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Fate/WizarDragonknight

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ブシドー!

 日菜に連れられ、少し離れた廊下にやってきたハルト。
 日菜は、やがてハルトの手を放し、静かに壁に寄りかかった。

「ありがとうね、日菜ちゃん。助けてくれて」
「うん……」

 ハルトの周りに誰もいなくなった途端、日菜の表情が落ち込んでいった。それまで元気な姿の日菜しか見てこなかっただけに、目が暗い日菜の姿は、とても


 礼を言うが、日菜の顔は晴れない。どこか暗い顔をしている。

「……ハルト君。あのね……」
「どうしたの?」

 紗夜がいつ現れるか分からない。頭の意識を半分周囲にあてながら、ハルトは彼女の言葉に耳を傾けた。

「さっき、晶ちゃん……モデル仲間の子に……」
「日菜さん!」

 突然、日菜とは別の甲高い声が聞こえてきた。
 驚いてその方を向けば、そこには。

「外国人の子?」
「イヴちゃん!」

 イヴと呼ばれた、銀髪碧眼の少女。
 それで、ハルトは思い出した。
 若宮(わかみや)イヴ。確か、日菜と同じグループのメンバーの一人。日菜をネットで調べた時に見た記憶がある。

「って、木刀!?」

 それを見た時、ハルトは思わず叫んでしまった。
 どうしてここにあるんだと言いたくなるほどに精巧な作りの木刀が、ハルトへ刃先を向けていた。

「日菜さん! その人は、もしや曲者(くせもの)ですか!?」
「く、曲者?」

 現代日本ではなかなか聞かない言葉にたじろくハルト。だが、イヴなる少女は、止まらない。

「ブシドー!」
「うわジャンプ力すごっ!」

 風のウィザードもびっくりするような跳躍力で、ハルトに飛び掛かって来るイヴ。さらに、イヴは容赦なく「アタタタタタタタタタタタタ!」と木刀を振り回す。

「曲者っ! 覚悟!」
「危なッ!」

 時代劇の影響を受けたような発音で、イヴはちからを込めて木刀を振り下ろす。
ハルトは思わず、両手で挟んで食い止めた。

「ややっ! 真剣白刃取りとは……その腕前、やはり曲者か!?」
「あ、あはは……可奈美ちゃんから聞いておいて正解だった……」

 冷や汗を浮かべながら、ハルトは苦笑いを浮かべた。

「ならば、私の武士道精神にかけて! 日菜さんを誘拐不審者からお守りします!」
「猛烈な勢いで誤解しているんだけどこの子!」
「参ります! ブシドー!」

 声は可愛いのに、危険な動きで攻めてくるイヴ。
 もっとも、普段可奈美から本物の剣術を受けているハルトにとっては手慣れたもので、目視からの回避も容易かった。

「おっと……」

 手刀で、イヴの手首を軽く叩く。思わぬ反撃に姿勢を崩したイヴ。

「むむ……これこそ曲者……! なかなかのブシドーとお見受けする!」
「なかなかの武士道ってなんだ」

 ハルトのツッコミにも、イヴはこう返した。

「武士は食わねど高楊枝! ご覚悟!」
「君その言葉の意味分かってる!?」
「武士の凄さを指し示す言葉です!」
「そりゃ確かに考えようによってはそうだけどもっ!」

 イヴの突きがハルトの頬を掠めた。
 続く斬撃。ハルトは背中を大きく曲げて、木刀の下へ掻い潜る。

「この曲者、素早い!」
「だから曲者じゃないってば!」

 ハルトはドロップキックで木刀を迎え撃つ。
 彼女の手から離れた木刀が、そのまま廊下の端にぶつかる。

「ややっ……まさか、ここまでのしきゃく(・・・・)とは……!」
刺客(しかく)ね? 違うけど」
「まだまだ!」

 だが、イヴはめげない。即座に拾い上げた木刀を手に、踏み込んで横薙ぎ。
 ハルトは腕で防御するが、腕に響く痛みにハルトは顔を歪める。

「決まりました!」
「今更だけど、人に向かってそれ振り回しちゃだめだろ!」

 ハルトはそう言って、左手でイヴの腕を掴む。

「あ!」

 そのままハルトは、彼女の腕を抑えて腰を屈める。

「ケガしないように足はしっかりとしてね……!」
「むむっ……!?」

 そのまま、ハルトはイヴを当て身投げ。

「ぶ、ブシドー!?」
「それが悲鳴でいいの君!?」

 体を百八十度回転させたイヴを、そのまま背中から廊下に激突___はしないように腰を抑えて、落下地点に着地できるようにした。

「ぶ、ブシドー……」
「ふう……やってみたら意外とできるものだね」

 本番前のアイドルに向かって技を決めるという蛮行などできるはずもなく、ハルトは無傷でこの場を諫めることが出来た。

「君、大丈夫? っていうか、俺への警戒多少は解いてほしいんだけど」
「は、はい……」

 何があったのか分からないイヴが、目を白黒させている。やがて、はっとした彼女は、ハルトに向き直り、目をキラキラと輝かせた。

「す、凄いです! 感激です!」
「へ?」

 真逆の態度になったイヴは、キラキラした眼差しをハルトへ向けた。

「今の技は、まさにブシドーです! どれだけの修練を積めばそのような御業が使えるのですか?」
「えっと……」

 熱く語るイヴは、あろうことか土下座をし始めた。

「この若宮イヴ、あなたの弟子になりたいです!」
「ちょ、ちょっと! 困るよ! 何より変わり身早いよ!」

 ハルトが止めても、自分の世界にどっぷりと浸かったイヴは止まらない。

「私も、あなたみたいにブシドーを極めたいです! どうすればそんな身のこなしができるようになるのですか!?」
「武士道なんて知らないって……」
「いいえ! あなたのその技は、武士道抜きでは語ることができません!」

 目を輝かせるイヴ。目を反らし、ハルトは日菜に助け船を求めた。

「ねえ、日菜ちゃん、この子の友達でしょ? 日菜ちゃんからも何かの勘違いだって」

 そこで、ようやく気付いた。
 日菜が、疲れ果てたような顔でこちらを眺めていたことに。
 正確には、日菜はハルトとイヴのやり取りなど見てはいない。ただ、光のない眼差しでハルトたちの方角を見ていた。

「日菜さん、どうしました?」

 その声で、ようやく日菜は我を取り戻したようだった。「え?」と意識を戻して、イヴを見返す。

「どうしたって、何が?」
「いつもの日菜さんなら、『すごいすごい、るんって来た』って言いそうなものですが。どうして黙っているのですか?」

 純粋な疑問だったのであろうイヴの言葉。だが、日菜の顔は沈んでいた。

「ああ、ごめんね。見てなかったんだ。あはは……」
「……」

 その姿に、ハルトは顔をしかめた。
 イヴも、

「どうかしました? いつもは色んなものに興味津々な日菜さんらしくもないです」
「ちょっと……ね。それより、ハルトさん。あたしに話があったんでしょ?」
「……あっ!」

 武士道に飲まれて忘れるところだった。ハルトは改めて日菜に駆け寄る。

「そうだ、紗夜さん! もう一回聞くけど、紗夜さん、こっち来てないんだよね!?」
「う、うん」

 驚いた顔の日菜。
 だが、それで振り出しに戻ってしまった。ハルトは爪を噛む。

「こっちには来てない……でも、あのトレギアがこのチャンスを逃すとは思えない……」
「ハルト君?」
「あの、師匠?」

 日菜とイヴの言葉が耳に入らなくなっていく。

「今いる使い魔はユニコーンだけだしなあ……真司も探しているんだろうけど……日菜ちゃん、ありがとう。今はいいや。いい? 控室から絶対に動かないで」
「どうして?」
「それは……その……」
「ねえ、もしかして晶ちゃんと何か関係あるの?」

 日菜がハルトの腕を掴みながら尋ねた。
 突然現れた知らぬ人物の名前に、ハルトは「晶?」と聞き返した。

「うん。蒼井晶ちゃん。モデル仲間なんだけど……」

 その時、ハルトは思い出した。
 以前、ラビットハウスに来た、モデルの女の子。思い返せば、彼女は狂暴性を隠していた。

「あのね……さっき、晶ちゃんがスク水の女の子と一緒に襲い掛かって来て……ちょっと、ゾワワっとしたんだ」
「スク水の女の子……それってさっきの……!」

 トレギアによって見滝原より少しだけ外に出た少女の顔が思い起こされる。
 ならば、必然的に蒼井晶が彼女のマスターということになる。

「もしかして、ハルト君何か知ってるの? もしかして、お姉ちゃんもそれに巻き込まれているんじゃ……!?」
「それは……」

 聖杯戦争に巻き込まれているから、など説明出来たらどれだけ気楽だっただろう。
 日菜とイヴが巻き込まれる、ハルトたちマスターを誘き出す餌にされる、真実を知った彼女たちがどう行動するか。その他、あらゆる危険性に晒されるリスクがある。
 話せない。

「それは……」
「ハルト君!」

 日菜がさらに言及しようとしたとき、その動きが止まった。
 口をあんぐりと開けたまま、ハルトの背後へ言った。

「お姉ちゃん……?」
「え……!」

 その言葉に、ハルトは振り向く。
 そこには確かに、紗夜の姿があった。

「紗夜さん……いや……」

 ハルトが警戒の表情を見せる。
 体を左手で支えながら、紗夜は足を引きずるように日菜へ近づいてくる。

「日菜……助けて……」
「お姉ちゃん!?」

 今の紗夜は、見るからに痛々しかった。全身が傷だらけ、長い髪も荒れ放題。ハルトも思わず庇護欲を掻き立てられるところだった。
 だが。

「トレギア……ッ!」

 ハルトには、なぜかその気配が感じられた。
 だが、日菜がそんなことを気にするはずもない。

「お姉ちゃん!」
「日菜ちゃん! 行っちゃだめだ!」

 だが、もう遅い。すでにハルトの手の届かなくなってしまった日菜は、紗夜に抱き着いた。

「よかったよお姉ちゃん! 晶ちゃんがちょっとおかしくなっちゃって! あたしもどうしたらいいか分からなくなっちゃって……」
「日菜ちゃん! 紗夜さんから離れて!」

 だが、ハルトの発言は遅かった。
 紗夜の腕が、迷いなく日菜に伸びる。
 それは、即座に日菜の首を掴み上げた。

「お姉……ちゃん……?」

 その時、ハルトと日菜は気付いた。
 前髪に隠れた紗夜の左目が赤く光っている。

「な、何ですか!? 何がどうなっているんですか……!?」

 イヴが、手を口にあてながら怯えている。

「武士道ちゃん、逃げて!」

 イヴの名前で呼ぶことが何となく憚られた。
 だが、武士を志す彼女が、オーラを纏う同年代の少女相手に臆するわけがない。

「日菜ちゃんを、離して下さい!」
「危ない!」
『ディフェンド プリーズ』

 ハルトは慌てて指輪を使う。
 同時に、紗夜の左手から黒い雷が発せられた。雷撃は、イヴに届く寸前で魔法陣の壁に防がれるが、衝撃までは防げず、そのままイヴを弾き飛ばしてしまう。

「武士道ちゃん!」

 ハルトが叫ぶ。だが、当たり所が悪かったのか、イヴは気絶したまま動かなくなっていた。

「やめろトレギア! その子は関係ないだろ!」
「おや? 何を言っているのかな?」

 紗夜(トレギア)は左目を赤く光らせながら言った。

「私はこの体のサーヴァントなんだ。サーヴァントがマスターの願いを叶えるのは当然だろう?」
「サーヴァント?」

 紗夜(トレギア)は日菜の首を握る右手を見せつける。そこに刻まれた令呪は、以前見た時とは、その形状を変えていた。

「令呪が……違う……!?」
「これなら、私がマスターの願いを叶えるのもおかしくないだろう?」
「ふざ……けるな!」
『コネクト プリーズ』

 ハルトは即、空間湾曲の指輪を使う。取り出したウィザーソードガンを振りかぶると同時に、銀の弾丸の引き金を___

「撃てるのかい? 君に」
「___!」
「分かっているよね? この体は、氷川紗夜のもの。なあ?」
「……ッ!」
「なら、こちらの願いを叶える光景を、黙ってみていてもらおうか……   やめて……」

 トレギアとは異なる、紗夜の声が聞こえてくる。まだ正常な色の目である右目が、うるううると左目に訴えている。

「安心したまえ。君がやった形跡はどこにも残らない。妹だけが、この世界から消える。君の全てのコンプレックスは解消される。せっかくだから、君自身の手で妹を葬らせてあげよう。      やめて……!」

 二つの声が、紗夜の口から発せられる。

「やめろ! トレギア!」

 ハルトは紗夜の手を叩き、日菜を解放した。そのまま日菜を背後に回し、

「ごめん紗夜さん!」

掌底で紗夜を突き飛ばす。

「日菜ちゃん! 大丈夫?」
「ゲホッゲホッ……お姉ちゃん……?」

 信じられないといった目で、紗夜を見上げる日菜。

「どうしたの……? お姉ちゃん……?」
「日菜……私は……ああああああああっ!」

 紗夜の声が、悲鳴に塗り潰される。頭を壁にぶつけ、彼女の額から血が流れる。
 すると、紗夜の体からぐったりと力が抜けた。見て分かるほどの脱力をした後、その赤い両目(・・・・)で、にやりと笑みを浮かべた。
 それは、もはや紗夜ではない。その証拠と言わんばかりに、彼女の右手には群青色のそれが握られていた。

「トレギア……!」
「よき旅の終わり、そして……始まり」

 仕込まれているスイッチにより展開する青いアイテム。それは、ベネチアンマスクのような形となり、紗夜の体に被さる。
 そして。

「お姉ちゃん……!」
「な、何ですかあれは……!?」

 非日常を目撃する、日菜とイヴ。
 やがて紗夜の姿は、サーヴァント、フェイカー。真名ウルトラマントレギアの姿となった。 
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