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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
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G編
  第93話:剣を手折る槍

 
前書き
読んでくださりありがとうございます! 

 
 響と未来が戦い始める。神獣鏡は特性こそシンフォギアに対して特攻とも言える物を持っているが、扱っているのが戦いに関してはド素人も良い所な未来である事に加えて神獣鏡のシンフォギアは接近戦に向いた形状をしていない。
 対する響はバリバリの近接型。

 結果、2人の戦いは果敢に接近戦を挑む響とそれを迎え撃つ未来という構図に落ち着いていた。

「デェェェェェェス!」

 その一方で、颯人は切歌と激しい戦闘を行っていた。大鎌を振り回し攻撃してくる切歌を、颯人はウィザーソードガンで迎え撃つ。
 途中から颯人はウィザーソードガンをコピーで増やし、二刀流にして手数で切歌を圧倒し始めた。長物相手の戦いはソーサラーで慣れている。そして切歌はソーサラーに比べて、甘さが抜けきれていないのか戦い易い。
 二つの要因から颯人は切歌を相手に戦いを優位に進める事が出来ていた。

「何だってそんなに必死になる! お友達は自分達が間違ってるって認めてるんだぞ!」
「何度も言わせるなデス! アタシにはもう時間が無いんデス!?」
「だからそれってどう言う意味だって聞いてんのッ!」

 切歌の事情を知らない颯人にしてみれば、彼女の言い分は支離滅裂で訳が分からない。こんな対応になるのも仕方のない事であった。

 そんな彼に、横合いからメデューサの攻撃が襲い掛かる。

「女の扱いがなっていないなウィザード!」
「んのやろッ!?」

 出し抜けの奇襲を、颯人はギリギリで回避し体勢を立て直す。

 切歌だけならばともかく、メデューサまで加わるとなるとチョイと面倒だ。改めて颯人は、ウィズがデュープの魔法を使わせてくれない事に彼を恨んだ。

「やってやろうじゃねーの!」




***




 その一方で、透とクリスの2人は未だにグレムリン1人を相手に劣勢に立たされていた。

 とにもかくにも、グレムリンの動きが全く読めないのだ。透が懸命にグレムリンに攻撃を仕掛けるが、グレムリンはまるで柳に風とでも言うように透の攻撃をいなし反撃を彼に叩き込む。クリスも必死に援護するのだが、グレムリンには攻撃が通用しない。

 訳の分からないグレムリンの動きに、透とクリスの2人は完全に翻弄されていた。

「どうしたの~、2人共? もっと僕を楽しませてよ?」
「この、変態ヤローが!?」

 模わずクリスが悪態を吐くが、それで状況が良くなるはずもない。息も絶え絶えな2人に、グレムリンが刃で刃を研ぎながら近付いていく。透はクリスを守るように動くが、足取りが覚束ない。今グレムリンに攻撃されては一溜まりも無いだろう。

 それを分かっているグレムリンは、2人を焦らす様に近付き――――

「――――ハハッ!」

 笑い声と共に双剣を構え2人に一気に接近する。透とクリスがそれを迎え撃とうと身構えた。

 その瞬間、横合いから飛んできた青い斬撃がグレムリンの進路を遮った。

「っと!」
「今のはッ!?」

透とクリス、そしてグレムリンが斬撃の飛んできた方を見ると、そこには案の定大剣型のアームドギアを構えた翼が佇んでいた。

「雪音! 北上!」
「先輩!!」

 翼はアームドギアを刀に変形させると、それでグレムリンに斬りかかる。グレムリンは翼の一撃をバックステップで回避し、体勢を立て直す。
 その間に翼は2人を庇う様にグレムリンの前に立ち塞がった。

「こっち来て大丈夫なのかよ!?」
「問題ない。ノイズは粗方片付けたし、立花は颯人さんに任せた。月読は緒川さんが本部へ連れて行ってくれた」

 翼が2人に状況を話している間、グレムリンは手の中で剣を回したりして待っていた。何もせずに待っている事が何とも不気味だ。或いはその程度の時間はくれてやると言う、余裕の表れか。

「こいつはジェネシスの幹部か、2人だけでよく持ち堪えた!」
「気を付けろ先輩。こいつ、なんか変だ!」
「案ずるな。小賢しい手妻など、私には通用しない!」

 言うが早いか翼はグレムリンに斬りかかる。刀を振りかぶって突撃してくる翼を、グレムリンは待ってましたと言わんばかりに迎え撃った。

 ぶつかり合う2人の刃。翼の一太刀をグレムリンが双剣で受け止める。

 そこから翼の怒涛の攻撃がグレムリンを攻める。鋭い剣戟が縦横無尽に放たれ、グレムリンに反撃の隙を与えない。

 先程透と戦っていた時とは異なるグレムリンの対応。単に透がグレムリンと相性が悪く、翼はグレムリンと相性が良いから彼女の方が優勢に見えるのか、それともグレムリンが手を抜いているだけなのか。

 その答えは直ぐに明らかとなった。

「たぁぁぁぁぁッ!!」

 防戦一方となったグレムリンに、強烈な一撃を叩き込もうと前に出る翼。グレムリンもそれに合わせて彼女に向け接近していき――――

「ッ!? 駄目だ先輩ッ!?」

 そのグレムリンの動きが、先程透の攻撃を空振りさせた時の動きと酷似している事に気付いたクリスが翼に向けて警告するが時既に遅し。

 翼の一撃がグレムリンに向け放たれ、グレムリンはそれをまたしても不可解な動きで回避した。確実にグレムリンに直撃する筈だった翼の一太刀は、何故か外れグレムリンに対し大きな隙を見せる事となる。

「なッ!?」

 不可解な現象に言葉を失った翼に、グレムリンの双剣が襲い掛かる。ギリギリで回避する翼だったが、そこから先は完全に攻守逆転しグレムリンが終始翼を圧倒していた。

「ほらほら、どうしたの? あれだけ大口叩いておいてさ!」
「くぅっ!? 何だ、コイツは――!?」
「まただ……何だあの動き――?」

 グレムリンの動きをつぶさに観察していたクリスだが、今し方の攻防は理解できなかった。あの瞬間確かに翼の攻撃はグレムリンを捉えていた筈なのに、翼の攻撃が当たると思った瞬間グレムリンが足を前に踏み出す動きをしておきながら後ろに下がったのだ。まるでよく滑る氷の上で腰を引っ張られた様に、足を前に踏み出す動きをしながら後ろに下がったのにである。

「一撃が回避されるなら、これなら!!」
[逆羅刹]

 翼は甲板に手をつき、逆立ちした状態で両脚のブレードで相手を切り裂く逆羅刹を放った。独楽のように回転して相手を切り裂く必殺技だ。例え一度回避しようと、連続で襲い掛かる刃を前に出る動きをしながら回避し続ける事は難しい。

 だが翼が逆羅刹を放とうと逆立ちした瞬間、彼女の視界に映ったのは上下が反転していないグレムリンの顔だった。

「ばぁっ!」
「ッ!?」

 グレムリンは翼が逆羅刹を放とうとする瞬間、彼女と同様に逆立ちしていたのだ。そして翼が逆羅刹を放ち体を回転させると、それとは逆回転しながら蹴りを放ち逆羅刹を相殺する。

 まるで2人揃ってブレイクダンスで争っているかのような光景だったが、グレムリンは一瞬の隙を突いて体を支えている翼の手を蹴り飛ばした。

「あっ!?」

 バランスを崩し、甲板上に倒れる翼。

 その彼女の巨大な鋏が押え付けた。

「はっ!?」
「じゃ~ね~!」

 鋏の正体はグレムリンが使っていた双剣。鍔の部分で合体させるとそれは巨大な鋏に変化し、グレムリンはその鋏で翼の首を断ち切ろうと腕に力を込める。

 翼が背筋に悪寒を走らせたと同時、グレムリンを透が蹴り飛ばした。何とか体力を回復させた彼は、とにかく翼からグレムリンを引き剥がそうと突撃したのだ。

「ととっ! ふふん!」
「先輩、大丈夫か!?」
「すまない、2人共。助かった」

 グレムリンを引き剥がし、透は翼を助け起こすクリスの隣に並び立つ。これで状況は3対1となった訳だが、グレムリンは全く気にした様子が無い。3人が相手でもまだまだ余裕と言った雰囲気だ。
 悔しいが、ここまでの戦いで彼がそんな余裕を持つのも納得できてしまっていた。

「なるほど、2人が揃っても苦戦する訳だ。得体の知れない奴め」

 今し方の攻防で翼もグレムリンに対する警戒心を抱いた。3人に警戒され、グレムリンは仮面の奥で笑みを浮かべるとピエロの様に双剣をジャグリングしながら近付いていく。

 次は一体何をするつもりなのかと、警戒しながら何時でも動けるように身構える3人。

 その時、何処からか強烈な閃光が海に向かって飛んで行き、着弾地点から更に強い光の柱が立ち上った。そしてその光の柱の下から、巨大な島の様な物が浮き上がってくるのが翼達の目にも見えた。

「あれはっ!?」

 突然の出来事に、次なるジェネシスの攻撃か何かと警戒する翼達。

 その3人を他所に、グレムリンの背後にライドスクレイパーに乗ったメデューサが飛来した。
 ここに来ての幹部の増援に、3人は顔を蒼褪めさせたが次にメデューサの口から出た言葉は意外なものであった。

「撤退するぞ、グレムリン」
「え~? なんで~? これからもっと面白くなるところだったのに~?」
「つべこべ文句を言うな。フロンティアが浮上した今、もうここに居る理由がない」




***




 遡る事数分前――――――

 颯人は切歌とメデューサの2人を同時に相手取っていた。2対1でしかも片方は自分と同等か格上と言う状況。しかし、幸いな事にメデューサと切歌の間には連携しようと言う動きが見られないので、思っていたほど苦労はしていなかった。

「アタシが消える前に、やらなくちゃいけない事があるんデスッ!!」
「調ちゃんに対して? その割にはあの子悲しんでたみたいだけど?」
「それでも! 調に忘れて欲しくないんデス!?」

 切歌は複製した刃を同時に投げ飛ばす遠距離技『切・呪りeッTお』を放ち颯人を攻撃する。颯人はそれをウィザーソードガンで全て撃ち落とすが、その隙にメデューサの接近を許してしまう。

「そらぁッ!」
「ちぃっ!?」

 ライドスクレイパーの一撃を、側転で回避し着地と同時に引き金を引く。メデューサは飛んでくる銃弾を回転させたライドスクレイパーで全て防いだ。

「どうしたウィザード、動きに段々キレが無くなってきているぞ?」
「へっ、言ってろ」

 そう言いながら、颯人はチラリと響と未来の戦いに目を向けた。

――残り時間は大体1分ちょいってとこか。頼むぜ――

 響が戦える残り時間は少ない。その残り少ない時間の中で、響と未来を同時に助けるには未来が放った大技を2人に同時に浴びせる必要があった。
 そうすれば、響の体を侵食しているガングニールの欠片は勿論、未来を縛り付けている神獣鏡のギアも消滅する。

 問題は、タイムリミットが来るまでに未来が大技を使ってくれることだが――――

「やぁぁぁぁぁっ!」
「あぁ、もう!?」

 少しの考え事をしている間に、切歌が大鎌で斬りかかってくる。颯人はそれをウィザーソードガンで受け止めた。

「忘れられない事と、大勢の命を奪う事に何の関係があるって言うのさ?」
「何かを成す為には、力でしかできない事もあるのデス!」
「どうかな? その力で失われる大勢の中に、調ちゃんが入ってないって保障はあるのかい?」
「ッ!?!?」

 颯人の指摘に切歌は目を見開いた。その可能性は盲点だったのだ。調がウェル博士達のやり方に同調できなくなり、離反した今、彼女が犠牲となる可能性はゼロではない。

「じゃあ……じゃあどうすればいいんデスか!? フィーネの魂に塗り潰されて、アタシがアタシじゃなくなっちゃうこんな状態に、アタシはどうすればいいんデスかッ!?」
「フィーネの魂に? 君が?」
「ほほぉ?」

 切歌のカミングアウトに、颯人だけでなくメデューサも動きを止めた。颯人は颯人で、マリアがフィーネの人格を持っていないだろう事は予想していた。
 だが代わりに、切歌が憑代になっていたとは予想外だったのだ。
 しかも、その事を知っている者はF.I.S.にも居ないだろう事はメデューサの反応から予想できた。

 しかしここで新たな疑問が湧く。以前のフィーネとの会話から予想する限り、フィーネによる魂の塗り潰しは殆ど一瞬と言うかあっと言う間の出来事のように思えた。了子がフィーネの存在を後になってから自覚したのが、後遺症による前後の記憶の損失でない限りはその筈だ。
 特に切歌は誰よりもフォニックゲインの近くに居る装者だ。フィーネが覚醒する時間は幾らでもあった。こんな風に、自己の消失を恐れる時間があるとは思えない。

「……本当に君がフィーネの憑代なのか?」
「……どう言う意味デスか?」
「そのままの意味だよ。何をもって君は自分をフィーネの憑代だと――」
〈イエス! キックストライク! アンダスタンドゥ?〉

 切歌に詳しい話を聞こうとした颯人だったが、それをメデューサが遮った。魔力を集束させた飛び蹴りが飛んできたので、颯人は慌てて切歌から距離を取った。

「うぉっ!?」
「面白い話を聞かせてもらった。となると、このままこいつをやらせる訳にはいかないな」
「メデューサ、テメェ――!?」

 忌々し気に唸る颯人だったが、メデューサはそんな彼の事など無視して切歌を下がらせた。

「お前は退け、暁 切歌。ここは私が受け持とう」

 メデューサの提案に反論しようとした切歌だったが、彼女は彼女で思うところがあったのか大人しく引き下がっていく。

 もしかすると後ちょっとで切歌を説得できるかもと言う所でそれを邪魔した、メデューサに対し颯人は怒りを露にする。

「お前ってホント余計な事しかしてくれねぇよなぁ?」
「散々お前らが私達の邪魔をしてくれているんだ。人の事を言えた義理では無いだろう?」

 これ以上舌戦でやりあっても埒が明かない。颯人はメデューサといい加減決着をつけようと気合を入れ直し――――

「こんなの脱いじゃえ! 未来ぅぅぅぅぅっ!!」

 響の絶叫が、彼女と未来の姿と共に一条の光に呑み込まれるのを横目に見た。

「ッ! 来たッ!!」
〈チョーイイネ! スペシャル、サイコー!〉

 待ちに待った瞬間に、颯人はメデューサの事を後回しにして響と未来の安全確保の為に動いた。スペシャルの魔法で背中に翼を生やし、それを使って飛翔し空中で気を失った2人をキャッチする。

 抱き合って気を失っている響と未来だが、共に呼吸をしておりその顔は穏やかであった。2人の顔を見て、颯人も安堵の溜め息を吐く。

「ふぅ~……何とか上手く行ってくれたな。おっちゃん! 作戦成功だ。今から響ちゃんと未来ちゃんを連れてそっちに戻るぜ」
『了解だ! 気を付けてな!』

 颯人は一路仮設本部の潜水艦に向けて飛翔する。

 せり上がるフロンティアを背にしながら――――――




***





「フロンティア?」
「それがF.I.S.が探していた物だと言うのか?」

 グレムリンとメデューサのやり取りに首を傾げ思案する3人の前で、2人の魔法使いは3人に背を向けた。

「それじゃ、帰ろっか」
「命拾いしたなお前ら。だがこの次はこうは行かない。特に裏切り者、お前は首を洗って待っていろ」

 グレムリンとメデューサはその場から撤退していった。

 強敵2人が引き下がった事に、3人が一先ず安堵の溜め息を吐いていると通信で響と未来を収容した事が知らされた。

「立花と小日向が? 無事なのですか!」
『現在医務室で傷の手当と検査を受けていますが、2人とも命に別状は無さそうです』
「良かった……あいつら、無事なんだな――!」

 響と未来に大事が無い事が分かり、3人は肩から荷が下りるような思いだった。まだ騒動は完全に終わっていないが、やはり仲間の無事には安堵せずにはいられない。

『一度戻って来い。翼、ついでだから奏も呼んでくれ。反応はあるが先程からこちらからの通信に応答してくれないんだ。恐らく通信機に何かトラブルがあったのかもしれない』
「分かりました」

 弦十郎の指示に、翼はボロボロの軍艦の上を移動して奏の元へと向かう。

 翼が辿り着いた先で、奏は無数のメイジや塵と化したノイズの中で佇んでいた。

「奏! 良かった、通信に出ないって言うから心配してたわ! 司令から一時後退の指示が出たから、奏も――――」

 話し掛けながら近付いてくる翼を、奏が振り返った。
 この時翼が油断しなければ、奏の異変に気付けていたかもしれない。

 次の瞬間、奏のアームドギアが近付いてくる翼のシンフォギアを切り裂いた。

「――――え?」

 何が起こったか分からず、呆けた声を上げる翼。奏は今し方自分が切り裂いた翼に背を向けると、何処かへと向けて去って行く。

 翼は訳も分からぬまま、襲ってくる痛みにその場に崩れ落ち意識を手放すのだった。 
 

 
後書き
と言う訳で第93話でした。

響と未来の戦いは概ねカットしました。ここは大体原作通りなので。

そしてこの作品ではクリスが裏切り的行動に出ません。透の存在がクリスにとっての精神安定剤で、同時にストッパーでもあるので暴走するような事にはなりませんでした。

その代わりに動くのが奏です。彼女が何故翼に刃を向けたのか?それについては次回明らかになります。

執筆の糧となりますので、感想その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。 
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