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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
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G編
  第94話:戻る者と離れる者

 
前書き
読んでくださりありがとうございます 

 
 響と未来は仮設本部の医務室で対面していた。未来は響と違い完全な非戦闘員が無理矢理戦わされた形なので、目覚めるのに少し時間が掛かったがそれでも大きな怪我も後遺症も無く目覚める事が出来た。

「未来!」

 響は純粋に未来と再び対面できたことを喜んだ。

「響、その怪我……」

 ふと未来は、響の顔にある絆創膏を見た。ギアを纏った未来と戦った際に負った傷だ。
 それを見て未来は己の行いを悔いた。守りたかった相手を自分の手で傷付けてしまったのだ。

 しかし響はそうは思わなかった。

「未来のお陰だよ」
「え?」

 突然に響からの感謝の言葉に、未来が思わず呆けた。

「ありがとう、未来」
「響――?」
「私が未来を助けたんじゃない。未来が私を助けてくれたんだよ」

 訳が分からず首を傾げる未来に、あおいが一枚のレントゲン写真を見せた。言わずもがな、響のレントゲン写真だ。

「これ、響?」
「そ。今の響ちゃんの体の中よ。どう? 綺麗なもんでしょ?」

 説明と見舞いの為についてきた了子が言うように、レントゲン写真には何の異常も見られなかった。極めて健康な体を写したレントゲン写真だ。

 最後の瞬間、未来の放った光線は集束され2人を飲み込んだ。その結果、響の体を蝕んでいたガングニールと未来を縛り付けていた神獣鏡及び未来を戦わせるために取り付けられていた「ダイレクトフィードバックシステム」は完全に消失。2人共一命を取り留める事が出来た。
 偏に互いに友を助けようと奮闘した結果である。2人が互いに友を想う心が勝利を掴んだのだ。

「つまり……」
「小日向の強い思いが、死に向かって疾走するばかりの立花を救ってくれたのだ」
「私が本当に困った時に、やっぱり未来は助けてくれた……ありがとう!」
「私が、響を――――!」

 自分が響を救う事が出来たという実感に、未来は心に嬉しさが込み上げてくるのを感じずにはいられない。
 だが決して手放しに喜ぶことは出来なかった。何故なら響を救ったという事は、即ち彼女から戦う力を奪ったという事に他ならないからだ。

 胸のガングニールを失った響に、最早戦う術はない。彼女は正真正銘、ただの少女に戻ってしまったのだ。

 勿論二課の戦力は響だけではない。魔法使いの颯人と透が居るし、装者だって翼にクリス、そして響と同じガングニールのシンフォギアを纏う装者がもう1人居る。

 しかし、その肝心のもう1人は――――――

「それより翼ちゃんこそ大丈夫?」
「……傷の方は、問題ありません」
「心は問題あるんでしょ?」

 翼は何も答えなかった。

 響と未来が救出されて直ぐ、突然翼との通信が途絶え同時に彼女のシンフォギアの反応も消えた。慌ててクリスを向かわせると、そこには気を失って倒れている翼が居たのだ。

 クリスと透により医務室に担ぎ込まれた翼は程なくして目を覚ましたが、その彼女の口から出てきたのは思いもよらない言葉だった。

 曰く、己を斬ったのは奏である…………と。

 何かの間違いかと思ったが、その後ドローンのカメラに映った映像にグレムリンの乗るライドスクレイパーの後ろに乗る奏の姿が確認され、どう言う理由かは分からないが奏が翼を害した事は事実であるとなった。

 奏が何故翼を斬ったのか? グレムリンに、連れ去られたと言うより自分からついて行った理由は?
 分からないことだらけな状況に、響も未来を取り戻せた喜びもそこそこに心配せずにはいられなかった。

「こんな時に、あのペテン師は何処で何やってんだ?」

 今この場に颯人の姿はない。翼の負傷と帰還、そして犯人が奏でありグレムリンについて行ったと言う話を聞いてから、何処かへと行ってしまったのだ。
 奏が大変だと言う時に、彼は一体何処へ行ってしまったのか?

「颯人さん……」

 この場に居ない颯人に対して、そして訳も分からず裏切った様にしか見えない奏を思い、響も表情を曇らせずにはいられなかった。




 その肝心の颯人はと言うと、現在ウィズと共に居た。奏に起こった異常に関して話を聞く為だ。
 今回の一件、奏の異変にはどう考えても魔法が関わっている。でなければ彼女が翼を害するなどする筈がない。

 こういう時、頼りになるのはその道の専門家であり知識と経験が豊富なウィズだ。彼なら奏の身に起きた異変について何か知っているかもしれない。

「ウィズ、奏が何で連中の方に行っちまったか分かるか?」
「……私は天羽 奏を直接見ていない。話も全て又聞きだ。だから全て推測にしかならないが、構わないか?」
「十分だ、頼む」

 今は少しでも情報が欲しい。例え確証に至るものではなくとも、何かしらを判断する為の材料が必要だった。

「恐らく……と言うか十中八九、魔法による洗脳だろうな」
「やっぱり……まさかとは思ってたけどよ。でも何でだ? 奏の奴はそんなあっさり操られちまうほど柔な精神してねえと思うんだけどな?」

 そもそもジェネシスの魔法使いの大半はワイズマンにより洗脳されているので、奏も何かしらの方法で洗脳されているのだろうと言う予想はしていた。だが彼女の強さは颯人も、翼達もよく知っていた。その彼女が、魔法を使われたからと言ってそう簡単に洗脳されるとは颯人も信じられなかった。

「人間の心を切り崩す方法なんて幾らでもある。恐らく前々から彼女の心を崩す為に仕込んでいたんだろう。最近彼女におかしなところは無かったか?」

 言われて颯人はハッとなった。確かにここ最近の奏には様子がおかしな時が度々あった。何をそんなにナーバスになっているのかと首を傾げていたが、あれがジェネシスの魔法使いによる仕込みだとすれば彼女は前々から狙われていたという事になる。

 そして颯人はそれに気付く事が出来なかったと言う訳だ。その事に颯人は気付けば爪が食い込むほど拳を握り締めていた。

「……どうすれば奏を元に戻せる?」
「…………二つほど、方法がある。一つは何をしても良いから、天羽 奏を私の前に連れてくる事だ。私なら天羽 奏に掛けられた洗脳をレジストできる」
「琥珀メイジは治せないのにか?」
「数が多い上に時間が掛かるから後回しにしてるだけだ。何より掛けられた洗脳のレベルが違う。メイジに掛けられた洗脳はじっくり時間を掛けて施された物。対して天羽 奏に掛けられた洗脳は比較的短期間で掛けられたものだ。レジストはしやすい」

 事実、ウィズは細々とだが無力化したメイジの洗脳を解き元に戻していた。少しでもジェネシスの情報を仕入れる為に、だ。
 結果は芳しくなく、洗脳を解かれた者達は大半――と言うか全て――が洗脳されていた間の事を何も覚えていなかった。唯一の例外が透である。

 そしてウィズの言うもう一つの方法が、正に透に関係した事であった。

「もう一つは、天羽 奏自身の心を強く揺さぶる事だ」
「心を揺さぶる?」
「透を思い出せ。あいつは自力で洗脳を解いてみせた。何故そんな事が出来たのかと言えば、それは偏にあいつの雪音 クリスに対する強い想いがあいつ自身の心を強く揺さぶったからだ」
「つまり……奏を精神的に強く刺激してやれば元に戻るかもしれないって事か?」
「端的に言えばそうなる。だが生半可な事では難しいだろうな。確実性を求めるなら私が洗脳を解く事だが……」

 依然としてウィズは完全に復調してはいない。その状態で戦闘に赴くのはかなりの危険を伴った。

「必要ねえよ。俺が何とかしてやる。俺が…………奏を取り戻す」

 誰かは知らないが、奏を自分から引き剥がした事に対しては必ず報いを受けさせてやる。
 颯人はそう心に誓った。




***




 一方、F.I.S.とジェネシス一行は浮上したフロンティアへと上陸。
 構造物内部の施設へと侵入していた。

 内部に侵入し通路を進むのはマリアにナスターシャ教授、切歌にウェル博士とメデューサ、グレムリン、ソーサラーの計7人だ。

 マリアや切歌はフロンティア内部を物珍しそうに見渡しながら歩き、グレムリンが最後尾から一行の様子を楽しそうに眺めている。

 ジェネシスの幹部2人の顔は特に気負った様子も無く、グレムリンに至っては気楽そうだ。先の戦闘で戦力の多くを失ってしまったと言うのにである。

 暫く通路を歩いていると、一行は開けた部屋に入った。

「ここがジェネレータールームです」

 長い年月が経っているからか古ぼけているその部屋の中央には、その存在を主張するように巨大な球体が鎮座していた。
 あれこそがこの巨大な島――に見える巨大船――フロンティアのジェネレーターだと言うのだ。

「なんデスかあれは……」

 ジェネレーターを見て呆然と呟く切歌。誰もが見る中、ウェル博士はそれに近付くとケースからネフィリムの心臓を取り出し笑みを浮かべるとそれを球体に取り付けた。

 その瞬間、球体は輝きを放つと同時に模様を描きだした。
 さらに上部の固定器が持ち上がり、光は輝きを増し、周囲の水晶に光が迸った。

「ネフィリムの心臓が――!?」
「心臓だけとなっても、聖遺物を喰らい、取り込む性質はそのままだなんて……」
「卑しい事この上ないな」
「ぷぷぷ――――!」

 ウェル博士、メデューサ、グレムリンが笑いながらフロンティアのジェネレーターを見上げている。

 一方で構造物の外部でも変化が起こっていた。
 先程まで不毛の大地としか言い様の無いフロンティアの地表は、緑が生い茂り自然豊かな島へと変化していた。
 それはフロンティアが起動した事を示す何よりの証拠。

「――――フロンティアにエネルギーが生き渡ったようですね」

 外の様子はここからでは分からないが、ソーサラーが放った使い魔によって外の様子を知る事となった。

 フロンティアが起動した事を確認すると、ウェル博士はその場を離れて行く。

「さて、僕らはブリッジに向かうとしましょうか。ナスターシャ教授も、制御室にてフロンティアの制御をお願いしますよ」

 ウェル博士はそう言って、メデューサとグレムリンを伴いその場を離れて行く。

 3人を無視して、切歌はジェネレーターの輝きを見つめながら調の言葉を思い出す。

―ドクターのやり方では、弱い人達を救えない―

「そうじゃないデス……フロンティアの力でないと、誰も助けられないデス……調だって助けられないんデス!?」

 自分に言い聞かせるように叫ぶ切歌を、マリアとソーサラーが何とも言えぬ目で見つめていた。

 対してウェル博士は、歩きながら背後の2人に問い掛けた。

「それはそうと、そろそろ話してもらいませんかね?」
「何の事?」
「惚けないでください。あの二課の装者、どうやって引き込んだのですか? と言うか、引き込んでどうするつもりなのです?」
「それはグレムリンに聞け。あいつを……天羽 奏を連れてきたのはこいつだ」

 忌々し気に隣を歩くグレムリンをメデューサが睨む。睨まれたグレムリンはと言うと、突き刺すような視線を受けても尚笑みを崩す事は無かった。

「んふふふふふふ! 何でって? そりゃぁ――――」





 楽しいからに決まってるじゃないか!




 心底楽しそうに笑うグレムリンの笑い声に、メデューサもウェル博士も顔を顰めずにはいられなかった。




***




 その頃、殆どの人が出払ったエアキャリアの操縦室に奏は居た。

 彼女は操縦室にある椅子の一つに腰掛け、虚空をひたすらに見つめていた。

 その姿はまるで抜け殻と言う表現が最も相応しい。彼女をよく知る者であれば信じられない、生気を感じさせない光の無い目。

 何故彼女がここに居るかと言えば、それはグレムリンがここに連れてきたからだ。

 遡る事先程の戦闘時…………

 1人メイジとノイズ相手に奮闘していた奏の前に、グレムリンは姿を現した。クリスと透に襲い掛かる少し前の話だ。
 最初目前に現れたグレムリンに、奏は警戒心を露わにした。

 しかし――――――

『助けたいんだろう? 彼を……』

 その一言が呟かれた瞬間、奏は放心状態となった。両腕をだらりと下げ、光の無い目で虚空を見つめる奏に、グレムリンはそっと近付き耳元で囁く。

『おいで……僕が君を手助けしてあげるよ……』

 グレムリンの囁きに奏はゆっくりと頷いた。それを見てグレムリンは口を三日月形に歪めて嗤う。

『それじゃ、後で迎えに来るから待っててよ。もし君に近付く人が居たら、容赦なく殺していいからさ』

 そうして奏は、不用意に近づいてきた翼に攻撃を加えて倒したのであった。

 その事に対して、奏が後悔している様子は見られない。
 それどころか、今の奏の中に翼は存在しなかった。今の奏が考えている事はただ一つ。

「颯人…………ぜったい……助ける、から…………」

 誰も居ないエアキャリアの操縦室内に、奏の呟きが静かに響くのだった。 
 

 
後書き
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