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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Saga22-H最終侵攻~Battle of the north. another side 2~

†††Sideアインハルト†††

今ではもう見ることのなくなったクラウスの記憶の中で、卑怯にも背後からの奇襲でクラウスを殺害した元イリュリアの騎士団総長グレゴールと、元女王テウタのクローンであるキュンナさんが襲撃してきました。が、なんと言いますか、ヴィヴィオさんとフォルセティさんが告白をし合うという、聞いているこちらが恥ずかしくなるような状況が起きまして・・・。私にとって大切な友であり好敵手でもあるヴィヴィオさんが、同じように大切なフォルセティさんのことを想っていたのは以前より聞いていたので、2人が結ばれるのは嬉しいです。

(ですが、なんでしょう、この胸の内に生まれたモヤモヤは・・・?)

胸の奥がチクリと痛む妙な感覚に戸惑う。頭の中に浮かぶクエスチョンマークに戸惑っていると、コロナさんもフォルセティさんのことが好きだったということを思い出し、この胸の痛みは友人の失恋を知ったことで生まれたのでしょうか?と、結論に至る・・・。

「聖王と魔神の色恋など、虫唾が走る・・・! それと覇王! お前たちの幸せなど認めない! お前たちが邪魔さえしなければ、イリュリアは勝利し、レーベンヴェルトの再興は叶っていた!」

ヴィヴィオさんとフォルセティさんの間で桃色な空気が満ちて、それをどこか妙な気持ちで見ている私に向かって、そう怒鳴ったキュンナさんが苛立たし気に歯噛みし、銀色に光り輝くベルカ魔法陣を足元に展開しました。

「もう捕らえるつもりはないぞ? お前たちは今日ここで、確実に仕留める。イリュリア騎士団総長、グレゴール・ベッケンバウワー」

「・・・イリュリア王家第38代女王、キュンナ・フリーディッヒローゼンバッハ・フォン・レーベンヴェルト」

騎士らしく名乗りを上げ、赤紫色の魔力を四肢に付加したグレゴールを呆れたように横目で見るキュンナさんも名乗りを上げました。

「では私から。元ガレア国女王にしてフライハイト家末子、イクスヴェリア・フライハイト」

「セインテストが一にして八神家末子、八神フォルセティ」

「元シュトゥラ・イングヴァルト王家の末裔、アインハルト・ストラトス」

「え、えっと、高町ヴィヴィオ! えー・・・っと、聖王オリヴィエの・・・聖王家の・・・ううん、エースオブエース高町なのはと、執務管フェイト・T・テスタロッサの娘! です!」

「はっはっは! 戦の前の名乗りはやはり心が躍る! よい! イリュリアと対イリュリア連合の最終戦といこうではないか!」

そう言って先に仕掛けてきたのはグレゴールでした。2mほどの巨体から繰り出される大きな拳は、私とヴィヴィオさんを護るように立つフォルセティさんに向かって繰り出されました。直接狙われたのは私ではないというのに、その迫力は凄まじいです。

(大きな手。それに乗せられている魔力は私以上。そして何より、私たちを害そうとする殺意が込められている・・・!)

イクスさんの強心魔法が無ければ、足が竦んでしまって動きを鈍らせていたかもしれません。ですが、私は独りではありませんし、フォルセティさんの言っていたように、ヴィヴィオさんを自由にするための戦いとなれば否応なく戦意が満ちます。

「ヴィヴィオとアインハルトさんは一旦下がって!」

――コード・レフレクスィオーン――

フォルセティさんの2挺の“エマナティオ”の銃口より放たれた魔力弾が、グレゴールの右直打を迎撃しました。すると、グレゴールの拳は大きく弾かれ、拳を纏っていた魔力が吹き飛び、太い五指の節々から出血しました。

「むっ・・・!? ふんっ!」

次は魔力を付加することなく普通の膂力に任せた左廻打を繰り出したグレゴールでしたが、フォルセティさんの放った魔力弾の迎撃を受けると同時、先ほどと同じように出血しながら弾かれました。

「イクス!」

「はいっ! 猛撃の鎖牢!」

イクスさんの両手の人差し指、中指、薬指にはめられた計6つの指輪の小さなクリスタルが輝き、グレゴールの周囲に茜色のベルカ魔法陣が6枚と展開され、ミッドチルダ式におけるチェーンバインドが1枚の魔法陣より5本と出現。計30本の鎖がグレゴールを滅多打ちにし始めました。

『ヴィヴィオ、アインハルトさん! まずはキュンナから墜とそう! グレゴールはそれまで僕とイクスで足止する!』

『キュンナには夢影というスキルがありますから、本体を拘束しても分身体がどうにかするでしょう。ならば、拘束しやすいグレゴールを押さえつつキュンナを止める方が、難易度は優しいかと』

『判った!』『判りました!』

フォルセティさんとイクスさんの提案を受け入れ、私とヴィヴィオさんは即座にキュンナさんへと向かいます。キュンナさんは「今度こそ、私たちが勝つ!」と声を上げ、銀色の魔力で大鎌を生成しました。幾多の試合の中でも長柄デバイスを武器とする競技者は何人もいましたから、対応は難しくはないです。が、魔力ですべてが生成されているというところが厄介です。

(どんな効果が付与されているか判らないのがまた・・・)

ルシルさんの魔力槍などがその最たるものでした。拳を交えているところに爆破されたり、形を変えられて空振りを誘発させられたりと、その他にもいやらしい効果を発揮してこちらを翻弄してきたので、キュンナさんの鎌も似たようなことをしてくる、と考えておかないと足元を掬われそうです。

「かつてのテウタ(わたし)が果たせなかった宿願を今日! キュンナ(わたし)が果たします!!」

『イクスは拘束のみに注力を。ヴィヴィオ、アインハルトさん。2人にはブースト魔法でかける!』

――フェアシュタルクング・クーゲル――

振りかぶられる鎌を紙一重で回避するようなことをせず、余裕のある回避行動を取った私とヴィヴィオさんの背中に撃ち込まれたフォルセティさんの魔力弾。私の魔力量が一時的に増大されます。実際に使ったことはないですが、カートリッジシステムと同様の効果ですね。

(こういう襲撃される日が来るかもしれないと、ルシルさんが亡くなる以前にフォルセティさんと一緒に鍛錬を積んでいてよかった)

自分の魔力に他者の魔力が付与されることで魔法発動時に効果に加減を間違えてしまうことは、練習の時ならいざ知らず実戦、しかも今のように命をやり取りしてしまうような状況では致命的です。そうならないよう私とヴィヴィオさんとイクスさんは、フォルセティさんから受けることの出来るいくつもの強化魔法を受け、なおかつ自身の戦技が狂うことなく安定して出せる鍛錬を積んできた。

(自分ひとりでは至れない極地。ですが、いずれは・・・!)

羽根のように軽くなったこの体でなら、キュンナさんの振るわれ続ける大鎌を躱すことが余裕で出来る。同様に大鎌を躱し続け、攻勢に出る機会を図るヴィヴィオさんと目配せをし、ヴィヴィオさんより防御力のある私から仕掛けることを、口頭でもなく念話でもない目線のみで伝える。ヴィヴィオさんはスッと僅かに後退してくれました。

(言葉を交わさずとも意思疎通が出来る。やはりヴィヴィオさんはすごいです!)

先ほどまであった胸の内で渦巻いていたモヤモヤは綺麗さっぱりと無くなり、それ以上に温かさが生まれました。その温かさを力に乗せ、「覇王・・・!」の技を繰り出すために、振り払われた大鎌を身を屈めることで躱しつつ上半身を前に傾倒。その際に踏み出した左足より回転の力を生み出し、上半身を跳ね上げさせつつ練り上げた力を拳に乗せて繰り出すのは・・・

「断っ、空っ、拳!!」

――夢影――

覇王流の基礎、断空拳による右拳廻打。狙うはキュンナさんの下あご。衝撃を加えての昏倒を狙う。私の一撃は見事キュンナさんの下あごを横から打ち抜き、大きくよろけさせることが出来たのですが、体勢を崩したキュンナさんの背後には別のキュンナさんが立っていました。私が殴り飛ばしたキュンナさんは大鎌を持っていないので分身体でしょう。後方に現れた大鎌を持つキュンナさんはすでに攻撃を、銀色の魔力を纏った人差し指と中指を私の目に向かって突き出してきていました。

――コード・レフレクスィオーン――

私が防御に入るより早く間に割って入ったのは1発の蒼い魔力弾。キュンナさんの目潰し攻撃の威力が、フォルセティさんの放った魔力弾によって完全に反射され、爪を割り、指を折りました。キュンナさんは「忌々しいですね・・・!」と、折れた指を庇いながら片手で大鎌を大振りに振り払って来ました。

――噴流の鎖槌――

(懐に入っている覇王流を相手に大振り・・・)

私が先ほど殴り飛ばした分身体はイクスさんの魔法の1つ、対象の足元に展開された魔法陣より噴出する複数本の魔力鎖の直撃を受けて空に打ち上げられています。彼女からの攻撃はとりあえず心配はないはず。ただ、分身体は最大で10体と伺っていますから、キュンナさんの反撃には注意しなければ。

「せぇぇぇい!」

――アクセルスマッシュ――

大鎌の柄に向かってヴィヴィオさんの右拳昇打が繰り出され、大鎌を持っている右腕が強制的に打ち上げられました。ほぼ同時に私は左肘による直打をキュンナさんの鳩尾に打ち込み、そこから繋げる右拳昇打を打ち込む覇王流、「昇月!」で追撃します。

「っぐ!」

「(入った! このまま追撃を・・・!)崩天輪!」

昇打を受けて体を浮かせたキュンナさんへと背面での体当たりを行う。咄嗟に立てた柄を大鎌を盾にすることで直撃を免れたキュンナさんでしたが、大鎌は思いのほか容易く砕かれ、衝撃を殺せずにその体を遠くに弾き飛ばされました。そんなキュンナさんの後方にはヴィヴィオさんが先回りをしており、彼女の背中へとバチバチと放電する拳打、「スパークスプラッシュ!」を繰り出しました。

――夢影――

「っ!」

キュンナさんの分身体が生み出されるその瞬間を見た。ヴィヴィオさんのお宅で観た映画に登場した幽体離脱というものにそっくりで、キュンナさんの背中から引き剥がされるような形で出現した分身体が、ヴィヴィオさんの一撃を背中で受けました。そして私が弾き飛ばしたキュンナさんの背中を押し、技後で構え直していない私に彼女を最接近させました。

「お返し、です!」

――夢影・玖の打ち方・額壊――

狂気に満ちた表情を浮かべるキュンナさんが、体勢を立て直せないよう私の左肩を力強く掴んできました。そして首から上だけの分身頭部を出現させ、勢いよく頭突きをしてきました。ですが、この悪い体勢の中でも首だけは動かせる。

「フッ・・・!」

――鋼体の型・顕山――

分身頭部による頭突きに対してこちらも頭突きで対応する。衝撃は凄まじいですが、その威力は確実に軽減できた。私と頭突きを打ち合った分身頭部が消失すると同時、2発目の頭突きが迫る。鋼体の型は基本的に間を置かずに二連続では使えないので、掴まれている左肩を軸に右回りに旋回しつつ腰を下げ、キュンナさんの頭突きや右手から逃れる。

「はあああああ!」

「ぬ゛ぅ・・・!」

旋回の勢いを載せた右肘打をキュンナさんの右わき腹へと打ち込む。体勢をしっかりと整えるために追撃はせずに距離を取る。ヴィヴィオさんも同様にキュンナさんから距離を開けるのを見、私は状況を確認する。キュンナさんと分身体が1体。イクスさんの攻撃を受けていた分身体はすでに消失しており、フォルセティさんとイクスさんはグレゴールの拘束を続けています。

「思っていた以上に強くなって・・・。グレゴール! いつまで遊ばれているのですか!? さっさと拘束から逃れてください!」

「申し訳ありませぬ陛下。フォルセティのバインド弾が、イクスヴェリア王のものとは違うものらしく。魔法の使えなくなった我の膂力では引き千切るのは難しいようです」

「セインテスト・・・! やはりあなたから討つべきなのですね!」

私とヴィヴィオさんをそっちのけで2人のキュンナさんがフォルセティさんへと向かって駆け出したので、ヴィヴィオさんが「ジェットステップ!」で追従します。ヴィヴィオさんに追い付かれそうになったところで、1人のキュンナさんが急停止からの後背右脚直打を繰り出しました。円を描く脚廻打とは違い直線的に突き出される直打ですから、その速度は恐ろしく速い。ですがヴィヴィオさんの全てを見切る神眼と、卓逸したカウンタースタイルの前では意味を成さない。

「でぇぇぇぇい!!」

――アクセルスマッシュW――

キュンナさんの蹴打を半身になることで躱したヴィヴィオさんが繰り出すのは、高速で打ち込む拳打2連撃で、キュンナさんの右わき腹と右頬を正確に打ち抜きました。苦悶の声すらも上げることが出来ず、キュンナさんが前にも後ろにも倒れず、すとんと真っ直ぐに膝から崩れ落ちて消失。本物のキュンナさんですが、すでにフォルセティさんと対峙しています。

――夢影・参の打ち方・墜拳――

キュンナさんが両腕を振り上げると同時に肘を軸に前腕部だけの分身腕が現れ、小指側の面による打撃――指曲槌打を繰り出しました。それを拒むのはフォルセティさんの周囲をくるくると回っていた4つの魔力球の内の1つで、キュンナさんの接近と同時に彼女の方へと向かい、攻撃される直前に小型シールドを張りました。
シールドに分身腕による指曲槌打が打ち込まれるとすぐに分身腕は消失するのですが、打ち込まれる直前には新たな分身腕が出現していて、即座に指曲槌打を打ち込み、そして消失。それを高速で繰り返されること5回。最後はキュンナさん自身の本腕での指曲槌打でしたが、シールドは一切弱まることなく防ぎ切りました。

(コード・シュッツァークーゲル。固定砲台に徹する際のフォルセティさんを護る4つの鉄壁)

他者からは害されず、自身は一方的に相手を撃ち、そして負かす、フォルセティさんの必勝法。反射球とは違い防御するだけのものなので相手にダメージは入りませんが、フォルセティさんが攻勢に出る時間は稼げます。右手に持つ“エマナティオ”の銃口をキュンナさんに向け、「フォイア!」と引き金を引きました。

――コード・カノーネ――

――夢影――

発射されるのは直射砲撃。キュンナさんは体の前から分身体を出現させて砲撃の盾とし、自身は横に跳ぶことで砲撃と、砲撃に呑まれた分身体から逃れました。そんなキュンナさんに私とヴィヴィオさんは攻撃を仕掛けます。

「リボルバー・スパイク!」

「T.C.に弱体化させられていなければ、こんな・・・!」

――夢影・弐の打ち方・連拳――

ヴィヴィオさんの打ち下ろしの右脚廻打を、何かを呟いたキュンナさんは左の分身腕と本腕による裏拳の連打によって迎撃をし、ヴィヴィオさんを弾き返しました。しかし体勢は崩れたので、私も間髪入れずに「覇王流・・・!」の追撃を始める。

「空旋迅!」

キュンナさんに向かって跳び上がりながらの後背右脚廻打を打ち込む。キュンナさんは掲げた右腕で防御しましたが、落下に回転力を加えた踵落としを完全には防ぐことは出来ず、右腕は私の蹴打の威力に負け打ち下ろされました。そこに足の甲を側頭部に打ち込む左脚廻打による追撃。分身体を出すよりも先にキュンナさんを捉えました。

「かはっ・・・!」

蹴り飛ばされたキュンナさんは地面をゴロゴロと転がり、四肢を突いてその勢いを抑えました。意識を完全に刈り取れるほどの力を込めたのですがキュンナさんは今なお意識を保ち、立とうとしています。試合であれば相手がダウンしたら止められますし、相手が続行可能を示すファイティングポーズを取るまでは追撃は出来ません。ですがキュンナさんは競技者ではなく、子どもである私たちに殺意を向け、襲ってくる犯罪者です。

(完全に意識を飛ばすしかありません!)

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

――我が肉体よ、内に宿りし獣を目覚めさせよ――

そのためにキュンナさんへ接近しようとしたところで、グレゴールが雄叫びを上げ、フォルセティさんのバインドから逃れようともがき始めました。さらにその体が変異を開始。黄金の毛並みを有する巨大な狼と変わっていくのですが、「むぉぉ・・・!」と苦悶の声を漏らします。何故ならフォルセティさんのバインドを引き千切ることが出来ず、巨体化することによってバインドが自身の肉体を傷つけるからです。

「今すぐキメラ化をやめるんだ! そのバインドを生み出してるのは、父さんが今日の日のために遺してくれたカートリッジの魔力だ! ただの魔法じゃない、魔術によるバインド! そのまま大きくなればバインドで体が断ち切れるよ!?」

グレゴールを殺害してしまうかもしれないという焦りからフォルセティさんが叫びますが、狼の額に出現したグレゴールの顔は脂汗を掻き、苦悶の表情を浮かべながらもキメラ化をやめません。バインドがさらに体を締め上げることで肉が裂けた場所より出血して、私は「・・・!」吐き気を催してしまう。

『ヴィヴィオ、イクス、アインハルトさん! バインドを一旦解除するから、グレゴールの動きに注意して!』

『判りました!』『うん!』『はい!』

フォルセティさんの判断には賛成なので、私たちは即座に答えました。バインドが解除されたことでグレゴールは完全なキメラへと変貌しました。フォルセティさんは左手に持つ“エマナティオ”のみカートリッジをロードし、「捕まえ直す!」と、銃口をグレゴールに向け直そうとしました。

「次はないぞ、フォルセティ!」

巨体の割にグレゴールの瞬発力はすさまじく、地を駆け、建物の外壁を足場とした三角飛びなのでフォルセティさんの照準から逃れます。フォルセティさんは「コード・レフレクスィオーン!」と、右手の“エマナティオ”も使用しての魔力弾を数発と明後日の方へと発射し続けます。

「コード・ファンゲン!」

そして左手の“エマナティオ”からも魔力弾を発射。後発の魔力弾が先発の魔力弾へと撃ち込まれると、キィンと甲高い音を立てて反射されてグレゴールへと一斉に向かい始めました。それでもグレゴールは回避をし、フォルセティさんに攻勢を掛けようとしています。

『こっちは大丈夫だから、ヴィヴィオ達はキュンナを!』

『判りました、お願いします!』

『フォルセティ、無茶はダメだからね!』

私とヴィヴィオさんを巻き込まないようにグレゴールを引き離しにかかるフォルセティさんを横目に、私とヴィヴィオさんは復帰したキュンナさんを見つめる。

「いくら1対2だとしてもルールの中でしか戦ったことのない子どもを相手に、私がここまで苦戦させられるなんて思いもしなかったです。アインハルト、本当に強くなりましたね。ヴィヴィオ達と出逢う前のあなたであれば、苦労せずに討てたのでしょうが・・・」

クラウスの記憶に侵されてまともに人付き合いをしていなかった私を、よく病院に付き添っていただいたキュンナさん。まさか、こうして敵対することになるなんて思いもしませんでした。

「2人がここまで強くなる前に殺しておくべきでした。無念・・・です!」

――夢影――

キュンナさんが一足飛びで距離を詰めてきました。私たちとの距離が縮まる中、キュンナさんから分身体が出現し、私とヴィヴィオさんとイクスさんの3人に向かって来ました。真っ直ぐ私とイクスさんに向かって来るのはおそらく分身体。

「イクス!」

「大丈夫です、ヴィヴィオ! 私ひとりでも持ちこたえて見せます! 私は、シャマル先生の弟子ですから!」

――降流の鎖槌――

複数本の魔力鎖を雪崩のように降らせ、分身体を迎撃するイクスさんのフォローに入るためにも、私に仕掛けてきた分身体をすぐに片付けないと。

「初めから1対1をしていればよかったのですよ!」

分身体も口が利けることに少し驚きながらも、彼女の繰り出してきた右拳直打を、鋼体の構えの1つで肘で相手の拳を受ける「牙山!」で迎撃。相手の打撃の威力をそのまま返すため、普通であれば何かしらの反応を示すのですが痛覚が無いのか、即座に右拳廻打を繰り出してきました。肘を曲げた左腕で防御して、そのまま左槌打をキュンナさんの右肩に打ち下ろし、同時に右拳廻打を左わき腹に打ち込む。

「覇王流・・・!」

そこから跳躍左脚膝打でキュンナさんの下あごを真下から打ち上げて、最後に左拳指伸槌打へと繋げる技、「落陽!」を右肩へと打ち下ろした。ガクッと膝を折ったキュンナさんは私の腰へとしがみ付き、「少し付き合ってもらいますよ!」と、私を押し倒してきました。

(ジークさんのタックルや押さえ込みに比べれば・・・!)

しがみ付きから逃れるために攻撃を加えようとした時、「きゃああああ!」とヴィヴィオさんの悲鳴が聞こえたのでそちらに目を向ければ、ヴィヴィオさんは3人のキュンナさんに襲われていました。ヴィヴィオさんから墜とすのだと判り、背筋が凍る。

「次はあなたですよ、アインハルト!」

「キュンナさん!!」

分身体の頭や腕や背中を殴り、なんとか引き剥がそうとしますが、痛覚が無いということで全くと言っていいほどに通用していません。早くヴィヴィオさんを助けに行かなければ、ヴィヴィオさんは・・・。

「そこまでです、キュンナ」

――砲煙弾雨――

空から降ってきたのは、虹色に輝く魔力弾8発。それらはヴィヴィオさんを襲っていたキュンナさんと分身体を狙っていて、キュンナさん達は一斉に攻撃を中断してヴィヴィオさんから距離を取りました。

「グレゴール。あなたもだ」

――覇王断空拳――

「ぐおおおおおおおおおお!」

側に墜落してきたのはグレゴール。狼の巨体が地面に大きなクレーターを生み出しました。私にしがみついていた分身体やイクスさんと交戦していた分身体も消失したことで、「ヴィヴィオさん!」の元へと駆け寄ります。

「ヴィヴィオさん、大丈夫ですか!?」

「あ、はい、なんとか」

「すぐに治癒魔法を!」

――癒しの風――

「ありがとう、イクス」

イクスさんの発動した魔法はヴィヴィオさんだけでなく私にも効果が及びました。暖かな光に包まれていると、「ヴィヴィオ、イクス、アインハルト!」とフォルセティさんが駆け寄って来てくれました。そんな彼の背後にはフードを目深に被った外套の男性が居たのですが、外套の隙間から覗くその服装に私は目を見張った。

「時間切れだ。これ以上の戦闘は認められない」

「ごめんなさい。わたし達の仕事も終わったので」

次いで空から降りてきた女性の顔もまたフードで隠れているので見えませんが、服装からその正体を察するのは容易です。ヴィヴィオさんも「あれ? あれ!?」と困惑し、イクスさんも「うそ・・・ですよね?」と声を震わせています。

「クラウス、オリヴィエ・・・!?」

私の声に反応したのか、フードの2人は自ら素顔を晒しました。私たちの考えの通り、2人はこの時代に存在するはずのない聖王オリヴィエと覇王クラウスでした。
 
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