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リュカ伝の外伝

作者:あちゃ
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天使とラブソングを……?(第15幕)

 
前書き
フレイの闇が開花するかもしれない瞬間。 

 
(サンタローズ)
フレイSIDE

まさか私が他人様の前で歌う事になるとは予想もしてなかった……
でもお母さんの為って思いもあるし、お父さんも凄く褒めてくれるし、以外と歌うって楽しいし、悪くないと思ってる。でもお姉ちゃんが歌う度に『上手かったでしょ? 私、頑張ってるでしょ?』って感じで、お父さん(プーサン)に擦り寄っていくのが苛ついた。

まぁ兎も角……
歌う事の楽しさを見出せた良い経験ではある。
……が、やっぱり本番当日ともなると緊張してしまう。
聖歌隊の皆(お姉ちゃんを除く)も、一様に緊張の面持ちだ。

でもお父さん(プーサン)が爽やかな笑顔で『たった2週間足らずで、この出来は凄い事です。教会を建て直す算段は既に打ってあるから、失敗を恐れず練習してきた事を出し切って下さい』と言うと、皆(お姉ちゃんを除く。元から緊張してないから)の顔に笑顔が戻った。

因みに皆(私は除く)には直前まで知らされてなかったけど、プーサンの打った算段とは“ラインハット王家ご臨席”だ。
知らされた皆に、また緊張が走ったのは言うまでも無い。
まぁそれもプーサンの笑顔で落ち着いたけど。

私が知ってたのは、ヘンリー様に何時もの通信機を使って直接交渉(と言う名の脅し)をしてる所を目撃してしまったからだ。
丁度一週間前だったのだが、その遣り取りが凄かった……

『おいヘッポコ。来週の聖歌隊初お披露目に王家を臨席させろ!』
『ヘッポコって呼ぶな! ……まぁ(いず)れはそうするつもりだったし、こちらとしては初っぱなでも構わないぞ』

『あぁ……言葉が足りなかったな。お前等の隣席なんか如何(どう)でもいいんだよ! デールに臨席させろって話だ』
『いやまぁ……話はしてみるが、アイツが城から出るか如何(どう)か……解ってるだろ、お前にも』

『解ってねーのはお前だHH(ヘッポコ・ヘンリー)! 話を持ちかけろって言ってるんじゃねー! 無理矢理にでも連れてこいって言ってんだ』
『お前なぁ……そんな事、出来る訳ないだろ!』

『出来る出来ないじゃねーって言ってんだよ。連れてこいって言ってんだ! お前の説得で連れてこれないのなら、僕が行って幼少期のトラウマを抉る様な説得をするぞ!』
『ちょ……やめろ! 解った、何とか連れて行くから』

お父さんが“トラウマを抉る”と言うからには、生半可じゃ無い抉り方をするのだろう。
それが解るヘンリー陛下も慌ててる。
ヘンリー陛下の慌てぶりは兎も角……こんな遣り取りを目撃してしまったので、私だけが王家ご臨席を知っていたのだ。

さて……デール陛下のご臨席に、何故こんな脅しが必要なのかというと、この国では“引き籠もり王”と言う名で有名だからだ。
下手すると外国でも知られてるかも……

と言うのも、デール陛下は外国へは勿論、国内ですら人前に出ようとせず、城から出る事すら無いそうだ。
しかも城で催されるパーティー等でも、最初に王様として挨拶をしたら、10分程度会場に居るだけで、直ぐに自室に帰ってしまうそうだ。

マーサ様が言うには『最友好国がグランバニアで、その国の国王の相手をしたくないのでしょう……すっごく厄介だから』との事だ(笑)
納得できてしまうから悲しい。

勿論本当の理由がある。
デール陛下は幼少の頃に巻き起こったラインハット動乱に負い目を感じている……との事だ。
コレはお母さんから聞いたのだが……

ラインハット王国は二王体勢を敷いているが、正式にはデール陛下が正王で、ヘンリー陛下が副王となり、お父さんの治めるグランバニアで例えると、王様と宰相みたいな感じらしい。ちょっとニュアンスが違うかもとは言ってたけど。

その為、正式な王位継承権はデール陛下の血筋になるのだけど、デール陛下は自分が王様で在る事さえ間違ってると思い込んでおり、王位継承権順位を正規(デール陛下視点)に戻す為、結婚は勿論……恋人も作らず浮いた話一つさせない為に他人との接触を極限まで避けてるのだ。

そんな訳で、明日にはデール陛下がご臨席になるほどの聖歌隊として、我がサンタローズ聖歌隊はラインハット内で有名になる。これで100人程度しか人口が居ない小さな村でも、外から客が押し寄せてくる事だろう。正直お父さんの手腕は凄いと思う……

さて……王家の方々(特にデール陛下)をお迎えするにあたり、教会前の花壇の手入れをしてると、大聖堂で音響の確認などをしてたお父さん達が出てきた。“達”と言うのは、お父さんの他に今回の計画の音楽面を大きくサポートしてくれたアイリーンさんと、今回の聖歌隊の正式デビューを見学したいと今日だけお手伝いをしてくれたピエッサさんだ。

私はピエッサさんとお会いするのは初めてなのだが、あの“マリピエ(マリー&ピエッサ)”のピエッサさんと聞いて、思わず深く頭を下げて謝ってしまった……『腹違いとは言え姉妹が多大なるご迷惑をお掛けして申し訳ございません』と……

しかしピエッサさんは『そ、そんな……頭を上げて! わ、私も凄く貴重な体験と知識を得させてもらってるから……』と“迷惑”に関しては否定しないけど、アイツの存在を肯定的に表現してくれた。凄く良い人だと言うことが判る。先日、ウルフさんが『彼女(ピエッサさん)にはこれ以上迷惑を掛けたくない』と言っていた意味が分かる。

そんなお三方が教会から出てきたところで、この村の住人ではないある人物が近付いてきた。
その人物に視線を向けて確認すると、私は思わず顰めっ面になるのを感じた。
何故なら……

「何でお前がここ(サンタローズ)に居んだ、ヒゲメガネ!?」
とプーサンの言葉。そう……ここの住民ではないこの人物はヒゲメガネさん……またの名をプサンさん。
……で本名はマスタードラゴンさんだ。

「ずいぶんな言い様ですね相変わらず。まぁ何時ものことなので気にしませんが、今日私がここに来たのは、ある噂を聞いたからです」
「噂? あぁ……あの噂か。なら安心しろ……お前がマヌケだって事は噂どころじゃなく真実だから。だから今日から“マヌケードラゴン”に改名しろマヌケ」

酷い言い様だが私も同じ思いだ。と言うのも、私はこの人が嫌いだからだ。
この人は異世界に飛ばされたティミーさんの命より、この世界にある伝説の武器の心配をしたんです! 信じられますか!? この世界の神とか名乗ってるクセに、命より武器を優先したんですよ!

「あの……どなた様です?」
幸運なことに今まで関わり合うことのなかったアイリーンさんが、同じ疑問を持ってるピエッサさんの分まで小声で私に尋ねてきた。

「あぁ……こちらの方は、この世界を創造だけして放置してそこら畏に不具合を起こさせてる、自称神と名乗るマヌケードラゴン様です」
そう聞いて畏まる二人……そんな必要無いのに。

「だ、誰がマヌケですか!?」
「トロッコに乗ってウッカリ20年間回り続けたお前だマヌケ」
何、そのエピソード? 詳しく聞きたいわ。

「そ、その事はもう忘れて下さい!」
「都合良いこと言ってんな!」
全くだ……自分の都合だけ言うな。

「きょ、今日は……貴方が私を称える歌を披露すると聞いて、それを聴きに来たんです」
「そんな歌、作った憶えはない。って言うか、称える箇所のない奴を称える歌なんて作れる訳ねーだろ」

「そ、そんなこと言って……神を称える歌を作ったんでしょ?」
「“神”をな。お前じゃなくて神様な。異世界の貧乳女神も違うぞ。我々のいう神ってのは、なんかこう……フワッと神々しい何かな! お前みたいに何もしない奴じゃなくて、人々に希望を与えてる様な何かだ」

「私だって神なんですよ!」
「お前……息子(ティミー)を見捨てようとした事を僕が知らないと思ってんだろ」
あれ……何でその事をお父さんが知ってんの?

「だ、誰から聞いたんですか!?」
慌てたマヌケードラゴンさんは私に視線を向けた。
だから思わず睨み返した。

「僕が居なかった間のグランバニアの事は、関わった皆が報告してくれてるんだよ。まぁティミー見捨て事件の報告はリュリュがしてくれたがね」
ナイスお姉ちゃん。少し見直したわ。

「ア、アレには……その……色々と事情が……」
「だろうな。こっちにもお前をマヌケ扱いする事情があるんだよ」
そういう訳だから大人しくマヌケードラゴンに改名しなさいよ。

「まぁいい。お前を称える歌じゃないけど、聴きたいのならミサに参加していけばいい。“枯れ木も山の賑わい”と言って、お前でも客が居ないより良いからな。まぁサクラはラインハット王家ってのを仕込んであるけどね」
流石にサクラ扱いは王家の方々に申し訳ないのでは?

「……………」
グゥの音も出ないマヌケードラゴンさんは、黙って教会へと入っていった。
確かにもうそろそろミサ開始の時間だ。

王家の方々の控え室代わりにしてるマーサ様のお屋敷に視線を移すと、お母さんの誘導で教会へと向かってくる一団が目に入る。
お父さんに目を向けると、優しく微笑んで頭を撫でてくれた。

よし……私も頑張ろう。

フレイSIDE END



 
 

 
後書き
マスタードラゴンと
マヌケードラゴンは
文字にして並べると、
何となく似ている事に
喜びを感じております。 
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