……もう一発いくか?」
血反吐を吐きながら無理を訴える。敵に回すべきではなかったわね。

「もう許してやってください! この子は真面目なだけなんですぅ!! それが悪い方向に空回りしちゃいましたが、悪い子じゃないんです!」
兵士の背中を支えてた総参謀長が必死で許しを請うている。

「何だお前。其奴の保護者か?」
「同期なんです! 無意味に出世した僕に、以前と同じ感じで接してくれる友人なんです!」
……友人は大切よね。

「……おい中尉。その下っ端総参謀長閣下に感謝しろよ。守るべき国民に刃を向けた罪は無かった事にしてやる。だが次は無い!」
下っ端と評されてるが、閣下と呼ばれている……偉いのか偉くないのか本当に判らないわ。

「じゃぁ今回の件は何の問題も無いって事で良いのかな、ウルポン宰相?」
「代金を強制してなきゃ商売じゃない……それでイイですよオッサン」
「オッサンじゃない、プーサンだ」
「ウルポンじゃない、ウルフ・アレフガルド宰相閣下だ」

最後まで性格の悪さを見せつけられたが、やっと終わる……と思いきや、地べたに這いつくばり苦しんでる兵士を無理矢理立たせ嘯き始めた。
「取り敢えずはこれで終わりだ……」

「と、取り敢えず?」
「そうだよ。今回の件で俺も軍務大臣も、勿論総参謀長もお前を罰する事はしない。あのオッサンに十分罰せられたからな」

「オッサンじゃねーって言ってんだろ」
陛下は私にだけ聞こえるくらいの声で呟いた。
本当にムカつくガキね。

「だがな本当の終わりじゃぁない。この件が陛下の耳に入ったら……解るだろ(クスクス)」
「そ、それは……」
流石の性悪さに、軍務大臣も総参謀長も目を見開いて宰相を見ている。

「陛下は音楽に関してかなり力を入れている。それを邪魔するが如き所業に加え、一般人を攻撃しようと……お前は違うと言うが、他者から見れば攻撃しようとした事実は許されるとは思えない。銃殺刑になった連中の事……忘れたわけじゃぁないだろぅ?」
よくもまぁ……

「俺達もお前の家族にまで罪が累積する事は止めるが、やっぱり自分の身が一番大事だ。お前の死刑までには口を出せない。そこは覚悟しておけ」
兵士は陛下に殴られたお腹が痛いのか、そこの性悪の所為なのか、べそをかきながら我々の前から去って行った。

するとやはり私にしか聞こえない声で陛下が……
「アイツ本当に性格悪いなぁ」
と呟かれた。

「はい、激しく同意しますわ。だから嫌いなんです、アイツの事」

アイリーンSIDE END



 
 

 
後書き
アンケートを作ったので、
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