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星々の世界に生まれて~銀河英雄伝説異伝~

作者:椎根津彦
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疾走編
  第四十一話 遭遇

宇宙暦791年9月15日12:00 イゼルローン前哨宙域、自由惑星同盟軍、EFSF第二分艦隊
戦艦アイオワ ヤマト・ウィンチェスター

 いやあ、暇だ、暇。哨戒というものがこんなに暇だとは…これで航海手当、危険手当が俸給に上乗せされるんだからな、おいしいよな。何で俺がこんな所にいるかって??そりゃあ…いつもの思いつきから始まったんだ…。
「イエイツ中佐、中佐はイゼルローン要塞見た事あります?」
「そういえば、ないなあ。ウィンチェスター、君は?」
「小官も見た事ないんですよ」
「お互い不思議だよな、最前線の警備艦隊所属なのに」
「そうですよねえ」
「行って来いよ」
「は?」
「こないだの戦闘で損害の大きかった本隊と第一分艦隊が再編成に入るから、ウチがメインで哨戒やるのは知ってるだろう?その哨戒隊に乗せて貰えよ」
「乗せて貰え、って…そんな簡単にいくんですか?第一、どういう資格で乗り込むんです?」
「資格って…君はこの分艦隊の作戦参謀だぞ?哨戒隊に乗り込むのに不都合なんかある訳ないじゃないか」
「中佐は行かないんですか?」
「行けないよ。ウチだって損害は出てるんだ。エル・ファシルに戻るまでに損傷艦の修理請求、補充艦艇、人員の手配、物資補充…の請求書類で忙しいんだよ」
「私だって忙しいですよ」
「私に比べたらまだマシさ。でも実際、警備艦隊の作戦参謀なのに哨区の実情を知らないのはまずいぞ。冗談抜きに行って見て来た方がいい」
「…分かりました」
「私からも司令には進言しておくから、書類の文言は自分で考えろよ。…一番早く出るのは…ダゴン・ツアー、隊ナンバーは第二〇一哨戒隊だな。間に合わせろよ」
…てな訳だ。アスターテを出発し、ダゴン、ティアマト、イゼルローン、そしてアルレスハイム、パランティア、再びアスターテに戻ってエル・ファシルに戻る…。1日おきに二隻、四隻の順番で出発する。当然逆コースもある。ダゴン回りはダゴン・ツアー、アルレスハイムから回る哨戒隊はアルレスハイム・ツアーと呼ばれている…。

 俺の乗艦したアイオワの艦長、ルイジ中佐は気さくな人だった。
「まさかこの艦に作戦参謀殿をお迎えする事になるとは思いませんでしたよ。会敵さえ無ければ何もありませんので、短い間ですがどうぞおくつろぎ下さい」
「そういう訳にはいきません、何か手伝う事があれば何でもおっしゃって下さい」
「ありがとうございます。では何かありましたら遠慮なく声をかけさせて頂きます」
…とは言われたものの、既にアスターテを出て八日…。何も無い。自室に籠りきりと云う訳にもいかないから、艦橋に上がっても…やはり何もする事がない。というか、何をしていいか思いつかない…。
「作戦参謀、ちょっと宜しいでしょうか。まもなくエル・ファシルの地上司令部よりF T L(超光速通信)が入る予定ですので」
「定時連絡…では無さそうですね」
「艦長、エル・ファシルよりF T L(超光速通信)が入っています。スクリーンへまわします」

“異常無いか、艦長”

「はっ、現在ティアマト星系外縁、まもなくイゼルローン前哨宙域に侵入します」

“了解した。ウィンチェスター中佐は居るかな?”

「はい、何でしょうか」

“息災な様だな。いきなりで悪いが、貴官を臨時の哨戒隊司令に任ずる”

「哨戒隊司令…でありますか?」

“ルイジ艦長が、あまりにも暇そうで可哀想です、と言うのでな。ちょっとした思いつきだ”

「は、はあ」

“復唱はどうした?”

「…ウィンチェスター中佐、これより第二〇一哨戒隊の指揮を執ります」

“宜しい。貴隊の愉快なる航海を願う。以上だ”

…なんだこりゃ!?
「作戦参謀殿があまりにも暇そうでしたのでね、乗員からアンケートをとったのですよ。満場一致でしたな、はは」
「満場一致と云われましても…二隻とは云え戦隊には違いありませんし、小官は指揮などしたことがありませんよ」
「民意です」
「民意?」
「この民主共和制の国において、民意は重要ですぞ?しかも満場一致とは中々有り得ない事です、いやめでたい、めでたい」
なんなんだ一体…命令とはいえ、暇だろうから隊司令をやれ、というのはひどくないか…。
「隊司令、何なりとご命令を」
「…では、現在位置を教えてくれますか」
なになに、ティアマト星系外縁、まもなくイゼルローン前哨宙域にさしかかる……ん?
「艦長、このカプチェランカという惑星は…」
「ああ、系外惑星のカプチェランカです。鉱物資源は豊富ですが、極寒な上に大気組成は人間の生存に適しません」
嫌な予感がする。カプチェランカだって?ちょうど今の時期は金髪赤毛コンビか双璧コンビがいる頃じゃないか?
「確か帝国軍の基地が存在するのでは?」
「ええ、存在します。ですが環境が環境ですので艦艇の造修施設がある訳ではないし、規模も小さいので最近は同盟軍も無視…ではないですが、重視はしていません。最近は…七月に惑星上で戦闘がありましたね」
「惑星上?白兵戦ですか?」
「そうですね。ご存知なかったですか?」
「知りませんでした。EFSF再編時に陸戦隊は混成一個大隊を除いて編制から除きましたから、惑星戦闘なんてとてもさせられません。それに陸戦隊を出動させたのは先日のヴァンフリートでの戦い以外はありません…どこの部隊がカプチェランカに行ったんだろう」
「てっきりウチの艦隊の陸戦隊かと思っておりました。不思議ですね」
ううむ、やっぱり小説で話を読むのと実際にその世界に住むのでは分からん事が多すぎる…。
「どうなさいますか?あの基地は大気圏外への攻撃手段は持っておりませんから、接近は可能です。寄りますか?」
…どちらのコンビに絡むのも面倒が多そうだし…。
「止めときましょう。必要があれば事前に指示があるでしょうから」
「了解致しました」
「電算機のデータで前哨宙域について調べましたが、小規模な星系や恒星がいくつかあるのですね」
「はい。回廊内にはアルテナ星系、同盟側回廊出口、前哨宙域ですな、アルテミュール星系があります。ああ、恒星レグニッツァもあるな」
うう、聞いたことのある固有名詞がポンポン出てくる…。
「アルレスハイム・ツアー…第二〇二哨戒隊からは何も言ってきておりませんから、向こうの方は特に異常がある訳では無さそうです」
「了解しました。前哨宙域に入ったら、通常どの様な体制を?」
「第一警戒序列で総員配置の即時待機か、戦闘配置です」
「分かりました。少し早いとは思いますが、第一警戒序列で進みましょう」
「了解しました」



9月18日14:00 イゼルローン前哨宙域、自由惑星同盟軍、第二〇一哨戒隊、戦艦アイオワ
ヤマト・ウィンチェスター

 「隊司令、先行の戦艦イロコイより入電。帝国軍と思われる小型艦艇を発見。おそらく駆逐艦。距離、至近」
ひえっ…。
「他に艦影はありますか?」
「…二隻。他に艦影はありません」
「敵はこちらに気づいていますか?」
「観測された熱源の大きさから、敵は我々と同針路をとっている模様。どうやら我々は敵センサーの死角にいる様です。敵がこちらに気付いている兆候はありません」
ふう…助かったぜ…。
「イロコイに連絡。まず当艦が降伏勧告をします。勧告後、敵が反転または増速を確認したなら機関部を破壊して下さい。イロコイは先頭艦を。後続する艦は当艦が攻撃します」
「了解しました……イロコイに伝達終了。撃破なさらないのですか?」
「出来れば捕虜にしたいので。では始めますよ、通信回線を開いて下さい……航行中の帝国軍艦艇に告ぐ。停戦せよ、然らざれば機関部を攻撃する」
「…何故わざわざ機関部を攻撃、と?」
「殺す意思がない事を伝えたいんですよ。それが分かれば敵も投降という選択も考えてくれるでしょうから」
「なるほど。隊司令はお優しいですな……敵、増速の模様、デコイの射出を確認…敵先頭艦、一時方向へ変針、敵後続艦、十時方向へ変針、尚増速中!」
「攻撃開始!イロコイへ連絡、命令変更、先頭艦を撃破せよ」
気持ちは分かるが…仕方ない。
「敵先頭艦の撃沈を確認。敵後続敵艦、機関部損傷の模様、停止しました!…敵後続艦より通信、降伏を受諾するとの事です」
「了解した。敵後続艦へ通信、指揮官は機密保全と現状維持に努めよ。守られない場合貴艦の安全は確保できない、と……艦長、白兵戦技に長けた者を三十名選抜してください。接舷して臨検します。臨検隊の指揮は小官が執ります」
「隊司令自らですか?危険です、おやめください」
「暇な士官は小官しかいませんからね。それに、帝国軍の生の情報に接する機会はそうありません、早くしないと降伏をよしとしない者たちが機密情報を消去してしまうかも知れない、急いで準備を」
「了解しました。敵艦への通信完了」
…可哀想だけど、消したら本当に吹き飛ばすだけだ……。さあ、装甲服を着なくちゃ…と。
ふと気づいたんだが、よく考えてみると、過去の戦闘で降伏させた帝国艦だってたくさんある筈なのに、そこから機密情報を得た形跡が全くない。原作の表記を見ても、捕虜の尋問か、亡命者づてか、フェザーン経由の情報しかない。なんと情報を大事にしない組織なのか…バグダッシュ辺りが嘆いてそうな気がするぞ。まあそれだけ帝国軍が真面目に機密情報を消してた、という事なんだが。カイザーリング艦隊を降伏させた時も各艦艇の電算機からは機密情報はさっぱり消されてたし。だから今回はいい機会なんだよな。来てよかったよ…。

 

9月18日14:45 自由惑星同盟軍、第二〇一哨戒隊、戦艦アイオワ
ヤマト・ウィンチェスター

 ”隊司令、聞こえますか”


「艦長、よく聞こえますよ。現在中央ハッチ前にて待機中。…敵艦に傍受されているかも知れません。これ以降はコールサインで会話しましょう」


”了解です。ではこちらはアイオワ・エースとします”


「こちらは…ジョンドゥーとでも冠しましょうか」


”なんて不吉な…了解です。ジョンドゥー、こちらアイオワ・エース、まもなく接舷”


「アイオワ・エース、こちらジョンドゥー。了解した」


”……接舷よし。ハッチ解放”


いよいよか。ちょっと偉ぶるとしようか……。艦長かな?腕を吊っている。着弾の衝撃で骨折でもしたのか…。
「負傷の為左手での敬礼を承知いただきたい…銀河帝国軍、イゼルローン要塞第二三七駆逐隊所属ハーメルンⅡ、艦長アデナウアー少佐です。小官はともかく、部下の命はお助けいただきたい」
「…自由惑星同盟軍、エル・ファシル警備艦隊所属第二〇一哨戒隊司令、ヤマト・ウィンチェスター中佐です。通信で指示した機密保全は為されておりますか。それを渡して頂ければ、艦長以下そちらの乗組員の身の安全は保障します」
機密を渡したら、もしこのまま放免しても帝国に戻れば極刑か農奴階級に落とされる位の処罰がある筈だ。残念だけど機密ごと同盟に来るしかない…しかし、ハーメルンⅡだって!?
…外伝に出てきた駆逐艦だ。まさか、あの二人が乗っているのか?

 
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