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冥王来訪

作者:雄渾
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異界に臨む
  服務 その2

 
前書き
日本編原作人物登場回 

 
帝国・国防省
ある一室で、大臣他複数名を集めた秘密会合が催されていた
議題は、「曙計画」の今後と、ソ連・白ロシアでの「パレオロゴス作戦」への派遣であった
一見無関係に見える同計画と、白ロシア派遣
全ては、次期国産戦術機開発の実戦データや運用結果を得る為
ここで問題が起きた
米国内の情報筋から怪情報が齎される
当地に留学中の篁祐唯が、然る高級将校の娘と《深い関係》にあると、報告が上がった
篁祐唯という人物が唯の技術将校であったのならば、その娘と結婚させて話は終わりであった
彼は、武家で、黄色の衣を赦された《名門》
血統から言えば、志尊の血脈を受け継ぐ家から分家した、五摂家に近しい貴種
そして戦術機に、配備予定の74式近接戦用長刀の設計主任
扇情的なタブロイド紙や赤本(劣情を搔き立てる様な書籍)を賑すだけの醜聞で済む話ではなかった
話し合いは、同計画より彼個人の扱いに関する件に移っていた

「篁の徒事は、本当かね」
大臣の一声が会議室に響いた
大声ではないが、良く通り明瞭な声
声の主の方に一同の顔が集まった
「情報筋からの話では……、そう伺っています」

周囲が騒がしくなる
「米国へは、事実関係は、調査中との事で、乗り切ったが……」
「彼は、思想的にも家柄的にも問題ない人物として送り出した。
これが事実なら……、大規模に仕掛けられたのかね」
「当人が知らぬところで、美人局にでも載せられたのかもしれませんな……」
周囲の話声が静まるのを待っていたかの様に、男が語り始める
年の頃は、50代半ばであった
「なんでも噂のある美女とやらは、先次大戦で父親が捕虜になったと聞き及んでいます。
その様な事を勘案すると、工作があったとも、考えられます」
周囲の反応を余所に、壮年の男が口を開いた
場違いな着物姿からは、奇異な印象を受ける
一番離れた席に座る彼に、視線が集まる
「事務次官としての意見かね」
次官と呼ばれた男は、一礼した後、彼に答えた
「ご参考までに、これが資料です」
彼は、脇に置いたカバンから、タイプされた資料を取り出し、人数分配る
白黒刷りの写真と共に、英文と日本語の資料が各人の手に渡る
周囲から感嘆の声が上がった
何処から、声がした
「あやつも、この様なことをするとは……」
再び周囲の人間が振り向くと、声の主は、先程の男
元枢府や内閣に隠然たる影響力を持つ人物
《影の大御所》と噂される怪人
帝都城内の出入りが自由に許される数少ない一人でもあった
一葉の写真を見せつける様にして手に持って、話し続ける
「この美女が、ミラ・ブリッジスかね。
南部出身で、米陸軍、エドワード・ブリッジス大佐の娘とある。
本当ならば、彼はその様な背景のある人物と《関係》したというのか」
次官が頷く
「そういわれて居ります」
男が、口を開いた
「篁は、失うのに惜しい男だ。
それにその娘御とやらも、戦術機開発の技術者であろう。
米国から、戦術機のノウハウと技術は、ぜひとも欲しい。
上手く誘い出して、日本に連れ出す手立てはありそうかね……」

「実は、今夕の次官会議で、その件が上がったのですが……」
男は頷く
「例の作戦を理由に、彼を日本国内に帰国させるか、欧州に行かせるか、紛糾いたしまして……」
右手で、襟元を直す
「一番無難な案は、日本で保護するという案が出ました。
彼女を、彼の妻、或いは妾と言う事にして、日本に連れ出す案です」
男は、右手を額に置いて悩んだ
直後、姿勢を正すと、彼の問いに答えた
「それならば、儂の方で何とかしてみたいと思う。
直々に参内して、殿下に上申書を認める用意がある。
奴には、、常々気を付けるよう釘を刺しておいたのだが……
巌谷では抑えにならなかったな」
陸軍大将の階級章を付けた人物が口を開く
「《翁》、ご存じでしたか。
ご相談いただければ、我々で動いたものを……」
《翁》は、正面を向いたまま、続けた
「何、儂もあの様な小童共を信用しすぎただけの事よ。
今回の件は、城内省、ひいては斯衛軍の恥部故、我々の方で預からせて貰う」
海軍の黒い制服を着た男が言った
袖章から海軍大将だと分かる
「詰り、《閣下》のお預かりで、納めるのですか」
男は、身を椅子から乗り出して答えた
「そうだ。
ただ、奴程の男には、《相応しい家格》の娘を宛がってやりたかったなと……。
これが殿下の耳にでも入れば、さぞ落胆されるであろうよ」
彼が黙るのを待っていたかのように、次官が答えた
「では、一計が御座います」
《翁》は、次官に問うた
「聞こうではないか」
次官は立ち上がり、簡単な報告を述べた
「国連発表に拠りますと、対BETA作戦によって、凡そ世界人口の3割が失われる程の事態になっています。
この事を踏まえて政府部内では、検討がなされ、六法の大規模改廃が、俎上に載っています。
法制局や内務省内からも、事態の推移を鑑み、嫡子と庶子の相続の差異を解消する改正案が、提出されました。
既に、中ソにあっては、成年男子の急速な減少が問題となっております。
喫緊の課題ゆえに、今夕の次官会議で、了承。
具体案は、明日の閣議に持ち込む予定です」
男は身動ぎせず、語った
「それで」
次官は、手に持つ書類を一瞥すると、顔を見上げて続けた
「そのブリッジス家の令嬢と関係を、問題にせずとも、済むかもしれません。
仮に、彼と、彼女の間に、子息が在っても、相続法上は嫡子と変わらないとなれば対応は変わるやもしれません。
もっとも現行法上は、父親が認知すれば、その子供には日本国籍が付与されます。
やはり、一番良いのは彼女を日本に《招聘》するという建前を作る事でしょうか。
こればかりは、官房や城内でお決め頂かないと……」
奥の方から声が上がる
声の主は大臣であった
「詰り、あとは政治の問題と言う事かね」
次官は、大臣へ次のように回答した
「概ね、『欧州派遣』と『曙計画』に関しては、明日の閣議で了解を得るだけです」
件の老人が声を出した
「では、奴と、その娘を呼び出せ。
理由は、《鹵獲》した大型戦術機の整備等でもよい。
或いは、『欧州派遣』の為のF4の整備、調整名目などという尤もらしい理由をつけてな」
大臣は恐る恐る彼に尋ねた
「では、留学はどうするのですが」
彼は、大臣を見ながら、述べた
「篁、巌谷両人に代わる形で、大伴とその一派から相応しい人間でも連れて行けば良い。
あの男は、今国内においても、ソ連に行かせても危険だ。
何分、《過激思想》に被れている傾向が見える」
陸軍大将が答える
「左遷ですかな」
男は笑った
「そう受け取ってもらっても良い」
彼は、列席者の方へ顔を向けた
「所で、大臣。
例の大型機のエンジンの解析は出来たのかね」
指名を受けた大臣に代わり、先程の陸軍大将が答える
「分解整備は滞りなく進んでおりますが、エンジン自体には未知の物が使われています
技術本部で、周辺の確認を行いましたが、燃料槽、移送ポンプの様な物が見受けられないのです」
男は、椅子の手摺を掴む
「とすると、あの木原とかいう小僧が全てを知っている可能性があると言う事か。
では奴ごと、欧州に連れて行って試験させようではないか」
話は終わりに近づいている
そう感じた大臣は、彼に結論を促すように導いた
「我々もその様な方針で動いております。
後は城内で、お決めに為られれば……」
男は、椅子から立ち上がり、周囲を両眼で見まわした後、言い放った
「其の事も、儂の方で上申する。
明日の閣議でもその様に進める様、頼むぞ」
一同が立ち上がり、男に深い礼をする
「《翁》、解りました。
我々も事を運びます」 
 

 
後書き
巖谷 榮二は「トータル・イクリプス」(以下、TE)の時点で、帝国陸軍中佐ですが、年齢が明記されていなかったように記憶しています
篁 祐唯も年齢表記が明記されていなかったように記憶しています
「オルタネイティヴ」「TE」の20年以上前ですが、本作に登場させました

個別の人物紹介を書いたほうが良いか、ご意見があれば、別枠で登場人物の概要を作ろうかと思います

 
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