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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Saga20-A夢の終わり~Nightmare~

†††Sideはやて†††

何十体のキメラと、それに跨る何十人のプリムス。本物もどこかに紛れてるはずなんやけど、幻の所為で視認は難しそうや。

「では参りますわよ!」

プリムスの声がどこからともなく聞こえてきたと思えば、幻獣たちが一斉に襲い掛かって来た。さらにハンマーを持った右腕2本も一緒や。まずはルシル君と一緒に天井付近にまで上がる。大人数で空戦が出来るトレーニングルームを貸し切ってるから、安心して室内を飛び回れる。

「主はやて、フラベルム参ります!」

『いつでもOKや!』

「『「九界の頂に立つ熾天の翼。燃ゆる扇を揮い、断罪の炎を彼の地に降らせ! フラベルム!!」』

詠唱を終えて発動するのは、背後に大きな火炎の扇を展開するとゆう炎熱変換砲撃。石化砲のミストルティン、氷結砲のアーテム・デス・アイセス、電撃砲のヒムリッシャー・ツォルンに連なる多弾砲撃や。幅9m、高さ3mの炎の扇からアインスの「シュス!」ってゆう号令の下に何発もの砲撃が発射され始めた。

「ルシル!」

「ああ! 宝竜の抱擁(コード・ファフニール)!」

ルシル君が魔術を発動。いろんな属性の龍が床から現れて、その大きな口で幻たちをパクッと食べようとするけどすり抜けてばかり。アインスの火炎砲も床に着弾して爆炎を起こし続けてるけど、どれもすり抜けられてる。

『どこや?・・・いったいどこに・・・?』

アインスの視界を間借りすることで私も外界の様子を知れるんやけど、ちょう不便やな。ううん、泣き言なんて言ってられへん。アインスが注視してる方と別の方に意識を集中して、プリムスの姿を探す。

『(アカン。全然判らへん・・・)ルシル君! 集束砲はプリムスに通用するか!?』

『ああ、問題ない! セークーリタース・エストレリャはオートで広域術式かどうかを判定し、即座に障壁を展開するものだ。集束砲は広域術式に含まれない。これは魔術でも魔法でも適用される!』

『了解や! アインス!』

『はいっ、主はやて! ルシル、時間を稼げ!』

『判った!』

背面に展開してる炎の扇を頭上で球状に集束させながら、周囲の魔力も一緒に集めてく。アインスが魔力を集束し始めたことで、幻プリムス達の乗る幻獣が猛攻を仕掛けてくると思うたけど私たちに向かって吠えるだけになってしもた。なんやよう判らんけど、安心して集束に注力できそうや。集束率も100%になったことで、「いくぞ!」ってアインスが開いた右手をバッと前に突き出した。

「ラハト・ケレブ!!」

アインスの頭上の大火球が一瞬だけ収縮、そんで特大の火炎砲撃となって発射された。狙いはアインスに任せてて、トレーニングルームの中心点に砲撃が撃ち込まれると巨大な炎となって、すべてを焼き払ってく・・・のが本来の効果なんやけど、プリムスや幻獣の幻影は揺らぐことなくその場に留まったまま。

「これはひょっとして、やられたか・・・?」

『逃げられたんか・・・?』

「おそらくですが・・・」

爆炎が消失して、床や壁に燻ぶる炎が揺らめく中、幻影たちがフッと吹き消されたかのように消滅した。そやけど本物のプリムスの姿はもうどこにもなかった。

「とりあえず、確認だな」

――氷神の波涛(コード・ウズ)――

ルシル君の周囲に12基の大き目の魔力スフィアが展開されて、そこから真っ直ぐ氷結砲撃が発射された。砲撃はスフィアから持続放射されて、着弾した箇所から床、天井と凍らせてく。私たちはきょろきょろ周りを見回すんやけど、『アカン。やっぱ逃げられてしもうてる』ってことが確定しただけやった。

「主はやて。ユニゾンの解除を」

『あ、うん。ルシル君、ええかな?』

「完全に逃げられたようだし、問題ないと思うよ。アイリ」

『ヤー』

「「『『ユニゾン・アウト』』」」

ユニゾンの解除によって私とアイリは自分の足で床に降り立った。凍ってるのを失念してたから私は素っ転びそうになったけど、「おっと」ってルシル君が抱き止めてくれたことで事なきを得た。ルシル君にもたれかかりながら「おおきにな」ってお礼を言う。

「すまん、解除するのを忘れていた」

トンと小さく床を爪先で打つと、床に張ってた氷が粉々に砕け散ってダイアモンドダストのようになった。その美しさにアイリと一緒に「ほわぁ・・・!」目を輝かせる。っとと、見惚れてる場合やなかった。戦闘が終われば特騎隊の本部に連絡を入れへんと。

「こちら対プリムス班。戦闘終了だ。他チームの状況はどうか」

『お疲れさまでした、セインテスト副隊長。各幹部もほぼ同じタイミングで撤退しています』

「保管室前通路のクララ、シャマル、ザフィーラの3人は?」

『プリムスの転送後以降は新たな幹部や構成員が現れず、通路内で待機状態となっています。あ、フライハイト部隊長からの通信です』

サウンドオンリーと表示されてたモニターにシャルちゃん、それになのはちゃんの姿が表示された。2人とも疲労困憊って感じや。よく見ればシャルちゃんの“キルシュブリューテ”やなのはちゃんの“レイジングハート”とブラスタービットが大きく破損してる。

『えー、こちらイリスとなのはです。本部からみんなの状況は今聞いた。幹部および構成員の逮捕には至らなかったけど、保管室から他の場所に移していた魔力保有物は奪われなかった。そこだけは勝利としておこうと思う。そしてもう1つの問題。T.C.によって脱獄することが出来た囚人について』

“T.C.”の陽動作戦のために利用された脱獄犯はみんな、“T.C.”が本格的に活動を始める前に捕まった人たちや。そやから魔力を狙われてもおかしくはない。そやけどまさか、魔力保有物やなくて囚人を狙ってくるなんて思いもせえへんかった。シャルちゃんも似たようなことを言うた後、『完全に裏をかかれた。ごめんなさい』って頭を下げた。

『気にしないで、シャル。これは責められないよ』

『そうよ。これまでずっと地上本部の保管室を狙われていたんだし』

『各地上本部より多大な魔力保有物を保管してる本局への襲撃となれば、誰だって保管室を狙うって思うよ』

『シャルちゃん。反省は大事だけど、今は・・・』

『う、うん。ありがとう、みんな。まず本局の状況をこれから確認する。続々と本部に情報が集まって来るから、その情報を元に今からの方針を決める』

シャルちゃんとなのはちゃんの映るモニターの映像がパッと変わって、本局内で起きた“T.C.”関連の騒動の報告内容が羅列表示された。召喚獣の猫に集られて魔力を限界まで吸収された囚人の名前、確保された場所などなど。

『T.Cは完全に撤退したようだし、未だ確保されてない囚人を捕まえに動こうと思う』

『いやいや。シャルとなのははデバイス壊れてるし、疲労困憊って感じじゃん。少し休みなよ』

『そうだな。他にもダメージを負っている者は遠慮することなく休め』

『なのはちゃん、シャルちゃん。今すぐスカラボで修理するから一旦合流しよう』

『ありがとう、すずかちゃん』

『お言葉に甘えて少し休ませてもらうよ。でもただ休んでるのはちょっと・・・』

シャルちゃんが苦笑いしてると、『あ、ちょっと気になることがあるの』ってシャマルが小さく手を上げた。その気になることとは、シャマルの言によると“T.C.”のリーダーとプリムスが『本局の捜査資料のデータバンクに・・・?』不正アクセスを試みたらしいとのことやった。

『判った。休憩しながらそっちの調査をしてみるよ』

「決まりだな。今すぐ動ける者は囚人の確保。休憩が必要な者は遠慮することなく休むこと。以上だ。何か意見がある者は?・・・よし、行動開始だ!」

ルシル君がそう締めると、モニターの向こうに居るみんなが『了解!』って応じた。全体通信が切れたことで、トレーニングルームを後にしようとするルシル君に「あの、大丈夫か?」って声を掛けた。プリムスとのやり取りが普通やなかったこと、その時のルシル君の反応もおかしかったこと、それらが気になってた。

「大丈夫だよ、はやて。いろいろと考えることがあるけど、それはどれも俺、セインテストに通ずる問題だ。すまん、詳しくは話せないが・・・」

「ううん。でも何か手伝えることがあるんなら遠慮なく言うてな?」

「ありがとう」

ルシル君と微笑み合った後、私はアインス達と一緒にトレーニングルームを出る。そんですぐに本部から入った通信に従って拘置所エリア近辺に移動して、なおも確保されてへん囚人の捜索の手伝いを始めた。私はアインスと、ルシル君はアイリとってゆう風に二手に分かれての捜索や。

「現在も逃亡している囚人ですが、一部を除いて低ランク魔導師ばかりのようです。T.Cからも吸収するに値しないと見切られたのか、もしくは吸収されながらも逃亡を続けているかのどちらかでしょうが・・・」

「気になるんは最後の大隊の幹部がまだ見つかってへんことやね」

元聖王教会騎士団の一員でもあった最後の大隊の幹部はみんな、本局の留置所で捕らわれてる。普通なら聖王教会本部の留置所で拘束されるべきなんやろうけど、罪を償い終えた元大隊の下位メンバーが騎士団の職務に復帰していることもあって、もし万が一にも幹部たちに絆されて脱獄させるようなことにならへんようにってことで、幹部は本局に収容されることになった。

(地続きのミッドやと逃げきられる可能性があるけど、本局やと局員専用のトランスポートか、民間とはいえ警備の厳しい次元港しか外界へ出られん本局なら、たとえ脱獄しても逃げきれへんからな)

「はい。またヴィヴィオ達が狙われるということにならないように、確実に本局内で捕まえなければいけませんね」

「そうやね。大隊の活動中はヴィヴィオ達に窮屈な思いをさせてたからな。今度は絶対に防がなアカン」

『こちら本部。八神二佐、アインス補佐、応答願います』

「はい。こちら八神」

『現在八神二佐たちのいらっしゃるC区画にて、元教会騎士ラヴェイン・ビッケンバーグの姿がカメラにで確認されました。お2人が最も近いので向かってください』

「「了解!」」

早速幹部やった元騎士ビッケンバーグの確保を任された。指定された場所に向かってみれば、「ほっほっほ。これはまた局の有名人がお迎えか」と私を見て笑うビッケンバーグさんが、苦しそうに体を震わせながら胸を押さえて座り込んでいた。

「T.C.に魔力を吸収されたんですね。その様子では余程の苦痛だったのでしょう。それでもここまで逃げ、隠れている。あなたをそこまで突き動かすのは、やはりベルカを再誕させたいからですか?」

「ベルカの再誕など、俺の目的のための足掛かりに過ぎんよ。事情聴取の内容、お前さん達も見ているんだろう?」

「闘争。管理局発足前では当たり前だった、魔導師の非殺傷などを完全撤廃しての殺し合いがしたい・・・でしたね」

「応とも。命を懸けない闘争などごっこ遊びに過ぎん」

「くだらない。本当に命のやり取りを知れば、そんなことを言えるわけがない」

ギュッと握り拳を作り、歯噛みしながらアインスが忌々し気にそう言うと、ビッケンバーグさんは「戦乱を生きた騎士とは思えない発言だな、闇の書の騎士」って言うて鼻で笑った。アインスの纏う空気が嫌な方に向かってるのが判ったから、「あなたを逮捕します」と用意してた手錠を、ビッケンバーグさんの両手首に掛けた。そんで近くにまで来てくれた魔導局員チームに身柄を預けて、再び大隊幹部の捜索に戻る。

『こちら本部。対T.C.各班に連絡します。脱走した囚人、総勢185名の内182名が確保されました。残る囚人はキュンナ・フリーディッヒローゼンバッハ・レーベンヴェルト、グレゴール・ベッケンバウワー、エーアスト・ルターの3名のみとなりました。武装隊及び魔導局員による緊急配備も完了していますので、各班は一度休憩を取ってくださいとのフライハイト隊長からの指示です』

そんなところに本部から入る全体通信。大隊の最高幹部の2人+融合騎エーアストが今なお確認できひんとのことで、騎士であるルミナ達が『それを聞いて休んでなんかいられない!』って、指示を出したシャルちゃんに反論した。

『気持ちは解るけど落ち着いて。幹部たちと戦ってから休憩せずに動きっぱでしょ? 確保された元騎士連中も、他の囚人たちと同様に魔力を吸収されていたから、キュンナ達も吸収されているはずだから脅威度は低い。脱獄が始まってからすぐに他エリアへの移動が出来ないように緊急配備も実行されてた。それに、転移スキルを持つトルーデは、衛星軌道拘置所だしね。袋のネズミと言ってもいい。だから今は休むこと。わたし達の仕事とはあくまでT.C.の壊滅なんだから』

説得を受けたルミナ達が渋々頷いたのを確認したシャルちゃんは、『最後に。今日は手伝ってくれて本当にありがとう』って、特騎隊やない私たちに深々と頭を下げた。素直にシャルちゃんからのお礼を言われるほど力にはなれへんかったこともあって、私たちは苦い表情を浮かべた。

『ところで、シャルちゃん。T.C.リーダーとプリムスが不正にアクセスしたデータって、結局は何だったのかしら?』

『え? あー、捜査資料っていうのは確かだったよね、なのは』

『うん。被疑者死亡のまま書類送検されたものや、未解決事件なんかも閲覧されてた。中でも特に気になったのは、私たちチーム海鳴が関わった事件を念入りに調べられていたこと。古くはPT事件からフッケバイン事件ま――』

『そうか。判った。T.C.が何を考えているのかは判らないが、チーム海鳴の何かを探ろうとしたんだな。それは俺が調べておこう』

なのはちゃんがまだ喋ってるのにルシル君がピシっとそう締めた。ルシル君の様子がおかしいって、私どころかみんなも思うような強引さ。モニターに映るルシル君も頭をガシガシ掻いた後、『すまん。何かいろいろと・・・』って大きな溜息を吐いてその場に座り込んだ。

『ルシルもなんか疲れてるみたいだし、特騎隊は一度オフィスに戻って。なのはたち協力組はそのまま解散してくれていいよ。重ね重ねありがとうね。以上、通信終わり』

シャルちゃんとの通信が切れて、残る他のモニターに映るみんなは少し黙った後、『こほん』ってセレスが咳払い。そんで『私からもお礼を言わせて。手伝ってくれてありがとう!』って微笑んで見せて、続けてクラリス、ルミナ、ミヤビが『ありがとう!』ってお辞儀した。

『あんまり役に立てなかったし、お礼を言われるとかえって悪い気がするわね』

『そんなことないよ。アリサ達が居てくれたおかげで一方的に負けることがなかったわけだし』

『そうそう。特騎隊だけじゃ人数不足で、連中を抑えきれなかったはずだしね』

『再び先輩方と一緒に戦えて光栄でした』

それから私たち協力組もこの後一度集まろうって話になったことで、ルミナ達との通信も切った。この場には私とアインスだけになって、私は「アインス。ちょう待っててな」って一言断ってから手元に空間キーボードを展開して、パパッとキーを打って目当てのデータへと向かう。

(T.C.がわざわざ本局に乗り込んでまで見た捜査資料。ルシル君が無理やり話を終わらせようとした何か。・・・このまま調べたら、何かが起こるってゆう気はしてる。そやけど私は・・・管理局員や)

管理局設立からの捜査資料が納められてるデータバンクにアクセスしたその時、「主はやて」ってアインスに呼びかけられた。キーを打つ手を止めて「どうしたん?」って振り向いた。

「あ・・・いえ。すいません、何でもありません」

「・・・?」

アインスもアインスでなんや様子がおかしいけど、私はまずPT事件の捜査資料を閲覧。と、「あ、なのはちゃん達も見てる」ってことを示す、現在アクセスしてる局員IDが表示されてた。考えることはみんな同じやね。ルシル君は自分が調べるって話を締めてたけど、やっぱり気になるんよ。

「PT事件。フェイトちゃんとアリシアちゃんのお母さんであるプレシア・テスタロッサによる、ロストロギア・ジュエルシードをめぐる事件。2人の被疑者は死亡のまま書類送検・・・」

亡くなった被疑者の1人、ステアちゃん。私は闇の書の欠片としてのステアちゃんしか知らへん。なのはちゃん達にとっては敵やったけど、友達でもあったってゆう女の子や。そんなステアちゃんの、PT事件での姿の写真データがあった。

「え・・・?」

自称黒の4thテスタメント。11人おるテスタメント部隊とゆう犯罪組織の実行部隊の一員と自供。そんな文字と一緒に映ってたのは、真っ黒なフード付きのマントに神父服に仮面ってゆう格好をした子ども。それを見て真っ先に思い浮かんだんは紅髪の女の子ステアやなくて、「ルシル君・・・?」やった。かつてルシル君は、この写真と全く同じ格好を私に見せてくれた。それはちょうどPT事件が始まる直前の時期・・・。

「あ・・・ああ・・・ああああああ・・・」

――私はね、この世界に探し物を見つけに来たんだ――

――探し物? 異世界から地球にまで来るほどのもんなん?――

――まあね。セインテスト家にとって大事なことなんだ――

――エグリゴリか・・・。ルシル君が地球に訪れた本当の理由は、探し物やなくて探し者やったんやね――

――巧い。まぁそういうことかな。・・・エグリゴリを救うことこそが、セインテスト家の宿願なんだ。俺にとってそれが全てなんだ――

脳裏に駆け巡る当時のやり取り。子どもの頃はなんでかそれで納得してた。そやけど初めて見ることになった魔法戦では、相手は“エグリゴリ”やなくて花屋の妖精やった。今思い起こせば妖精が花屋から姿を見せた時にルシル君は、まずいな。願いが叶った後か、って言うてた。願いを叶えるロストロギア・“ジュエルシード”を知ってへんと口に出せへん言葉や。

(あくまで状況証拠に過ぎひん。黒のテスタメントが実はステアちゃんとルシル君の2人組やってことも考えられる。もしかしたら、ひょっとすると、あるいは・・・)

ルシル君とステアちゃんは別人であってほしい。そんな思いを胸にしながらもきちんと確かめたくなった私はアクセスを解除して、特騎隊のオフィスへと駆け出した。そんな私に「どうしました!?」って混乱しながらも続いてくれたアインスに、「特騎隊のオフィスに向かう!」って伝える。

「っ! そ、そうですか・・・」

「アインス! ルシル君と逢いに行くからちょう付き合って!」

とにかく今は特騎隊のオフィスへ向かうことを最優先。相手がプリムスやったから身体的な疲労はさほどないおかげで、割と長く走ってられた。そのおかげで「ルシル君!」の姿を本部ビルの敷地内に入る前に見つけることが出来た。私は肩で大きく息をして、両手を膝について深呼吸を繰り返して呼吸を整える。その間、ルシル君とアイリは何も言わずに私を見てた。

「はぁ、ふぅ、はぁ、ふぅ・・・。ルシル君」

「はやて」

「あのな・・・!」

そこから先が声にならへんかった。これまでの当たり前の日常を失うかもしれへん、そんな恐怖が今の私を襲ってた。そんな俯いたまま何も言わへん私にルシル君が「ごめんな」って謝った。顔を上げるとルシル君は寂しそうに微笑んでた。

「見たんだろ? PT事件の捜査資料。そして気付いた。死亡した被疑者ステアの服と、かつて俺が一度だけはやてに見せた服が同じだということに・・・」

「・・・うん」

私は今日までPT事件に関することはすべてシャットアウトしてた。何せフェイトちゃんとアリシアちゃんにとっても、リンディ統括官やクロノ君にとっても、なのはちゃん達にとってもデリケートな問題やったからな。まさかそれが今になってこんな問題となって顔を出すやなんて・・・。

「これも計画の内というわけか・・・」

ボソボソと何か呟いたルシル君は大きな溜息を吐いた後、蒼い魔力の光で全身を覆った。そんで光が晴れると、そこにはフード付きのマントに神父服、視界穴の無い仮面ってゆう格好の子ども、「ルシル君・・・?」が佇んでた。

「この格好ではやての前に立つのは十年以上も前なんだな」

「声が・・・!」

ルシル君の声が大人バージョン、子どもバージョン、そして「ステアちゃんの声・・・」へと順番に変わっていった。左手で外されるフードと仮面の下からは銀色の髪やなくて紅色の髪が垂れ出て、顔はもちろんステアちゃんのものへと変化してた。

「では改めてご挨拶を。この姿はステア・ヴィエルジェ。ルシリオン・セインテストが、管理局に素性を知られないように、ジュエルシードを回収するための――」

ステアちゃんの顔から幼いルシル君の顔へとスゥっと変わって、「偽りの姿だよ」って言うて、変身魔法を解除して元の大人の姿に戻った。わずかな希望はルシル君によって打ち砕かれた。その場にへたり込んだ私の両肩を掴んで支えてくれたアインスが「ルシル・・・!」って怒気をはらんだ声を出した。

「アインス。・・・結局これが結末なんだよ。もう、後には引けない。はやて。このような形での別れは俺にとっても辛いが・・・さようならだ」

「よせ、ルシル!」

「え・・・?」

――深淵へ誘いたる微睡の水霧(ラフェルニオン)――

爆発したかのように周囲に発生した霧で視界が真っ白になる中・・・

「ルシル君? ルシル君!? ルシル君! ルシル君!!」

強烈な眠気に襲われながらも見えへんくなったルシル君の名前を、意識を手放すまで叫び続けた。
 
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