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Fate/WizarDragonknight

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聖杯戦争のルール

「待って!」

 ハルトの声に、スイムスイムは足を止めた。
 ハルトを睨むスイムスイムは、静かにルーラと語った武器を構える。

「やっぱり問答無用……変身!」
『フレイム プリーズ』

 さきほどまでの水では、埒が明かなかった。様子を見ようと、ハルトは火のウィザードへ姿を変えた。
 スイムスイムが潜水を繰り返しながら、ウィザードへ襲い掛かる。
 ウィザードはソードガンを駆使し、その刃を受け流していった。

「これなら……!」
『バインド プリーズ』

 彼女が槍を振るうタイミングで、束縛の魔法を使う。
 束縛の魔法に四肢を囚われたスイムスイム。だが、すぐに液体となった肉体は、自由を取り戻し、ウィザードへ斬りかかって来た。
 ウィザードはそのまま、彼女の槍と何度もぶつかり合う。
 このままではキリがない。互角の戦いを繰り返していたその時。
 近くの壁が爆発する。
その中から、黒髪の少女が転がって来た。

「うわっと……ほむらちゃん!?」

 ウィザードとスイムスイムの間に転がって来た少女。
 暁美ほむら。

「松菜ハルト……!」

 ほむらが歯を食いしばりながら、ウィザードを見上げる。

「どうしてほむらちゃんがここに……?」
「それはこっちの……ッ! 後ろ!」

 ほむらの顔が青ざめる。ウィザードが振り向けば、そこにはすでに闇の手が迫っていた。

「!?」

 凶悪な鉤爪。
 慌ててウィザーソードガンで斬り防ぎ、その敵意へ蹴りを放つ。
 反撃した後、その攻撃をしてきた敵を見てウィザードは言葉を失った。

「何だ……あれ……」

 以前見滝原公園で戦った怪物の仲間。それは間違いないだろう。体全体から、あのときの怪物と同じ雰囲気を感じる。
 だが、それは生物としてはあり得ない外見をしていた。
 ウィザードが戦ったブロブが、右足を構成している。
 他にも、あの時戦った怪物たちや、見たことのない怪物たちがその体一部一部を積み上げていた。
 怪物は吠えながら、全身のあらゆる顔らしき場所から光弾を発射する。多種多様な色をした光線が、ウィザード、ほむら、そしてスイムスイムを巻き込んでいく。

「うああああっ!」
「……っ!」

 ウィザード、スイムスイムもまた大きく吹き飛ばされる。棚に激突し、それぞれ中の積荷が零れていく。

「ほむらちゃん……何なんだアイツ……?」
「知らないわよ……フェイカーに聞いて……!」
「フェイカー……トレギアがいるのか!?」
「トレギア? 名前に興味なんてないわ」

 ほむらは不機嫌そうに言った。
 さらに、歩み寄るキメラ状の怪物。
 だが、その歩みは、背後からの黒い光線により、転倒となる。

「キャスター!」

 ほむらのその言葉が、ウィザードには明光となった。
 合成怪物が開けた穴より飛来した、黒い天使、キャスター。彼女はウィザード、スイムスイムを一瞥し、ほむらの前に降り立つ。

「ミストルティン」

 キャスターが放つ、七本の白く輝く槍。
 だが、合成怪物は全身の各所からの一斉発射で、その槍を全て相殺する。

「おやおや。賑やかじゃないか」

 その声に、ウィザードの背筋が凍る。
 やがて、壁の穴より、その姿は現れた。
 青い、仮面をつけた闇。
 フェイカーのサーヴァント、トレギア。彼は腕を腰で組んだまま、状況を見てせせら笑う。

「やあ、ハルト君。私も仲間に入れてくれないかい?」
「トレギア……!」

 思わぬ強敵に、ウィザードは仮面の下で青ざめる。
 トレギアは、ウィザードの姿を認めてクスクスと笑う。

「おや。君も聖杯戦争の真っ最中と見える」

 トレギアは起き上がったスイムスイムを見ながら言った。

「君も元気に殺し合いをしているじゃないか。どれどれ。私も参加しようじゃないか」

 ウィザードは銀の銃口をトレギアに向けた。

「お前っ!」

 だが、主への銃口を、その怪物が許すはずもなかった。
 合成怪物の鋭い鉤爪が、ウィザーソードガンを弾き飛ばす。

「!」

 そのまま、合成怪物はウィザードの体を切り裂いた。
 さらに大きくのけ反り、棚を上から倒し崩す。

「松菜ハルト!」

 ほむらはロケットランチャーを取り出し、合成怪物へ発射。
 だが、怪物は中心の蜘蛛のような顔から糸を吐き出す。それは、ロケットランチャーを捉え、そのままキャスターへスイングされる。

「!」

 防壁を張り、巨大な弾丸の爆発より身を守るキャスター。その間にも、合成怪物は壁から攻撃してくるスイムスイムとの戦いになっていった。

「トレギア……ッ!」
『チョーイイネ キックストライク サイコー』

 起き上がりと同時に、ウィザードは最強の指輪を使う。炎を右足にためながら、魔法陣を発生。
 魔法陣を蹴る形で、トレギアにストライクウィザードを放つ。

「ダメだなあ……」

 一方、トレギアは首を振りながら、体を反らす。
 空振りした必殺技は、そのまま怪物たちが現れた穴の上の壁を砕き、崩落させた。

「おいおい。もう少し頑張ってくれよ」

 トレギアは音もなく着地する。
 さらに、そんなトレギアへ、スイムスイムの槍が地面から襲った。

「ふん」

 首を反らし、離れていく。

「君には……あんまり興味ないかなあ?」

 トレギアは浮かび上がり、その赤い目から光を放つ。スイムスイムの足場ごと破壊するそれは、液体の体を持つ彼女にも大きなダメージを与えている。
 もう一度トレギアに挑もうとするが、合成怪物が邪魔してくる。
 赤い雷が、ウィザードに向かう。

『スモール プリーズ』

 体を縮小させることで無数の雷を回避、元に戻ると同時にソードガンでその腹を突き刺す。蜘蛛の怪物の頭部を腹に据えたそれは、火花とともに大きく揺れた。

『フレイム スラッシュストライク』

 続けざまに、ウィザーソードガンの手を開く。炎の斬撃を放つ寸前、怪物は鉤爪を振るった。
 二つの刃は、同時にそれぞれの相手に命中。ウィザードと合成怪物は、互いに大きく吹き飛ばされ、地を転がった。

「ぐっ……」
「おいおい……結構元気そうだな」

 キャスターの光線を避けながら、トレギアはせせら笑う。
 ウィザードは起き上がり、トレギアを見上げた。

「お前は危険すぎる……」
「へえ……ひどいなあ」

 トレギアは薄ら笑いをしながら言った。

「なら……これを見たら、それでも私を倒そうとするのかな?」

 トレギアは、自らの仮面に手をかけた。やがて、その群青色の仮面が外れる。果たして、彼の体より群青色の闇が仮面に吸い付く形で抜けていく。
 そして、そのトレギアの仮面を手にしているのは、紗夜以外の何者でもなかった。

「紗夜さん……!?」

 ついさっきまでスイムスイムに狙われていた少女が、トレギアの正体。
 そんな事実を受け入れることなどできず、ウィザードは目を疑った。
 だが、紗夜はそんなウィザードから目を背けた。

「松菜さん……」
「本当に……紗夜さんなのか?」

 ウィザードは、思わず変身を解く。
 ハルトとなり、数歩紗夜へ歩み寄る。
 瓦礫の上に立つ紗夜は、トレギアの仮面を下ろし、その左手を右手で抑えている。

「はい。私です」
「どうして……!?」
「私は……私は……」

 紗夜は頭を抱えながら呻きだす。そんな彼女の体からは、紫色の闇が立ち上っているようにも見えた。

「紗夜さん……!?」
「私は……日菜に……追いつけないから……」
「日菜ちゃんに追いつけないって……まさか、それだけのためにトレギアに魂を売ったって言うのか!?」

 それに対し、紗夜は無言を貫く。
 肯定としか、ハルトに受け取れなかった。

「それじゃあ……紗夜さん、君は日菜ちゃんに勝つためにトレギアに魂を売ったのか!?」
「おいおい。ちょっと酷くないかい? まるで悪魔みたいな言い草じゃないか」

 それを言うのは、紗夜の姿、紗夜の口。だが、明らかにそれは彼女の意思ではない。
 紗夜に憑く、フェイカーのサーヴァント。

「トレギアッ!」
「私はただ、迷える子羊に手を貸しただけだよ。何も困らせてはいない」
「ふざけるな……!」

 歯を食いしばるハルト。
 ドライバーオンの指輪を使っている間に、紗夜へ別の殺意が向けられる。

「ッ!」

 それは、魔槍ルーラを向けるスイムスイム。
 紗夜の表情が恐怖で凍り付く。だがすぐに、左半分だけが歪む。

「邪魔だよ」

 怯えた表情の右目に対し、吊り上がった左目。
 そのまま紗夜の左手より、黒い雷が放たれる。
 それは紛れもない、トレギアの主力技。
 飛び出した勢いのあまり、防御などできないスイムスイムは、その電撃をまともに浴び、ハルトの隣に激突した。

「……!」

 コンクリートの瓦礫の中に埋もれたスイムスイムは、やがて動かなくなった。気絶した様子の彼女を見て、ハルトは驚く。。

「液体の体を……貫通した……!?」
「光は、どうやら防げないようだね」

 それを見て、紗夜___正確には、紗夜の左半分___が口角を上げる。

「やめて……」

 それは、紛れもない紗夜の声。

「日菜に……何をするつもりなの……?」
「ククク……言っただろう? 君の望みを叶えると」

 そのまま紗夜の左半分は、手に持ったアイマスクを装着した。
 それはもう、体の持ち主の意思ではどうにもなりそうにない。
 右目から涙をながし、プルプルと震えながらそれを顔にあてる。
 あふれ出した闇が紗夜を包み、その姿を変えていく。

「紗夜さん!」

 ハルトが叫ぶももう遅い。
 彼女の姿は、頭を抱え、苦しむトレギアの姿に変わっていく。

「松菜さん……助……け……ああああ……」

 彼女の声も変わっていく。
 体を大きくのけ反らせる、悪魔。道化。
 背中を向け、その背骨を大きく曲げながらこちらを下目で見つめるフェイカーのサーヴァント。

「やはりマスターの体を使うのはいい……令呪を媒体に、私の存在をより濃くしてくれる」

 トレギアの体に、より一層の闇が降りていく。
 ハルトは、トレギアを睨みながら、再び火のウィザードへ変身する。

「トレギア……お前は一体何が目的なんだ……? 聖杯戦争で生き残ることか? だったら、こんな回りくどいことしないで、直接俺たちを叩けばいいじゃないか。そうでなくても、紗夜さんをここまで苦しめる必要なんてない。何のために?」
「何のために?」

 トレギアは口を抑え、笑い声をあげた。

「忘れたのかい? サーヴァントは、人の命を吸うことで強くなる」
「……ッ!」
「マスターともなれば、格別だ。令呪という強大な魔力を得られるからね。あの鹿目まどかという少女も、なぜか無数の因果律があったため興味があったが……この小娘の令呪だけでも十分だ」
「お前は……」

 確かにそれは、聖杯戦争に参加するときに監督役から聞いた。
 だがそれは、アカメも千翼も、あのブラジラでさえも行わなかった行為であった。
 トレギアは続ける。

「何より……命は、悩み、苦しむからこそ美しい……! 人類という生き物は、特にその感情が顕著だ。ああ……美しいものは、もっと見たいと思うのが性というものだろう?」

 これまで戦ったどんな敵よりも。
 今まで対立した、全ての参加者よりも。
 トレギアは危険すぎる。
 そう、ウィザードは確信した。 
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