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Fate/WizarDragonknight

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パステルパレット

「紗夜さん……!」

 ヘルメットの下で唇を噛みながら、ハルトは毒づく。
 真司から、トレギアが消えたという連絡は受けている。だが、紗夜と日菜の関係のためにトレギアが関わったことから、このまま日菜が無事で済むとは思えない。

「どうしてトレギアなんかに……!」

 スイムスイムの正体である少女の消滅から感傷に浸ることも許されないまま、ハルトはアクセルを急がせる。
 それが交通違反などと気にしている暇はない。バイクを走らせながら、ハルトはスマホを鳴らした。

「可奈美ちゃん……出るわけないか。友奈ちゃんにコウスケも響ちゃんも……出ない……」

 味方には頼れそうもない。

「紗夜さん……!」

 トレギアに囚われる少女のことを想いながら、ハルトはアクセルをさらに強めた。



「楽しみだね! チノちゃん!」

 行列に並ぶココアは、そう言った。
 日菜からもらったチケット。様々なアイドルが合同で行うライブで、毎年年始に行われているものらしい。
 友人たちに聞いてみたところ、どうやらここで大成するかどうかで、新人アイドルが生き残れるかどうかが分かれるらしい。

「そうですね。一人で店番をしてくれた可奈美さんにも感謝しなくては」

 チノも笑顔でココアに答えた。
 さらに、モカもココアとチノの頭に手を乗せながら言った。

「それにしてもすごいねココア。まさかアイドルの子とお友達だったなんて」
「日菜ちゃんじゃなくて、日菜ちゃんのお姉ちゃんの紗夜ちゃんだよ。今日は来てないのかな?」

 ココアはそう言って周囲を見渡す。だが、いつも学校で見慣れた風紀委員の姿はどこにもない。

「う~ん……あ、そういえばマヤちゃんとメグちゃんはもういるの?」
「来ているみたいです。でも、こことはかなり離れた入場口にいるみたいなので、会えるとしたら終わった後ですね」

 チノがスマホを見ながら言った。

「そっか……じゃあ、二人にも伝えておいて。終わったら正門前に集合! 一緒にお茶しようって! お姉ちゃんがごちそうしてあげる!」

 そう言って、ココアはモカの様子を盗み見る。
 だが、モカはいなかった。

「あれ? お姉ちゃんがいない!」
「モカさんなら」

 キョロキョロとしだしたココアへ、チノが行列から離れた売店を指差した。
 見れば、モカがお店からジュース缶を持ってきているところだった。

「はい、ココアにチノちゃん。喉乾いたでしょ?」
「あ、ありがとうお姉ちゃん……」
「ありがとうございます」

 モカからジュースを受け取り、ココアは口を尖らせた。

「う~……何か、負けた気がするよ……ん?」

 ココアが缶を開けようとしたとき、一瞬固まる。

「あれ、ハルトさんじゃない?」
「え? ハル君? どこどこ?」

 モカがココアが指さした方角を見る。だが、多くの車やファンが行き交う道で、彼のバイクの姿は見られなかった。

「あれ? さっき、そこを通ったと思ったんだけど……」
「ハルトさんの出前は、もうとっくに終わってる頃ですよ。今頃きっとラビットハウスに戻っています。間違えるなんて、ココアさんは本当にしょうがないほどココアさんです」
「あ、あれ? 私、なんかどんどん扱いが酷くなってるような……?」

 ココアは苦笑した。
 そしてその時。
 見滝原ドームの裏側に戻って来た(・・・・・)ハルトが、血相を変えていることなど気付くはずもなかった。



 夕方近くの見滝原ドームは、大勢の人々でごった返していた。雨も上がり、湿った空気は、会場に並ぶ人々の熱気で暑くなっている。

「これ……!」

 マシンウィンガーから降りたハルトは、入口を探す。
 だが、正規の入り口で入れば、どれだけ時間がかかるか分からない。さっきまでスイムスイムと戦っていた裏口の倉庫も、警察の捜査の手が回り、とてもハルトが入れる隙はなかった。
 通り雨が上がったものの、雨の影響か冷える中で、ハルトは入れそうな抜け道を探り始めた。

「あった……!」

 ようやく人が少なそうな入口を見つけた。
 近くにマシンウィンガーを停めて突入しようとしたが、世の中それほど甘くない。

「ああ、ちょっと」

 二人の大柄な男が、入ろうとするハルトの前に立ちふさがる。

「入館証を見せて」
「入館証って……」

 その時、見上げたハルトは理解した。
 関係者専用入口。
 そんな確固たる事実が記されたそこに、ハルトは額に手を当てた。

「それじゃあ、ここは……」
「はい、出て行ってね。お客さんはあっちからだから」

 二人組の警備員に両腕を掴まれ、ハルトは徐々に入口から離れていく。

「ちょっと待って……! 今、行かないと……!」
「悪質なファンは出入禁になりますよ」
「俺はファンじゃ……」

 抵抗しようとしたハルトだったが、諦めて彼らの案内に従う。
 お客様専用の入り口に向かう振りをして、ハルトは近くの茂みに隠れた。

「あんまりこういうのは好きじゃないんだけど、仕方ないか……」

 ハルトは腰から指輪を取り出し、右手の中指に入れる。

『ユニコーン プリーズ』
『スモール プリーズ』

 紗夜のもとから回収した青いユニコーンの使い魔を召喚すると同時に、縮小の魔法を使う。人形のサイズになったハルトは、目の前で完成していくブルーユニコーンに跨った。

「ユニコーン、頼む。日菜ちゃんのところに連れて行ってくれ」

 一角獣は嘶き、蹄で地を叩きながら会場へ向かう。
 警備員の足元を潜りながら、関係者入口へ入っていく。

「よし。一にも二にも、日菜ちゃんを探そう」

 警備員たちの網を突破したハルトは、周囲を見渡す。
 迷路のような回廊と、無数に並ぶ部屋。控室に書かれている名前には、日菜の名前もパステルパレットの文字もない。

「どこだ……? 一度、解除するか? ユニコーン」

 ハルトは、奥の人目に付かないところを指差す。様々な資材が置かれた裏。ユニコーンに連れられたそこで、ハルトは縮小の魔法を解除する。幾重にも体を包む魔法陣により、ハルトの体は元の大きさに戻る。

「日菜ちゃん……どこだ……?」

 ガルーダがいればと思いながら、ハルトは廊下を歩きだす。
 次々に並ぶ、同じような部屋。テレビで聞いたことがあるようなないような名前をいくつも流して見ながら、やがて『パステルパレット』と書かれた表札を見つけた。

「失礼します。……日菜ちゃん?」

 ノックをして入る。だが、そこに日菜の姿はない。
 代わりに、こちらにむかって華やかな髪をした少女が決めポーズをして凍り付いていた。

「まんまるお山に彩りを……あ」
「え」

 ハルトが唖然とすると同時に、少女も青ざめていく。
 目元でピーズサインをして、ウインク。まるで彫像かと思ったが、徐々にそうではないと証明するように、目が泳いでいく。

「ひゃああああああああああああ!」
「あ、ご、ごめんごめんごめん!」



 丸山彩(まるやまあや)
 そんな名前の少女だった。
 ピンクのツインテール、笑顔が眩しい少女。何とか落ち着かせたハルトは、ステージ衣装のままの彼女の部屋に入れてもらえた。

「日菜ちゃん……ですか?」

 向かい合っているソファーに座るハルトと彩。緊張が残る顔の彩は、「えっと」と汗を流している。

「えっと……今日はまだ会ってないです。遅刻癖はいつものことなので、あんまり心配していませんでしたけど……でも、もうすぐ本番なのに、まだ来ないからちょっと不安です……」
「……」

 手がかりなし。その事実に、ハルトは「そっか……」と項垂れた。

「でも、日菜ちゃんはすごいですから。いつもリハーサルとかなくても全部上手くいきますから、失敗とかしないと思うんですけど。むしろ私が何とかしなきゃ」
「そうなんだね。あのさ。本番前に悪いんだけど、日菜ちゃんが戻ってきたら、俺に連絡くれるように伝えてくれないかな? 多分連絡先知ってると思うから」
「は、はい……」

 彩は頷いた。
 他を当ろうと席を立った時。控室の扉が開かれた。

「彩ちゃん? さっきスタッフの方と追加の打ち合わせしたんだけど……」

 入ってくる、別の少女。手に黄色い台本を持ちながら入ってくる長い金髪の少女は、ハルトの姿を見ると顔を強張らせた。

「……誰ですか?」
「おや? 彩さんの追っかけですか?」

 強張らせた少女の後ろから、眼鏡をかけた少女が現れる。アイドルというよりはメカニックが似合いそうな風貌の少女は「フヘへ」と肩を揺らして笑った。

「彩さん、自分にファンなんていないって言っておきながら、ちゃんといるじゃないですか」
「ち、違うよ二人とも。この人は、日菜ちゃんに会いに来たんだよ」

 彩が苦笑しながら言った。

「あ、こちら、私や日菜ちゃんと同じ、パステルパレットの白鷺千聖(しらさぎちさと)ちゃんと、大和麻弥(やまとまや)ちゃんだよ」
「ごめんね、邪魔しちゃって。松菜ハルトです。……それじゃあ、ここには日菜ちゃんはいないみたいだから、俺は行くね」

 ハルトはそう言って、パステルパレットの控室を去ろうとする。
 だが、「待ちなさい」と、千聖が呼び止めた。

「貴方、どうやってここに? 日菜ちゃんに会いに来たって、いくら何でも怪しすぎない?」
「え?」

 彼女の怪しい目線に、ハルトは戸惑う。

「日菜ちゃんのお知り合いの様子ですが、ここに入るには関係者用のパスが必要なはずです。持っていないようですが、不法侵入ですか?」
「それは……」

 ハルトは説得の仕方を逡巡する。
 ここで時間を取られたくない。いっそのこと、スリープで眠らせてしまおうかと危険な思想さえ芽生えてしまった。
 千聖の槍玉が、次は彩に向けられる。

「彩ちゃんもよ。本番前の大切な時間に、練習ないし集中しないのはちょっと不用心すぎるわ」
「う……ごめんなさい」

 千聖の説教に、彩が落ち込んだ。ツインテールが生き物のように萎れたのを見て、あれ可動式なのかと驚いた。

「フヘへ。それより、お兄さんは日菜さんのお知り合いですか?」

 説教を続ける千聖を放っておいて、麻弥がハルトに話しかけてきた。
 ハルトは頷く。

「日菜ちゃんに、ちょっとお姉さんのことで話したいことが……」
「お姉さん? 日菜さんが時々言ってる、大好きなお姉さんのことですね。日菜ちゃん、今日はさっき遅れてきたんですよね。今、スタッフから最終連絡を色々受けていますよ。連れてきましょうか?」
「麻弥ちゃんまで!」

 鋭い声が、今度は麻弥を突き刺す。
 麻弥は「ふへへ」と鼻を擦り、

「まあいいじゃないですか。少しで終わるなら。それじゃあ、日菜ちゃんを連れてきますね」

 麻弥は手を振りながら、控室を出ていく。
 だが、そんな彼女を見送る千聖の顔がどんどん険しくなっていく。

「あの……千聖ちゃん?」
「はあ……例外なんて認めません」

 千聖はそう言いながら、自らのスマホを荷物のところから引っ張り出す。一瞬の迷いもなく、警察の番号を入力した。

「申し訳ありませんが、ここは通報させていただきます」
「だから、俺は……!」
「お待たせしました! 連れてきましたよ」
「あれ? ハルト君じゃん!」

 麻弥に続いたその声は、ハルトには救いに聞こえた。
 水色のステージ衣装に身を包んだ日菜が、ハルトを見つめていた。

「日菜ちゃん……!」

 助けられた。
 ハルトは大きく肩を下ろしながら、安堵の息を吐いた。

「どうしてハルト君がここに?」
「いや、ちょっと君に伝えたいことが……」
「日菜ちゃん、今は本番前よ」

 日菜との会話になる前に、千聖が突っかかる。

「知り合いと話すのは後にして。あと麻弥ちゃんも、終わったらお説教ね」
「へ……?」

 茫然とする麻弥。心の中で彼女に謝罪しながら、ハルトは続けた。

「……少しだけ、時間をくれない? 紗夜さんのことで……」
「お姉ちゃん!?」

 紗夜の名前を出した瞬間、日菜が勢いよく振り向いた。

「お姉ちゃん、来てくれるの!?」
「それが……」
「日菜ちゃん!」

 また咎める千聖の声。
 だが、日菜は「大丈夫大丈夫」と、どこかぎこちなく言った。

「この人、すっごくるんってくる人だから! ねえねえ、あたしに用があるみたいだし、ちょっとだけ話してくるね」
「日菜ちゃん。今はもうライブ前なのよ? 部外者と話すのではなく、ライブに向けて集中しなければならない時よ」
「大丈夫だよ。すぐに戻ってくるから! ほら、ハルトくん、行こっ!」

 日菜はそう言って、ハルトの手を取り連れ出した。 
 

 
後書き
可奈美「ありがとうございました!」
可奈美「ふう……大部客足も落ち着いてきたかなあ……」
可奈美「よし! それじゃあ次は、掃除だ! ハルトさんにはいつも『掃除はしない方がいい』って言われるけど、私だって家事は一通りできるんだからね!」

チリーン

可奈美「いらっしゃいませ!」
???「にゃんぱすー」
可奈美「にゃ、にゃんぱす?」
???「喫茶店に来たのん! 大人になった感じがするのんなー」
可奈美「き、喫茶店は初めて?」
???2「おーい! やっと追いついた……れんげ、勝手に動くなよな? 迷子になるとあたしが怒られるんだからな?」
れんげ「うち、とうとうひか姉の学校があるところに来たと思うと興奮したのん。これが共感覚性ってものですなー」
ひか姉「いや、意味違うからな? すみません、二人で」
可奈美「はい、こちらの席へどうぞ!」
れんげ「おお、これがメニュー……中々渋めの品々なん……」
可奈美「渋め……?」
ひか姉「じゃあ、あたしは……今日のアニメコーナーを紹介させてもらうぜ!」
可奈美「せめて注文してからにして!」



___季節が水を染めて 七色に光るよ 息継ぎしたら消えた___



れんげ「にゃんぱすー」
ひか姉「のんのんびよりな?」
可奈美「田舎でのんびりまったり! ゆっくり時間が過ぎていくアニメだね」
ひか姉「1期は2013年10月から12月、2期は2015年7月から9月、3期は2021年1月から3月だな」
れんげ「おお、長寿なのん。ウチも若いころはここまでいくとは思わなかったのん」
可奈美「君いくつなの……?」
れんげ「原作も最終回をお迎えして、大往生なのん。これまでの人生、様々な経験を得ました……」
ひか姉「いつもにも増してれんげの言葉が分からん」
可奈美「劇場版では、沖縄旅行が描かれていたね。それじゃあ、みんな!」
みんな「にゃんぱすー」 
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