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戦姫絶唱シンフォギアGX~騎士と学士と伴装者~

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第2節「新しい生活」

 
前書き
日常パートからライブのシーン。
キャラ増えた分、動かすのが前より大変ですが頑張ってますw

問題は毎日更新がどこまで続けられるか。
本当は記録を壊したくないんだけど、さて……GXも毎日更新なるか?

翼さんとマリアさんのライブシーン、特に地の文の表紙に力を入れてます。
更に、今回はセレナと奏さんも登場!

それでは第2節、お楽しみください!! 

 
翌朝

「クリスちゃーんッ!──ぐわっ!?」

リディアンの校門にて。
クリスに飛びつこうとした響は、クリスの反撃で頭にカバンを叩き付けられていた。

「あたしは年上で、学校では先輩ッ!こいつらの前で示しがつかないだろ?」
「まあまあクリスちゃん、その辺にしてあげてよ」
「フンだ」

純に宥められ、そっぽを向くクリス。
頭を撫でながら立ち上がる響に、翔は手を差し伸べる。

「あいたたた……痛いよ~クリスちゃ~ん」
「そういうとこだぞ、響」
「ええ~。クリスちゃんはクリスちゃんでしょ~?」
「もっぺんぶちかましてやろうか?」
「クリスちゃん、ステイ、ステイ」

響とクリスの戯れと、もはや保護者と化す翔と純。

「もう、響ったら」
「2人とも、朝から元気だね」

もはや定番となった光景を見守る響の親友、小日向未来(こひなたみく)と、翔のクラスメイト、加賀美恭一郎(かがみきょういちろう)

そして2人は、クリスの隣にいた後輩達に目を向ける。

「おはよう。調ちゃん、切歌ちゃんセレナちゃん」
「おはよう、ございます……」
「ごきげんようデースッ!」
「みなさん、おはようございます」

登校してきたのは物静かな黒髪ツインテールの少女、月読調(つくよみしらべ)と、ハイテンションな金髪バッテン印の少女、暁切歌(あかつききりか)
そして大人しそうな顔をした、茶髪ロングの少女、セレナ・カデンツァヴナ・イヴ。

大親友同士の調と切歌は現在、S.O.N.G.が管理しているマンションに二人暮らしで生活している。

響や翔、クリスや純が暮らすマンションからは離れているが、どちらもいわゆる待機寮のようなものだ。少女達の二人暮しに付き纏う心配は、殆ど無用である。

一方、セレナの方はというと、学校に通える程にまでは回復したものの、まだリハビリが完了したわけではない。
そのため、S.O.N.G.の医療施設から通っている状態だ。

だが、主治医のアドルフ博士曰く、今の調子であれば秋までにはリハビリが終わるという診断が出ており、退院出来る日も近いだろう。

セレナ本人も、退院したら調や切歌と同じ部屋に住むのだと意気込んでいるそうだ。

「暑いのに相変わらずね。……あら?」

未来がふと視線を落とすと、なんと二人は手を繋いで登校している。

梅雨が終わり、そろそろ夏日が厳しくなってくるこの時期にしては、スキンシップが過剰だと言えなくもない。

「おやおや、手を繋いでるなんて。暑いのに相変わらずだね」

恭一郎にそう言われ、繋いだ手を上げて見せる切歌。

「いやいや、それがデスね。調の手はちょっとヒンヤリしてるので、ついつい繋ぎたくなるのデスよ」
「……そういう切ちゃんのプニった二の腕も、ヒンヤリしててクセになる……」

そう言って調は手を離すと、切歌の二の腕をぷにっと摘む。

「お二人とも、最近はいつもこんな感じなんですよ~」
「へぇ……」
「流星、お前なぁ」

いつも、というセレナの言葉に反応したのは、翔のクラスメイトである紫髪の双子。その弟の方だ。

何やら羨ましそうに、調の手をまじまじと見つめる大野流星(おおのりゅうせい)
静かに嫉妬している弟を、兄の飛鳥(あすか)は苦笑いしながら横目で見ていた。

「それ、本当なの?……ぷにっ」
「いやーッ!やめてとめてやめてとめてやめてあ~ッ!」

確かめるように、響の二の腕をプニり始める未来。
頬を緩ませながら嬉しそうに悲鳴を上げる響。

その光景を見て──

「──ッ!……そういう事は、家でやれ」

頬を赤らめたクリスのカバンが、再び響に直撃した。

「いいなぁ、立花さん……」
「恭一郎くんも、して欲しい?」
「へっ!?あっ、いや、えっと……!」

未来からの不意打ちに、恭一郎は思いっきり吃る。
周囲の視線が一気に恭一郎へと集まった。

「ほらほら恭一郎よぉ、据え膳食わぬは男の恥だぜ?ここは素直に、正直に『はい』って答えるべきだよn──」
紅介(こうすけ)ぇッ!!」
「うぉああっ!?ちょっ、待てよ恭一郎ッ!締めんな!首は締めんなぐるじぃだろぉぉぉッ!!」

恭一郎を背後からニヤニヤしながら冷やかした赤毛の少年は、穂村紅介(ほむらこうすけ)

悪ノリと冷やかしが大好きな紅介は、今回思いっきり恭一郎の虎の尾を踏んだのである。

「冷やかし方が鬱陶しいんだよ!!観念しろ!!」
「締まる締まる!!ア゛ーッ!ギブ!ギブ!悪かったってえぇぇぇぇッ!!」

笑いと呆れの入り交じる、騒々しい朝。

少年少女の日常は、今日も平和な朝から始まっていた。

ff

「な~~~んでかなぁ~~~」

窓の外を見つめる紅介のクソデカ溜息が、体育館の天井へと消えていく。

「紅介、それさっきから何回目だ」
「だってよぉ!!女子はプールの授業だってのに、なんで男子は体育館でバレーボールなんだよぉぉぉ!!」

床に膝を着き、絶望の叫びを上げる紅介。

飛鳥を始め、その場の全員が呆れた顔でそれを見ていた。

「当たり前だろ……。もう小学生じゃないんだぞ?」
「どうして小学生まではよくて、中学からはダメなんだよ!?」
「そりゃあ……思春期に入るからに決まってるだろう?思春期の学生男女が薄着で水場だなんて……ふっ、不健全だ!」
「何が不健全なんだよ!?言ってみろよ!!」
「……わざわざ言語化しなくちゃ分からないのか?」
「おーおー、恥ずかしいのかよ焼き鳥よぉ?」
「なっ!?そ、そういう訳では……」
「健全とか不健全ってのはな、結局恥じらいを誤魔化す言い訳でしかねぇんだよ!」

反論していた飛鳥が言い淀んだ所で、煽り始める紅介。

「流星はどうだ?気になる女子の着替えくらいは覗きたいよなぁ?」
「……そういうのは、付き合ってからにするだと思う」
「んだよツレねぇな~」

同意を得られず不満そうに口を尖らせる紅介。

って流星お前、今、遠回しに『付き合ってる女子の着替えなら見たい』って答えなかったか?

「恭一郎だって、小日向のスク水見たいだろ!?」
「えっ!?……えっと、それは……その……」
「ん~?見たいよなぁ~?お前も男だもんな~?」

思わず思い浮かべてしまったのか、恭一郎の顔があっという間に真っ赤になり、取り損ねたボールが床を転がっていく。

やれやれ、そろそろ止めるか。

「紅介、あんまり飛鳥や恭一郎の純情を弄ばないでもらえるか?」

すると紅介は案の定、恋人が同級生である俺の方にも目をつけた。

「翔、お前だって見たいんじゃないのか?スク水着た立ばn──」
「そういうの、軽犯罪法と迷惑防止条例で立憲可能だぞ?」
「えっ」
「法律により1年以下の懲役、または100万円以下の罰金が課せられる事になるな。それでもいいのか?」
「ちょっ、ちょっと待てよ!?法律でマジレスするのはズルいだろ!?」
「下賎な事言うからだろ?」

慌てふためく紅介。やれやれ、単純だ。
というか今は一応授業中なんだぞ。バレーのパス連なんてサボりやすい環境だけどさ。

「ほらほら。サボってないで練習しようよ」
「そんなんじゃ紅介、三者面談で怒られるんじゃない?」
「げっ!?もうそんな時期かよ!?」

純と流星からの一言で、紅介が焦りだす。

そうか……そういえばもう、そんな時期なんだな。

「やべぇよ……とーちゃんが来てもかーちゃんが来ても、後でドヤされる……」
「自覚はあるんだな……」
「僕達は母さんが来ると思う」
「僕の所は父さんかな~。2人は?」

震える紅介。呆れる飛鳥と落ち着いた流星。そして恭一郎。

「僕のとこは……父さん忙しいから、母さんかも」
「俺は……今年も春谷さんだな」
「「「「春谷さん?」」」」

純以外の4人からの視線が、一斉に俺の方へと集まる。

あ、そういやこの4人にはまだ、紹介した事なかったな……。

「なあオイ翔、その如何にも美人のお姉さんっぽい名前した人、誰だ?」
「なんて言えばいいんだろ……。うちの家に仕えてる、使用人……みたいな?」
「使用人……つまり、メイドさん的な……?」
「なっ、何ぃ~~~ッ!?」

流星の一言に、紅介が某餅つき芸人みたいな声を上げる。

これ絶対何か勘違いしてるやつだ。

「お前っ……翼さんの弟だから、いい所の長男坊なのは知ってたけどよぉ……本物のメイドさんがついてるだなんて聞いてねぇぞ~!!」
「いやメイドじゃないし。どちらかと言えばボディーガードみたいなもんだぞ?」
「似たようなもんだろぉぉぉ!?俺らパンピーには縁のない存在なんだから!!」
「紅介、何をそんなに騒いでいるのさ?」
「そんなの、会ってみたいからに決まってんだろ!?美人のメイドさん!!リアルで見られる事なんてそうそう無いんだからよ!!」
「出た、紅介の悪い癖」

我に返った恭一郎が、呆れて顔をしかめる。

紅介は中学の頃から美人に目がないんだよな……。お近付きになりたい、とまでは言わないんだが、美人は取り敢えず目に焼き付けたいとの事。

『付き合うとしたら、+4~5は歳上の美人なお姉さんがいい』
『それ以上は恋愛対象というより、目の保養みたいなもの』

とかなんとか、好みのタイプについて議論になった時に言ってた気がする。

「一応言っておくが、春谷さんには既にお相手がいるからな?」
「気にしねーよ。ひと目見られればそれでいいッ!」
「そ、そうか……」

美人を目に焼き付けられればそれでいいんだな……。
その中でも格別なのが、奏さんってわけだ。

まあ、会わせるくらいなら問題は無いか……。

それにしても、父親か……。
俺も姉さんも、学校行事に父さんが来た事は一度もないな……。

政府情報官としての仕事で多忙な父さんは、俺が九皐叔父さんの所に預けられる前からそうだった。

子供心に不満だった事は覚えているが、同時にそれがこの国のため……俺達が平和に暮らしていける世界のためだと、中学に上がる頃には不満だと思うようにはならなくなった。

人に誇れる立派な父だ。でも、もう少し父親らしい所を見せてくれてもいいんじゃないか、と思ってしまうのは我儘だろうか?

10年近く経つけど、姉さんとも未だに仲直り出来そうにないし……。

ホント面倒臭い親子なんだろうな、俺たち。

ff

ポテチ、ポッキー、クッキーにドーナツ、マカロン。テーブルに並べられた大量のお菓子。
2Lペットボトル入りのジュース数本。

そしてソファーに並んで座る顔見知りの面々に、雪音はコップを乗せた盆を手に、片眉をヒクヒクさせながら呟いた。

「……で、どうしてあたしン家なんだ?」
「すみません、こんな時間に大人数で押しかけてしまいました」

響の友達で、お淑やかな金髪セミロングの少女、寺島詩織が頭を下げる。

「ロンドンとの時差は約8時間半ッ!」
「チャリティロックフェスの中継を皆で楽しむには、こうするしかないわけでして……」

一昔前のTVアニメ『電光刑事バン』のロゴTを着たツインテールのアニオタ少女、板場弓美は悪びれる様子もなくソファーの背もたれに背を預け、茶髪ショートの活発そうな少女、安藤創世はクリスに手を合わせていた。

「純くんから聞いてはいたけどな……響、お前の仕業なんだってなぁ!?勝手にあたしの家を集合場所にしてんじゃねぇッ!」
「ご、ごめんってば~!なんか、言ったら怒られそうだったから、いっそ直前まで言わない方がドッキリにもなるかな~って思っちゃったと言いますか~」
「言えよバカッ!あたしはそこまでケチじゃねぇぞ……ったく……」
「クリスちゃん、その辺でいいんじゃないかな……?」
「はぁ~……今度からちゃんと言えよな」

純に宥められ、ひとしきり言いたい事を言い終えた雪音は溜息を吐いた。

「まッ、頼れる先輩ってことでッ!」
「本当に調子がいいな……」
「てへっ♪」
「褒めてないからな~?」

俺に制裁として頭をわしゃわしゃされながら、響は雪音から盆を受け取る。

「それに、やっと自分の夢を追いかけられるようになった翼さんのステージだよッ!」
「皆で応援……しないわけにはいかないよな」

夢に向かって飛び立った姉さんのステージだ。皆の視線がテレビに集まっていく。

「そしてもう一人……」
「……マリア……」
「歌姫のコラボユニット、復活デス……ッ!」
「マリア姉さんの……歌……」

月読、暁、セレナもまた、息を呑んで真っ直ぐに100インチの大画面を見つめる。

「よぉ~し、盛り上がって行くぜぇぇぇぇッ!!フッフゥ~!!」
「紅介、うるさい」

そして、両手にペンライトを握って燃えていた紅介は、流星にShut Upされていた。



チャリティライブ『LIVE GenesiX』。

認定特異災害ノイズをはじめとする、超常脅威による犠牲者の鎮魂と遺族の救済を目的に企画されたチャリティライブイベント。

世界各国より多数のアーティストが参加しており、勿論、メトロミュージックの敏腕プロデューサー、トニー・グレイザーによってイギリスに渡った翼姉さんも登壇している。

また、諸事情あって国連所属のエージェント扱いとなり、”救世の英雄“と謳われているセレナの姉、マリアも参加しており、このライブ限定で姉さんとのコラボユニットを結成するというニュースは全世界を席巻した。

先駆けてリリースしたコラボ楽曲『星天ギャラクシィクロス』も各国チャートの上位にランクインし、 大きな話題となっている。

画面にでかでかと表示された曲名は、勿論話題の新曲だ。
既に何度もループしてるけど、生歌は当然レコーディング版とは違う感動があるものだ。

聴かせてもらうよ、姉さん。
世界に羽ばたいた、姉さんの歌をッ!

ff

「遺伝子レベルの」
「インディペンデント」
「絶望も希望も」
(いだ)いて」
「「足掻け命尽きるまで──♪」」

テムズ川を跨いで建設されたドーム状のステージ。
窪んだ観客席の中心にあるステージには水が張られ、2人は裸足で舞い踊る。

曲に合わせて開放されたスクリーン付きドームの壁から差し込む夕陽に照らされ、逆光の中に佇む世界に轟く歌姫達。

沈む夕陽とロンドン橋。そして翼とマリアが初めてデュエットしたあのライブと対象に、二人を囲うように上がる噴水は、虹彩により光の橋を形作る。

足首まで浸かりながら飛沫を上げ、水上を滑るように躍動。
それはまるで、水の女神が舞い降りたかの如く麗しさ。

「せめて歌おう」

『I Love You!!』

「世界が酷い地獄だとしても」


当然、観客たちの息もピッタリで、何も示し合わさずともコールの声が響き渡る。

水と光を利用した演出の数々が、観客達を魅了していき、そして興奮が最高潮に高まるサビの直前、全ての音が止まり──

「「Stardust!!」」

一瞬の静寂。そして、天井を彩り煌めく星天から、降り注ぐ無数の流星雨。

夕陽が照らすサンセットステージから一転。
星灯りのライトステージへと変わるドーム内に、水面を滑る歌姫達の軌跡が、無限の円環を形作る。

「「そして奇跡は待つモノじゃなくて その手で創るものと……」」
『吠・え・ろ!!』

更にはワイヤーアクションにより、宙を舞う歌姫達。

一瞬でワイヤーを衣装に掛け、素早く、かつ滑らかにパフォーマンスへと移らなければならない早業を、二人は難なくこなして魅せた。

シンフォギア装者としての戦いで鍛えた体幹で、宙での動きもピッタリだ。

飛び回る彼女たちの動きに合わせた噴水が、その軌跡を星屑の瞬きとして輝く。
衣装の腰からたなびくレースも星々の光を受け、まるで星空をドレスに纏っているような美しさを放つ。

「「流した過去の苦みをレクイエムにして──」」

ワイヤーを外すと宙返りしながら華麗に着地。

緻密な計算の元に成立した演出により、ちょうど夜の帳が降りたロンドン橋を背に並び立つ。

「輝けFuture world」
「信じ照らせ」
「「星天ギャラクシィクロス──♪」」

最後に、曲名が示す通り腕を交差(クロス)させる二人。

その頭上で二色の銀河が交じり合い、巻き起こるビッグバン。

星空を切り裂く十字光。星天に浮かんだ交差する銀河(ギャラクシィクロス)

翼とマリア、満天の星の下で羽を広げた至高の歌姫達を、万雷の喝采が讃えていた。

ff

「キャーッ!こんな2人と一緒に友達が世界を救ったなんてッ!まるで、アニメだねッ!」
「う、うん、ホントだよ……」

ペンライトを振り回し、黄色い声を上げる弓美。
二色のペンライトで埋め尽くされた観客席へと向けて、姉さん達は手を振っていた。

「あれ?紅介?」
「うっ……ううっ……」
「紅介、泣いてる……のか……?」

一方、肩を震わせ涙する紅介。
恭一郎と飛鳥が、驚いて肩を叩く。

「どうしたんだ!?いつもなら『やっぱあの二人最高だぜ!いや、最高なのは奏さんなんだけどよ!!この二人も最高なんだよ!!』ってはしゃいでる所じゃないのか!?」
「兄さん、多分理由はそれだよ」
「え?……ああ、奏さんか」
「こ゛こ゛に゛奏さ゛ん゛も゛い゛て゛く゛れ゛た゛ら゛な゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!」
「仕方ないだろ……奏さんも大変なんだから」

姉さんの相棒で、元ガングニールのシンフォギア装者だった天羽奏(あもうかなで)さん。

二年前、ノイズとの戦いで命を落とした彼女だったが……フロンティア事変の中、とある異端技術によって復活を遂げた。

現在はS.O.N.G.の職員として住み込みで働いていて、日夜に渡るトレーニングと、それから蘇生に関する検査の日々を送っている。

最近、世間では死亡扱いとなっている彼女を社会復帰させるために「実はライブで死亡したというのは誤報であり、実際は意識不明の重体で最近まで眠り続けていた」というカバーストーリーと共に、退院が報じられた。

当然ながら、俺や響たち関係者以外には真相を伏せている状態だが、本部で寝泊まりしている事は紅介達にも知られている。

なので、推しドルの奏さんがまだアーティストとして復帰出来ない現状は、紅介にとって辛いのだ。

「奏さ゛ぁ゛ん゛……早く元気になってく゛れ゛よ゛ぉ゛……」
「あー、もしもし奏さん?ライブ見てた?」
「へあッ!?」

腰を抜かして俺の方を凝視する紅介。

「おっ、おおおおおおい翔ッ!お前……その電話の相手って……」
「そうだぞ?」

通話をスピーカーに切り替える。
するとスマホの向こうから、よく知ったハスキーな声が聞こえてきた。

『いや~、見ないうちに翼の歌も上手くなったねぇ』
「奏さんだぁぁぁぁぁ!!」
「紅介、うるさい」

推しドルとの直通電話に大興奮の紅介。
だが、流星に叩かれてちょっと冷静になったのか、正座して静かに耳を傾ける。

『まあ、あたし以外の女と歌ってるのは思わず妬いちゃったけど、それ以上に誇らしいよ』
「この後、姉さんに電話とかするんですか?」
『まあね。翼が誰より一番待ってるのは、多分、あたしからの言葉だろうしさ』
「姉さん、絶対喜びますよ。奏さんが居ないの、少しは寂しがってるはずですから」
『そうだと嬉しいね。それじゃ、あたしは次の翼の出番までゆっくり観たいから、この辺で』

そう言って奏さんは通話を切った。

「どうだ紅介。満足したか?」
「最高……くぅ~ッ!翔、お前と友達でよかったぜ~ッ!」
「大袈裟なやつだなぁ、お前は」

両手を合わせて俺を拝む紅介に苦笑いしながら、画面の方へと目を戻す。

ちょうど、姉さんがマリアさんと共に退場して行くところだった。

「キラキラしてたね、翼さんも、マリアさんも」
「ああ、そうだな。今日、出演したアーティストの中で一番輝いていたさ」

純がジュースの入ったコップを出してきたので、俺も自分のコップを手に取り乾杯する。

何に乾杯したかって?無論、歌いきった姉さんに決まってるとも。

「……でも、月の落下とフロンティアの浮上に関連する事件を収束させるため、マリアは生贄とされてしまったデス」

ポツリとした呟きに振り向くと、暁と月読が俯いていた。

「大人達の体裁を守るためにアイドルを……文字通り偶像を強いられるなんて……」
「ツェルトもマリアに付き添って、その片棒を担ぐ事になって……これじゃ二人が報われないデスよ」

二人が案じているのは、マリアさんの現状だ。
現状のマリアさんは、自由とは程遠い立場にある。

彼女は月読や暁の身の安全を人質に、米国政府との法務取引を強いられたらしい。

今の彼女は、フロンティア事変を終息に導き、世界を救った“救世の英雄”を演じさせられている。
あの日憎んだ汚い大人達に、彼女は今でも縛られている……皮肉な事に。

「……そうじゃありません」

その暗い流れを断ち切ったのは、マリアさんの妹であるセレナだった。

華麗に歌いきった姉さんとマリアさん、二人への感想を交わして盛り上がる板場や紅介達を見ながら、セレナは続ける。

「マリア姉さん達が守っているのはきっと、わたし達が……そして、皆が笑っていられる日常なんだと思います」
「セレナ……」

そう。セレナの言う通りだ。
そのためにあいつは……ツェルトは、マリアさんと共に居ることを選んだ。

月読や暁と一緒に、日常の中で過ごす事も選べたはずだった。
それでも、ツェルトはその道を自ら捨てて今を選び取った。

マリアさんに守られて過ごすのではなく、マリアさんを守り支えながら、共に茨の道を歩く選択。
あいつは今、本当になりたい自分になったんだ。

だったら、俺たちがすべき事は二人を憂う事ではなく──

「……そうデスよねッ!」
「だからこそ、わたし達が二人を応援しないと……ッ!」
「うんッ!」

そうだ。今でも抗い続けている二人を、応援する事だろう。

そういや、緒川さんとツェルトも元気にしているだろうか?
俺も後で、ライブ終わったら電話してみようかな。

ff

その頃、都内某所にて。

月下に舞う一枚の硬貨が、一台のタンクローリーを転倒させた。 
 

 
後書き
やっぱり奏さんとセレナに加えてUFZも動かさないといけないの、かなり大変ですわ()
でも作者が苦しんだ分だけ読者は喜ぶらしいから、この調子で頑張ります。

次回、「奇跡の殺戮者」
お楽しみに!! 
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