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歪んだ世界の中で

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第五話 少しずつその十三

「誰かがいてくれたからなんだね。過去に」
「その人がいてくれてるからじゃないの?」
「友井君が」
「そう、その人がね」
「そういえば友井君が傍にいてくれる時は寂しくなかったけれど」
 だがそれは即ちだった。逆説的に言ってだった。
「友井君がいない時は」
「その時はよね」
「うん、とても寂しかったよ」
 家でも学校でもだ。彼といない時はそうだったというのだ。
「会って。一緒にいる時は感じないけれど」 
 しかしだ。それがだというのだ。
「別れる時、そして一人になると」
「寂しくなったのね」
「辛い位にね」
 そこまでだというのだ。それは。
「感じてたよ」
「寂しいって辛いよね」
「うん、とてもね」
 特にだ。希望にとってはそうだった。真人以外には。心を感じる相手がいなかったからだ。
 しかしそれを感じてからだ。そして言うのだった。
「けれどその寂しさを知ってるのって」
「誰かが傍にいてくれることを知ってるからだよね」
「そうだね。それを考えたら」
「寂しいって感じられることも」
「幸せなのかな」
「そうじゃないかな」
「幸せを知ってるから」
 寂しさを感じる、このことからだった。
 希望は考えていきだ。そして千春に言った。
「不幸も知ってる」
「前に希望幸せは一瞬だって言ったよね」
「うん、言ったよ」
「けれどそれって幸せを知ってるってことだよね」
 まさにその通りだった。例え一瞬でもだ。希望は幸せを知っているのだ。そしてその幸せを知っているからこそだと。千春は指摘するのだった。
「だからね」
「幸せでないことも知ってる」
「そうなると思うよ。それでね」
 千春は海の中で希望と向かい合いながら。そして笑顔で話すのだった。
「幸せを知ってることもね」
「それも幸せなんだ」
「不幸せを知ってることも」
「幸せを知っているから」
「そう思うよ。だって不幸せばかりだったらね」
 常に孤独にいると孤独を感じない、それと同じだという意味での言葉だった。
「幸せだって感じられないし」
「じゃあ不幸せも」
「それがあるから幸せがわかるから」
「じゃあ僕の今までは」
「辛かったよね」
「うん」
 絶対に否定できない。しかしその否定できないことすらもだった。
 今の十字にとってはだ。こうなることだった。
「けれど幸せを知ることができるものでもあるんだね」
「人は誰だってそんなこと受けたくないと思うけれど」
「辛いことはね」
「けれどそれでもよね」
「うん、幸せを感じる元になるのなら」
「辛くても」
「悪いばかりじゃないんだ」
 この考えも知ったのだった。希望も千春も。
 そのことについて話してからだ。千春は。
 その微笑みをさらに明るくさせてだ。希望に述べるのだった。
「千春もわかったの」
「寂しさ。そして不幸が」
「そして幸せが。希望と一緒にいるようになってわかったから」
 それによってだというのだ。
「だから希望とこれからもね」
「こうして一緒に」
「いたいの。だから今もね」
 そのだ。今もだというのだ。 
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