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提督はBarにいる・外伝

作者:ごません
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提督のBlackOps遍
  捜索

 海賊行為を罰するにしても、その犯人達を探し出さない事には話が進まない。しかし執務は秘書艦と大淀達で代理が出来るとしても、提督一人で犯人捜しは無理だろうという事で急遽、捜索を手伝うためのチームが組まれたのだが……。

「どう考えても過剰戦力だろ、これ」

 集まった面子を見て、深い深い溜め息を漏らす提督。

「む、提督よ。私達が手伝いでは不満だとでも?」

 眼鏡をクイッとさせながら、不満げな視線を提督に向ける武蔵。

「む~、何か嫌がられてるっぽい……」

「仕方無いさ、僕達しか手が空いてなかったんだから」

 膨れっ面の夕立に、それを宥める時雨。

「確かに、大規模作戦の首魁でも仕留めに行きそうな面子ですね」

「…………眠い」

 苦笑する赤城と、欠伸をする雲龍。

「まぁ、後から増援も来る予定ですし。取り敢えず出来る事から始めましょう、司令」

 そして提督期待の参謀役・霧島。さしあたってこの6人が提督の手伝いとして捜索チームに派遣された。

「っつーかこれ、『留守番組』で暇してる連中掻き集めただけじゃね?」

 金城提督率いるブルネイ第一鎮守府は、ブルネイ近海にある数百以上の鎮守府の纏め役であり、南方・南西諸島・西方海域と日本本土を繋ぐ海運の要所である。必然的に組織は巨大化、所属する艦娘も400をゆうに超える。その任務は多岐に渡るが、そこは軍隊。敵勢力との戦闘が主な業務である……が、古参の有力な艦娘ばかりを運用していては戦力に偏りが出る。戦力はなるだけ均等に、がモットーの金城提督の運営方針の下では強力な戦力となった艦娘は、鎮守府の護りを固める名目で鎮守府に留め置かれる事が多い。鎮守府護衛組……通称『留守番組』の出来上がりである。

「いや、暇でもないぞ?我々とて鈍らない様にトレーニング等をだな……」

「でもでも、この間武蔵さん中庭のベンチに座ってボケ~っとしてたっぽい」

「そうそう、持ってた煙草の灰がデニムに落ちて焦げてたよね」

「見られてたのか!?」

「はいはい、武蔵さんのボケ老人エピソードはそれくらいにして。具体的にどうやって賊を見つけるか、それを話し合いましょう」

 気が抜けている連中に比べて、霧島の頼もしい事。ウチの戦艦達の中でも金剛型四姉妹の錬度は高い……まぁ、一応嫁さんとその妹達だからな。多少の贔屓はした。中でも霧島は最先任で、頭もキレるからよく作戦立案の為の会議なんかでも議長役を任せていた。だからか、こういう場では仕切らせると上手くやるんだよなコレが。



「はいは~い、相手は遠征部隊襲ってるんだから、それを逆手に取るっぽい!」

「つまりは、囮捜査……のような物でしょうか?」

「そうっぽい!ねぇねぇ、夕立のアイディアナイスっぽい?」

「う~ん、アイディア自体は悪くねぇとは思うが……」

「む~、提督さんは夕立のアイディアに不満ぽい?どこが悪いの」

「夕立、ここにいる面子を見なよ。この面子で遠征なんかしてたら明らかに怪しいだろ?」

 そう、俺の危惧していたのはそこだ。囮捜査……というか有力な艦隊を遠征部隊に偽装して、相手を誘き寄せるってアイディア自体はナイスアイディアだ。だがよく考えなくても、この面子で遠征してますってのは明らかにおかしい。何しろ資源調達の為の遠征なのに、その資源をドカ食いする戦艦と正規空母が2人ずつ混じっている。

「そもそも、この顔触れを見たら海賊も襲ってこない……多分」

「そうですね、私でもイヤです」

 雲龍が寝惚け眼でもっともな事を言うと、その隣で赤城が苦笑いを浮かべる。大和型に金剛型の戦艦が1人ずつ、そこに正規空母が2人、そして駆逐艦の中でも戦闘力が高いとされる2人。返り討ちに遭う可能性の方が高い。余程切羽詰まってない限りは、相手もこの面子には襲いかからないだろう。

「ふむ……だが、夕立の着眼点は悪くないとは思うが?そもそも何故賊は海賊行為を働いているる?普通に遠征をこなせばいいだろうに」

「言われてみりゃあ、確かにそうだな」

 遠征、というのは大本営が抱える資源地帯--油田や鉱山等だ--に赴き、資源を受け取って鎮守府に持ち帰る謂わば輸送作戦の事だ。中には航行中の休憩所代わりの水上基地の建設、なんてのもあるが、基本的には資源地帯と鎮守府の往復になる。

 何故艦娘がそんな事をしているかと言えば、輸送中の安全確保が艦娘でなければ難しいからだ。神出鬼没の深海棲艦に対して、巨大な輸送船やタンカーなど体のいい的だ。それよりは、1回毎の輸送量は少なくとも小回りが利いて己で身を護れる艦娘によって運ぶ方がまだ効率的だろう。

「でも、その遠征が出来ない状況なんて存在するのかい?基本的にどこの鎮守府だって遠征はしてるだろう?」

「まぁ、無い訳でもないんだが……」

「あら?それはどんな状況なんですか」

「あぁ、遠征ってのは出発前、若しく出発直後に送り出した資源地帯に事前に連絡を入れるんだよ。取りに行ったのに持ち帰る資源が無しってんじゃあ、骨折り損の草臥れ儲けだからな。だが、その連絡は提督が直接行わなくてはならない」

 出張で提督がいないとか、特殊な場合を除いてこれは大原則だ。その目的は資源の二重取りや横領などの行為を防ぐ為らしい。過去には居たんだろうな、他の鎮守府の事を考えずに利己的になった輩が。

「であれば、提督がいない……若しくは、執務が出来ない状態にある可能性があるな」

「他にもありますよ?所謂ブラック提督って奴です」

「……ウチの提督の事?」

「おいおい、俺ぁ悲しいぜ雲龍。涙がちょちょぎれそうだ」

「私達の提督は悪党ですが、ブラック提督ではありませんよ」

「おい」

 辛辣な赤城の物言いにツッコミを入れるが、赤城はどこ吹く風だ。

「ブラック提督というのは、戦果に異常なまでの執着を示し、その為ならばどんか手段を講じても赦されるという偏った……いえ、歪んだ思想の提督の総称です」

「あ~、昔は居たねぇ。それも結構な数が」

「捨て艦戦法とか、聞くだけで胸糞悪いっぽい」

「まぁ、今や我が国では艦娘にも人権が認められて、そういう扱いをすればいくら提督とは言え逮捕される時代だからな。恐ろしいぞぉ?ブラック提督の末路は」

「具体的にはどうされるんだ?」

「ん?魚雷に爆薬の代わりに詰め込まれる」

 それを聞いて『うわぁ』となる一同。爆薬の無い魚雷など、整備不良の不発弾と同じだ。一度戦場に放たれれば回収などされる筈もない。島流しより酷い、確実な死刑宣告である。

「まぁ、そういう話は置いといてだ。巧妙に隠してブラック提督が暗躍してる可能性も確かにあるわな。資源地帯に取りに行くより、持ってる奴から奪う方が手っ取り早いだろうし」

「でもそれ、遠征中の部隊も資源を奪われない様に抵抗はするんじゃないの?そしたら海賊行為をしてる娘達も傷付くっぽい。寧ろマイナスな気がするっぽい」

「夕立ちゃんは優しいわねぇ」

 思わず、といった具合に霧島が夕立を撫で回している。普通はそういう損得勘定が働くから、そういう行為は考えついてもやらないんだがな。それはあくまでも『普通の』話だ。

「夕立、ブラックな鎮守府運営をする奴が艦娘の損傷なんて気にすると思うか?」

「あっ」

 そう、艦娘<戦果と考える輩なら駆逐艦なんぞ沈んだらまた建造すればいい、位にしか思っていないだろう。ブラック提督の運営する鎮守府が、略奪した方が黒字になるカラクリはそんな所だろう。

「うし、取り敢えずは情報の精査からだな。霧島、お前は大淀に頼んでブルネイ近海にある鎮守府のデータをありったけ出してもらえ」

「はい、すぐに」

「俺達はそのデータで怪しい動きのある鎮守府を徹底的に洗い出す。実際に動くのはその後ださぁて、面倒くせぇが仕事に掛かろう」

 捜索チームの面々は、無言で敬礼を返した。 
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