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非日常なスクールライフ〜ようこそ魔術部へ〜

作者:波羅月
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第94話『開会式』

会場に入ると、まずそこはロビーだった。右側に受付窓口があり、左側には階段。真っ直ぐ進むと別に入口が存在している。あの先が舞台なのだろうか。


「とりあえず初めは受付だ。こうしないと参加できないからな。メンバー表は、開会式で予選の内容が発表された後にでも提出できるから問題ない」


終夜が説明するようにそう言った。
来年以降は終夜たちがいなくなるから、その前に仕様を1年生に教えておくつもりだろう。その気遣いはとてもありがたい。


「──よし、じゃあ参加する奴はこれを付けろ」

「腕輪……ですか?」

「そうだな。これは個人の識別とか、とにかく大会中に色んな所で役に立つ。だから絶対に手放すなよ」

「「わかりました」」


受付を終えた終夜から渡されたのは、識別番号だろうか、文字列が施された表面に、小さな赤い水晶が埋め込まれた青い腕輪だった。一見何の変哲もない、綺麗な腕輪である。
しかし不思議なことに、左の手首にはめてみると、サイズが自動的にピッタリになるように変化したのだった。これはもしや、魔道具とかいうやつだろうか……?


「全員付けたな。それじゃ2年生とはここでお別れだ」

「「ういーっす」」

「あ、そっか……」


終夜の言うことは当然である。
腕輪が配られたのは、魔術師である終夜、緋翼、晴登、結月、伸太郎の5人。2年生には参加資格がないので腕輪は受け取れないし、開会式に参加することもできない。恐らく、一部始終を観客席で見ることになるのだろう。
仕方ないことだが、とても寂しく感じてしまう。


「だからそんなしょげた顔すんなって」

「でも……」

「言ったろ? 俺たちの分まで頑張ってくれ」


ウジウジする晴登に、2年生の先輩方が声をかける。
……ここまで言われて、凹んでる訳にはいかないな。


「わかりました! 必ず良い結果を出します!」

「その意気だ! 目指せ優勝!……だっけか?」

「それは忘れてください!」


晴登がツッコむと、彼らは笑った。いつも通りの展開である。
だけど、今はそれがありがたい。緊張していた身体に喝が入る気分だ。


「それでは、行ってきます!」

「「行ってらっしゃい!」」


しっかりと挨拶をし、手を振る2年生を後にして、晴登たちはもう1つの入口の先へと歩みを進めた。






「おぉ〜!」


その光景を見るや否や、晴登は歓喜の声を上げた。
というのも、入口の先には円形の地面のフィールドが広がっていたのだ。さしずめ、"闘技場"といった感じである。
ちなみにこのフィールドの広さは……体育館の半分くらいか。広すぎず狭すぎない、程よいサイズと言えよう。


「ここが開会式や閉会式、そして本戦の舞台だ」

「つまりここで戦闘(バトル)を……」


終夜の説明を聞いて、独りでに納得。このぐらいの広さなら、思うように戦えるだろう。まだ本戦に出れるかもわからないのに、独りでにワクワクしてきた。


「でもって周りは、見ての通り観客席な」

「あ、先輩方だ!」


辺りを見上げると、そこには観客席が広がっていた。ますます闘技場っぽい、というかもう闘技場と形容しようか。
晴登は観客席の2年生を見つけると、手を振ってみた。すると彼らも手を振って返してくれる。なんか嬉しい。


「あ、ようやく来たね」

「久しぶりね〜終夜君、緋翼ちゃん」

「おぉ! 星野先輩! 櫻井先輩!」


観客席を見上げていると、後ろから2人に声をかけられた。振り返ると、先程見かけた月と、終夜に「櫻井先輩」と呼ばれる女性が立っている。
その人はふわっとした茶髪のショートで、まるでドレスの様なひらひらとした服装をしていた。身長は終夜と同じぐらいの月よりは小さいが、晴登よりは大きい。


「あなた達が1年生ね〜。私は櫻井(さくらい) 花織(かおり)、月ちゃんと同じく魔術部でした〜。よろしく〜」

「「よ、よろしくお願いします!」」


気の抜けたような甘い声で挨拶してくる花織。とてもおっとりとした印象を受けた。というか、何だか癒される。不思議だ。


「さてと……うん、花織だけじゃなくて、せっかくだからうちのチームも紹介しようか。その代わり、今年の魔術部がどんな感じか教えてよ」

「わかりました。いいですよ」


月の提案に対して終夜がそう返事すると、彼女は後ろにいたチームメイトを呼び出した。
すると現れたのは、さらに2人の女性。黒髪ポニーテールの凛々しい女性と、帽子を被って茶髪をまとめている活発そうな女性だ。


「これがあたしたち4人で構成されたチーム、【花鳥風月(かちょうふうげつ)】。全員同じ高校の生徒だよ。この2人は猿飛(さるとび) 風香(ふうか)小鳥遊(たかなし) (まい)ね」

「よろしく」

「よろしくね!」

「「よろしくお願いします!」」


黒髪ポニーテールの方が風香、帽子を被っている方が舞だ。風香はクールな印象で、舞は元気いっぱいな印象である。
というか、ここで気になったことが1つ──


「そういえば部長、うちのチーム名って何ですか?」


晴登は首を傾げて終夜に問う。
【花鳥風月】といい【覇軍(コンカラー)】といい、周りのチーム名はカッコイイ。そりゃ学校名で区分されてる訳じゃないからっていうのが一番の理由なんだろうけど、だとしたら、自分たちのチーム名は何だろうかと疑問に持つのは当然と言えよう。


「うちか? うちは【日城中魔術部】だぞ?」

「え、まんまなんすか……」

「仕方ねぇだろ。こんな大会に中学生なのに出場できるんだ。大層な名前なんか名乗れないだろ」

「そ、それは……」


しかし、そんな晴登の疑問は呆気なく氷解した。
いつもの終夜ならバリバリに厨二っぽいネームを付けるかと思っていたが、こういう時はしっかりと弁えるようだ。
まぁ「魔術部」って響きは嫌いじゃないから、とやかくは言わない。伸太郎は少しがっかりしてるようだが。


「へぇ、これが月たちの後輩?」

「そうそう。こっちが雷使いの終夜で、こっちが焔使いの緋翼ちゃん」

「え、緋翼ちゃんってホントに中学生? 小学生じゃなくて?」

「失礼ですよ!」


風香が興味津々に訊くと月はそう答え、さらにその答えに舞がびっくりする。
もう慣れてしまったが、緋翼は確かにここにいる誰よりも小さい。この反応が当然だろう。


「はいはい、緋翼ちゃんはいじられるの好きじゃないからその辺にね」

「星野先輩もさっきいじってきたと思うんですけど」

「それはそれ。じゃ、そろそろ新入生たちの名前を聞かせて貰おうかな」


緋翼から逃げるように、月は話をそらす。
そして、「私たちも自己紹介したから、次はそっちの番だ」とばかりに、彼女は目配せをしてきたので、晴登、結月、伸太郎の順に自己紹介をした。
この時能力(アビリティ)名は隠したのだが、彼女らはそれよりも別のことが気になったようで……


「え、2人とも三浦ってことは双子?!」

「舞、それはどう見ても違うと思う」


舞の天然と思われるボケに、風香がしっかりツッコんだ。
髪の色や目の色からしても、晴登と結月が同じ親から産まれる可能性はほぼゼロだと思うのだが。


「あ、こいつらは夫婦です」

「ちょ、部長!? 何を言うんですか?!」

「ふ、夫婦……!」

「結月も反論して?!」

「あらあら〜」

「へぇ〜そうなのか」


しかし突然、終夜が根も葉もないことを言い出した。晴登は即座に抗議するも、結月が満更でもなさそうな反応で話を拗らせる。
一生結月の面倒を見るとは言ったが、さすがに夫婦と呼ばれるのは恥ずかしいことこの上ない。おかげで花織と月に、温かい目を向けられてしまった。
すると月は晴登に向かって一言、


「なら晴登君、結月ちゃんを泣かせちゃダメだぞ」

「な!……わ、わかってますよ」

「よしよし、それならいいんだ」


月は晴登の答えを聞いてニカッと笑った。
どうして急にそんなことを言ったのかわからないが、女子の先輩からのアドバイスと考えると無下にはできない。肝に銘じておこう。結月にはずっと笑顔でいて欲しいし。


「さて、もうすぐ開会式が始まりそうだから、私たちはこれで」

「はい、今年はよろしくお願いします!」

「うん、こちらこそ。当然、後輩だからって手加減はしないからね。1年間の成長を見せてもらうよ」

「あっと驚かせてやりますよ」

「それは楽しみだね」


月と終夜が最後にそう言葉を交わし、そして2つのチームは別れた。
先輩とはいえ、敵チームということに変わりはない。負けないよう頑張るぞ!






定刻となり、選手がチームごとに整列する。
しかし、まずその数に驚かされた。恐らく100チーム以上はいるだろう。全国とはいえ、魔術師たちがこんなにいるなんて予想外だった。まだまだ井の中の蛙だったという訳か。
ちなみに、晴登たち【日城中魔術部】は1番端っこだ。やっぱり年少だからだろうか。ちょっと悔しい。


『お待たせしました! 会場に御座します皆々様、正面をご覧ください!』


そんな快活な声がスピーカー越しに聴こえたので、言われた通り正面を見る。するとそこには、マイクを持ったピエロが台の上に立っていた。……なぜピエロ?


『昨年お会いした方はお久しぶり、お初にお目にかかる方は初めまして! ワタクシは"全国魔導体育祭"の司会兼審判を務めさせて頂きます、ジョーカーと申します』


ピエロ……もといジョーカーは、丁寧にそう挨拶した。
どうしてピエロなのかと気にはなるが、たぶんそういう演出なのだろう。ここは魔術がひしめく世界。常識で物を考えると気後れしそうだ。


『それでは早速、開会宣言かつ大会長挨拶です!』


ジョーカーがそう言うと、前の台の上に1人の男性が登った。物腰の柔らかそうなおじさんである。
彼はマイクを手に取ると、咳払いを1つして、


『これより、全国魔導体育祭を開会します。私は魔術連盟会長の山本と申します。皆さん、頑張って下さい。以上』


一息に話し終わって、礼をしてしまった。そのあまりの挨拶の早さに、晴登は拍子抜けする。
いや、でも正直に言うと、校長先生の挨拶とかもこれくらいの長さで良い。聞いてて退屈だから。

それにしても、"魔術連盟"というワードも気になるが、彼が「山本」と名乗ったことに少し反応してしまった。知り合いの名前と同じだと、気になってしまうというやつだ。
とはいえ、少し雰囲気は似てるかもしれないが、別に晴登の知る山本と彼が同一人物という訳ではないのだが。


『相変わらず無駄のない挨拶をありがとうございました! では次に、優勝杖返還と選手宣誓です。代表、【覇軍】アーサー選手!』

「はい!」


スピーディに進む開会式だなと思っていると、大きな返事が列の中央辺りから上がった。
そして列から出て、台の上に立つ会長の元へと歩み出て来た人物の容姿を見て、晴登は目を疑う。


「金髪…!」

「そしてイケメン…!」


2つ目のセリフは伸太郎のものだ。
そう、なんとその人物は高身長の金髪イケメンの青年だったのである。……あれ、外国人じゃないのか?


「あの人はアーサーさん。【覇軍】のリーダーで、"聖剣"の持ち主だ」

「あの人が…!」

「ちなみに『アーサー』ってのはニックネームで、普通に日本人だ」

「えぇ!?」


終夜の説明に声を上げて驚いてしまったので、慌てて口を塞ぐ。
まさかあの彫りの深いイケメンが、自分たちと同じ日本人だなんて。にわかには信じられない。つまり金髪は染めたということだろうか。
"聖剣"だから"アーサー"、そして"金髪"。……自分から合わせに行ってるってことなのかな。


「宣誓! 我々選手一同は、スポーツマンシップに乗っ取り、魔術師の誇りに懸けて、正々堂々戦い抜くことを誓います!」


彼は両手に持っていた杖を会長へと手渡した後、凛々しい声でそう宣言した。
ちなみにその杖は木でできた長いもので、先端に光る水晶が付いているのが見える。察するに、あの杖は優勝旗と同じようなものだろうか。旗の代わりに杖……うん、魔術っぽい!


『アーサー選手、ありがとうございました。列へ戻って下さい。………ではいよいよ、今年の予選の内容を発表したいと思います!』


ジョーカーの言葉に、「ついに来たか」と晴登は身構える。この内容が、本戦に進めるかどうかの決定的なキーなのだ。せめて、難しくないものを……!


『それではいきますよ。ドゥルルルルルルルルルル──』


ジョーカーは懐から1セットのトランプを取り出し、それをシャッフルし始める。
その際、声で太鼓の音を演出しているのが実に滑稽なのだが、次の瞬間、その中から4枚を抜き出した。


『出ました! 今年の予選は"競走(レース)"、"組み手"、"射的"、"迷宮(ラビリンス)"です!』


4枚のカードを見ながら、ジョーカーはそう宣言した。それに対して、会場が少しどよめく。
とはいえ聞く限り、内容が読めない競技は1つだけだ。競走(レース)とか射的は名前の通りだろうし、組み手もわかる。
ただ、迷宮(ラビリンス)だけは全然わからない。迷路を突破する……のかな? それは競技と呼べるのだろうか。


『予選のルールは例年通り、4つの競技の順位の和が小さい16チームが本戦に進めます』


そして予選の競技について考えている間に、さらっと大事なことが言われた。
珍しいルールだが、つまるところ4つの予選全てで上位を取らないと、本戦に上がるには厳しいということになる。例え1つの競技で1位を取ろうと、他の競技で最下位を取ってしまえば全て台無しだ。これは余計にプレッシャーがかかってしまう。


『各競技のルールは各会場にて行ないます。それでは各チーム、予選に出場するメンバーを決めて、1時間後に指定された会場へ来てください! 以上、解散!』


そう言い放った瞬間、ジョーカーがドロンと煙に巻かれて姿を消した。あれもきっと魔術による演出なのだと思う。
……普段なら手品を疑うはずなのに、こんな考え方をしてしまうなんて。結構魔術に関わってしまったと、晴登は感慨深くなる。
それにしても、消え方が忍者っぽかったな。ピエロなのに……。


「それじゃ、ロビーで予選のメンバーを決めるぞ!」

「「はい!」」


終夜の呼びかけに、1年生が大きく返事を返す。
そして周りのチームが解散していくのに合わせて、魔術部はロビーへと戻っていった。






晴登たちがロビーへ向かうのと同時刻、そんな彼らの様子を静かに見つめる人物がいた。


「どうした影丸?」

「いや、あそこのガキ……」


そんな彼の様子が気にかかったのか、金髪の青年──アーサーは声をかける。すると影丸と呼ばれた男は、晴登たちの方を指さす。
その先を見たアーサーは、納得したように頷いた。


「あぁ、日城中だね。まだ中学生なのにこの大会に参加するなんて、彼らは立派だよ」

「そんなことを言いたいんじゃない。あの銀髪のガキだ」


見当違いなことを言うアーサーに、ボサボサの黒髪を掻きながら影丸は嘆息する。【日城中魔術部】というチームは昔からの常連だ。存在は知っていて当然である。
本当に彼が気にかかっていたのは、今年のそのメンバーの1人、結月だった。


「どうしたんだい? 君が他人を気にかけるなんて珍しい」

「あいつからは並々ならない力を感じる。もしかするとレベル5の魔術師じゃないか?」

「ふむ、言われてみると確かに。去年はいなかったから、もしかして1年生なのかな? それなら凄いね」


今まで多くの魔術師を見てきたから、相手の実力は見ただけでわかると自負している。そんな自分の目によると、あの銀髪の娘の内には、中学生ながらとんでもない力が秘められているとのこと。アーサーも同意したので、これは確定だろう。
もしかすると、今大会の障害となりうる存在かもしれない。警戒をしておかなければ。


「ま、俺たちには及ばないだろうがな。くくく」

「こら、あまりそういうことを言うんじゃない」


影丸が不気味に笑うと、アーサーはそれを制した。
彼はその反応に不服そうにしていたが、気を取り直して再び【日城中魔術部】を眺め始める。

実は結月以外にも、彼には気になる少年がいた。


「なぁ、あとその隣のガキだが……」

「隣の? こう言っては何だが、特に目立った特徴のないあの子かい? 彼はさすがにレベル5ではなさそうだが……」

「あぁ、それは違う」


結月と会話をしている、晴登を見ながら影丸は呟いた。
もちろんアーサーの言う通り、彼がレベル5という訳ではないのは見ればわかる。秀でた部分も劣った部分も見当たらない、いわゆる平均的なモブだ。

ただ、そんなモブと彼には決定的な違いがあった。


「あいつの目は──絶望を知っている目だ」


黒髪の男は再び、ニタリと不敵に笑った。
  
 

 
後書き
新キャラ盛り沢山でてんやわんや。どうも、波羅月です。
これはいずれ来たるキャラ紹介が大変そうです。とほほ……。

それはそうと、予選の内容が明らかになりました。さてさて、誰がどの競技に出るのか予想はつくでしょうか? それも含めて、次回からの予選をお楽しみに。

今回も読んで頂き、ありがとうございました! では! 
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