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提督はBarにいる・外伝

作者:ごません
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提督のBlackOps遍
  糸口

 金城提督率いる海賊捜索チームが捜索を開始して、半月が経っていた。主に行っていたのは各鎮守府の運営状況の精査だったが、その中で幾つかの鎮守府に不正が見つかり粛清されるという副次的効果もあったが、未だに本命の海賊行為を働いている鎮守府は特定出来ずにいた。

「提督さん達も大変だぁ、私も出来る事から協力しないと!」

 捜索チームが占拠している資料室の1つに、伊良湖が朝食を運び入れようとしていた。仕事をしながらでも食べやすい様にと、数種類のおにぎりと細かく刻んだ具の味噌汁である。コンコン、とノックをするが返事は無い。

「ね、寝てるのかなぁ?失礼しま~す、朝食をお持ちしまし……ヒィっ!?」

 ガチャリとドアを開けた瞬間、部屋の中からむわっと煙が漏れ出す。もうもうと立ち込めていたのは煙草の煙だ。一瞬火事と見紛うばかりに室内は煙い。その中でギラギラと光る一対の眼……何日目の徹夜なのか、血走った眼で開いたドアを眺めていたのは提督であった。

「ん……おぉ、伊良湖か」

「は、はい。朝食をお持ちしました」

「朝飯?……あぁ、もうこんな時間か。オイお前ら起きろ、飯の時間だ」

 手にしていた書類を丸めて、テーブルに突っ伏していた捜索チームの頭をポコポコ殴っていく提督。その衝撃に反応して、のそのそと動き始める艦娘達。まるでゾンビか、デスマーチ真っ最中の社畜の皆さんの様だ。

「た、大変そうですね……」

「あぁ。昨日も遅くまで資料の洗い出しやってたし、日中は日中で不正の見つかった鎮守府へのガサ入れについて憲兵隊と打ち合わせ……幾ら体力バカのこいつらでも参るわな」

「む……もう朝か」

「おはようございます……」

「眠い……ぽひぃ」

「夕立、起きて」

「Zzz……」

「あれ、霧島さんは?」

「アイツはあれでも所帯持ちだ、毎日返してるよ。まぁその分俺が働くさ……しかし3日徹夜程度で疲れるとは、俺も歳喰ったか?」

 そう言いながら首を鳴らす提督に、伊良湖は苦笑しか浮かばない。普通の人は3日も徹夜していたらちょっと疲れた位のリアクションでは済まないだろう。げに恐ろしきは提督のバイタリティである。

「さて、朝飯だ。ここん所録な飯喰ってなかったからな。モリモリ食べてビシバシ働こう!」

 ガッハッハと笑う提督に、嫌そうに呻き声で返事する捜索チームの面々。チラリと伊良湖が床を見れば、コーヒーとエナジードリンクの空き缶が散乱していた。




「美味い、美味いぞ!」

「ご飯が五臓六腑に染み渡りますね」

「美味ぽい!美味ぽい!」

「美味しすぎて泣きそうだよ」

「大げさだなぁお前ら……でも、確かに美味いぜ。ありがとよ」

「いえいえっ、私はこんな事でしかお手伝い出来ませんから……えへへ」

 提督に褒められて、伊良湖は上機嫌だ。

「んぐ……しかし、ぷっつりと海賊行為の被害が消えたな」

「そうですね、丁度私達が各鎮守府の調査を始めた辺りからでしょうか?」

「いんや、その少し後だな。具体的には不正が見つかってその鎮守府で捕り物があった辺りからだ」

 握り飯を食べながらではあるが、忙しなく議論をぶつけていく。話題は海賊行為が行われなくなった件。武蔵と赤城の言う通り、海賊行為を働いている者達を見つけ出す為に動き出してから少し後で、海賊行為はその被害が出なくなった。

「なら、海賊さん達は諦めたっぽい?」

「それはないんじゃないかな、夕立」

「だな。今は派手に動くと俺達に目を付けられると思って息を潜めてるんだろうさ」

「だが、奴等は恐らくだが普通の遠征が出来ない状態にあるのだろう?ならば、今の状況は最悪のハズだ」

 遠征が出来ない、という事は資源は減る一方で増える事はあり得ないだろう。更に、遠征には鎮守府運営の為の資源の他に艦娘や提督、運営スタッフの生活物資を一緒に運ぶ意味合いも含まれている。それが完全にストップしてしまっている現状では、早晩文字通りに干上がってしまうだろう。

「ウチみたいに食糧自給が出来てるか、若しくは地理的に食糧の補給が可能な場所にあればその限りじゃねぇがな」

「ですが、食糧が補給出来る地理にあるのなら鎮守府用の資材もある程度確保出来るのでは?」

 真面目な顔で赤城が尤もらしい事を言う。だが、両手に握り飯を持ったまま言うもんだから凛々しさが台無しだ。

「ふぅむ、そうなると海賊行為を働いてる奴等は小島……若しくは地理的に陸の孤島の様な場所に位置する連中、という事にならないか?」

 ふむ、今の動きにくい状況下で切羽詰まるとしたらそうなるか。しかしそれをどうやって見つける?

「あのぅ……それでしたら私、役に立てるかもしれません」

 そう言って手を挙げたのは、伊良湖だった。




「私、ブルネイの各鎮守府に出入りしている海運業者の叔父さん達ととっても仲がいいんですよ」

「ほうほう」

「それで昔聞いたんですが、お金を多めに払って配給の食糧にお酒なんかの嗜好品を混ぜてもらったり、配給の量を増やして貰ってる鎮守府があるらしいんです」

 配給担当の食糧関係の会社も、海運業者だって商売だ。貰うモン貰って多めに売るなんてのは違法な品でも無い限りは問題にする方がアホらしい類いの話だ。

「で?そこからどうやって賊の本拠地を割り出すのだ」

「ですから、食糧の補給量の増えた鎮守府に的を絞れば少しは絞り込めると思うんですが……」

「成る程。しかし、その業者さんだって商売ですよ?そう簡単に教えて貰えるとは……」

「大丈夫です!ウチは規模が大きい分、取り引きの額も大きいですから。教えてくれないと……って感じで」

「……えげつない」

 眠そうな半目で雲龍がぼやく。

「まぁ、そこがウチ流だろ」

 勝つためには何でもやれ、ってのがウチの鎮守府の流儀だからな。遣り過ぎて捕まらない様に気を付けりゃあ、後は不意打ち脅迫何でもござれだ。まさか非戦闘艦であり、純真無垢なイメージのあった伊良湖からそんなヤ〇ザ紛いの
脅し文句が飛び出すとは思ってなかったが。

「兎に角、暫くは伊良湖からの情報待ちだな」

「提督さん、それまではお休みっぽい?」

「そういう訳に行くかよ、夕立。あくまで伊良湖の情報は新たな視点からの情報だからな。今までの情報の洗い出しも進めながら、併せて敵の正体を掴む」

「また、書類とにらめっこの日々が続くんだね……」

 うんざりした様な顔の一同。

「しょうがねぇな。今日一日は完全休養日とする!しっかり休んで、また明日からバリバリやってくれ」

 俺がそう言うと、歓声が上がる。現金な奴等め。俺はもう少し書類を……

「ヘイdarling?」

「んぁ?って金剛!」

 いつの間にやら、俺の背後には膨れっ面の嫁さんが立っていた。

「darling、今日はお休みって言いましたヨネー?何しようとしてるデース?」

「いや、他の連中は休ませても俺が休む訳には」

「NO、今日はdarlingも一日休みデース!しっかり捕まえて、離さないから……覚悟してね?」

 やれやれ、満面の笑みでそんな事言われちゃあ仕方ない。

「こんな五月蝿いのにくっつかれたんじゃあ仕事にならんな。休むとするか」

 さてさて、寝るとしますかね。
  
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