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戦姫絶唱シンフォギアGX~騎士と学士と伴装者~

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第3節「奇跡の殺戮者」

 
前書き
今回はツェルト、マリア視点。
剣ちゃん大好きな緑のおねえさん、そして皆大好きオレっ娘錬金術師も登場!

それではお楽しみください!! 

 
『第七区域に大規模な火災発生。救助活動が困難な為、応援要請だッ!』
「はい、すぐ向かいますッ!」

通信機を片手に、勢いよく立ち上がる響。

「人命救助だね?」
「ああ。火災現場だから、早いとこ向かって終わらせるぞ!」

俺と純も、それぞれ自分のブレスを手首に填め、S.O.N.G.のロゴが入ったトランクを手に取った。

「わたしたちも」
「手伝うデースッ!」

と、ここで月読と暁が立ち上がる。
しかし、それは雪音先輩によって即座に却下された。

「2人は留守番だッ!」
「LiNKERもなしに、出動させるわけには行かないからね。部屋の片付け、任せたよ」
「セレナちゃん、2人のことよろしくね!」
「「む~~~ッ!」」

部屋を駆け出していく俺達。

両頬を膨らませて不満をアピールしている2人には悪いが、何かあったらツェルトとマリアさんに顔向け出来ないからな。

今回は俺達先輩に任せてもらうぞ。

ff

「マリィ、お疲れさん」
「ありがとう、ツェルト」

ステージを降壇し、エレベーターで階下へと降りて来たマリィを出迎える。

俺はジョセフ・ツェルトコーン・ルクス。ニックネームはツェルト。
マリィの専属マネージャーにして、共に将来を誓い合った仲だ。

ライブを終えたマリィを、こうして一番に出迎える。何気無い事に思うかもしれないが、俺はこの瞬間だって大事な仕事だと思っている。

このままマリィと談笑しながら控え室に迎えれば、言う事なしの万々歳なんだが……。

「任務、ご苦労様です」
「うげ……」

そうもいかないのが現実だ。

黒服グラサンのメン・イン・ブラックみたいなハゲと丸刈り。この典型的なエージェント達は、アメリカ政府が俺達に付けた監視。

せっかくマリィがまたステージで歌えるようになったのに、こいつらと来たらマリィから一時も目を離さずに威圧してきやがる。

マジでうぜぇ……。本当なら邪魔しに来た瞬間にぶん殴ってやりたい所だ。

「アイドルの監視程ではないわ」
「監視ではなく警護です。世界を守った英雄を狙う輩も、少なくはないので」
「とか言いつつ、いざとなればマリィを盾に口を封じるつもりなんだろ。反吐が出るぜ」
「ツェルト捜査官、口を慎みたまえ」
「へいへい」

あークソ。俺とマリィの貴重な二人っきりの時間をごっそり削りやがって。

つーか、なんで俺までテメーらと同じスーツとグラサン着けなきゃ行けねぇんだよ。どうせ着るなら同じ黒スーツでも緒川さんと同じのが良かったわ。

はぁ……他人の恋路を邪魔したら馬に蹴られるってやつ、日本以外でも適応されねぇかな?

「……ライブの余韻に浸る事も許されないのね」
「空気読めない男は嫌われるぞ?」

……ちくしょう。口元すら微動だにしねぇ。

憎まれ口叩いても反応しないし、職務に対してクソ真面目だからな……。
いつになればこの鬱憤を晴らせるのやら……。

と、マネキンだらけの衣装置き場を通りかかった時だ。

空気の通る音と共に、周囲のマネキンが着ている衣服が目に見えて揺れる。

「風……?」
「──誰かいるのかッ!?」

ハゲと丸刈りを含め、反射的に四方へ向かって構える俺達。

「司法取引と情報操作によって仕立て上げられたフロンティア事変の汚れた英雄。マリア・カデンツァヴナ・イヴ……」
「何者だッ!?」

周囲に響く女の声。

その時。頭上、一段上のマネキン置き場から一体、緑を基調としたフラメンコダンサー風の衣装を着た女の人形が動き出し、真下にいた丸刈りに襲いかかる。

そして、まるで踊るような動きで丸刈りに掴みかかると……なんと、その唇を奪った。

「──うわッ!?──ん、んんんッ!んんんんんん……。………………」

女に唇を奪われた丸刈りは、苦しみの呻きを上げながらもがく。
しかし、その髪の色素は徐々に薄くなり、5秒経つ頃には既に生気を吸われたかのように干からびていた。

「離れろッ!!」

今度はハゲが銃を取りだし、3発続けて発砲する。

しかし、もう遅い。動かなくなった丸刈りを床に投げ出すと、女はスカートを翻した。

「フフフ……」
「がっ……!?」

女がスカートを翻した瞬間、突風が巻き起こり、銃弾は動きを反転させた。

跳ね返された銃弾は、ハゲの眉間と右肩、そして心臓部に命中。ハゲは鮮血を吹き出して倒れた。間違いなく即死だ。

「な……ッ!?」
「吸血鬼か何かか!?それにしちゃ随分ケバいな」
「あら、レディに対して随分な物言いですわね」

一瞬にして、政府直属のエージェント2人を即死させた超常の力を持つ緑の女。

カタカッカン、とリズミカルに足を揃えると、そいつは両眼を爛々と輝かせ、俺達2人に目を向けた。

「ですが……纏うべきシンフォギアを持たぬお前達に、用はない……」

ff

『付近一帯の避難はほぼ完了。だが、そのマンションに、多数の生体反応を確認している』
「取り残された人達か……」

輸送ヘリの中で、テレビ通話にて現場の状況を確認する。

移動中に着替えたので、全員いつでも出られる状態だ。

『防火壁の向こうに閉じ込められているようだ。さらに気になるのは、被害状況が依然4時の方向に拡大していることだ』
「赤猫が暴れていやがるのかッ!?」
「計画的な犯行の可能性は高いね……」

タブレットで現場の地図を確認すると、確かに火の手は団地の一点方向へと広がっている。

ただの事故にしては、意図的なものを感じざるを得ない不自然さだ。

『翔と響くんは救助活動に、クリスくんと純くんは被害状況の確認に当たってもらうッ!』
「了解ッ!」
「了解ですッ!」

ヘリのドアを開き、ペンダントを握る響。
俺もトランクのロックを外すと、中のパーツを展開させ、装着する。

「……まかせたぞ」
「まかされたッ!」

雪音先輩と視線を交わし、力強く頷く響。

「無理しないでよ?」
「そっちこそ」

俺も純と腕を交差させ、互いを激励する。

「行こう、翔くんッ!」
「応ッ!」

そして俺と響は、同時にヘリを飛び降りた。

「──Balwisyall(バルウィッシェエル) Nescell(ネスケル) gungnir(ガングニール) tron(トロン)──」
「転調ッ!コード・生弓矢ッ!」

装者の胸より生じる歌──聖詠を口ずさむ響。
同時に俺も声紋認証により、自らの鎧を起動する。

眩き光に包まれること刹那。
瞬きの後、歌鳴る装束が身を包み、少女の姿は黄の戦姫となる。

シンフォギア・システム。
旧特異災害対策機動部二課、現S.O.N.G.の技術主任である櫻井了子が提唱した『櫻井理論』に基づき、 世界各地に眠る聖遺物の欠片から生み出された“(ファンゲン)(ゲサング)式回天特機装束”の名称。響や姉さん達が纏う対ノイズプロテクターの名前だ。

このいかにも深夜帯アニメに出てきそうなプロテクターは、身に纏う者の感情や想いに共振・共鳴し、旋律を奏でる機構が内蔵されているのが最大の特徴である。

シンフォギアはその旋律に合わせて装者が歌唱することにより、バトルポテンシャルを相乗発揮していくのだ。

一方、俺達『伴装者』が鎧うのは“RN(レゾナンス)式回天特機装束”。元々シンフォギアのプロトタイプとして開発された装備を改良したものである。

本来は『一定値以上の適合率を有する女性』にしか装着できない特性を持つシンフォギアだが、RN式は使用者に適合率や性別を問わない装備として造られた筈だった。

しかし、強靭な精神力によって初めて起動・制御が可能となる条件に加え、起動出来たとしても展開されるのは対ノイズ用のバリアコーティングのみ。

更に、常人の精神力では維持する事すら出来ずに効果が切れ、起動するだけで激しく消耗してしまう等々、多くの欠陥を抱えたあまりにピーキーすぎる特性から実用化は絶望的とされ、倉庫で埃をかぶっていたのだ。

開発者からもガラクタと称されていたRN式だが、とある出来事をきっかけに日の目を見る機会を得る。

使いこなせる資質のある者が見つかり、改良を重ねた今のRN式は、今や装者を支えるに足る実用性を備えた装備へと生まれ変わったのだ。

「一点突破の決意の右手──」

そして、己の纏うシンフォギアの特性に則り、響は歌い始める。

同時に、空中から落下する勢いを足に乗せて屋根を貫き、俺達は炎に包まれた火災現場の中心へと降り立った。

『反応座標までの誘導、開始しますッ!』
「お願いしますッ!」

友里さんのナビゲートに従い、俺と響は炎の廊下を突き進む。
壁の向こうで助けを待つ人々を、救う為に──。

ff

「くッ、強い──ッ!?」
「やはりシンフォギアを持たない者ではこの程度……。歌を聴く意味も必要もありませんわ」
「ふッ!」

縦に、横に、袈裟懸けに。
緑の女が振り回しているのは、女の身の丈半分以上はあろう一振の直剣。

今やシンフォギアを持たず丸腰のマリィは、それらの剣戟を全て躱して跳躍する。

その間に俺は、倒れている丸刈りを担いで物陰へと移動させる。

生気を失った顔をしてはいるが、身体は無傷だ。ハゲと違って助かるかもしれない。
嫌いな奴ではあるが、生きてるのに転がしておくとか寝覚め悪いしなッ!

クソッ!Model-GEEDさえあれば、俺も戦えるのに……。いや、無い物ねだりしてもしょうがない。俺は今、出来ることをするだけだ。

「はああぁーッ!!」

振り下ろされた剣を躱し、その隙を突いて空中から繰り出すアクロバティックな回し蹴り。
マリィの細長く、しなやかな脚が女の後頭部を捉える。直撃(クリーンヒット)だ。

……だが。

女の両眼がギョロリと回った。
それも人間では絶対有り得ない、まるでカジノのスロットのような縦360度の不気味な回転。

「ッ!?」

直後、ぐるりと反転した女は、左手でマリィの脚を掴み、天井へと向けて放り投げる。

「……──しまったッ!?」
「マリィッ!!」

落下するマリィの真下には、天井へと掲げられた女の剣がギラリと光り……このままじゃ串刺しだッ!

(ダメ、避けられない──ッ!)

「マリィーーーーーッ!!」

クソッ!走ってもこの距離じゃ──






「はぁーーーッ!」

その時、聞き覚えのある声と共に滑り込んだ青い影がマリィを抱え、女の剣を逸らして飛んだ。

「翼ッ!?」
「どうしてここにッ!?」

着地した2人の方へと俺は駆け寄る。

窮地に参上したのは、先程までマリィと共に歌っていた日本が世界に誇る歌姫。そして、国連直轄タスクフォースS.O.N.G.に所属するシンフォギア装者……風鳴翼。
蒼き絶刀・天羽々斬のシンフォギアを身に纏う戦士である。

「友の危難を前にして、鞘走らずにいられようかッ!」

ちくしょう、かっけぇなぁ今の言い回し!!
まさに日本のSAMURAIって感じで……いや、彼女に言わせりゃSAKIMORIなんだろうけどさぁ!!

っと、ときめいてる場合じゃないぞ。
肝心の緑の女の方はというと、翼を見ながら再び剣を掲げ、スカートの裾を掴む。

「……待ち焦がれていましたわ」
「貴様は何者だッ!」
「オートスコアラー」
「オートスコアラー……ッ!?」

ようやく名乗った緑の女。
オートスコアラー……どうも個人名では無さそうだ。何かの造語か?

所属を表すものか、それとも役職を表すものか。或いは……この女そのものを指す名称なのか?

疑問は尽きないが、どうやら思案している暇は無さそうだ。

「あなたの歌を聴きに来ましたのよ……」

剣の切っ先を翼へと定め、女は再び斬りかかった。

ff

「避難経路はこちらです!真っ直ぐ進んでください!」

響が救出した住民を誘導し、避難させる。
翔は向かってくる人々の様子を観つつ、周囲を確認する。

本部で藤尭がマンションの建材と設計から強度を計算しているため、幸い崩れる心配はない。

だが、万が一に備えていつでもアームドギアを取り出せるようにしている。現場では常に想定外が起こり得るのだ。

やがて翔は、避難経路を逆走しようとしている女の子を発見した。

素早く駆け寄ると、しゃがんで視線を合わせる。

「戻っちゃダメだ。この先は危ない」
「でもダッくんが!!」
「ダッくん?」
「わたしのワンちゃん!はぐれちゃったの!!」

目に大粒の涙を溜めて、少女は訴える。

少女にとってその飼い犬がどれだけ大切なのかは、火事の中でも助けに戻ろうとするその様子で伝わった。

「……分かった。ダッくんはお兄ちゃんが連れて帰る」
「ホント!?」
「ああ、約束だ。だから先に外で待っててくれるか?」

翔は真っ直ぐに女の子を見つめる。
女の子は翔の真剣な顔を見て、うん、と頷いた。

「いい子だ」

翔は女の子の頭を撫でると、避難経路とは逆の方角、炎の海へと向かって行く。

「藤尭さん、探知機の感度上げてくださいッ!ワンちゃん1匹、取り残されてるそうですッ!」
『えぇッ!?わ、分かったよ。ちょっと待ってなよ』

そして翔は、指示されたポイントへと向けて駆けるのだった。



「クゥ~ン……」

火の海のど真ん中。瓦礫に囲まれ、怯える1匹のミニチュアダックスフンド。

主人とはぐれ、逃げ道を失い、迫る炎熱に刻一刻と弱っていく。

消防隊ですら手を焼く大火災。もはや助けは来ないものと思われていた、その時であった。

「はああああーッ!」

瓦礫の壁を構えた大弓で粉砕し、灰鎧の少年が姿を現した。

「いたッ!こちら翔、要救助者1匹、発見しましたッ!」

少年はダックスフンドを抱き上げると、その場を立ち去ろうとする。

その時、奥の方から爆発音が轟く。

「早いとこ脱出するか……。しっかり掴まってろよ?」

そう言うと、少年は大弓を上へと放る。
瞬間、大弓は変形し、少年の背中へと装着される。

それはまるで、大きな翼のような形状のブースターであった。

「TAKE OFFッ!」

キィィィン……というアイドリング音の直後、少年は拳を頭上に掲げる。

直後、ブースターは火を噴き、少年は勢いよく天井を突き破った。

ドオオオオオオン!!

足元から聞こえて来る爆音。
おそらく、炎がキッチンの可燃物に引火したものと思われるその音は、足元からどんどん遠ざかっていく。

少年は己の拳で次々と天井を貫き、そして最後の天井を突っ切った。

周囲の景色は一転し、一面の赤から黒へと変わる。欠けた月に照らされて、風鳴翔は夜闇に羽ばたいていた。

ふと目を向けると同じように、月に照らされ宙を舞う姿がある。

最愛の少女、立花響が小さな男の子を抱え、己の身体の柔軟性を見せつけるような姿勢で飛んでいるのを見て、翔は思わず笑みを浮かべるのだった。

「どういう飛び方だ、それは」



「ほら、君の大事なお友達だ」
「ダッくん!大丈夫なの!?」
「暑さでぐったりしてるだけだよ。早くお医者さんに見てもらうといい」

翔は抱えて来たダックスフンドを、少女の腕に抱かせる。

少女は愛犬をギュッと抱きしめると、翔の顔を見上げて言った。

「お兄ちゃん、ありがとう!」
「ああ。もうはぐれるんじゃないぞ?」

翔は女の子に手を振りながら、その場を立ち去る。

暫く歩くと、親子が乗り込んだ救急車を見送る響がいた。

「響」
「あっ、翔くんッ!」

振り返った響は、翔と拳をコンッと合わせた。

「お疲れ様ッ!」
「ああ、響もな。あの子、無事でよかったな」
「うん、間に合って良かったよ~」

既に響はギアを解除しており、翔もプロテクターをトランクに戻している。

「後は純と雪音先輩が、赤猫を捕まえてくれれば、任務完了だな」
「そういえば翔くん、赤猫って何?」
「あー、赤猫って言うのはな──」

二人で歩き始めた、その時だった。

ふと見上げた先に、響は人影を見つける。

「翔くん、あれって……」
「ん?……なんだ、子供?」

集合住宅同士を結ぶ渡り廊下。
その手すりの上に立ち、揺れる業火を見つめる小さな後ろ姿。

しかし、不自然なのはその格好だ。

とんがり帽子に膝下まであるローブ。
まるで、西洋の魔女のような服装に身を包んでいる。

あからさまに怪しい。翔は一目でそう感じた。

「わたし、ちょっと行ってくるッ!」
「ッ!おい響ッ!」

しかし、響はその影のシルエットなど気にも留めていないようで、そのまま真っ直ぐ向かって行ってしまう。

「あの格好どう見ても怪しいだろ!?」

こちらの声も耳に届かず突っ走っていく響を追って、翔もまた走り出した。

邂逅の時は、すぐそこまで来ていた。

ff

「ふッ!はあーーーッ!」
「……フフ」

交わされる剣戟が廊下に反響し、ぶつかり合う刃は火花を散らす。

緑の女は余裕の笑みを崩さぬままに、翼と互角の剣技で渡り合っていた。

(この女、何者かは分からないが──強いッ!)

「どうしました?まだ私は満足しておりませんわ。もっと唄ってくださいまし……フフ」
「何が目的かは知らないが、聴きたいというなら存分に聴かせてやろう──戦場に舞う防人の歌をッ!」

翼はもう一本の剣を振り抜き、二刀流で押し切る戦法に出る。

再び、剣と剣が打ち合う音が鳴り渡る。

翼の二刀を一本の剣で容易くいなし、受け止めながら斬り込む女。

だが、翼もその度に二刀を素早く振るい、一切隙を見せずに立ち回る。

やがて翼の一刀が届き、女は体勢を崩す。
その隙を逃さず、続くもう一刀を翼は素早く振り下ろす。

だが、それを躱すべく女は跳躍する。

──これこそが翼の真の狙いであった。

「──勝機ッ!」

二本の剣を柄で繋げ、蒼き焔を纏ったそれらを回転させながら、展開した両脚のブレードによる推力で滑走する。

「風鳴る刃……輪を結び、火翼を以て、斬り候──月よ煌めけッ!」

〈風輪火斬・月煌〉

翼の技を受けて吹っ飛んだ緑の女は積まれた機材へと激突し、煙が上がる。

狭い廊下で大技を放ったため、周辺の機材や搬入物は全て倒れ、壁や柱の一部は切断されていた。

緑の女は確実に生き埋めになっている。

「やりすぎだッ!人を相手に──」

咎めるマリア。
しかし、翼とツェルトの表情は険しかった。

「やりすぎなものか。……手合わせして分かった」
「マリィ、こいつは人じゃない……」
「……あッ!?」

次の瞬間、積み重なった機材を全て吹き飛ばされる。

「こいつは、どうしようもなく……、──バケモノだッ!」

まるで、何事も無かったかのように無傷な緑の女は、両目を再び爛々と光らせ、翼の方へと向かい合った。

「フフ……聞いていたより、ずっとショボイ歌ね。確かにこんなのじゃ、やられてあげる訳にはいきませんわ」

ff

「……………………」

メラメラと音を立て、赤々と燃え盛る炎を前に、少女は夢想する。

全てを失い、全てが始まったあの日の事を。

(……パパ)



『それが神の奇跡でないのなら、人の身に過ぎた、悪魔の知恵だッ!』
『裁きをッ!浄罪の炎でイザークの穢れを清めよッ!』

役人達の怒声が、村人達の怒号が耳朶を打つ。

皆が一様にして悪意を向けているのは他でもない、彼女にとってたった一人の家族。最愛の父親だ。

『パパッ!パパッ!パパッ!!』

役人に押さえられ、遠ざけられながら少女は泣き叫ぶ。

魔女狩りを掲げる使徒達の手により、火刑に処される父の姿に、少女は泣き叫びながら手を伸ばす。

虚しく空を掴む小さな手。
それがなお、少女にじわじわと絶望を刻み込んでいく。

だが、父親はとても穏やかな笑顔で、たった一人の愛娘を見つめ口を開く。

『キャロル……生きて、もっと世界を識るんだ』
『……世界を?』
『それがキャロルの───』



「パパ……。……消えてしまえばいい思い出」

忌々しげに吐き捨てる金髪の少女。しかし、その両目には涙が浮かんでいた。

「そんな所にいたら危ないよッ!」
「……ッ!?」

突然声をかけられ、驚く少女。

声の主を探して視線を落とすと、こちらを見上げる茶髪の少女……立花響が立っていた。

「パパとママとはぐれちゃったのかなッ!?そこは危ないから、お姉ちゃんが行くまで待ってて──」
「──黙れッ!」

慌てて涙を拭うと、少女は右手で円を描く。

瞬間、翡翠色の六角形を集めた幾何学模様の円陣が宙に浮かび、その中心部より竜巻が放たれる。

「うわあああッ!?え、ええ……?」

慌てて飛び退く響。
先程まで自分が立っていた場所を見ると、その場所だけ地面が渦状に抉れていた。

突然の超常現象に困惑する響。

そこへ、インカムからクリスの切羽詰まった声が轟いた。

『敵だッ!敵の襲撃だッ!そっちはどうなってるッ!?』
「敵──?」

改めて、響は少女を見上げる。

翔は既に気付いていたが、渡り廊下の手すりに仁王立ちしている少女の姿は、明らかにただの子供とは思えない服装だ。

否。一般人ではない、どころではない。
何処を歩いても目立つのは確実な時代にそぐわぬ服装で、こんな遅い時間帯から出歩き、あろう事か消火活動中の火災現場のど真ん中に侵入する子供など、居るはずもないのである。

それにようやく思い当たった時、響はようやく理解した。

目の前にいるこの少女こそが、この火事の元凶である事を。

「……キャロル・マールス・ディーンハイムの錬金術が、世界を壊し……『万象黙示録』を完成させる」

キャロルと名乗った少女は右手を天に掲げ、今度は四つ、翡翠の円陣を重ねる。

「世界を……壊す?」
「俺が奇跡を殺すと言っているッ!」

右手を響の方へと向け、狙いを定める。

そして最後に、空いた左手で発生させた紋様……『風』を示す記号を組み込み、完成した魔法陣は八つの竜巻を標的へと解き放った。

「──ッ!?」 
 

 
後書き
翔「なあ、響。流石にアレは気づくだろう……」
響「気付くって、何が?」
翔「あの時のキャロルの格好。あれは一目で見て怪しいと感じるだろ?」
響「いや~、あの時はキャロルちゃんの背丈しか見ていなかったもので~」
キャロル「背丈で判断するなッ!オレはお前よりずっと歳上なんだからなッ!」
翔「次回、騎士と学士と伴装者。第4節『世界を壊す、その前に──』」
響「あと、わたしが知らないだけで、そういうファッションが流行ってるのかな~と……」
キャロル「おい生弓矢」
翔「分かってる……。もう少し緊張感持たせなきゃ……」

キャラクター紹介②
ジョセフ・ツェルトコーン・ルクス(イメージCV:西川貴教)
年齢:22歳/誕生日:7月8日/血液型:B
身長:185cm/体重:75.2kg
趣味:特撮鑑賞
好きな物:アメリカンロック、アメコミヒーロー、肉料理/嫌いなもの:態度がデカいやつ、ウェル博士
概要:RN式『エンキドゥ』の伴装者。褐色肌で灰髪赤眼、右腕が義手の青年。元レセプターチルドレンであり、マリアのマネージャーを務めている。真面目で仕事熱心な反面、口が巧く、マリアも口では彼に勝てないほど。

義手型の新型RN式、Model-GEEDを使用し、アメコミヒーローを彷彿とさせる多様な戦法を得意としている。

かつてはセレナを救えなかった負い目から、迷走するマリアの行動を否定出来なかったが、フロンティア事変を経て精神的に成長。かなり遠慮がなくなり、距離も縮まっている。
現在は、マリアと共に国連のエージェントとして活動。「どうせ黒服になるならSHIELDがよかった」と口を尖らせていたとか。 
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